職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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5人の冒険者

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 5人は直ちに地下墓地に向かうことにした。
 ゼロの推察では一刻の猶予もない。
 仮にアンデッド化したネクロマンサーのリッチがいたとして、どの程度の魔力を擁しているか分からないが、本能的に召喚を続けているとすれば、地下墓地はアンデッドで埋め尽くされてしまう。
 埋め尽くされないにしても相当数のアンデッドが召喚されていることは明白だ。
 早くネクロマンサーを討伐して事態の収束を図らなければならない。
 ギルドに事態の報告と、臨時に5人パーティーを組んで対処する旨を報告し、ギルドを介して依頼した早馬車を使って現地に向かった。

 その日の午後には目的の地下墓地に到着した。
 周囲はひっそりと静まり返り、不穏な様子は感じられず、ライズ達が封鎖した出入口もそのままになっていた。
 しかし、ゼロの表情は険しかった。
 ライズはゼロの様子を窺った。

「ゼロ、どうした?」
「これは、危険な状態だと思います」

 イリーナは首を傾げた。

「ここからでも分かるの?」

 ゼロは頷きながら封鎖した扉の様子を調べた。

「はい、死霊術師ですから、近くにアンデッドがいる気配は感じ取れます。これは、相当数がいますよ。扉を開ける前に偵察を出しましょう」

 ゼロは扉から離れると左手を掲げた。

「肉体を失い魂のみで彷徨う者よ、その精神を保ちつつ生と死の狭間の門を開け」

 ゼロの前にレイスが現れて跪いた。
 様子を見ていた他の4人は息を飲んだ。

「中に入って状況を確認してきなさい。中にいるアンデッドに対しては攻撃などはせずに無視して構いません。但し、何らかの攻撃を加えられたら反撃してもよいが、情報を持ち帰ることが優先です」

 命令を受けたレイスは封鎖された扉をすり抜けて墓地の中に入っていった。

「さて、偵察の間にある程度方針を定めたいのですが、中の構造は把握してますか?」

 ゼロの問いにイリーナが答えた。

「前回は中に入って直ぐに出たから実際には確認していないけど、街で聞いてみたら、中央に直線の通路があって、左右に部屋が配置されているらしいわ。元は古い貴族の墓だったらしいわよ」
「なるほど、在り来たりな地下墓地ですね。だとしたら一番奥に広間があるはずです。ならば、入口から潜って左右の部屋をクリアリングしながら奥に向かえばいいですね」

 その間に偵察に出ていたレイスが戻ってきた。

「やはり、リッチがいるようです。中は野良ゾンビの巣窟のようで、その数は100は下らないようですね」

 レイスから情報を得たゼロが説明するとライズが腕を組んで唸った。

「そんなにいるか。だとしたら扉を開けたら殺到してくるんじゃないか?そうなると厳しいな」
「いえ、入口付近にいるのは20から30体程度で、他は墓地の中に分散して彷徨っているだけですね。ただ、扉を開ければその数十体は溢れ出てきます」
「俺達はともかく、乱戦になるとセイラとアイリアはヤバいな」

 ライズの言葉にセイラとアイリアは互いに目を合わせたて頷き合った。

「セイラと私は大丈夫です。2人で切り抜けます」
「はい、私の浄化の祈りでも下級アンデッドならば浄化できます」

 決意に満ちた表情の2人を見てイリーナが

「私が2人のサポートに入ればいいんじゃない?私の弓ならゾンビ程度なら一撃で倒せるわよ」

 物理攻撃でゾンビを倒すとなると頭部を完全に破壊する必要があるが、イリーナ程の冒険者ならば弓矢でそれが可能だ。
 同じレンジャーでも力量の足りないアイリアでは難しい。

 それぞれの話しを聞いていたゼロが口を開いた。

「いえ、扉を開けて溢れ出てくるゾンビは私が引き受けます。皆さんは中に入った後のために力を温存してください。その上でライズさんとイリーナさんは取りこぼしがあればそれを始末してください」
「いくら何でもお前1人ってのは無茶じゃないか?」
「開けた場所で、野良ゾンビならば問題ありません。皆さんは私の後ろにいて射線上に出ないでください」

 そういうと扉から少し離れた場所に立ったゼロはレイスを返して代わりに4体のウィル・オー・ザ・ウィスプを召喚し、自分の左右に配置した。

「これから溢れ出てくるゾンビを焼き払います。ライズさんは扉を開けて直ぐに後ろに退避してください」
「分かった。任せるぞ」

 ライズは扉の取っ手に巻いていた鎖に手を掛け、ゼロの合図を待って扉を解放した。

・・ォォオオ

 文字通り地の底から響く不気味な唸り声と共に無数のゾンビが這い出てきた。

「焼き払え!」

 ゼロが命令するとウィル・オー・ザ・ウィスプが一斉に火炎魔法を放ちゾンビを焼き払い始めた。
 ウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎に包まれたゾンビは次々と灰になって崩れ落ちていった。
 ゼロも火炎魔法を行使してゾンビを焼き払っている。
 這い出てくる数が増えて彼我の距離が接近するとゼロとウィル・オー・ザ・ウィスプはジワジワと後退しながらも的確にゾンビの数を減らしていく。

「すごい」

 セイラは思わず呟いたが、それ以上の言葉が出て来なかった。
 戦闘が始まって半刻程経ったであろうか、這い出してくるゾンビが無くなるころには周辺に灰の塊が散乱していた。
 ゼロはそれを確認すると魔力の弱くなったウィル・オー・ザ・ウィスプを返した。

「とりあえず、こんなもんですか?後は中に潜って、ですね」

 ゼロが振り返るとライズが感嘆の声を上げた。

「すげぇな。ネクロマンサーじゃなくて魔術師でもイケるんじゃねぇか?」
「いや、私が使えるのは火炎魔法と光熱魔法、後は支援魔法が幾つかです。魔術師としては生きていけませんよ」
「でも、さっきの火の玉とお前の火炎魔法ならば墓の中でも掃討できるんじゃないか?」
「無理です。狭い空間で火炎魔法なんか使ったら蒸し焼きになります。それに、焼ききれなくて火だるまになったゾンビに取り付かれたら火傷じゃ済みませんよ」
「だとすると、ここからは俺達の力で押し切るしかないか」

 5人は侵入する隊列を確認した。
 ライズとゼロが前衛を務め、中央にセイラとアイリア。
 後衛にイリーナが付いてセイラたちのサポートと後方警戒を担う。
 パーティーに先行してレイスが索敵に出る他にスケルトンウォリアーがセイラ達の直衛に付く。

「セイラさん、貴女の祈りの力は温存しておいてください。おそらくは、最後の局面で貴女の祈りが必要になります。その局面では私達3人は貴女を守ることはできません。アイリアさんはセイラさんを守り通してください」

 ゼロの言葉にセイラとアイリアは頷いた。

「よし!ようやく出番だな。見てるだけじゃストレスが溜まっちまう」
「そうね、手伝いを頼んでおいて出番なしじゃね」

 ライズとイリーナもやる気に満ちている。
 ライズとゼロは剣を、アイリアは弓でなくショートソード、セイラは杖を、イリーナは弓を手に、5人の冒険者は地下墓地に侵入した。

 地下墓地の入口付近は静まり返っていた。
 付近を徘徊していたゾンビは外の光と人の気配に誘われて外に這い出してゼロ達に焼かれたのだろう。
 パーティーは敵に会うことなく通路を進み、最初の部屋にたどり着いた。
 部屋の中には複数のゾンビが居ることが先行しているレイスからの情報を得ている。
 ゼロが部屋の中を覗くと8体のゾンビが虚ろに歩き回っていた。

「この程度なら俺1人で十分だ。ゼロ達は通路の警戒に当たってくれ。念のためイリーナは入口から援護してくれ」

 ライズは部屋の中に踊り込み、無駄のない動きでゾンビを次々と倒していく。
 部屋の入口に陣取ったイリーナもライズを援護する。
 彼女の射た矢は一撃でゾンビの頭部を吹き飛ばす。
 2人の息の合った動きで部屋の中のゾンビは瞬く間に掃討された。
 その洗練された動きにゼロは感心する。

「流石ですね」
「まあな。この程度ならばわけないんだが。低級のモンスターでも数で押されるとな。前回も中に入ってみたら何十体ものゾンビがひしめき合ってたもんだから安全策を取って撤退したんだ」
「時に大胆に、時に慎重に、引くときには引く、冒険者として長生きするコツよ」

 ライズとイリーナは呆気に取られているセイラ達に教えるように話した。

 その後も各部屋のクリアリングはライズとイリーナが担い、通路で遭遇するゾンビはライズとゼロが殲滅しながら奥へと進んだ。
 極めて順調に事が進んでいく。

「解せません」
「やっぱりゼロも思うか?」

 前衛の2人は違和感を感じていた。
 先行するレイスからも特異な思念は送られてこない。
 遭遇するゾンビが少なすぎるのだ。
 中には100体を越すゾンビがいたはずだ。
 最初にゼロが倒したのが20から30体、その後、クリアリングしながら倒したのが20体程度。
 間もなく最深部に到達するのに全体の半分も倒していない。

「ヤバいんじゃないか?」
「そうですね。多分」

 その後もほぼ何事もなく最深部に到着した。
 最深部にある広間の扉は閉ざされていたが、異様な雰囲気を醸し出していた。
 ゼロが扉に手を掛けて中の様子を窺う。
 中にはアンデッド化したネクロマンサーが居るはずなので、安易にレイスを侵入させるわけにはいかない。

「これは、集まってますね、5、60体は居そうですね」
「どうする?突入するか?」
「それだとライズさんの言うとおり数で押し切られかねません」

 ゼロはセイラを見た。

「セイラさん、出番です」
「えっ?私ですか?」

 ゼロはニヤリと笑った。
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