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実戦指導1
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ゼロはエルフォード家の依頼を終えて風の都市に戻っていた。
戻ってから数週間、平穏な日々が続き、ゼロもいつもどおりの売れ残りの依頼処理に追われていた。
今日もある魔導研究者からの薬草等の素材収集の依頼を終え、ギルドに報告に来ていた。
報告の際にシーナから
「裏手の訓練所を覗いてみてください。珍しいものが見れますよ」
と声を掛けられたので興味本位に覗いてみたところ、訓練所ではレナが疑似魔物を相手に戦闘訓練を行っている。
それ自体は珍しい光景ではないが、意外なのが、レナは訓練用のレイピアを使い、近接戦闘訓練をしていることだった。
「魔術師のレナさんが近接戦闘訓練ですか。確かに珍しいですね」
改めてゼロは訓練を観察する。
レナは疑似的に生み出されたゴブリン2体を相手に戦っていた。
前衛職の冒険者ならば白等級でも対処できる初歩的な訓練だ。
しかし、剣術の心得が無いレナはそれであっても苦戦している。
ゴブリンの攻撃を捌くので手一杯で攻撃に転じられないのである。
「レナさんも何か思うところがあるのでしょうが、まだ実戦で使える程ではありませんね」
ゼロはしばらくレナの訓練を見物していたが、邪魔をしても仕方ないと思いその場を離れた。
ギルドの建物内に戻るとシーナがニコニコしながら待っていた。
「どうでした?」
「確かに珍しいですね。魔術師のレナさんが剣術訓練とは」
「ゼロさんの見立てはどうですか?」
ゼロは腕組みして考える。
「私の剣術は独特のものですし、エラそうなことは言えませんが、剣術の基礎ができていなく、課題は山積みな感じですね」
「ゼロさんが教えてあげたらどうですか?」
シーナの言葉にゼロは首を振った。
「私の剣は異質なもので、この国で用いられる剣術とは別物ですからね。頼まれてもいないのにしゃしゃり出るつもりはありませんよ。」
そう言い残して踵を返してギルドから出て行った。
ゼロを見送ったシーナは
「頼まれてもいない、ね。ならば頼めば・・・どうでしょうか?」
1人で呟いた。
ギルドを出たゼロは特に目的もなく、散歩がてら街中をふらついていた。
とはいえ、住民にも黒等級のネクロマンサーとして認知されていて畏怖の対象になってしまっているため、ギルド提携の店以外の店での買い物や飲食もままならない。
故にただ歩き回るだけだが、すれ違う人ですらゼロを避けるため、ゼロの周囲からは人が水が引くように離れていく。
ゼロは普段から自らの功績をひけらかすことは一切しない上、そもそも交友関係も極端に狭いため、一般には彼の功績は住民達には全く広まっていないのである。
ゼロが地下水道の魔物退治を積極的に引き受けているために安全で清潔な水が供給できていることも、先の都市防衛戦での最大の功労者はゼロであることも住民達は知らない。
実は水道を管理している役所が役所前の掲示板でゼロの功績を紹介したり、ギルドもゼロの功績を積極的に公表している。
しかし、住民側の心には畏怖の対象であるネクロマンサーを許容するだけの余裕がないため、公表されているゼロの功績を受け入れられず、その現実から目を逸らしてしまうのである。
そして、一番たちが悪いのはゼロ本人がその現実を当然のこととして受け入れてしまっていることであり、ギルド職員に一部の冒険者やモース等のゼロの理解者をやきもきさせてしまうのである。
ゼロは噴水のある公園の片隅にあるベンチに座って休んでいた。
そんなゼロの足元に離れた場所で子供が玉遊びをしていた玉が転がってきた。
ゼロがその玉を拾い上げて玉を追いかけてきた子供に微笑みながら手渡すと、その子供はニコニコと笑いながら
「ありがとうお兄ちゃん」
とお礼を言う。
しかし、それに気付いた母親が慌てて駆け寄ってきて子供を抱き上げてゼロに目を合わせることもなく軽く会釈をすると逃げるように立ち去っていく。
その様子を見てゼロは肩を竦めて苦笑した。
以前には酔っ払いのチンピラに絡まれていた若い女性を助けたものの、酔っ払いを追い払って振り向いてみたら助けられた筈の女性までが既に逃げていたこともあった。
一事が万事この調子である。
ゼロはネクロマンサーは忌み嫌われて当然、人々から認められることがあってはいけないと思っている節があり、普段の自身の言動からもそれが窺える。
ならば何故そんなネクロマンサーをしているのか?
彼の周囲の人々は一様に首を傾げるのだった。
そうこうしてる間にそろそろ日も暮れる時間帯である。
ゼロは帰宅しようと立ち上がって歩き出す。
道行く人々に避けられながら帰宅の途に就いた。
翌日、ギルドに顔を出したゼロはシーナよりギルドからの指名依頼があることを告げられた。
その内容とは白等級冒険者に同行しての実戦指導だった。
「なんですか?この依頼は」
ゼロの疑問にシーナは鉄壁の営業スマイルを見せた。
その笑顔は拒否することを許さないギルド職員としての迫力に満ちていた。
「はい、実は現在当ギルドは深刻な人手不足に陥っています。先の都市防衛戦で多くの冒険者さんが犠牲になったことが主な原因ですが、もう一つ、経験の浅い新人冒険者さんの損耗率の高さがあります。そこで新人冒険者にベテラン冒険者さんが同行してもらって冒険の基礎を学んでもらい、新人冒険者の生還率を上げると共に早期戦力化を図ることが目的です。」
「しかし、何故私が指名されたのですか?」
シーナは不思議そうな顔をする。
「何を言ってるんですか?ゼロさんは当ギルドの数少ない上級冒険者ですよ?因みに現在当ギルドに所属する冒険者で上級なのはゼロさんを含めて8名だけです。しかも他の7名はそれぞれ他の依頼を受けています。よって、今回はゼロさんに白羽の矢が当たったのです」
「しかし、如何に上級とはいえ黒等級の指導なんて誰も受けたくはないでしょう?」
ゼロは至極真っ当な意見を述べたが、シーナはゼロの懸念などはお見通しである。
5年以上の付き合いで学んだこと、ゼロの気が乗らなそうなことについて交渉するときには前もってゼロの退路を絶っておけばいいのである。
そうしておけば大抵のことはゼロは断らない。
「そう言うと思いまして、今回はゼロさんが同行すると説明した上で希望者を募りました。その結果、5人の冒険者が希望してくれました。因みにこの依頼はギルドからの正式な依頼であり、現在の深刻な人手不足は私を含めてギルド職員全員が大変困っています。他に何か質問は?」
「・・・ありません」
ゼロに選択肢は残されていなかった。
戻ってから数週間、平穏な日々が続き、ゼロもいつもどおりの売れ残りの依頼処理に追われていた。
今日もある魔導研究者からの薬草等の素材収集の依頼を終え、ギルドに報告に来ていた。
報告の際にシーナから
「裏手の訓練所を覗いてみてください。珍しいものが見れますよ」
と声を掛けられたので興味本位に覗いてみたところ、訓練所ではレナが疑似魔物を相手に戦闘訓練を行っている。
それ自体は珍しい光景ではないが、意外なのが、レナは訓練用のレイピアを使い、近接戦闘訓練をしていることだった。
「魔術師のレナさんが近接戦闘訓練ですか。確かに珍しいですね」
改めてゼロは訓練を観察する。
レナは疑似的に生み出されたゴブリン2体を相手に戦っていた。
前衛職の冒険者ならば白等級でも対処できる初歩的な訓練だ。
しかし、剣術の心得が無いレナはそれであっても苦戦している。
ゴブリンの攻撃を捌くので手一杯で攻撃に転じられないのである。
「レナさんも何か思うところがあるのでしょうが、まだ実戦で使える程ではありませんね」
ゼロはしばらくレナの訓練を見物していたが、邪魔をしても仕方ないと思いその場を離れた。
ギルドの建物内に戻るとシーナがニコニコしながら待っていた。
「どうでした?」
「確かに珍しいですね。魔術師のレナさんが剣術訓練とは」
「ゼロさんの見立てはどうですか?」
ゼロは腕組みして考える。
「私の剣術は独特のものですし、エラそうなことは言えませんが、剣術の基礎ができていなく、課題は山積みな感じですね」
「ゼロさんが教えてあげたらどうですか?」
シーナの言葉にゼロは首を振った。
「私の剣は異質なもので、この国で用いられる剣術とは別物ですからね。頼まれてもいないのにしゃしゃり出るつもりはありませんよ。」
そう言い残して踵を返してギルドから出て行った。
ゼロを見送ったシーナは
「頼まれてもいない、ね。ならば頼めば・・・どうでしょうか?」
1人で呟いた。
ギルドを出たゼロは特に目的もなく、散歩がてら街中をふらついていた。
とはいえ、住民にも黒等級のネクロマンサーとして認知されていて畏怖の対象になってしまっているため、ギルド提携の店以外の店での買い物や飲食もままならない。
故にただ歩き回るだけだが、すれ違う人ですらゼロを避けるため、ゼロの周囲からは人が水が引くように離れていく。
ゼロは普段から自らの功績をひけらかすことは一切しない上、そもそも交友関係も極端に狭いため、一般には彼の功績は住民達には全く広まっていないのである。
ゼロが地下水道の魔物退治を積極的に引き受けているために安全で清潔な水が供給できていることも、先の都市防衛戦での最大の功労者はゼロであることも住民達は知らない。
実は水道を管理している役所が役所前の掲示板でゼロの功績を紹介したり、ギルドもゼロの功績を積極的に公表している。
しかし、住民側の心には畏怖の対象であるネクロマンサーを許容するだけの余裕がないため、公表されているゼロの功績を受け入れられず、その現実から目を逸らしてしまうのである。
そして、一番たちが悪いのはゼロ本人がその現実を当然のこととして受け入れてしまっていることであり、ギルド職員に一部の冒険者やモース等のゼロの理解者をやきもきさせてしまうのである。
ゼロは噴水のある公園の片隅にあるベンチに座って休んでいた。
そんなゼロの足元に離れた場所で子供が玉遊びをしていた玉が転がってきた。
ゼロがその玉を拾い上げて玉を追いかけてきた子供に微笑みながら手渡すと、その子供はニコニコと笑いながら
「ありがとうお兄ちゃん」
とお礼を言う。
しかし、それに気付いた母親が慌てて駆け寄ってきて子供を抱き上げてゼロに目を合わせることもなく軽く会釈をすると逃げるように立ち去っていく。
その様子を見てゼロは肩を竦めて苦笑した。
以前には酔っ払いのチンピラに絡まれていた若い女性を助けたものの、酔っ払いを追い払って振り向いてみたら助けられた筈の女性までが既に逃げていたこともあった。
一事が万事この調子である。
ゼロはネクロマンサーは忌み嫌われて当然、人々から認められることがあってはいけないと思っている節があり、普段の自身の言動からもそれが窺える。
ならば何故そんなネクロマンサーをしているのか?
彼の周囲の人々は一様に首を傾げるのだった。
そうこうしてる間にそろそろ日も暮れる時間帯である。
ゼロは帰宅しようと立ち上がって歩き出す。
道行く人々に避けられながら帰宅の途に就いた。
翌日、ギルドに顔を出したゼロはシーナよりギルドからの指名依頼があることを告げられた。
その内容とは白等級冒険者に同行しての実戦指導だった。
「なんですか?この依頼は」
ゼロの疑問にシーナは鉄壁の営業スマイルを見せた。
その笑顔は拒否することを許さないギルド職員としての迫力に満ちていた。
「はい、実は現在当ギルドは深刻な人手不足に陥っています。先の都市防衛戦で多くの冒険者さんが犠牲になったことが主な原因ですが、もう一つ、経験の浅い新人冒険者さんの損耗率の高さがあります。そこで新人冒険者にベテラン冒険者さんが同行してもらって冒険の基礎を学んでもらい、新人冒険者の生還率を上げると共に早期戦力化を図ることが目的です。」
「しかし、何故私が指名されたのですか?」
シーナは不思議そうな顔をする。
「何を言ってるんですか?ゼロさんは当ギルドの数少ない上級冒険者ですよ?因みに現在当ギルドに所属する冒険者で上級なのはゼロさんを含めて8名だけです。しかも他の7名はそれぞれ他の依頼を受けています。よって、今回はゼロさんに白羽の矢が当たったのです」
「しかし、如何に上級とはいえ黒等級の指導なんて誰も受けたくはないでしょう?」
ゼロは至極真っ当な意見を述べたが、シーナはゼロの懸念などはお見通しである。
5年以上の付き合いで学んだこと、ゼロの気が乗らなそうなことについて交渉するときには前もってゼロの退路を絶っておけばいいのである。
そうしておけば大抵のことはゼロは断らない。
「そう言うと思いまして、今回はゼロさんが同行すると説明した上で希望者を募りました。その結果、5人の冒険者が希望してくれました。因みにこの依頼はギルドからの正式な依頼であり、現在の深刻な人手不足は私を含めてギルド職員全員が大変困っています。他に何か質問は?」
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