職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉

文字の大きさ
上 下
8 / 196

帰還

しおりを挟む
「さて、全て終わりました。もう安全です」

 レイスの代わりにウィル・オー・ザ・ウィスプを召喚して明かりを確保したゼロが洞窟内に向かって声を掛けると、洞窟の隅に佇む神官が姿を現した。
 ゼロと同じ年頃か、まだ若い神官だ。

「あの・・・」

 おそるおそる口を開いた神官はゼロと従うレイス達を見て怯えた表情を見せた。

「風の都市のギルドから貴女方の救出依頼を受けてきました。私は見ていたとおり死霊術師です。後ろにいるのは私のアンデッドで貴女に危害は加えませんので、くれぐれも浄化の祈り等は控えてください」

 ゼロの言葉に安心して力が抜けたのか、神官は膝をついた。

「助かりました。ありがとうございます」

 礼を述べる神官を尻目にゼロは倒れている魔術師の様子を窺う。
 こちらもゼロよりは年上に見えるがまだ若い。
 消耗が激しいのか、意識は無く深い眠りについているようだった。

「あの・・すみません、私のパーティーは?他の2人は?ライルさんとアイリアさんは?」

 神官の問いに振り返ったゼロは現実を告げた。

「レンジャーの女性は重傷ですが助けることができました。ただ、もう1人の剣士は間に合いませんでした」
「そんな・・・」

 途方に暮れる彼女を余所にゼロはスケルトンに倒れている魔術師を抱えさせた。
 更に折れた剣と斧戦士の認識票を回収すると立ち上がって斧戦士の死体をウィル・オー・ザ・ウィスプの火炎魔法で焼き払った。
 灰になるまで焼かないと野良アンデッドとして蠢き始める可能性があるからだ。
 死体が灰になったのを確認したゼロは洞窟の出口に向かって歩き始めた。

「すみませんが、悲しむのは後にして下さい。レンジャーの彼女を置いてきましたので直ぐに戻ります」

 ゼロの言葉に神官は頷いて立ち上がり、その後に続いて歩き始めた。

 洞窟を出口に向かって歩くゼロの後に続く神官はおそるおそるゼロに声を掛けた。

「あの、私はセイラ・スクルドと言います。シーグル教の神官です」
「私はゼロです。見たとおりのネクロマンサーですが、歴とした冒険者です。噂くらいは知っていますか?」
「・・・はい。噂では」
「それ以上は言わなくていいですよ。どうせろくな噂でもないでしょう」
「そんな・・いえ、はい」

 セイラは口をつぐんだ。
 そうこうしてる間に剣士の骸がある場所にたどり着く。
 そこには剣士と格闘家の死体と、精神が凍りついたシーフが倒れていた。

「・・・ヒッ!」

 仲間の死の現実を突きつけられたセイラは言葉を失う。
 その間にもゼロは剣士の認識票を回収するとセイラに手渡した。

「貴女が連れて帰ってあげて下さい」

 認識票を受け取ったセイラはそれをしっかりと握りしめ、剣士の骸の前で祈りの言葉を紡ぎ始めたが、その祈りに対してウィル・オー・ザ・ウィスプとスケルトンが不快感を示している。

「貴方達に向けられた祈りではありません。堪えなさい」

 ゼロは祈りを止めることはせずに、その間に格闘家の認識票を回収した。
 セイラの祈りを見届けたゼロはセイラに事情を説明し、剣士と格闘家の死体を焼き払い、その後、ゼロが魔術師を抱え、シーフはスケルトンが引き摺って再び歩き出し、レンジャーの待つ場所までたどり着いた。
 レンジャーはウィル・オー・ザ・ウィスプに守られ、洞窟の壁に背中を預けて座っている。

「アイリアさん!」

 レンジャーの姿を見たセイラは駆け出した。

「セイラ?・・無事だった?良かった」

 アイリアと呼ばれたレンジャーは声も絶え絶えだが、しっかりとセイラを見た。

「はい、危ない所をゼロさんに助けてもらいました」

 アイリアはゼロに目を向ける。

「ここに居るのが貴方達だけってことは、ライルは助からなかったのね」

 ゼロは頷き、セイラは剣士の認識票をアイリアに見せた。

「・・・そう。でも、セイラだけでも助かって良かった」

 そう言うとアイリアは意識を失った。

「アイリアさんっ!」

 セイラはゼロを振り返る。

「大丈夫、既に命の危険は越えました。意識を失っただけです」

 セイラは安心の表情を浮かべたが、ゼロは新たな問題に直面した。
 人手が足りないのだ。
 魔術師はゼロが抱え、シーフはスケルトンが引き摺っている。
 2体呼んでいるウィル・オー・ザ・ウィスプの1体を返して新たに別のスケルトンを呼べばアイリアを運ぶことは出来る。
 しかし、そのままスケルトンを連れて村や都市に帰る訳にはいかない。
 しかもアイリアは重傷だ、むやみに動かして体力の消耗は避けたい。

「どうしたものか」

 ゼロの呟きにセイラは状況を察した。

「私がギルドに戻って誰かを呼んできては?」

 それも手だが、そうすると、応援が来るのは早くても明日か、明後日。時間が掛かりすぎる。
 ゼロは思案するが、迅速で確実な方法が1つしか浮かばない。

「仕方ない」

 ゼロは諦めて記録用紙を取り出すと、事の次第を記し、更にウィル・オー・ザ・ウィスプを返してレイスを召喚した。

「頼みます」

 ゼロから手紙を預かったレイスは姿を消す。
 それを見届けたゼロはセイラに事情を説明し、夜営の準備を始める。


 その数刻後、風の都市の冒険者ギルドでは

「キャーッ!またゼロさんのお使いですかーっ!」

シーナの悲鳴が響き渡り、大混乱が生じていた。

 迅速な連絡が功を奏し、翌日には応援の冒険者が洞窟にたどり着いた。
 余談だが、応援が来るまでの一晩にゼロは洞窟に残っていた魔物を掃討していたのだが、結局は洞窟内低級の魔物しかおらず、セイラ達でもこのような事態に巻き込まれなければ依頼を達成できたであろう。

 応援の冒険者達の手を借りて洞窟の外に出ると、そこには馬車が待機していた。
 重傷のアイリア、昏睡状態のレナと呼ばれた魔術師、拘束したシーフの他に応援に駆けつけた冒険者とセイラが乗り込んだ。
 馬車に乗り込んだセイラが振り返ると、ゼロは馬車に背を向けて歩き始めている。

「ゼロさん、あの人は?」

 セイラが声を上げると、応援に来た冒険者の一人が

「やめてくれ、例え半日でもネクロマンサーなんかと一緒に旅はしたくねえ。奴もそれが分かっているから誰とも連まないんだ」
「そんなっ!」

 セイラは憤りを覚えたが、その時には既にゼロの姿は無かった。

 その日の夕刻前にはセイラ達は無事に風の都市に帰還した。
 アイリアはそのまま治療院に運ばれ、意識が戻らないレナとシーフの男は衛士隊の監視下でやはり治療院に運ばれて行った。
 セイラはギルドに呼び出され、報告を求められたため、事の詳細を有りのままに報告し、犠牲になった剣士、ライルの認識票をギルドに提出する。
 本日はここまでで、翌日に再び出頭するように指示されたセイラはアイリアの運ばれた治療院に向かった。

 セイラ達の帰還に遅れること数刻、ゼロがギルドに戻ったが、ゼロがギルドに入るや否や

「ゼロさん!あのような連絡は混乱を招きますから止めてください!」

シーナに叱られる羽目になった。

 その後、ギルドの応接室に招かれたゼロはギルド長とシーナに結果を報告し、斧戦士と格闘家の認識票を差し出す。

「なるほど。やはり冒険者による犯罪だったか」

 ギルド長はため息をつく。

「しかし、ゼロさんの報告のとおりなら、魔術師のレナ・ルファードさんの処遇はどうなるでしょう」

 シーナの声にギルド長は天井を仰ぎ見た。

「たしかに、以前の彼女は犯罪に手を染めるような感じは無かったからな。精神を支配されていたのか。その辺は本人の回復を待って聞いてみる必要があるな。他は死亡が2、捕縛が1か」

 更に細かい報告は明日にすることとし、ゼロの報酬の話になった。
 結果、今回のゼロの依頼は成功と判断され、報酬が支払われることになったのだが、ゼロは

「剣士を救えなかった」

と固辞したものの、最終的にはギルド長とシーナに押し切られて報酬を受け取ることになった。
 報酬を受け取ったゼロはギルド長とシーナに相談を持ちかけた。

「実は、今回の冒険で剣が折れてしまいまして。まあ、安物の使い古しの剣だからそれはいいのですが。どこかにいい鍛冶屋はありませんか?」

 相談を受けたギルド長は紹介状を認め、ゼロに手渡す。

「モースというドワーフが鍛冶屋を営んでいる。信頼がおける。相談してみるといい」

 ゼロは礼を述べてギルドを後にすると、その足で鍛冶屋に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...