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拠点確保と個人授業
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聞けば、ゼロの認識票に表示された職業を見た途端にどの宿も
「宿で死霊を呼ばれてはたまらない」
との理由で宿泊を断られたとのこと。
いくら
「そんなことはしない」
と説明しても聞き入れて貰えなかったらしい。
シーナは「だから言ったのに」の言葉を飲み込む。
「困りましたね。暫くの間ならばギルドの宿泊所を提供できますが、そう長い間は利用できませんし」
ギルド内には宿泊施設が備えられている。
これは他の都市から出張や研修で滞在する職員や、新人で宿泊費が捻出できない新人冒険者向けの施設であり、長い間の利用は問題がある。
「偏見とはいえ宿の方の心配も理解できますしね。暫くはギルドの部屋を使ってください。当然料金は頂きますよ」
「助かります。そこでもう一つお願いなのですが、この都市に腰を据えることを考えるならば住居は不可欠です。宿や賃貸の部屋は難しそうなので、どこかに空き家があればいっそのこと買い取りたいのです。人の住む地域から離れていればなお良いのですが。お金ならばある程度は纏まったものがあります」
「その方がいいかも、ですね。明日にでも関係機関に問い合わせてみます」
果たして、ゼロは冒険者として歩き出す前に衣食住の住居の確保をするはめになった。
なんとも現実は厳しいものだ。
しかし、目的の空き家は意外な程直ぐに見つかった。
都市の外れの森の中に住む者がいなく、役所が管理していて、もて余している空き家があるとのこと。
以前は老人がひっそりと暮らしていたが、その老人が亡くなって以来は役所が管理していたとのことだった。
取り敢えず下見に来てみると、件の空き家は森の中にひっそりと佇んでいた。
こんな森の中で1人で暮らしていたとは、その老人も余程の変わり者だったのだろう。
顔も声も思い出せない師匠を思いながら家の状態と周囲の環境を確認。
ここならばアンデッドを召喚しても苦情も来ないだろうし、死霊術の研究も気兼ねなく行えそうだ。
多少は修繕が必要だが、十分に住める。
師匠ならばアンデッドを召喚して家の修繕をさせてしまうだろうが、今のゼロにはそんな技量は無い。
ゼロはその空き家を買い取ることを決め、修繕はギルドを介して職人に依頼することとした。
諸々の手続きを終えて、一安心、と思ったら、依頼を受けた職人から修繕が終わるまで入居しないで欲しいとの要望が。
理由は聞くまでもなかった。
ゼロはまたギルドの施設に宿泊する羽目になった。
予想はしていたが、世間はネクロマンサーに厳しい。
さて、役人として職業差別はしないと決意しているシーナだが、ゼロが来てからその決意が揺らぎかけていた。
模擬戦闘でゼロが使役するアンデッド、スケルトンとレイスを目の当たりにして、やはり本能的に恐怖を感じてしまった。
ゼロも常にアンデッドを連れ回しているわけではない。
必要な時に召喚するだけであることも理解しているつもりだ。
しかし、スケルトンやレイスでも怖いのだが、アンデッドと言えばアレを使役することがあるかも知れない。
それを思うと、背筋が寒くなる。
「このままではいけません!私はネクロマンサーについて知識が無さすぎます。知らないがゆえの偏見は罪です」
と、ネクロマンサーについて学ぶことを決意した。
ギルドには膨大な資料が備えられ、ネクロマンサーも職業として認められている以上はその資料もあるはず。
仕事に対して忠実な彼女は休日を利用してギルドの資料を読もうと休日出勤。
さて、ギルドの資料室でネクロマンサーに関する資料を積み重ねたシーナは
「よし、気合いを入れて調べるぞ!」
と資料室で腕捲り。
そんな彼女の前を当のネクロマンサーが所在なげに彷徨いていた。
聞けば、折角手に入れた住居も修繕が終わるまでは近づくなと言われ、そんな状態では依頼を受ける訳にもいかずに資料室で時間を潰していたとのこと。
ならば、資料を読むよりも直接聞いた方が手っ取り早い。
そんな訳でネクロマンサーについて個人授業と相成った。
誤解されがちだが、ネクロマンサーの使役するアンデッドは墓地に埋まっていたり、その辺?に転がっている死体を使うわけではないとのことだ。
確かにそういった死体を使いアンデッドとして使役することも可能ではあるが、効率が悪いらしい。
主に、輪廻や冥界の門を潜れずに生と死の狭間を彷徨っている死霊を召喚しているとのことだった。
輪廻や冥界の門を潜れない死霊はその未練のためか、僅かに意識を保っているために魔力をもって使役することができる。
その死霊が顕現した姿がスケルトンやレイスなのである。
モンスターとしてダンジョン等を彷徨っているアンデッドを使役することも可能だが、彼らは意識を失い、本能のみにしたがって蠢いているため、使い勝手が悪いようだ。
また、明らかな意思を持つ上級のアンデッド、ヴァンパイアやリッチ等がいるが、彼らとは高度な契約を結んで使役する必要がある。
ゼロはそこまでの能力は未だなく、使役できるのは下級アンデッドを2~3体が限界。
つまり、先の模擬戦闘が今の彼の限界らしかった。
召喚したアンデッドは用がすめば冥界の狭間に帰るが、中には未練を無くしたり、術者の魔力の補助を受けて輪廻や冥界の門を潜る者も多いらしい。
また、術者に仕えることで格が上がり、より強い意識を持ち、更に上がれば上級アンデッドとして自我を得ることもあるようだ。
故に朧気ながら自ら望んで術者の支配下に入るらしい。
「成る程、いわゆるギブアンドテイクが成立しているのですね」
シーナの発言にゼロは頷く。
最後にシーナはゼロに核心の質問を投げ掛ける。
「あの、ゼロさんはどんなアンデッドを呼び出せるんですか?スケルトンやレイスは見たのですが、その、ゾンビとか・・・は?」
「ゾンビも使役できます」
シーナは顔をひきつらせた。
ゾンビを思い浮かべては得意の営業スマイルは維持できない。
今日は休日だ、だから良し。
「でも、ゾンビは動きが遅くて使い勝手が悪いのであまり使役しませんね。あの周囲に残る腐臭も、私は慣れはしましたが、周囲の人には迷惑でしょうし」
シーナは力強く頷いて、一安心。
「私が主に使役するのは物理戦闘にはスケルトン、魔法戦闘にはウィル・オー・ザ・ウィスプ、精神攻撃や偵察にレイスですね。他に下級吸血鬼も呼べますが、吸血鬼は私の今の能力では1体が限界ですし、下級吸血鬼は光に弱いのであまり召喚しません」
フムフムとシーナは頷きながら聞いていた。
更に聞くと、死霊術は師匠から学んだこと、剣技は師匠が使役していたスケルトンに、魔法や読み書きは同じく上級ヴァンパイアに教わったとのことだった。
「成る程、ゼロさんはかなり特殊な生活を送ってきたのですね」
納得するシーナにゼロは首を横に振った。
「私にとっては周りにアンデッドがいる環境は当たり前の日常だったのです。端から見れば特異なのは理解していますが。死霊術師は忌み嫌われる存在であることも師匠は教えてくれました」
「それでもネクロマンサーを選んだのは?」
「さて、他に道が無かったわけではありませんね。師匠は他に選択肢も与えてくれましたし。師匠の意思を継ぐも、師匠は姿を眩ませましたが、死んだわけでもないから違いますね。強いて言えば・・・死霊術師としての意地、ですか」
「意地?」
「例え忌み嫌われようと一度歩み始めた道は貫きたいという意地というか、プライドですかね」
シーナは理解した。
目の前にいる若者はどこまでも真っ直ぐで生真面目なんだと。
こういうタイプは苦労するだろうと。
ただ、僅かな時間だったが彼と話をしてネクロマンサーの本質の一端を知ることができたのは大きな収穫だった。
これで明日からまた仕事に集中できそうだ。
彼女もまた自らの仕事にはどこまでも誠実だった。
「宿で死霊を呼ばれてはたまらない」
との理由で宿泊を断られたとのこと。
いくら
「そんなことはしない」
と説明しても聞き入れて貰えなかったらしい。
シーナは「だから言ったのに」の言葉を飲み込む。
「困りましたね。暫くの間ならばギルドの宿泊所を提供できますが、そう長い間は利用できませんし」
ギルド内には宿泊施設が備えられている。
これは他の都市から出張や研修で滞在する職員や、新人で宿泊費が捻出できない新人冒険者向けの施設であり、長い間の利用は問題がある。
「偏見とはいえ宿の方の心配も理解できますしね。暫くはギルドの部屋を使ってください。当然料金は頂きますよ」
「助かります。そこでもう一つお願いなのですが、この都市に腰を据えることを考えるならば住居は不可欠です。宿や賃貸の部屋は難しそうなので、どこかに空き家があればいっそのこと買い取りたいのです。人の住む地域から離れていればなお良いのですが。お金ならばある程度は纏まったものがあります」
「その方がいいかも、ですね。明日にでも関係機関に問い合わせてみます」
果たして、ゼロは冒険者として歩き出す前に衣食住の住居の確保をするはめになった。
なんとも現実は厳しいものだ。
しかし、目的の空き家は意外な程直ぐに見つかった。
都市の外れの森の中に住む者がいなく、役所が管理していて、もて余している空き家があるとのこと。
以前は老人がひっそりと暮らしていたが、その老人が亡くなって以来は役所が管理していたとのことだった。
取り敢えず下見に来てみると、件の空き家は森の中にひっそりと佇んでいた。
こんな森の中で1人で暮らしていたとは、その老人も余程の変わり者だったのだろう。
顔も声も思い出せない師匠を思いながら家の状態と周囲の環境を確認。
ここならばアンデッドを召喚しても苦情も来ないだろうし、死霊術の研究も気兼ねなく行えそうだ。
多少は修繕が必要だが、十分に住める。
師匠ならばアンデッドを召喚して家の修繕をさせてしまうだろうが、今のゼロにはそんな技量は無い。
ゼロはその空き家を買い取ることを決め、修繕はギルドを介して職人に依頼することとした。
諸々の手続きを終えて、一安心、と思ったら、依頼を受けた職人から修繕が終わるまで入居しないで欲しいとの要望が。
理由は聞くまでもなかった。
ゼロはまたギルドの施設に宿泊する羽目になった。
予想はしていたが、世間はネクロマンサーに厳しい。
さて、役人として職業差別はしないと決意しているシーナだが、ゼロが来てからその決意が揺らぎかけていた。
模擬戦闘でゼロが使役するアンデッド、スケルトンとレイスを目の当たりにして、やはり本能的に恐怖を感じてしまった。
ゼロも常にアンデッドを連れ回しているわけではない。
必要な時に召喚するだけであることも理解しているつもりだ。
しかし、スケルトンやレイスでも怖いのだが、アンデッドと言えばアレを使役することがあるかも知れない。
それを思うと、背筋が寒くなる。
「このままではいけません!私はネクロマンサーについて知識が無さすぎます。知らないがゆえの偏見は罪です」
と、ネクロマンサーについて学ぶことを決意した。
ギルドには膨大な資料が備えられ、ネクロマンサーも職業として認められている以上はその資料もあるはず。
仕事に対して忠実な彼女は休日を利用してギルドの資料を読もうと休日出勤。
さて、ギルドの資料室でネクロマンサーに関する資料を積み重ねたシーナは
「よし、気合いを入れて調べるぞ!」
と資料室で腕捲り。
そんな彼女の前を当のネクロマンサーが所在なげに彷徨いていた。
聞けば、折角手に入れた住居も修繕が終わるまでは近づくなと言われ、そんな状態では依頼を受ける訳にもいかずに資料室で時間を潰していたとのこと。
ならば、資料を読むよりも直接聞いた方が手っ取り早い。
そんな訳でネクロマンサーについて個人授業と相成った。
誤解されがちだが、ネクロマンサーの使役するアンデッドは墓地に埋まっていたり、その辺?に転がっている死体を使うわけではないとのことだ。
確かにそういった死体を使いアンデッドとして使役することも可能ではあるが、効率が悪いらしい。
主に、輪廻や冥界の門を潜れずに生と死の狭間を彷徨っている死霊を召喚しているとのことだった。
輪廻や冥界の門を潜れない死霊はその未練のためか、僅かに意識を保っているために魔力をもって使役することができる。
その死霊が顕現した姿がスケルトンやレイスなのである。
モンスターとしてダンジョン等を彷徨っているアンデッドを使役することも可能だが、彼らは意識を失い、本能のみにしたがって蠢いているため、使い勝手が悪いようだ。
また、明らかな意思を持つ上級のアンデッド、ヴァンパイアやリッチ等がいるが、彼らとは高度な契約を結んで使役する必要がある。
ゼロはそこまでの能力は未だなく、使役できるのは下級アンデッドを2~3体が限界。
つまり、先の模擬戦闘が今の彼の限界らしかった。
召喚したアンデッドは用がすめば冥界の狭間に帰るが、中には未練を無くしたり、術者の魔力の補助を受けて輪廻や冥界の門を潜る者も多いらしい。
また、術者に仕えることで格が上がり、より強い意識を持ち、更に上がれば上級アンデッドとして自我を得ることもあるようだ。
故に朧気ながら自ら望んで術者の支配下に入るらしい。
「成る程、いわゆるギブアンドテイクが成立しているのですね」
シーナの発言にゼロは頷く。
最後にシーナはゼロに核心の質問を投げ掛ける。
「あの、ゼロさんはどんなアンデッドを呼び出せるんですか?スケルトンやレイスは見たのですが、その、ゾンビとか・・・は?」
「ゾンビも使役できます」
シーナは顔をひきつらせた。
ゾンビを思い浮かべては得意の営業スマイルは維持できない。
今日は休日だ、だから良し。
「でも、ゾンビは動きが遅くて使い勝手が悪いのであまり使役しませんね。あの周囲に残る腐臭も、私は慣れはしましたが、周囲の人には迷惑でしょうし」
シーナは力強く頷いて、一安心。
「私が主に使役するのは物理戦闘にはスケルトン、魔法戦闘にはウィル・オー・ザ・ウィスプ、精神攻撃や偵察にレイスですね。他に下級吸血鬼も呼べますが、吸血鬼は私の今の能力では1体が限界ですし、下級吸血鬼は光に弱いのであまり召喚しません」
フムフムとシーナは頷きながら聞いていた。
更に聞くと、死霊術は師匠から学んだこと、剣技は師匠が使役していたスケルトンに、魔法や読み書きは同じく上級ヴァンパイアに教わったとのことだった。
「成る程、ゼロさんはかなり特殊な生活を送ってきたのですね」
納得するシーナにゼロは首を横に振った。
「私にとっては周りにアンデッドがいる環境は当たり前の日常だったのです。端から見れば特異なのは理解していますが。死霊術師は忌み嫌われる存在であることも師匠は教えてくれました」
「それでもネクロマンサーを選んだのは?」
「さて、他に道が無かったわけではありませんね。師匠は他に選択肢も与えてくれましたし。師匠の意思を継ぐも、師匠は姿を眩ませましたが、死んだわけでもないから違いますね。強いて言えば・・・死霊術師としての意地、ですか」
「意地?」
「例え忌み嫌われようと一度歩み始めた道は貫きたいという意地というか、プライドですかね」
シーナは理解した。
目の前にいる若者はどこまでも真っ直ぐで生真面目なんだと。
こういうタイプは苦労するだろうと。
ただ、僅かな時間だったが彼と話をしてネクロマンサーの本質の一端を知ることができたのは大きな収穫だった。
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