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エルフォードの亡霊2
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翌朝ゼロはマイルズに夜に起きたことを報告した。
「少女の霊ですか?」
「はい、10歳くらいで、髪の短い子でした。心当たりはありませんか?」
マイルズは少し思案して口を開いた。
「実はエレナ様には姉君がおられたと聞き及んでいます。確か、エレナ様が7歳のころ、当時11歳だった姉のセレナ様は流行病で亡くなられたと。何分にも私が当家に仕える以前のことですので、詳しいことは何とも・・・。ただ、大変仲がよろしい姉妹だったそうです」
ゼロは腕組みして考え込む。
「そういえば、エレナ様の寝室にセレナ様の肖像画があります。ご覧になられますか?」
ゼロは頷くとマイルズの案内でエレナの寝室に向かった。
エレナは体調が優れないらしく眠りに就いていたため、2人共足を忍ばせて肖像画の前に立つ。
それは小さな画板に描かれたものだった。
仲むつまじそうな2人の少女の画。
小さな子がエレナであろう、そしてもう1人は活発そうな髪の短い少女だった。
ゼロはマイルズに向かって頷いた。
再び応接室に場を移した2人はしばしの間無言だったが、その沈黙を破ってマイルズが口を開いた。
「しかしゼロ殿、私にはセレナ様の霊がエレナ様に害を為すなど考えられない、いや、考えたくないのです」
ゼロは頷いた。
「まだ確証は得られませんが、セレナさんがエレナさんに害を為しているわけではないかもしれません」
「と申しますと?」
「私の死霊術師としての直感のようなもので、根拠はありませんからもう少し調査をする必要があります」
報告の後、2日目の調査は昼過ぎまで休息を取り、午後から開始した。
丁度2日目の案内担当がメイド長だったこともあり、彼女を含めて各使用人の聞き取りを行ってみた。
結果、
・亡霊が初めて現れたのはエレナの体調不良が発症した後であること。
・亡霊は主にエレナの寝室周辺に現れること。
・亡霊が現れる時、エレナは特に体調が悪いことが多いこと。
が分かった。
「しかし、これほどの怪現象が起きているのに逃げ出す方は居なかったのですか?」
ゼロの素朴な疑問にメイド長は凛として答えた。
「私達はエルフォード家に忠誠をつくしております。エレナ様への恩義に応えるため、逃げ出すような者は居りません。当然ながらそれを強いたわけではなく、皆が自分の意志でお仕えしております」
「大したものですね。亡霊に遭遇するなんて常人には恐怖でしかないでしょうに」
「正直申し上げて私も恐怖はあります。しかし、だからといって逃げ出すつもりは毛頭ございません」
ゼロは改めて感心した。
その夜、事態が大きく動いた。
エレナが高熱を出して苦しむ最中、エレナの寝室に立ち入ったゼロは少女の霊が黒い影に立ち向かっている様子を目の当たりにした。
「メイド長さん、あの黒い影に見覚えは?」
「ございません・・・」
メイド長は震える声で答えた。
「先ずはあの影の正体を暴く必要がありますね」
ゼロはスペクターを召喚した。
「白い影の少女を援護しなさい。ただ、病人がいます、攻撃魔法を行使してはいけません」
命令を受けたスペクターが飛び込むと黒い影は不気味な声を上げて寝室の窓から外へと逃げ出して行った。
逃げ出す直前にゼロは黒い影の正体を見逃さなかった。
「あれは、まさか・・・」
ゼロの脳裏に最悪の事態が思い浮かび、それが確証へと変化した。
エレナのベッドに目を向ければ少女の霊がエレナに寄り添い、額に白い手を翳している。
「やはり、ですか」
ゼロはスペクターを返すとメイド長に振り返った。
「夜中に申し訳ありませんが、マイルズさんにお話しがあります。緊急にです」
全てを見ていたメイド長は青い顔で踵を返して駆け出した。
夜中に叩き起こされた筈のマイルズは殆ど時間を掛けていないにも拘わらず一分の隙のない身嗜みで現れた。
「緊急の用件だそうで?」
「はい、事案の概要が概ね分かりました。そのことを説明する前に、非常に酷なことを告げなければなりません」
「伺いましょう?」
「先ず、エレナさんの命はもう長くはありません。正直、助けることは叶いません」
マイルズは拳を握りしめながらも表情を変えることはなかった。
「・・・どういうことでしょう?」
「今回の件、件の亡霊はエレナさんの姉のセレナさんで間違いありません。そして、セレナさんはエレナさんに害を為していたわけではありませんでした。エレナさんに取り憑いているのは夢魔の一種の下級悪魔です」
「なんという・・・」
ここにきてマイルズは初めて表情を変えた。
落胆とも怒りともつかない表情だった。
「仮に、その悪魔を撃退したならば如何でしょうか?」
「手遅れです。実はエレナさんの命は既に枯渇している筈です」
「と仰いますと?」
「夢魔がエレナさんの夢の中から出てきている時点で奴の目的は達成されています。後は外部からの最後の一手で命を刈り取るだけです。それを水際で防いでいるのが」
「セレナ様の霊、ですか?」
「はい、セレナさんがその一手を打たせないために抵抗していた上にエレナさんに霊力を送って命をつなぎ止めていたのです」
マイルズはゼロを真正面から見据えた。
「エレナ様のために我々が出来ることは?」
「選択肢は2つです。1つは夢魔の最後の一手を妨害し続けて現状を少しでも長らえること、これは苦しみの時間が長くなることを意味する上、夢魔が既に顕現化している以上は大きな危険を伴います。もう1つは一刻も早く夢魔を撃退し、安らかな死を受け入れること」
マイルズは立ち上がるとゼロに背を向けて窓の外を見やった。
「5分だけ、時間をください」
一言だけ言うと5分間無言で立ち尽くしていた。
再び振り返ったマイルズの瞳には決意の光が宿っていた。
「エレナ様がお目覚めになりましたら一部始終を説明し、エレナ様ご自身に選択をしていただきます」
「本人に?大丈夫ですか?」
「はい、貴族たるものは自らの運命を受け入れる覚悟をお持ちです。エレナ様亡き後のエルフォード家のことも考えなければならないのです」
「少女の霊ですか?」
「はい、10歳くらいで、髪の短い子でした。心当たりはありませんか?」
マイルズは少し思案して口を開いた。
「実はエレナ様には姉君がおられたと聞き及んでいます。確か、エレナ様が7歳のころ、当時11歳だった姉のセレナ様は流行病で亡くなられたと。何分にも私が当家に仕える以前のことですので、詳しいことは何とも・・・。ただ、大変仲がよろしい姉妹だったそうです」
ゼロは腕組みして考え込む。
「そういえば、エレナ様の寝室にセレナ様の肖像画があります。ご覧になられますか?」
ゼロは頷くとマイルズの案内でエレナの寝室に向かった。
エレナは体調が優れないらしく眠りに就いていたため、2人共足を忍ばせて肖像画の前に立つ。
それは小さな画板に描かれたものだった。
仲むつまじそうな2人の少女の画。
小さな子がエレナであろう、そしてもう1人は活発そうな髪の短い少女だった。
ゼロはマイルズに向かって頷いた。
再び応接室に場を移した2人はしばしの間無言だったが、その沈黙を破ってマイルズが口を開いた。
「しかしゼロ殿、私にはセレナ様の霊がエレナ様に害を為すなど考えられない、いや、考えたくないのです」
ゼロは頷いた。
「まだ確証は得られませんが、セレナさんがエレナさんに害を為しているわけではないかもしれません」
「と申しますと?」
「私の死霊術師としての直感のようなもので、根拠はありませんからもう少し調査をする必要があります」
報告の後、2日目の調査は昼過ぎまで休息を取り、午後から開始した。
丁度2日目の案内担当がメイド長だったこともあり、彼女を含めて各使用人の聞き取りを行ってみた。
結果、
・亡霊が初めて現れたのはエレナの体調不良が発症した後であること。
・亡霊は主にエレナの寝室周辺に現れること。
・亡霊が現れる時、エレナは特に体調が悪いことが多いこと。
が分かった。
「しかし、これほどの怪現象が起きているのに逃げ出す方は居なかったのですか?」
ゼロの素朴な疑問にメイド長は凛として答えた。
「私達はエルフォード家に忠誠をつくしております。エレナ様への恩義に応えるため、逃げ出すような者は居りません。当然ながらそれを強いたわけではなく、皆が自分の意志でお仕えしております」
「大したものですね。亡霊に遭遇するなんて常人には恐怖でしかないでしょうに」
「正直申し上げて私も恐怖はあります。しかし、だからといって逃げ出すつもりは毛頭ございません」
ゼロは改めて感心した。
その夜、事態が大きく動いた。
エレナが高熱を出して苦しむ最中、エレナの寝室に立ち入ったゼロは少女の霊が黒い影に立ち向かっている様子を目の当たりにした。
「メイド長さん、あの黒い影に見覚えは?」
「ございません・・・」
メイド長は震える声で答えた。
「先ずはあの影の正体を暴く必要がありますね」
ゼロはスペクターを召喚した。
「白い影の少女を援護しなさい。ただ、病人がいます、攻撃魔法を行使してはいけません」
命令を受けたスペクターが飛び込むと黒い影は不気味な声を上げて寝室の窓から外へと逃げ出して行った。
逃げ出す直前にゼロは黒い影の正体を見逃さなかった。
「あれは、まさか・・・」
ゼロの脳裏に最悪の事態が思い浮かび、それが確証へと変化した。
エレナのベッドに目を向ければ少女の霊がエレナに寄り添い、額に白い手を翳している。
「やはり、ですか」
ゼロはスペクターを返すとメイド長に振り返った。
「夜中に申し訳ありませんが、マイルズさんにお話しがあります。緊急にです」
全てを見ていたメイド長は青い顔で踵を返して駆け出した。
夜中に叩き起こされた筈のマイルズは殆ど時間を掛けていないにも拘わらず一分の隙のない身嗜みで現れた。
「緊急の用件だそうで?」
「はい、事案の概要が概ね分かりました。そのことを説明する前に、非常に酷なことを告げなければなりません」
「伺いましょう?」
「先ず、エレナさんの命はもう長くはありません。正直、助けることは叶いません」
マイルズは拳を握りしめながらも表情を変えることはなかった。
「・・・どういうことでしょう?」
「今回の件、件の亡霊はエレナさんの姉のセレナさんで間違いありません。そして、セレナさんはエレナさんに害を為していたわけではありませんでした。エレナさんに取り憑いているのは夢魔の一種の下級悪魔です」
「なんという・・・」
ここにきてマイルズは初めて表情を変えた。
落胆とも怒りともつかない表情だった。
「仮に、その悪魔を撃退したならば如何でしょうか?」
「手遅れです。実はエレナさんの命は既に枯渇している筈です」
「と仰いますと?」
「夢魔がエレナさんの夢の中から出てきている時点で奴の目的は達成されています。後は外部からの最後の一手で命を刈り取るだけです。それを水際で防いでいるのが」
「セレナ様の霊、ですか?」
「はい、セレナさんがその一手を打たせないために抵抗していた上にエレナさんに霊力を送って命をつなぎ止めていたのです」
マイルズはゼロを真正面から見据えた。
「エレナ様のために我々が出来ることは?」
「選択肢は2つです。1つは夢魔の最後の一手を妨害し続けて現状を少しでも長らえること、これは苦しみの時間が長くなることを意味する上、夢魔が既に顕現化している以上は大きな危険を伴います。もう1つは一刻も早く夢魔を撃退し、安らかな死を受け入れること」
マイルズは立ち上がるとゼロに背を向けて窓の外を見やった。
「5分だけ、時間をください」
一言だけ言うと5分間無言で立ち尽くしていた。
再び振り返ったマイルズの瞳には決意の光が宿っていた。
「エレナ様がお目覚めになりましたら一部始終を説明し、エレナ様ご自身に選択をしていただきます」
「本人に?大丈夫ですか?」
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