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ある魔術師の冒険1
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深い森を貫く荒れた道を2頭立ての馬車が疾走していた。
御者席には商人の男が必死の様子で手綱を操っている。
そして、馬車の屋根の上に1人の冒険者。
魔術師のレナである。
レナは激しく揺れる馬車の屋根で立て膝の姿勢でバランスを取りながら周囲に目を向けていた。
魔術師レナ・ルファードは風の都市の冒険者ギルドに所属する冒険者である。
王都の魔導学院を優秀な成績で卒業した後に冒険者になり、紫等級まで昇格した。
ある事情により犯罪に加担していたところを1人の冒険者に救われ、その後の矯正教育や降格の処分等を経て風の都市の冒険者として復帰し、都市防衛戦の功績が認められ、紫等級に再び昇格した。
今は主に単独か、他の冒険者と協同で依頼を受けながら活動している。
この日、レナはある商人の護衛依頼を受けていた。
盗賊が出没する地域を通過する商人からの依頼で、他の冒険者数名と共に護衛に当たっていた。
途中の峠で盗賊団に遭遇して撃退したまでは順調だった。
しかし、盗賊団との戦闘で本来は進むべきではない道に追い込まれ、深遠の森に入り込んでしまったのである。
深遠の森は凶暴な魔物の多い危険な森で、森を抜ける道はあっても望んで通ろうとする者は殆どいない。
レナ達が森に追い込まれた時には既に遅く、いきなり巨大なサソリの魔物であるマッドスコーピオンに襲われたのである。
最初の戦闘で他の冒険者のうちリーダー格の紫等級の剣士が犠牲になり、混乱に陥った剣士のパーティーメンバーは散り散りになり、行方が分からなくなった。
残ったのは剣士のパーティーと協同で依頼を受けていたレナだけであった。
「魔術師さん!振り切れたかっ?」
必死で馬車を操る商人はレナに声をかける。
レナは馬車の後方を警戒する。
マッドスコーピオンの姿は見えないが、執念深いマッドスコーピオンが狙いをつけた獲物を見逃す筈がない。
「姿は見えませんが、速度を落とさないでください!」
レナは一片も気を抜いていなかった。
必ず追ってきていると確信していた。
何時でも魔法を行使できるように魔力を高めたその時、森の木をなぎ倒してマッドスコーピオンが姿を現した。
その尾の毒針には剣士のパーティーメンバーだった女性弓士が刺さったままだ。
完全に腹部を貫通している、既に死亡していることは明らかだ。
「来ました!そのまま逃げてくださいっ」
レナは杖を構える。
「ファイアストーム!」
マッドスコーピオンが炎に包まれて追撃の足を止める。
「ごめんなさい・・・」
レナはマッドスコーピオンの尾に貫かれている弓士に詫びた。
レナの炎に焼かれればその遺体は焼け落ちて認識票の回収もままならないであろう。
死してなお魔物に貫かれたまま焼かれた彼女を思うと自然に言葉に出てしまった。
そのような業火でもマッドスコーピオンを倒すには至らなかった。
一度は足を止めたマッドスコーピオンだが、纏わりつく炎を振りほどくと再び追撃に移った。
「っつ!やはり駄目ですか」
レナは決断を迫られた。
彼女に残された手札は一枚のみ、彼女の最大の攻撃魔法しかない。
これを行使すればマッドスコーピオンとて一溜まりもないだろう。
しかし、ここに至るまでにレナは多くの魔法を行使していて残る魔力が少なく、最大魔法を行使すれば魔力切れになることは間違いない。
それ以降は戦うことができないのだ。
「とはいえ、魔力を温存して逃げ切れる敵では・・・。あとどの位で森を抜けられますか?」
レナは御者席の商人に問うた。
「多分もう少しだ!馬達も限界が近いが森を抜けるまでは持ちそうだっ!」
レナは決断した。
自らの身体にロープを巻きつけ、その末端を馬車に繋ぐ。
たとえ意識を失っても馬車から転がり落ちないようにするためだ。
「最後の手を打ちます!これで私は戦えなくなりますので何があっても速度を落とさずに森を抜けてください」
「魔術師さん、何をする気だ?無茶しないでくれよ!」
「無茶をしますが、あのサソリだけは倒します!」
レナは激しく揺れる屋根の上に立ち上がり魔力を集中する。
彼女の周囲の空気が帯電し、杖には電撃の光が収束して白色に輝きながら槍のような形を作り出す。
彼女は出し惜しみすることなく残された魔力の全てを注ぎ込んだ。
その電撃の槍をマッドスコーピオンに狙いをつける。
「プラズマランス!」
レナの杖から放たれた電撃の槍は固い甲羅で守られたマッドスコーピオンを容易く貫き通し、更に内側からの激しい電撃により耐えられずにマッドスコーピオンは爆散した。
「・・・倒しま・・ね」
レナは全ての魔力を失ったことによる疲労により気を失った。
事前に備えていたおかげで彼女の身体は馬車からは転がり落ちず、馬車の側面にぶら下がるように吊された。
レナが目を覚ましたのは深遠の森を抜けた辺境の町の治療院だった。
レナを治療院に届けた商人は遅れを取り戻すために既に立ち去っていて、レナに礼を述べていたとのことだった。
商人の伝言を受けていた治療院の老医師によれば
「危険な場所は通過したので後の護衛は不要。依頼は達成でよい」
とのことであった。
レナを診た治療院の老医師は怪我をしたわけでもない疲労と魔力切れだけなので寝ていれば治ると説明した。
そのことはレナ本人もよく分かっている。
その上で
盗賊との戦闘からマッドスコーピオンとの連戦の最中に魔力切れを起こして戦闘不能に陥ったこと
魔力切れによる疲労で意識を失うに至ったこと
そもそも盗賊との戦闘では他のパーティーがいたのであるから魔力を温存できた筈だったこと
は自分の魔法を過信し、戦闘を魔法ばかりに頼りきっていたために招いた結果であり、自分の認識の甘さを痛感していた。
戦いを魔法にのみ頼るならば、戦闘が終わるまでは持たせなければならないし、そもそも魔力切れによる疲労で意識を失うのは体力気力が絶対的に足りていないのである。
なまじ魔法の才能があり、様々な魔法を駆使することができたために今までは問題なく戦闘を行えたが、今回のような場合には自分1人では対処できないのである。
最低限、魔力切れを起こしても自分で自分の身を守ることができなければいけない、どこかのネクロマンサーもそのようなことを話していた。
「このままでは駄目、冒険者として長生きできません」
レナは自らを高める決意を新たにしたのである。
御者席には商人の男が必死の様子で手綱を操っている。
そして、馬車の屋根の上に1人の冒険者。
魔術師のレナである。
レナは激しく揺れる馬車の屋根で立て膝の姿勢でバランスを取りながら周囲に目を向けていた。
魔術師レナ・ルファードは風の都市の冒険者ギルドに所属する冒険者である。
王都の魔導学院を優秀な成績で卒業した後に冒険者になり、紫等級まで昇格した。
ある事情により犯罪に加担していたところを1人の冒険者に救われ、その後の矯正教育や降格の処分等を経て風の都市の冒険者として復帰し、都市防衛戦の功績が認められ、紫等級に再び昇格した。
今は主に単独か、他の冒険者と協同で依頼を受けながら活動している。
この日、レナはある商人の護衛依頼を受けていた。
盗賊が出没する地域を通過する商人からの依頼で、他の冒険者数名と共に護衛に当たっていた。
途中の峠で盗賊団に遭遇して撃退したまでは順調だった。
しかし、盗賊団との戦闘で本来は進むべきではない道に追い込まれ、深遠の森に入り込んでしまったのである。
深遠の森は凶暴な魔物の多い危険な森で、森を抜ける道はあっても望んで通ろうとする者は殆どいない。
レナ達が森に追い込まれた時には既に遅く、いきなり巨大なサソリの魔物であるマッドスコーピオンに襲われたのである。
最初の戦闘で他の冒険者のうちリーダー格の紫等級の剣士が犠牲になり、混乱に陥った剣士のパーティーメンバーは散り散りになり、行方が分からなくなった。
残ったのは剣士のパーティーと協同で依頼を受けていたレナだけであった。
「魔術師さん!振り切れたかっ?」
必死で馬車を操る商人はレナに声をかける。
レナは馬車の後方を警戒する。
マッドスコーピオンの姿は見えないが、執念深いマッドスコーピオンが狙いをつけた獲物を見逃す筈がない。
「姿は見えませんが、速度を落とさないでください!」
レナは一片も気を抜いていなかった。
必ず追ってきていると確信していた。
何時でも魔法を行使できるように魔力を高めたその時、森の木をなぎ倒してマッドスコーピオンが姿を現した。
その尾の毒針には剣士のパーティーメンバーだった女性弓士が刺さったままだ。
完全に腹部を貫通している、既に死亡していることは明らかだ。
「来ました!そのまま逃げてくださいっ」
レナは杖を構える。
「ファイアストーム!」
マッドスコーピオンが炎に包まれて追撃の足を止める。
「ごめんなさい・・・」
レナはマッドスコーピオンの尾に貫かれている弓士に詫びた。
レナの炎に焼かれればその遺体は焼け落ちて認識票の回収もままならないであろう。
死してなお魔物に貫かれたまま焼かれた彼女を思うと自然に言葉に出てしまった。
そのような業火でもマッドスコーピオンを倒すには至らなかった。
一度は足を止めたマッドスコーピオンだが、纏わりつく炎を振りほどくと再び追撃に移った。
「っつ!やはり駄目ですか」
レナは決断を迫られた。
彼女に残された手札は一枚のみ、彼女の最大の攻撃魔法しかない。
これを行使すればマッドスコーピオンとて一溜まりもないだろう。
しかし、ここに至るまでにレナは多くの魔法を行使していて残る魔力が少なく、最大魔法を行使すれば魔力切れになることは間違いない。
それ以降は戦うことができないのだ。
「とはいえ、魔力を温存して逃げ切れる敵では・・・。あとどの位で森を抜けられますか?」
レナは御者席の商人に問うた。
「多分もう少しだ!馬達も限界が近いが森を抜けるまでは持ちそうだっ!」
レナは決断した。
自らの身体にロープを巻きつけ、その末端を馬車に繋ぐ。
たとえ意識を失っても馬車から転がり落ちないようにするためだ。
「最後の手を打ちます!これで私は戦えなくなりますので何があっても速度を落とさずに森を抜けてください」
「魔術師さん、何をする気だ?無茶しないでくれよ!」
「無茶をしますが、あのサソリだけは倒します!」
レナは激しく揺れる屋根の上に立ち上がり魔力を集中する。
彼女の周囲の空気が帯電し、杖には電撃の光が収束して白色に輝きながら槍のような形を作り出す。
彼女は出し惜しみすることなく残された魔力の全てを注ぎ込んだ。
その電撃の槍をマッドスコーピオンに狙いをつける。
「プラズマランス!」
レナの杖から放たれた電撃の槍は固い甲羅で守られたマッドスコーピオンを容易く貫き通し、更に内側からの激しい電撃により耐えられずにマッドスコーピオンは爆散した。
「・・・倒しま・・ね」
レナは全ての魔力を失ったことによる疲労により気を失った。
事前に備えていたおかげで彼女の身体は馬車からは転がり落ちず、馬車の側面にぶら下がるように吊された。
レナが目を覚ましたのは深遠の森を抜けた辺境の町の治療院だった。
レナを治療院に届けた商人は遅れを取り戻すために既に立ち去っていて、レナに礼を述べていたとのことだった。
商人の伝言を受けていた治療院の老医師によれば
「危険な場所は通過したので後の護衛は不要。依頼は達成でよい」
とのことであった。
レナを診た治療院の老医師は怪我をしたわけでもない疲労と魔力切れだけなので寝ていれば治ると説明した。
そのことはレナ本人もよく分かっている。
その上で
盗賊との戦闘からマッドスコーピオンとの連戦の最中に魔力切れを起こして戦闘不能に陥ったこと
魔力切れによる疲労で意識を失うに至ったこと
そもそも盗賊との戦闘では他のパーティーがいたのであるから魔力を温存できた筈だったこと
は自分の魔法を過信し、戦闘を魔法ばかりに頼りきっていたために招いた結果であり、自分の認識の甘さを痛感していた。
戦いを魔法にのみ頼るならば、戦闘が終わるまでは持たせなければならないし、そもそも魔力切れによる疲労で意識を失うのは体力気力が絶対的に足りていないのである。
なまじ魔法の才能があり、様々な魔法を駆使することができたために今までは問題なく戦闘を行えたが、今回のような場合には自分1人では対処できないのである。
最低限、魔力切れを起こしても自分で自分の身を守ることができなければいけない、どこかのネクロマンサーもそのようなことを話していた。
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