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緊急依頼
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初めての依頼達成から3ヶ月が過ぎた。
その間、ゼロは地味な依頼を受ける毎日を過ごしていた。
日の出と共にギルドに現れ、他の冒険者が集まる前に依頼を受けて出発する。
ギルドの掲示板に新しい依頼が張り出されるのはギルドの通常業務開始後だから、ゼロが受けるのは前日から残っている割りの合わないものばかり。
中には更に前から張り出され、放置されていて、依頼者ですら半ば諦めかけていたものも含まれる。
残りものの依頼ともあれば報酬も安いものばかりだが、それでも
「誰かがやらなければならない仕事です」
と黙々と依頼をこなす日々を送っていた。
早い時間に仕事が終わればギルドに併設された飲み屋で軽く飲むこともあるが、何時も店の端の席で1人で飲む。
彼の周りの席に着く冒険者はいない。
故にゼロも気を使い、店が混みあっている時には立ち寄らない。
ゼロの周りには誰も居ないのも常だった。
それでも変わったこともある。
もともと能力とのバランスが取れていなかった冒険者の等級が上がったことだ。
今、ゼロの首に掛けられているのは青色の金属の認識票だ。
白等級から始まった等級も、茶色を経て今は青色で、これである程度は能力に見合った等級になった。
白から青に上がるための期間は通常であれば、数年を要する。
特に優秀な若者でも数ヶ月から1年弱はかかる。
それに比べれば異様に早い昇級である。
元々が能力とのバランスが取れていなかったのもあるが、他の冒険者がやらないような依頼を文句も言わずに黙々と受けていたことで貢献度が評価されての昇級だった。
ただ、ここからは他の冒険者と等しく長い期間をかけて昇級をしていくことになるだろう。
冒険者の等級は白級から始まって基本的には8等級に別れている。
下から
白と茶色が初級冒険者
青と紫が中級冒険者
銅と銀が上級者
金と白金が特級
となる。
銅以上になると王室からの依頼も受けられるようになる。
金や白金は英雄や勇者と呼ばれる存在だ。
基本的にはとあるが、別の等級が存在する。
紫から昇級する時に銅ではなく、他の色になる者が稀にいるのだ。
それは黒色等級。
人格を含めて文句なしの上級者だが、様々な理由で王族からの依頼を受けられない冒険者達がいる。
実はゼロも上級者になれたとしても黒色になることは避けられない。
即ち、職業や種族が理由である。
職業であれば、シーフや呪術師で、ネクロマンサーも含まれる。
種族であれば、ダークエルフや獣人族等である。
差別だと云われればその通りだが、王室の権威に係ることなので仕方ないのである。
だからこそ、英雄や勇者を目指すシーフ等の職業の者は頃合いを見て他の職業にクラスチェンジする者も少なくないのだ。
ただ、黒色等級になっても歴とした上級者として扱われ、その立場もギルドが保証する。
因みに、黒色になるとそれ以上の等級は無く、どんなに強くなろうが、困難な依頼をこなそうが、黒色のままである。
そんなある日の朝
「ゼロさん、お時間いただけますか?緊急のお願いがあるのです」
普段通りギルドに現れたゼロにシーナが声を掛けてきた。
彼女の横にはギルド長がおり、2人とも真剣な顔色だ。
ギルドの応接室に場を移すと、ゼロはギルド長から緊急の依頼について要請を受けた。
その依頼とは、ある新人冒険者パーティーの救出だった。
「実は、以前にゼロさんが地下水道で発見した冒険者の死体について捜査を進めた結果、冒険者を狙った殺人事件であり、他に行方不明になっている冒険者の情報を分析したところ、他にも同様の事件の疑いが強いものが数件ありました」
ゼロはシーナの説明を黙って聞いていた。
詳しく聞いてみれば、犠牲になった冒険者に共通するのは中級以下の冒険者で、単独か少人数のパーティーであること。
冒険の中で偶然にレアアイテムか、まとまった金を手に入れたばかりであることである。
その上で、捜査の結果、確証はないが、犯人である可能性がある冒険者パーティーが浮かび上がっていることだった。
「それで、緊急の救出の依頼とは?何か差し迫った事案でも発生しているのですね?」
ゼロの問いかけにギルド長が頷いた。
「実は、西の村にある洞窟の魔物退治を引き受けた3人組の新人パーティーがいるのだが、このパーティーは前回の依頼の際に加護の指輪といわれるレアなアイテムを偶然手に入れている。そのパーティーが今回の依頼を受け出発したのが昨日のことなのだが、それを追うように夜中にある中堅冒険者のパーティーが都市を出て西に向かったのだよ」
「その中堅パーティーが怪しいと?」
「確証はないが、今までに疑わしい行方不明事件が発生した時にそのパーティーは必ずと言っていいほど都市から姿を消している。他の冒険者には修行代わりに近くのダンジョン探索をしていたと話しているがね」
説明を聞いただけでも怪しい。
ギルド長の説明にシーナが続く。
「その冒険者は4人組の紫等級の人達ですが、あまり素行や評判が良くない人達なんです」
「パーティーの編成は?」
「斧を使う戦士がリーダーで、他に格闘家、シーフ、魔術師で、全員が紫等級です」
「狙われているパーティーは?」
「剣士、レンジャー、神官の3人で、剣士が茶、他の2人が白等級です」
「紫等級の冒険者4人相手に私1人では荷が重いと思いますが」
冷静に自己分析するゼロにギルド長は
「確かに君1人では荷が重いだろうが、現状で直ぐに後を追えるのが君しかいないんだ。今回の事件はまだ公にされておらず、捜査も衛士隊と信頼のおける銀等級のパーティーに依頼していたのだが」
「そのパーティーは現在王室からの依頼で不在なのです。他にこの事件を知っている冒険者はゼロさんだけなんです。無理なお願いなのは承知していますが、何とか引き受けてくれませんか?」
ゼロは頷いた。
「引き受けることはいいのですが、今から私が追って間に合いますかね?」
「多分大丈夫です。目的の洞窟がある村へは半日もかからずに辿り着きます。狙われている冒険者は新人ながら慎重なパーティーですから、昨日の昼に出発して、村には昨日の夜に到着、休息や情報収集をするでしょうから、洞窟に入るのは今日の朝以降の筈です。狙う側の冒険者も依頼失敗に見せかけるために事を起こすのは洞窟内でしょう、だとすれば今すぐに後を追えばギリギリ間に合うと思います」
「救出依頼とのことですが、対象の冒険者の捕縛も含まれますか?だとしたら難しいと思います」
「それに関しては、無理に捕縛しなくていい。抵抗するならば手段を選ばずに排除してもらっても構わない」
それを聞いたゼロの表情が変わった。
背筋が寒くなる程の冷徹な笑みを浮かべた。
「あと2つ確認があります。1つは、仮に私が間に合わなく、救出対象が既に殺されていた場合の措置はどうしますか?それから、依頼を受けるならば報酬の件です」
「君が間に合わなかった場合、疑惑の冒険者達が既に現場にいなかった場合はそのまま追跡などはせずに戻ってきてよいが、可能な限り情報を持ち帰って欲しい。ただ、君に危険が及んだ場合は実力をもって切り抜けてくれて構わない。報酬は、成功報酬で4万レト、仮に間に合わなくてそのまま撤退した場合には手間賃のみで3千レトでどうだろう?」
話を聞いたゼロは立ち上がり
「分かりました、引き受けます」
とだけ言い残して応接室から出ていった。
ゼロを見送ったギルド長はタバコに火を着けた。
「ギルド長、ゼロさん1人で大丈夫でしょうか?今からでも他の冒険者を手配して増援を出してみては?」
シーナの言葉にギルド長は首を振った。
「それは無理だ。この件は極秘事項だ。数少ない事情を知る者の中で直ぐに対応できるのが彼だけだ。それに、紫等級4人を相手にするとして、彼ならば1人で冒険者3人分の働きができる。残りの1人分は彼の努力に期待するしかあるまいな」
ギルド長は窓を開けて西の空を見ながら紫煙をくもらせた。
その間、ゼロは地味な依頼を受ける毎日を過ごしていた。
日の出と共にギルドに現れ、他の冒険者が集まる前に依頼を受けて出発する。
ギルドの掲示板に新しい依頼が張り出されるのはギルドの通常業務開始後だから、ゼロが受けるのは前日から残っている割りの合わないものばかり。
中には更に前から張り出され、放置されていて、依頼者ですら半ば諦めかけていたものも含まれる。
残りものの依頼ともあれば報酬も安いものばかりだが、それでも
「誰かがやらなければならない仕事です」
と黙々と依頼をこなす日々を送っていた。
早い時間に仕事が終わればギルドに併設された飲み屋で軽く飲むこともあるが、何時も店の端の席で1人で飲む。
彼の周りの席に着く冒険者はいない。
故にゼロも気を使い、店が混みあっている時には立ち寄らない。
ゼロの周りには誰も居ないのも常だった。
それでも変わったこともある。
もともと能力とのバランスが取れていなかった冒険者の等級が上がったことだ。
今、ゼロの首に掛けられているのは青色の金属の認識票だ。
白等級から始まった等級も、茶色を経て今は青色で、これである程度は能力に見合った等級になった。
白から青に上がるための期間は通常であれば、数年を要する。
特に優秀な若者でも数ヶ月から1年弱はかかる。
それに比べれば異様に早い昇級である。
元々が能力とのバランスが取れていなかったのもあるが、他の冒険者がやらないような依頼を文句も言わずに黙々と受けていたことで貢献度が評価されての昇級だった。
ただ、ここからは他の冒険者と等しく長い期間をかけて昇級をしていくことになるだろう。
冒険者の等級は白級から始まって基本的には8等級に別れている。
下から
白と茶色が初級冒険者
青と紫が中級冒険者
銅と銀が上級者
金と白金が特級
となる。
銅以上になると王室からの依頼も受けられるようになる。
金や白金は英雄や勇者と呼ばれる存在だ。
基本的にはとあるが、別の等級が存在する。
紫から昇級する時に銅ではなく、他の色になる者が稀にいるのだ。
それは黒色等級。
人格を含めて文句なしの上級者だが、様々な理由で王族からの依頼を受けられない冒険者達がいる。
実はゼロも上級者になれたとしても黒色になることは避けられない。
即ち、職業や種族が理由である。
職業であれば、シーフや呪術師で、ネクロマンサーも含まれる。
種族であれば、ダークエルフや獣人族等である。
差別だと云われればその通りだが、王室の権威に係ることなので仕方ないのである。
だからこそ、英雄や勇者を目指すシーフ等の職業の者は頃合いを見て他の職業にクラスチェンジする者も少なくないのだ。
ただ、黒色等級になっても歴とした上級者として扱われ、その立場もギルドが保証する。
因みに、黒色になるとそれ以上の等級は無く、どんなに強くなろうが、困難な依頼をこなそうが、黒色のままである。
そんなある日の朝
「ゼロさん、お時間いただけますか?緊急のお願いがあるのです」
普段通りギルドに現れたゼロにシーナが声を掛けてきた。
彼女の横にはギルド長がおり、2人とも真剣な顔色だ。
ギルドの応接室に場を移すと、ゼロはギルド長から緊急の依頼について要請を受けた。
その依頼とは、ある新人冒険者パーティーの救出だった。
「実は、以前にゼロさんが地下水道で発見した冒険者の死体について捜査を進めた結果、冒険者を狙った殺人事件であり、他に行方不明になっている冒険者の情報を分析したところ、他にも同様の事件の疑いが強いものが数件ありました」
ゼロはシーナの説明を黙って聞いていた。
詳しく聞いてみれば、犠牲になった冒険者に共通するのは中級以下の冒険者で、単独か少人数のパーティーであること。
冒険の中で偶然にレアアイテムか、まとまった金を手に入れたばかりであることである。
その上で、捜査の結果、確証はないが、犯人である可能性がある冒険者パーティーが浮かび上がっていることだった。
「それで、緊急の救出の依頼とは?何か差し迫った事案でも発生しているのですね?」
ゼロの問いかけにギルド長が頷いた。
「実は、西の村にある洞窟の魔物退治を引き受けた3人組の新人パーティーがいるのだが、このパーティーは前回の依頼の際に加護の指輪といわれるレアなアイテムを偶然手に入れている。そのパーティーが今回の依頼を受け出発したのが昨日のことなのだが、それを追うように夜中にある中堅冒険者のパーティーが都市を出て西に向かったのだよ」
「その中堅パーティーが怪しいと?」
「確証はないが、今までに疑わしい行方不明事件が発生した時にそのパーティーは必ずと言っていいほど都市から姿を消している。他の冒険者には修行代わりに近くのダンジョン探索をしていたと話しているがね」
説明を聞いただけでも怪しい。
ギルド長の説明にシーナが続く。
「その冒険者は4人組の紫等級の人達ですが、あまり素行や評判が良くない人達なんです」
「パーティーの編成は?」
「斧を使う戦士がリーダーで、他に格闘家、シーフ、魔術師で、全員が紫等級です」
「狙われているパーティーは?」
「剣士、レンジャー、神官の3人で、剣士が茶、他の2人が白等級です」
「紫等級の冒険者4人相手に私1人では荷が重いと思いますが」
冷静に自己分析するゼロにギルド長は
「確かに君1人では荷が重いだろうが、現状で直ぐに後を追えるのが君しかいないんだ。今回の事件はまだ公にされておらず、捜査も衛士隊と信頼のおける銀等級のパーティーに依頼していたのだが」
「そのパーティーは現在王室からの依頼で不在なのです。他にこの事件を知っている冒険者はゼロさんだけなんです。無理なお願いなのは承知していますが、何とか引き受けてくれませんか?」
ゼロは頷いた。
「引き受けることはいいのですが、今から私が追って間に合いますかね?」
「多分大丈夫です。目的の洞窟がある村へは半日もかからずに辿り着きます。狙われている冒険者は新人ながら慎重なパーティーですから、昨日の昼に出発して、村には昨日の夜に到着、休息や情報収集をするでしょうから、洞窟に入るのは今日の朝以降の筈です。狙う側の冒険者も依頼失敗に見せかけるために事を起こすのは洞窟内でしょう、だとすれば今すぐに後を追えばギリギリ間に合うと思います」
「救出依頼とのことですが、対象の冒険者の捕縛も含まれますか?だとしたら難しいと思います」
「それに関しては、無理に捕縛しなくていい。抵抗するならば手段を選ばずに排除してもらっても構わない」
それを聞いたゼロの表情が変わった。
背筋が寒くなる程の冷徹な笑みを浮かべた。
「あと2つ確認があります。1つは、仮に私が間に合わなく、救出対象が既に殺されていた場合の措置はどうしますか?それから、依頼を受けるならば報酬の件です」
「君が間に合わなかった場合、疑惑の冒険者達が既に現場にいなかった場合はそのまま追跡などはせずに戻ってきてよいが、可能な限り情報を持ち帰って欲しい。ただ、君に危険が及んだ場合は実力をもって切り抜けてくれて構わない。報酬は、成功報酬で4万レト、仮に間に合わなくてそのまま撤退した場合には手間賃のみで3千レトでどうだろう?」
話を聞いたゼロは立ち上がり
「分かりました、引き受けます」
とだけ言い残して応接室から出ていった。
ゼロを見送ったギルド長はタバコに火を着けた。
「ギルド長、ゼロさん1人で大丈夫でしょうか?今からでも他の冒険者を手配して増援を出してみては?」
シーナの言葉にギルド長は首を振った。
「それは無理だ。この件は極秘事項だ。数少ない事情を知る者の中で直ぐに対応できるのが彼だけだ。それに、紫等級4人を相手にするとして、彼ならば1人で冒険者3人分の働きができる。残りの1人分は彼の努力に期待するしかあるまいな」
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