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狂いだした歯車3
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ゼロは昼過ぎにギルドに現れたが、ギルドに来るまでの道のり、人通りの多い道を歩いてきたが、昨日の騒動とは打って変わって何事も起きずにギルドまでたどり着いた。
もちろん人々からは避けられはしたものの、それ自体はいつもと変わらぬ日常である。
昨日の一件は人為的に起こされたこと、更に群衆心理を巧みに誘導した騒動であったため、解散して時間が過ぎ、人々が冷静になるとその熱量が維持できないのである。
そんな中、ゼロはギルドに顔を出したものの、やることはない。
他の冒険者もゼロとは関わり合いになろうともしない。
暇を持て余したゼロは資料室で時間を潰すこととした。
昼過ぎ、資料室に不機嫌な表情のレナが入ってきてゼロの正面に座る。
昨日はレナは仕事に出ていて都市におらず、たった今帰還してシーナから昨日の騒動の一部始終を聞いたのだった。
「こんにちはレナさん」
本を読む手を止めたゼロが挨拶をする。
レナは不機嫌な表情のままでゼロの額の傷を一瞥すると真っ直ぐにゼロの目を見た。
「話は聞いたわ。ゼロ、貴方狙われる心当たりはあるの?」
レナの問いにゼロは首を傾げる。
「まあ、死霊術師なんかやってますからね。心当たりと言われましても、有り過ぎますよ」
惚けた答えにレナは一層険しい表情になった。
「まったく!・・・でも、その表情から見ると目星はついているようね」
「まあ、死霊術師を軽蔑するというのは真っ当な感覚ですが、疎ましく思い排除しようとするまではね。まあ、死霊術を敵視する大きな組織でしょうね」
「・・・なるほどね。貴方、大変な連中を敵に回したわね。」
「私は別に敵だとは思ってませんが、先方はそうは思ってくれていないようですよ」
まるで他人事のように話すゼロの様子にレナは呆れることすら放棄した。
「昨日は上手くやられましたからね、直ぐに次の一手を打ってきますよ。多分今日中には・・・」
果たして、ゼロが予測したとおり、ギルドの外の通りが騒がしくなってきた。
レナが建物2階にある資料室の窓から外を覗いたところ、ギルド入口付近で武装した10人程の集団とギルド長や職員が押し問答をしている。
それを見たレナは目を見張った。
「聖務院聖監察兵団!」
集団は揃いの軽鎧に兜、その上に青色のコートを着ていて指揮官はサーベル、その他の者はハルバートを携えている。
聖務院直属の聖監察兵団の兵士だった。
ゼロは立ち上がって読んでいた資料を片付けた。
「ゼロ、待ちなさい!今外に出てはダメ!」
レナが止めるがゼロは振り返りもせずに資料室を出た。
ギルド前は騒然としていた。
突然ギルドに押しかけた聖監察兵団の小隊がゼロの身柄の引き渡しを求めてきたのだ。
しかし、ギルド長がそれを拒否したため騒ぎになった。
「明確な理由がない限り所属する冒険者の身柄は引き渡すわけにはいかない!」
毅然としたギルド長の宣言に監察兵団の隊長が声を荒げる。
「理由は述べたはずだ!件のネクロマンサーには昨日の地下水道の落盤事故を引き起こして役人を殺傷した疑いがある」
「それは虚偽だ!水道局も事故概要は明らかにしているはずだ!ゼロはギルドからの要請を受けて被害者救助に当たったにすぎない!」
「そもそも死霊術などの背徳行為を看過することはできぬ。そんなネクロマンサーを放置したこのギルドの責任も問わねばならぬぞ!」
「ネクロマンサーは国でも認められた歴とした冒険者職の1つだ。教義に反するという理由では彼を拘束する根拠にはならないはずだ!」
「ギルド長、貴様は我々の任務を邪魔立てするのか?」
「なんと言われようとも法的な根拠が無い限りは承諾しかねる」
ギルド長も一歩も引かない。
ギルド長の背後には男性職員3人が出入口の前で壁を作っている。
ただ、抵抗しているのはギルド長達職員だけで周囲にいる冒険者は関わろうとはしない。
騒ぎに気付いて集まってきた市民も同じように遠巻きに見ているだけだった。
その中に青等級にまで上がっていたセイラやアイリアの姿もあったが2人とも見ていることしか出来なかった。
ここで事を起こせばパーティーのメンバーに迷惑を掛けてしまう。
その上、シーグル教の神官であるセイラは相手が聖務院直属の聖監察兵団だけあって逆らうことができなかった。
「あくまでも抵抗するならば強行するまでだ!」
小隊長の声に監察兵団の隊員達が一斉にハルバートを構えた。
それでもギルド長は退こうとはしない。
それどころか腰の剣に手を掛ける始末で一触即発の雰囲気だ。
その間にゼロは階段を下りて出入口に向かって歩く。
それに気付いたシーナがゼロの前に立ち塞がった。
「ゼロさん、待ってください!今外に出てはダメです」
後を追ってきたレナも加わってゼロを止めようとする。
「シーナさんの言うとおりよ。今外に出たら、貴方ただでは済まないわよ!」
2人を前にしたゼロはいつになく真剣な表情で首を振る。
「彼等は私を捕縛するまで諦めないでしょう。これ以上は本当に衝突してしまいますし、皆さんに迷惑を掛けてしまいます」
ゼロは2人を押しのけて出入口の扉を開いて外に出ていく。
シーナとレナ、2人の手が同時にゼロを捕まえようとして空を切った。
ゼロは聖監察兵団の前に立った。
「ゼロ!出てくるんじゃない!」
ギルド長は慌ててゼロを止めようとするが、ゼロは聞き入れなかった。
「ギルド長、ありがとうございました。もう結構です。」
そして、目の前にいる小隊長を見た。
「お待たせしました。私にご用のようで?」
「貴様がネクロマンサーのゼロか?我々に同行して王都まで来てもらう」
「私に何かしらの嫌疑がかけられているのでしょうか?心当たりはありませんが」
「詳細は聖務院にて取り調べる。我々は貴様を拘束するように命じられただけだ。抵抗するならば容赦はしない」
ゼロは肩を竦めた。
「これ以上はギルドの皆さんに迷惑が掛かりますからね。抵抗はしませんよ」
小隊長の合図に隊員がゼロを包囲してハルバートを突きつけた。
「武装を解け!」
告げられてゼロは腰の剣と鎖鎌、そして袖口に隠したナイフを外し、追いかけてきたシーナに渡した。
「ギルドで保管するか、モースさんに預けておいてください」
丸腰になったゼロは両手を上げた。
「言うとおりにしました。では行きましょうか」
小隊長は部下に命令を下した。
「拘束しろ!」
小隊長の命令に隊員達が一斉に動いた。
ハルバートの柄でゼロの腹部を打ち、背後から蹴り飛ばしてゼロを地面に組み伏せる。
そして3人掛かりでゼロの手を後ろ手に縛り上げた。
その間、ゼロは全くの無抵抗だった。
「やめて!乱暴にしないでください!ゼロさんは何も抵抗していないじゃないですか!」
飛び出そうとしたシーナをギルド長達が止める。
小隊長はシーナの声に聞く耳を持たず、組み伏せられたゼロの首を踏みつけながら更に命令をする。
「こいつは死霊術や魔術も使う。魔封じの拘束を!」
ゼロの腕に聖気が込められた金属製の手錠がきつく締められた。
その有り様は昨日の衛士隊の機転を利かせた故のものとは全くの別物で、まるで見せしめのように必要以上に乱暴に拘束する。
小隊長はゼロの首筋を踏みにじり、殊更にゼロの顔を地面に擦りつけさせた。
その様子を見かねたレナが殺気立ち、周囲が帯電する程の魔力の高まりを見せた。
「もう我慢の限界!貴方達全員ただでは・・・」
「止めなさい、レナさん。ここで魔法など使ったら余計に収集がつかなくなります!私は大丈夫ですから」
ゼロの声にレナは冷静さを取り戻して魔力を抑え込むと持っている杖の先を小隊長に突きつけた。
「彼は何も抵抗はしていない。これ以上の理不尽な乱暴を止めなさい!」
睨みつけるレナの迫力に小隊長は気圧されるも、それを誤魔化すように部下達に指示を出す。
「ふんっ!王都に連行するぞ!」
監察兵団の隊員達は予め用意してあった護送用の馬車にゼロを叩き込むと王都に向けて出発した。
シーナはその様子をゼロに託された剣を抱きしめながら見送ることしか出来なかったが、レナはとある決心をしてシーナに向かい合った。
「シーナさん、ゼロの武器を私にください。私が王都まで迎えに行ってきます。どんな手を使っても連れて帰ってきます」
レナの言葉にシーナは頷いてゼロの武器をレナに手渡した。
「よろしくお願いします」
2人の直ぐ横にいたギルド長はその会話を聞いて止めるべきか否か悩んだ挙げ句、聞かなかったことにすることにした。
もちろん人々からは避けられはしたものの、それ自体はいつもと変わらぬ日常である。
昨日の一件は人為的に起こされたこと、更に群衆心理を巧みに誘導した騒動であったため、解散して時間が過ぎ、人々が冷静になるとその熱量が維持できないのである。
そんな中、ゼロはギルドに顔を出したものの、やることはない。
他の冒険者もゼロとは関わり合いになろうともしない。
暇を持て余したゼロは資料室で時間を潰すこととした。
昼過ぎ、資料室に不機嫌な表情のレナが入ってきてゼロの正面に座る。
昨日はレナは仕事に出ていて都市におらず、たった今帰還してシーナから昨日の騒動の一部始終を聞いたのだった。
「こんにちはレナさん」
本を読む手を止めたゼロが挨拶をする。
レナは不機嫌な表情のままでゼロの額の傷を一瞥すると真っ直ぐにゼロの目を見た。
「話は聞いたわ。ゼロ、貴方狙われる心当たりはあるの?」
レナの問いにゼロは首を傾げる。
「まあ、死霊術師なんかやってますからね。心当たりと言われましても、有り過ぎますよ」
惚けた答えにレナは一層険しい表情になった。
「まったく!・・・でも、その表情から見ると目星はついているようね」
「まあ、死霊術師を軽蔑するというのは真っ当な感覚ですが、疎ましく思い排除しようとするまではね。まあ、死霊術を敵視する大きな組織でしょうね」
「・・・なるほどね。貴方、大変な連中を敵に回したわね。」
「私は別に敵だとは思ってませんが、先方はそうは思ってくれていないようですよ」
まるで他人事のように話すゼロの様子にレナは呆れることすら放棄した。
「昨日は上手くやられましたからね、直ぐに次の一手を打ってきますよ。多分今日中には・・・」
果たして、ゼロが予測したとおり、ギルドの外の通りが騒がしくなってきた。
レナが建物2階にある資料室の窓から外を覗いたところ、ギルド入口付近で武装した10人程の集団とギルド長や職員が押し問答をしている。
それを見たレナは目を見張った。
「聖務院聖監察兵団!」
集団は揃いの軽鎧に兜、その上に青色のコートを着ていて指揮官はサーベル、その他の者はハルバートを携えている。
聖務院直属の聖監察兵団の兵士だった。
ゼロは立ち上がって読んでいた資料を片付けた。
「ゼロ、待ちなさい!今外に出てはダメ!」
レナが止めるがゼロは振り返りもせずに資料室を出た。
ギルド前は騒然としていた。
突然ギルドに押しかけた聖監察兵団の小隊がゼロの身柄の引き渡しを求めてきたのだ。
しかし、ギルド長がそれを拒否したため騒ぎになった。
「明確な理由がない限り所属する冒険者の身柄は引き渡すわけにはいかない!」
毅然としたギルド長の宣言に監察兵団の隊長が声を荒げる。
「理由は述べたはずだ!件のネクロマンサーには昨日の地下水道の落盤事故を引き起こして役人を殺傷した疑いがある」
「それは虚偽だ!水道局も事故概要は明らかにしているはずだ!ゼロはギルドからの要請を受けて被害者救助に当たったにすぎない!」
「そもそも死霊術などの背徳行為を看過することはできぬ。そんなネクロマンサーを放置したこのギルドの責任も問わねばならぬぞ!」
「ネクロマンサーは国でも認められた歴とした冒険者職の1つだ。教義に反するという理由では彼を拘束する根拠にはならないはずだ!」
「ギルド長、貴様は我々の任務を邪魔立てするのか?」
「なんと言われようとも法的な根拠が無い限りは承諾しかねる」
ギルド長も一歩も引かない。
ギルド長の背後には男性職員3人が出入口の前で壁を作っている。
ただ、抵抗しているのはギルド長達職員だけで周囲にいる冒険者は関わろうとはしない。
騒ぎに気付いて集まってきた市民も同じように遠巻きに見ているだけだった。
その中に青等級にまで上がっていたセイラやアイリアの姿もあったが2人とも見ていることしか出来なかった。
ここで事を起こせばパーティーのメンバーに迷惑を掛けてしまう。
その上、シーグル教の神官であるセイラは相手が聖務院直属の聖監察兵団だけあって逆らうことができなかった。
「あくまでも抵抗するならば強行するまでだ!」
小隊長の声に監察兵団の隊員達が一斉にハルバートを構えた。
それでもギルド長は退こうとはしない。
それどころか腰の剣に手を掛ける始末で一触即発の雰囲気だ。
その間にゼロは階段を下りて出入口に向かって歩く。
それに気付いたシーナがゼロの前に立ち塞がった。
「ゼロさん、待ってください!今外に出てはダメです」
後を追ってきたレナも加わってゼロを止めようとする。
「シーナさんの言うとおりよ。今外に出たら、貴方ただでは済まないわよ!」
2人を前にしたゼロはいつになく真剣な表情で首を振る。
「彼等は私を捕縛するまで諦めないでしょう。これ以上は本当に衝突してしまいますし、皆さんに迷惑を掛けてしまいます」
ゼロは2人を押しのけて出入口の扉を開いて外に出ていく。
シーナとレナ、2人の手が同時にゼロを捕まえようとして空を切った。
ゼロは聖監察兵団の前に立った。
「ゼロ!出てくるんじゃない!」
ギルド長は慌ててゼロを止めようとするが、ゼロは聞き入れなかった。
「ギルド長、ありがとうございました。もう結構です。」
そして、目の前にいる小隊長を見た。
「お待たせしました。私にご用のようで?」
「貴様がネクロマンサーのゼロか?我々に同行して王都まで来てもらう」
「私に何かしらの嫌疑がかけられているのでしょうか?心当たりはありませんが」
「詳細は聖務院にて取り調べる。我々は貴様を拘束するように命じられただけだ。抵抗するならば容赦はしない」
ゼロは肩を竦めた。
「これ以上はギルドの皆さんに迷惑が掛かりますからね。抵抗はしませんよ」
小隊長の合図に隊員がゼロを包囲してハルバートを突きつけた。
「武装を解け!」
告げられてゼロは腰の剣と鎖鎌、そして袖口に隠したナイフを外し、追いかけてきたシーナに渡した。
「ギルドで保管するか、モースさんに預けておいてください」
丸腰になったゼロは両手を上げた。
「言うとおりにしました。では行きましょうか」
小隊長は部下に命令を下した。
「拘束しろ!」
小隊長の命令に隊員達が一斉に動いた。
ハルバートの柄でゼロの腹部を打ち、背後から蹴り飛ばしてゼロを地面に組み伏せる。
そして3人掛かりでゼロの手を後ろ手に縛り上げた。
その間、ゼロは全くの無抵抗だった。
「やめて!乱暴にしないでください!ゼロさんは何も抵抗していないじゃないですか!」
飛び出そうとしたシーナをギルド長達が止める。
小隊長はシーナの声に聞く耳を持たず、組み伏せられたゼロの首を踏みつけながら更に命令をする。
「こいつは死霊術や魔術も使う。魔封じの拘束を!」
ゼロの腕に聖気が込められた金属製の手錠がきつく締められた。
その有り様は昨日の衛士隊の機転を利かせた故のものとは全くの別物で、まるで見せしめのように必要以上に乱暴に拘束する。
小隊長はゼロの首筋を踏みにじり、殊更にゼロの顔を地面に擦りつけさせた。
その様子を見かねたレナが殺気立ち、周囲が帯電する程の魔力の高まりを見せた。
「もう我慢の限界!貴方達全員ただでは・・・」
「止めなさい、レナさん。ここで魔法など使ったら余計に収集がつかなくなります!私は大丈夫ですから」
ゼロの声にレナは冷静さを取り戻して魔力を抑え込むと持っている杖の先を小隊長に突きつけた。
「彼は何も抵抗はしていない。これ以上の理不尽な乱暴を止めなさい!」
睨みつけるレナの迫力に小隊長は気圧されるも、それを誤魔化すように部下達に指示を出す。
「ふんっ!王都に連行するぞ!」
監察兵団の隊員達は予め用意してあった護送用の馬車にゼロを叩き込むと王都に向けて出発した。
シーナはその様子をゼロに託された剣を抱きしめながら見送ることしか出来なかったが、レナはとある決心をしてシーナに向かい合った。
「シーナさん、ゼロの武器を私にください。私が王都まで迎えに行ってきます。どんな手を使っても連れて帰ってきます」
レナの言葉にシーナは頷いてゼロの武器をレナに手渡した。
「よろしくお願いします」
2人の直ぐ横にいたギルド長はその会話を聞いて止めるべきか否か悩んだ挙げ句、聞かなかったことにすることにした。
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