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ゼロの休日

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 都市の防衛戦で大怪我を負ったゼロは依頼を受けることが出来ない日々を送っていた。

「冒険者の状態を確認して適切に依頼を斡旋するのがギルドの仕事です。怪我人には依頼を斡旋することはできません。これはギルドの信用にも関わります」

とシーナに宣告されてしまい、依頼を斡旋してもらえないのである。
 先の防衛戦で著しい功績を上げたゼロはまとまった額の報酬を手にしていた。
 その額は暫くは遊んで暮らせる程のものだったが、元来の性格故か、仕事をしていないと落ち着かないのである。
 仕方なく死霊術の研究や修行に時間を費やしたり、休息日にはモースの店に顔を出すか、ギルドの資料室に籠もる毎日だった。
 今日も夕暮れ時にモースに呼ばれて酒の相手をしていた。

「ところで、前から聞いてみたかったんだがの、お前さんの扱うアンデッドが持つ武器や防具はどうしとるんだ?」
「ああ、それならば冥界の狭間から自分でクラスに見合った物を持ってきていますね。例えばスケルトンだと鎧は着ておらず、剣や槍、盾を持っているだけです。それがスケルトンウォリアーになると革鎧を着ていることが多いですね。多分、スケルトンナイトなんかに進化すると金属製の鎧を装備すると思いますよ」
「そういうもんなのか」
「因みに、彼等が装備している武器や鎧はアンデッドだけあって古いものばかりですよ」
「ならば、こちらの剣や鎧を装備させたらどうだ?」
「それも可能なんです。ただ、私が用意しておいた装備を持たせて戦わせることはできるんですが、彼等は冥界の狭間に戻る時に置いていってしまうんです。つまり、アンデッドにこちらの装備を持たせるには私がいつも何十もの剣を持ち歩き、終わったら回収してこなくちゃならないんですよ」
「ハッハッハ!そりゃあ無理があるの」

 モースの話題は何時でも武器がらみであった。

「因みにお前さんは剣と鎖鎌はどちらが得意なんだ?」
「どちらがってことは無いですが、どちらかといえば剣ですかね?戦いで最初に抜くのは剣が多いですね。でも、状況によって使い分けてますよ。開けた場所で1対1の戦いでは鎖鎌を使うことも多いですし」
「お前さんの鎖鎌はクセがあるからの。しかし、お前さんの剣を打ってみて、この歳になって新しい技術を学べるとは、鍛冶師冥利に尽きるってもんだ。儂が鎚を振るえる間はお前さんの剣の面倒を見てやるからの。まあ、その後は儂の弟子を紹介してやるから心配すんな」
「因みにモースさんってあとどれ位の間剣を打てますか?」
「そうさの、あと80年位かの?」
「それじゃあ私の寿命の方が先に尽きますよ。もしもその頃に私に剣が必要だとしたら、私がアンデッドになってます」
「そりゃ面白い!悪さをしなければお前さんがアンデッドになっても剣を打ってやるぞ。あと、酒飲みにも付き合ってもらおうかの」
「アンデッドになればモースさんよりも飲めるようになりますよ。何せ酔いませんし、そもそも骸骨ですからね、飲んだ先から全部こぼれてしまいますよ」
「ガッハッハ!そりゃあ愉快だわ。まあ飲め飲め」

 モースはゼロの前に置かれたコップに酒を注いだ。

(やれやれ、明日がキツいですね)

 ドワーフだけあって水のように酒を飲むモースに付き合った翌日はいつも宿酔いになってしまうのであった。


 またある日は居宅のある森の中でアンデッドを召喚しての修行を行っていた。
 全力を出すとスケルトンウォリアーを10体は呼び出せるようになっていた。
 因みにバンシーは同じ個体が1体しか呼べず、それ以外はレイスの上位種であるスペクターしか召喚できない。
 また、ウィル・オー・ザ・ウィスプはクラスチェンジをすることはなく、魔力の強い個体が召喚できるようになっていた。
 おかげでゼロは数が必要な時は下級種を数多く召喚し、戦闘力が必要な時は上位種を召喚する、または少数の上位種に複数の下級種を指揮させるという選択肢ができた。

「まだまだですが、死霊術師として少しは実力がついてきましたか」

 アンデッドを召喚して彼等との連携についての練度を高めることに務めながら自らの成長を確認していた。
 なお、召喚したアンデッドを相手にして戦闘についての修行をしようとするも、アンデッドはゼロに剣を向けることを拒否するため実行することが出来なかった。

「昔は師匠が召喚したアンデッドを相手に修行したものですが、自分で召喚したら駄目なんですかね?何を遠慮しているのやら・・・」

 その日は修行を早めに切り上げてギルド併設の食堂に足を運ぶ。
 まだ人の殆どいない食堂の隅の席に陣取るのもいつものことだった。
 ゼロの周りの席には人が集まらないこともいつものことの筈だったが、今日は違った。
 ゼロが食事を始めた直後に対面の席に着いて食事を始めた人物がいた。
 ゼロは周囲を見渡すも日暮れ前の夕食には早い時間なので店内に客は殆どいない。

「・・・あの、他にも席は空いてますが?」

 ゼロは目の前で食事をする人物に話し掛けた。

「別に席が決められているわけでもありません。どこに座ろうと私の自由です」

 黙々と食事を続けるレナはどことなく機嫌が悪そうだった。

「あっ、はい・・・そうですね」

 ゼロはそれ以上の言葉を発することが出来なかった。

「・・・」
「・・・・・」

 2人の間に沈黙が流れ、食器の音だけが静かに響いていた。
 しばしの気まずい沈黙の後、レナが唐突に口を開いた。

「ゼロ、先の戦い、私は納得していません。私は貴方に借りを返すつもりでした。あの人狼との戦いも私がサポートに入ればあんなに大怪我をすることはなかった筈です。私もその程度の実力はあるつもりです。そんなことも意に介さないで無理をして」
「あっ、いや、あの時はレナさんがいたからこそ私はあの人狼にのみ全力を尽くせたのですよ」

 言い訳がましいゼロの返答を聞いたレナはゼロを睨みつける。

「だとしてもです!結局大怪我をしていたら意味がありません!あの時の貴方の怪我は命に関わる程のものでした。それを更に無理をして1人で勝手に帰還して、挙げ句に意識を失う程の高熱を出して!」

 レナの迫力に圧倒されたゼロは何も言い返すことが出来なかった。

「はい、スミマセン。気をつけます」

 ゼロの反省の言葉を聞いたレナは無表情のまま店を出て行った。

「ふぅ、レナさん怖かったです。しかし、レナさんの言うことも尤もな意見です。気をつけましょう。・・・ん?高熱?」

 ゼロは首を傾げた。


 そしてゼロの怪我も回復し、依頼を受けられる状態になった時、ゼロはギルドからの呼び出しを受けた。
 ギルドの応接室に案内されたゼロはギルド長とシーナから幾度目かになる転職について問われた。

「ゼロさん、先日の防衛戦における貴方の功績が認められ、昇級になります」

 いつになく真剣な表情のシーナにゼロは気圧される。

「何度もお聞きしましたが、今一度、最後に確認します。ゼロさん、貴方はこのままでは黒等級への昇級になります。銅等級になるため、その先に登るために転職するつもりはありませんか?転職して少しの実績を積めばすぐに銅等級に昇級できます」
「お断りします」

 ゼロは即答した。

「私は今まで死霊術師として彼等と共に生きてきました。死霊術師として生きて死霊術師として死ぬ。これが私の誇りであり、死霊を使役するという背徳への贖罪でもあります」

 シーナとギルド長は顔を見合わせて諦めたように頷きあった。
 そしてギルド長は一枚の認識票を取り出した。
 ゼロの名が刻まれた黒等級のものである。

「本日只今をもって冒険者ゼロを黒等級冒険者として認め、その身分を保証する」

 ギルド長の宣告を受けてゼロは黒等級へと昇級した。
 異例の早さでの黒等級への昇級であり、ある意味で冒険者として最上位の等級に登りつめたことになった。
 ここから黒等級の冒険者としてのゼロの戦いが始まる。
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