職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

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生き残った者達

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新人冒険者のセイラは困惑していた。
 彼女の目の前にはニッコリと微笑むシーナが座っている。
 そして、2人の間のカウンターには7千レトが入れられた袋が置かれている。

「あの・・・これは」
「はい、依頼達成の報酬です」

 シーナは鍛え上げられた笑顔で差し出してくる。
 セイラはその金を受け取ってよいものか、困惑していたのだ。

「でも、私達は依頼を全うできませんでした。洞窟に入って早々に襲われてしまったので、あまり魔物を討伐できていません。あの洞窟の魔物を掃討したのはゼロさん?という冒険者の方です」
「はい、そのように伺っています」
「でしたら、報酬はゼロさんが受けとるべきでは・・・」
「いいえ、依頼を受けたのは貴女方のパーティーで、ゼロさんではありません。依頼の内容は洞窟内の魔物の掃討で、その手段については問われていません。それこそ、洞窟の入り口を封鎖して、中にいる魔物が餓死するのを時間を掛けて待とうが、誰かに手伝ってもらおうが自由です。ですので、今回も魔物が掃討された以上は依頼達成として報酬を受け取る権利があります」
「でも、それではあまりにも」
「実は、昨日ゼロさんにお会いした際に報酬について何割かを受け取りますか?って聞いてみました。双方が納得するならばそれでも構わないので」
「でしたら」
「そうしたら、私が受けたのは救出依頼だけなので、それ以外の報酬は受け取るつもりはありません。ですって」

 そして、シーナはセイラの前に金袋を押し出した。

「このお金は貴女方が受け取っていただかなければ困ります。依頼が達成された以上は依頼者に返還するわけにはいきません。かといってギルドも事務手数料等の経費以上の額を差し引くわけにはいきません」

 シーナの笑顔には拒絶することを許さない雰囲気が溢れ出していた。
 結局、セイラは押し切られるように報酬を受けとることとなった。

「それで、ゼロさんは?」
「ゼロさんならば、朝早くから依頼を受けて出掛けています。東の森の魔物分布の調査でしたか。何でも剣が折れてしまったそうで、新しい剣を手に入れるために休む暇はないそうです」

 シーナの言葉にセイラは思い出した。
 ゼロがセイラを助ける際に斧戦士に剣を折られたことを。

「ならば、このお金で弁済を」

 セイラの提案にシーナは首を横に振った。

「ゼロさんに言わせると、それらの損害は必要経費だそうです。因みに、今回のゼロさんの依頼で彼が被った損害は剣だけではありません」
「?」
「彼がアイリアさんに使った2種類の薬ですが、ここの薬屋で買える最高品質のもので、薬の代金だけでも貴女が受け取った報酬では全然足りません」

 シーナは悪戯っぽく笑った。
 セイラは気が遠くなる感覚を覚えた。
 そんなセイラを安心させるようにシーナは言葉を続けた。

「仮に貴女がゼロさんに経費の負担を申し出ても彼は間違いなく受け取りませんよ。ゼロさんは自分で受けた仕事にはどこまでも誠実な人ですから。逆にあの人を困らせてしまいます。ですので、次に会った時にでも口頭でお礼を伝えればいいのではないかと思いますよ」

 そう言われるとセイラは少し安心した。
 確かに、今のセイラは生活費も儘ならないほど困窮している。
 少しの蓄えはあるが、アイリアの治療費にも金がかかる。
 加えていえば、神官たるセイラ1人では受けられる依頼も皆無に等しいのだ。
 少額でも金が手に入るのは助かるのである。

 セイラはギルドを出るとアイリアが入院している治療院に向かった。
 今後のことを相談する必要があるのだ。
 アイリアもゼロに助けられ、順調に回復している。
 セイラとアイリアはこれからも冒険者として生きなければならないのだ。

 魔術師のレナ・ルファードは衛士の詰所に拘束されていた。
 ただ、その待遇は悪いものではなかった。
 冒険者を狙って襲い、金品を強奪していた一味の1人として捕縛されたが、彼女に関しては精神を支配されていたことが証明されたので処罰が決まるまで拘束しているだけなのだ。
 その処罰も決して重いものにはならないと説明されている。
 ただ、彼女は納得していない。
 自分が許せないのだ。
 支配の腕輪に抵抗出来なかったこと。
 支配下にあったとはいえ幾人もの冒険者を殺めたこと。
 その全てを鮮明に覚えていること。
 その全てが彼女の心を追い詰めた。

 レナは元来はフリーの冒険者だった。
 年齢は20歳、魔導学院を優秀な成績で卒業して冒険者になった。
 元来が寡黙で他人との接触を好まなかったため、決まったパーティーに所属せず、単独での依頼か、魔導師を求めるパーティーに臨時に入って依頼をこなしていた。
 それを斧戦士の3人組パーティーに付け込まれ、精神を支配されて利用された。
 支配される直前に最後の抵抗で、自分が陵辱されたなら自らの命を絶つ抵抗の魔法を掛けたため、純潔を守ることができた。
 しかし、なぜあの時に自分の純潔を守ることでなく、他人に危害を加えそうになったら命を絶つようにしなかったのかとひたすら後悔した。
 取り調べも終わり、明日にも処分が決まるだろう。
 おそらくは首都の魔導院での矯正教育になるだろう。
 これは人を殺めた魔導師に対しての処分としては無罪に等しい程の軽い処分だ。
 現に捕縛されたシーフは裁判の結果、鉱山での強制労働が決まっている。
 それに比べて彼女は裁判すら開かれていない。
 取り調べを受けて事務的に処分が決まり、後は告知を待つだけだ。
 レナは格子のはめられた窓から外を眺めた。
 昨日来たギルドの若い職員に
「助けてくれたネクロマンサーに会って礼を伝えたい」
と頼んだ。
 人付き合いが苦手なレナでも礼を伝えなければならないと思ったが、彼女はあのネクロマンサーに伝えてくれただろうか。
 彼女は

「伝えてみますが、彼の性格を考えると、叶わないかもしれません」

と困った顔で微笑んでいた。
 あの職員の言葉はどういう意味なのだろうか。
 犯罪に加担した者と話すつもりはないということか。
 それも仕方のないことだと思った。

 翌日、レナの処分が告知された。
 予測したとおり首都での1年間の矯正教育が決まり、直ちに首都へ移送されることになった。
 移送用の馬車に乗り込むときになってもあのネクロマンサーとの面会は叶わなかった。
 移送を見届けに来たギルド職員の女性は困った顔でレナに告げた。

「昨日の夜に戻ってきたゼロさんに伝えてみたのですが、お礼を言われる必要がない、だそうです」

 やはり、自分のような者とは話す価値がないということか。
 と思うレナの心を見透かしたようにギルド職員は笑った。

「そういうことじゃないんです。ゼロさんは仕事以外に興味が無いような人です。今日も朝早くから依頼を受けて行ってしまいました。たしか、東の街に出る亡霊の調査でしたか?亡霊が出るだけで、害が無いから報酬が安くて誰も引き受けてくれなかった依頼ですが、ネクロマンサーのゼロさんにはうってつけの依頼ですね」

 そう話す職員はどこか嬉しそうだった。

「ならば、貴女からゼロという人に伝えて下さい。必ず戻って来て借りを返しますと」

 レナの言葉にギルド職員は微笑みながら頷いた。
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