職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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狂いだした歯車2

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「あいつが殺したんじゃないか?」
「人殺しだ!」
「何を企んでいるんだ!」

 群衆が口々に叫ぶ。
 周囲はゼロに対する敵意に包まれていた。

「何を言っているんですか?ゼロさんは被害者を助けるために尽力してくれたんですよ!」

 シーナの叫び声は群衆の怒号にかき消される。
 衛士隊も静めようとするが、暴走を始めた人々の心理を止めることはできない。
 そんな中でゼロは表情一つ変えずに立っている。

「ちょっと!皆さん聞いて下さい!」

 シーナは戸惑う。
 何故被害者を救助したゼロが賞賛されるでなく罵声を浴びせられているのか理解出来なかった。
 やがて誰が投げたものか、ゼロの足下に小石が飛んできた。
 徐々にその数が増え、石も大きくなっていき、ゼロの身体に当たり始める。

「え?えっ?止めてください!止めて!」

 思わずシーナはゼロに駆け寄ろうとするが、それをゼロが止める。

「シーナさん、危険ですから近付かないでください」

 しかし、シーナは混乱していた。

「なんで?なんでですか!止めて!」

 ゼロの声はシーナに届かず、必死の思いでゼロを守ろうとゼロの前に両手を広げて立ってしまう。

「シーナさん!止めなさい!」

 しかし、シーナは首を振る。
 そのシーナに向かい、ゼロを狙った拳大の石が飛んできた。

「シーナさん!」

 咄嗟にゼロはシーナを突き飛ばし、シーナは勢いで尻餅をついた。
 飛んできた石はゼロの額に当たり、皮膚を裂いて鮮血が飛ぶ。

「えっ?ゼロさん!」

 しかし、群衆からは

「おい!あいつ、女を突き飛ばしたぞ!」

 更なる怒号が飛び、収集がつかなくなりつつあった。
 額から血を流し、体に投石を受けてもゼロは飛んでくる石を避けもしない。

「なんで?なんでですか?」

 耐えられなくなったシーナは泣きながら再びゼロに近付こうとするが、それを見かねた衛士に止められる。

「無理です。貴女も危険だ!」
「でも、ゼロさんが!なんで?」

 その時

ピーーッ!!

衛士隊の中年の隊長が持っていた呼び子笛を吹き鳴らした。
 一瞬だが投石が止まり、群衆が静まり返る。
 その隙を突いて隊長は声高らかに部下に命令を下した。

「衛士隊!そこのネクロマンサーを拘束して連行しろ!」

 命令に即座に反応した衛士達がゼロに飛びかかって拘束した。

「何をしているんですか!止めてください!」

 シーナは半狂乱になった。
 しかし、抵抗することなく拘束されたゼロは命令を下した衛士隊長に目礼を送る。
 そんな中、衛士の手を振り解こうと暴れるシーナに役所の責任者の男性が耳打ちした。

「落ち着きなさい。こうでもしないとこの場が収まりません」
「でも!」
「大丈夫です。衛士隊も分かっています。群衆心理を甘く見てはいけません。彼を守るためです、でないと彼が殺されてしまいます」

 縛り上げられ、衛士に囲まれて連行されるゼロの姿を見た群衆は歓喜の声を上げた。
 ゼロはその群衆を見渡した。

「誰だかは分かりませんが巧妙な心理誘導ですね」

 衛士隊は敢えてゼロを乱暴に引き立てて連行していった。
 その姿を見送ってシーナは途方に暮れて立ち尽くしていた。

「私のせいだ・・・私がこんなことをゼロさんに頼まなければ」

 ゼロは衛士隊の詰め所に連行された。
 興奮した群衆から離れ、人目につかなくなった時点で拘束の縄は解かれていた。
 詰め所に着いたゼロは衛士隊長と隊員に礼を述べる。

「助かりました。あのままではどうなっていたことか」

 機転を利かせて拘束の命令を下した中年の隊長も部下にゼロの治療を命じながら頷く。

「しかし、誰の企みかは知らんが大した手際だ。ああも見事に誘導するとは」

 隊長はゼロに椅子をすすめ、ゼロも有り難く腰掛ける。
 直ぐに衛士隊直属の治療士が部屋に入ってきてゼロの治療を行った。

 その後、シーナと彼女から報告を受けたギルド長が詰め所に駆けつけてきた。
 シーナはゼロの顔を見て瞳から涙が溢れた。

「ゼロさん、申し訳ありません!私が安易にゼロさんに頼めばいいなんて言ったものだから」

 ギルド長も頭を下げる。

「まさかこんな事態になるとは私も予測していなかった。申し訳ない」

 しかし、ゼロは首を振る。

「気になさらずに。今回の事故、確かに私でなければ対処は困難だったでしょう。この程度の傷は報酬の範囲内ですよ」

 軽口を交えながら笑うが、直ぐに表情を改める。

「しかし、今回の件、事故そのものは偶発的なものですが、その後の騒ぎは事故を利用した人為的なものです。標的は私なのでさほど影響はありませんけど」

 まるで自分の心配をしていないゼロの態度にシーナの感情が爆発した。
 ゼロに詰め寄ると周りが止める間もなくゼロの頬を叩いた。

「いい加減にしてっ!貴方はいつもいつも!どれほど自分を卑下すれば気が済むんですか!もっと自分を・・グスッ・・自分を・」

 それ以上は言葉が続かなかった。

 その後、夜中になるのを待ってゼロは解放されてギルド長とシーナと共にギルドに戻った。
 3人はそのまま応接室に入る。

「さて、ゼロ、今回の件は君を狙った何らかの陰謀であることは疑いない。ギルド長として君の普段の活動を目の当たりにしてきて、君が狙われるような人物ではないことをよく理解している。ただ、そうであってもネクロマンサーとしての君を看過できない連中がいるのだろう」

 ゼロも頷く。

「まあ、死霊術師に対する心境としては至極真っ当ですよ。軽蔑され、蔑まれて当たり前の存在ですよ」

 その態度にギルド長も呆れ顔だ。

「まったく、君もブレない男だね。尊敬するよ。しかし、このまま放置することは君のためにも、ギルドの運営上にも問題が生じる。そこで君には暫くの間は依頼受諾を控えてもらいたい。これは依頼人を巻き込まないためでもある」

 ゼロは諦め顔で肩を竦める。

「仕方ありませんね。ほとぼりが冷めるまで大人しくしていますよ」
「暫くは日中はギルドに詰めていてもらうが、むしろここで寝泊まりしたらどうだ?」
「それは結構です。私の居宅の周りの森を常に警戒している者が居ますから、ここよりも安全ですよ。昼間は指示どおりにここで時間を潰します」

 その後、人目につかないタイミングを見計らってゼロはギルドを出た。
 誰もいない通りを歩くゼロの正面から近付く人影がある。
 マントを纏い、フードを目深く被っていて顔は分からない。
 無言のままゼロを一瞥もせずにすれ違う、がその際にゼロとその者が同時に口を開く。

「今日は中々に巧妙でしたね」
「今日のは挨拶程度、これからですよ」

 すれ違った2人は互いに振り返りもせずに立ち去った。
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