職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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エルフォードの亡霊3

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 3日目の朝を迎えた。
 エルフォード家にとって長い1日の始まりであった。

 エレナの起床の報告を受けたマイルズとメイド長は決意の表情でエレナの寝室に向かった。
 その間、ゼロは応接室で待機していたが、殆ど待たされることなくエレナの寝室へと案内された。
 ゼロが寝室に入るとエレナがベッドの上で上体を起こしており、左右にマイルズとメイド長が控えていた。

「エルフォード家当主、エレナ・エルフォード様は決断いたしました」

 マイルズの言葉に次いでエレナが穏やかな笑顔で口を開いた。

「ゼロさんには感謝しています。貴方が来てくれなければ私は長い苦しみの中で悪魔に屈して死を迎えていたことでしょう。当家に来て僅か2日でそこまで突き止めてくれたこと、そして私に選択肢を与えてくれたことにお礼を申し上げます」

 エレナが頭を下げると共にマイルズとメイド長も深々と礼をした。
 そしてエレナはゼロに告げた。

「一刻も早く私に取り憑いている悪魔を討ち果たし、私に安らかな死を与えてください」

 迷いのないはっきりとした口調だった。

「承りました。必ずや撃退してみせます」

 ゼロが返答するとエレナは静かに微笑んだ。

「私は長く生きてきました。夫にも息子夫婦にも先立たれた寂しさに比べれば死ぬことには何の恐れもありません。ただ、私亡き後にエルフォード家を託す孫のセシルのことを思うと、あの子が不憫でなりません。そして死ぬ前に今一度、セシルに会って抱きしめてあげたかったのですが、叶わぬ望みでしょうね」

 エレナの言葉に対してゼロは偽りのない言葉で返答した。

「孫娘さんの件については何とも言えません。ただ一つだけ、夢魔だけは必ず撃退してみせます。夢魔を撃退した後は数時間を待たずして貴女に死が訪れる筈です」
「そうね、それならば今のうちにセシルに手紙を書きましょう。ゼロさん、私に抗う力を貸していただいてありがとう」

 ゼロは一礼してエレナの寝室から退出した。
 ゼロの後を追うようにしてマイルズが退出してきた。
 2人は応接室に移動した。

「エレナさんの孫のセシルさんは今は何処に?」
「はい、セシル様は年齢14歳、王都の学園にて学んでおります」

 王都はエルフォード家から馬車で2日程の距離がある。
 今から迎えに行っても間に合わないだろう。

「そうですか、何とか会わせてあげたかったのですが」
「はい、あと1日でも時間があればセシル様にお伝えして、王都に控える当家の早馬でお戻りになられたでしょうに・・・」

 2人の間に沈黙が流れた。

「・・・ん?あと1日?」

 ゼロが顔を上げた。

「はい、当家から早馬の伝令で王都まで1日、セシル様が早馬で戻るのに1日ですので1日足りません」

 無念な表情のマイルズに反してゼロは身を乗り出してマイルズに問い詰める。

「セシルさんは王都からここまで1日で戻れるのですか?」
「はい、緊急用に王都には当家の早馬と御者が控えております。早馬ならば1日でお戻りになれます。ただ、その知らせを送る時間が・・・」

 ゼロは立ち上がる。

「間に合うかもしれません。私ならば一刻を掛けずに王都に伝令を飛ばせます」
「なんですと?」
「私のアンデッドに手紙を持たせれば直ぐにでも可能です。ただ、アンデッドが運んだ手紙を信じて貰えるかどうか」
「それならば当家の紋を押印した公式文書であれば!」
「直ぐに準備できますか?」
「勿論です」

 2人は頷いた。

「やりましょう!間に合わなくて元々、少しでも可能性があるならば!」

 マイルズは応接室から駆け出して行った。
 その姿はなりふり構わず、一辺の優雅さもなかった。

 直ぐにエルフォード家の公式文書は用意された。
 ゼロはバンシーを召喚して文書を託す。

「いいですか?この文書を一刻も早く王都のセシルさんに届けてください。いつものことですが、くれぐれも聖職者等に見つからないように」

 バンシーは涙目で微笑むと姿を消した。

 見送ったマイルズがゼロに質問する。

「彼女?ですか、無事にセシル様の元に行けるでしょうか?」
「彼女はエレナさんに似た気を辿って飛びますので他に親類縁者がいない限り真っ直ぐにセシルさんの元に向かいます。後は間に合うかどうかです」

 ゼロはマイルズに向き直る。

「セシルさんの件は打てる手を打ちました。後は私が奴を倒すのみです。おそらくはセレナさん以外の妨害者が現れたのを知った奴は今夜にでも仕掛けてきます。多分、そう多くないでしょうが眷族を連れてくるかもしれません」
「この屋敷が戦いの場になると?」
「はい、できるならば使用人さん達は避難して欲しいところですが、無理そうですね」
「当然です。避難の指示を出したとしてもこればかりは従う者は居ないと思います。私もかつてはエルフォード騎士隊を率いていた騎士です。騎士隊は解体されて今の執事の立場ですが、今宵は私も参加させていただきます。エレナ様を死に追いやろうとした悪魔にせめて一矢報いなければ我々の気が収まりません」

 2人は固い握手をした。
 握りしめたマイルズの手は歴戦の戦士のそれであった。

 夕暮れの後、ゼロ達は敵を迎え撃つ準備を整えていた。
 庭の守りはゼロが召喚した2体のスケルトンウォリアーと20体のスケルトン。
 他に庭師の老人と庭師見習いの青年。
 食堂に料理長と副料理長が2人に若い執事が2人。
 屋敷内に掃除夫の男が2人。

 エルフォード家に使える男性は貴族に仕える者として剣技の心得があるので全員が剣を携えている。
 それぞれの担当部署の警戒に当たるのは彼等の矜持の現れであった。

 他にメイド長以下メイドが15人、彼女達は戦いの心得は無いのでエレナの寝室で待機する。
 マイルズもエレナの傍らで警戒に当たる。

 そして敷地内全域をゼロが警戒する。

 その様子を見たエレナは

「あらあら、最期の夜になるのでしょうけど、とても賑やかね。お茶会のようだわ」

とコロコロと笑った。

「後で料理長が夜食とお茶を持ってきてくれるそうです。そうですね、お茶会を開きましょう。奴にとって最悪のお茶会に招待してやりましょう」

 ゼロは冷徹な笑みを浮かべ、マイルズは黙って頷いた。

「まあ、頼もしいわ。そうね、私もやられっぱなしでは貴族の沽券にかかわるわ。報いてやるのが楽しみね。それに、私には見えないのが残念だけど姉様も守ってくれているのかしら?だとしたら、何も恐くないわ」

 エレナの表情は何も恐れていなかった。
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