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人ナラ猿モノ

第五話 赤い弾丸とプリン

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「オモシレェじゃん?気に入ったぜ。」

 ガラスが床に当たって鳴る破砕音をバックミュージックに、赤髪赤眼の少女はそう歌った。

「こいつは俺の班に入れるぜ!異論は認めねぇ!」

 その女の子が僕の肩に手を回して呼びかける・・・あそこから喋っていたのか・・・マジックミラーになっていたのだろう、こちらからは見えていなかった・・・この子が粉砕するまで。ていうかそれ以前に、あそこまでビルの三階くらいの高さがあるぞ?

 今自分の真横で笑っている少女はこの高さを軽々と飛び降りた。突風でガラスの破片を吹き飛ばしながら。

 これが魔法。

 思えば人猿の改造に白神さんの夢と、魔法なのだけれど魔法とは実感しにくいモノだけ目の当たりにしてきた。ここまで人間離れした身体能力と特殊能力を得られるものなのか。

「本当に現実なんだな。」

 ここまで見せられれば疑いようがない。魔法は存在する。僕はその世界に足を完全に踏み入れた。

 自分の、いや借り物の手の平を見て「自分もあんな魔法が使えるのだろうか?使えるようになったら別の意味でさらに人間離れするな・・・」と考えていると「赤髪俺っ子」が真紅のポニーテールを揺らして、僕の顔をひょっこりとのぞき込んで来た。

「不安そうな顔をしているな。俺の部下になれるんだ。もっと喜べ。森羅万象全ての神に泣いて土下座して感謝しても有り余る幸せだぞ?」

「・・・・・・」

 んな無茶苦茶な・・・ていうかあんた誰?明らかに僕の方が年上だと思うのだけれど・・・・・・

「そんな顔はやめてポジティブに考えようぜ?自分より五歳も年下の女の子にこき使って貰えるんだから、万々歳だろ?」

「僕はロリコンじゃない!ていうか、あんたの言葉で僕の心は暗い底へとさらによ!」

「あぁん?・・・言葉遊びで皮肉るんじゃねえよバーカ。沈んだんならまた浮けばいいじゃねえか。ほら・・・あの青い石とか使ってさ。」

「すいません。飛◯石なんて持ってません。」

「俺が監視室から飛び降りてきたんだからシー◯で、下にいたお前はパ◯ーな?」

「親方、空から女の子が!・・・・・・じゃねえよ。何やらせてくれんだこら。」

 僕にノリツッコミさせるなんて、この女の子・・・只者ではないな。

「ん?ああ、自己紹介もしていなかったな。俺の名前は鬼打千華!好きなことは面白い物で嫌いなことはつまらない物だ!」

「好きなことは面白い物で嫌いなことはつまらない物って・・・それ、日本語おかしくありません?『頭痛が痛い』とか『違和感を感じる』、とかと同じ匂いがしますよ?」

「そうかもな!でも、つまらないことを好きだって言ったり、面白いことを嫌いだって言う天邪鬼よりはマシだろ?」

「そうですね。でも、あなたほどざっくばらんな人もどうかと思いますよ、僕は。」

 それもそうだ、と両腕を組んで胸を張り、快活に笑うスーツ姿の少女・・・・・・なんだ?この痛い子?

 そんな感じで、女の子からの一方的なやりとりを受けていると、いきなりその少女の体が宙に浮いた。

 え?本当に飛◯石か!?

「うおっ!・・・・・・守塚か。なんだよ?俺達はまだまだ◯ピュタについて話し合わなくちゃいけないんだよ。」

 ・・・いや、ないです。

「ジブ◯について話してる場合かアホ。」

 鬼打さんを片手で軽々と持ち上げた大男が冷静に突っ込んだ。

「ちなみに、俺はジブ◯の中でナウシ◯が一番好きだ。」

 ・・・・・・撤回しよう。冷静ではなかった。

「・・・・・・二人してそんな目で俺を見るんじゃない。話を始めたのはお前らだろうが・・・まあいい。勝手しすぎだ。お前がルールを破ると部下に示しがつかんだろう?」

 がたいのいい、白髪の多く混じった青髪を持つ男だった。浅黒い肌と切れ長の目が彼の威厳をさらに助長する。
 守塚と言う名前らしい。彼女のスーツの襟を掴んで持ち上げていた・・・この人もあの高さを飛び降りてきたのか?

「えぇーーー・・・だって先手打たないと誰かにとられちゃいそうだったし・・・守塚も佐竹もこいつを自分のところに引き入れるかどうか迷ってたろー?俺が最初に触ったんだから俺のモノだ。早い者勝ちだ。」

 ガキ大将かあんたは。

「むう・・・ガラスを壊すのは反則だ。」

 早い者勝ちなのは認めるのね?

「いいじゃんあれくらい。」


「よくありません。」


 今度はこの二人とは比べようもないくらい普通の女性だった。髪も目もカラフルな色はついていない。普通の黒髪に暗い目、普通の身長・・・強いて言うなら胸が大きい。

「あれ、魔物用に耐久性をかなり高くした特注品なんですよ。ちゃんと弁償してくださいね?ていうかあなたの身勝手で私達の仕事を増やさないでください。」

「・・・・・・ラジャー」

 「赤髪俺っ子」が渋々うなずく。

「とりあえず、彼の話を参考に人猿捜索の方針を話し合いましょう。彼の待遇も含めて・・・」

 どうやら彼女はクラスの委員長的ポジションらしい。

「君!」

「・・・・・・ん?僕ですか?」

 いきなり委員長が話しかけてくる。

「君の説明だと、人猿は君を観察するために動いているのよね?」

「はい。」

「じゃあ人猿は次いつ行動を開始するの?あなたを観察していればもう被害は出さないの?」

「それは・・・」

 あの猿のことだ。僕が今までのような平凡な一般人として生活する・・・すなわち、やつの見たい「人間の強さ」を僕が持ち得なかった場合、持とうとする意思が無かった場合、飽きて僕を殺すか放置するだろう。そして・・・

「奴が僕に価値を見出し続けている限り、被害は全く出ないでしょう。けれど、僕が奴を恐れて引きこもったり一般人として普通に生活していた場合、『観察する意味無し』として、新たな『白神孝士郎』を作ろうとするでしょう。すなわち・・・」

「また今回の悲劇が繰り返される・・・か。」

 僕はその言葉に頷く。

 それだけは避けなければならない・・・絶対に。

「とりあえず今の厳戒態勢は解除できるかも・・・よし!やること決まった!今日の聴取は終わり!会議は明日!夜も遅い!早く寝たい!ほらほら皆さん帰りますよ!」

 そう言うと後ろでつまらなそうにしていた赤と青の二人を、飛び降りてきた場所ではなくちゃんと地面に足が着いた出入り口の方にぎゅうぎゅう押し込んで行く。

 外から部下の人が開けたのだろう。鍵が掛(かか)っていた扉がいつの間にか開いている・・・・・・赤と青の二人を外に追い出すと、何故か彼女だけこちらに戻って来た。

「・・・なにか?」

 今日の聴取は終わったと聞いたけれど。

「なにって・・・君、この部屋に寝るつもり?」

「・・・・・・」

 だだっ広い割にガラスが散乱し、飲み水も無く、トイレも無かった。一応ここに運ばれてきたとき一緒に設置された白いベッドは無事だ。

1LBワンエルビーだな。ワンルームベッド・・・あれ?Bってバスルームの略に使われてたっけ?まあいいや・・・明日の朝までならトイレ的な意味で大丈夫ですよ。」

「正気の沙汰じゃ無いでしょう・・・ちょっと待ってて。」

 委員長が僕をジト目で見ながら電話をかける。

「・・・あ、冷子れいこ?夜遅くにごめんね。ちょっとお願いがあってさ・・・」

  でも僕を寝させてくれる部屋なんて見つかるのか?僕に敵性があるかどうか見なきゃいけないんじゃなかったのか?

「・・・・・・ん?」

 二人が追い出された扉から今度はお婆さんが入ってきた。彼女だけ他の三人と違ってスーツではなく白衣を着ている。ニコニコと微笑を顔に浮かべながらこちらに近づいてくる・・・・・・なんか怖い。

「吐き気や痛みは無いのかい?」

 お婆ちゃんが僕に向かって言った。

「え?あぁ・・・ないですね。」

「ふぅん・・・ちょっと触診させてもらっていいかい?」

「どうぞ・・・」

 てっきり、改造された頭や心臓のあたりを調べるのかと思っていたが、なぜか僕の手の平をぐにぐにと押すお婆さん・・・マッサージみたいだ。

「うーん・・・身体にほとんど異常は無いみたいだねえ・・・二日前に脳と心臓が移植されたばかりなのに・・・うん?手術痕?・・・・・・その傷もつながっている・・・糸も残っていない?・・・こんな移植手術、外科手術でやったとは思えないけれど・・・」

「・・・・・・」

 手の平だけでそんなことまで分かるの?このお婆さんすげえ・・・

「問題がなさ過ぎて逆に異常だねえ・・・まあ一応安静にしとけって感じかしら?ちゃんとした検査は明日にしましょう。」

「わかりましたお婆ちゃん。」

「あら。私ここじゃけっこう偉くなっちゃって、お婆ちゃんなんて呼ばれることないから新鮮な感じがするわ。これからもそう呼んでね。」

 お婆ちゃんがにっこりと微笑んで言う。

「うん。わかったよお婆ちゃん。これからよろしくね。」

「おほほほほ・・・・・・」

 なるほど、ずいぶん陽気な人だ・・・・・・ん?電話を終えた委員長が「うわあ・・・」とでも言いそうな、複雑な表情でこちらを見ている。

「あなたもそう呼んでくれてかまわないわよ?」

「・・・遠慮させていただきます。」

 委員長がげんなりとその提案を断る。

「あなたには病院の個室に寝てもらいます。あなたの待遇が決まるまでその中にいてもらう・・・ついてきて。そこまで案内する。」

「はい。わかりました委員長。」

「・・・・・・委員長?」

「何でもないです。口が滑りました。」

 しばらくは監禁生活か・・・しょうがないね。

 お婆ちゃんに手を振って別れを告げ、監房を出た。








 十二月二十八日、魔法使協会提携の病院、患者病棟より

「・・・・・・寝過ぎた。」

 窓の外を見るとすでに太陽が空高く昇っていた。壁に掛った時計の針が十一時三十二分を示している。

「そういえば、夢を見なかったな。」

 どうせ白神さんに会うことになるだろうと思って何を話すか考えておいたのに・・・
 赤髪俺ッ子と青髪のダンディーと巨乳委員長と陽気なお婆ちゃんのこととか・・・ん?
 ベッドから降りて洗面所で顔を洗おうとすると、寝る前には無かったモノが扉の近くにおいてあった。

「僕のキャリーバッグ・・・持ってきてくれたのか。何入れてたっけ?」

 中身を確認しようとすると、側面に一枚の付箋紙が貼ってあった。

「現場に残っていたあなたの持ち物をお返しします。疲れがたまっているようなので検査は午後に回しておきます。12時に平原冷子(ひらばら れいこ)っていう医者が食事を届けに行くから彼女にいろいろ聞いてね。       
鈴城美涼より」

 さすが委員長。欠席したクラスメイトへの対応もバッチリだ。

「・・・・・・ん?」

 メモの裏にまだ何か書いてある。

「P.S.
 君への接触は担当医の平原冷子しか許されてないから、くれぐれもドアを開けないように。外に警備員がいるけど一応ね・・・

特に赤い子供に注意。」


「・・・・・・」

 どうしよう。「赤い子供」にかなり心当たりがある。あり過ぎて困っちゃうぐらいある・・・・・・そして、これからどんな展開になるのか、予測が簡単についてしまった。

 ・・・・・・とりあえず顔を洗うことにしよう。立てちゃいけないフラグが立った気がするけれど。

 備え付けの歯ブラシで歯を磨く・・・口をゆすぐ・・・ペッ


バキンッ


「・・・・・・」

 何かが壊れたような音がする。水で顔を洗い流し、タオルで拭いて洗面所から顔を出して扉の方を覗き込む。

「・・・こんにちは。」

「おう。見舞いにきたぜ。」

 案の定、赤い子供・・・鬼打千華が笑顔でそこに立っていた。中くらいのビニール袋をひっさげている。

「警備員の人はどうしたんですか?」

「ん?あー・・・プリンをあげたら快く入室を許可してくれたぜ。」

 そう言って病室の奥まで進行して来た。いやどゆこと?プリンで警備員を買収したって・・・さっきの音、鍵を壊した音だよな?許可をもらって入ったならその行程は必要ないと思うんだが・・・

「さっきまで会議だったんだよなー・・・終わったついでに見舞いに来た。」

 疲れているのか、置いてあったパイプ椅子に倒れ込むように座る鬼打さん。

「お疲れのようですね?寝てないんですか?」

 彼女の目の下に大きな隈(くま)があった。口調も昨日より元気が無い。昨日が元気過ぎたようにも思えるが。

「ん-・・・昨日の夜は、お前をうちに入れられるよう色々根回ししてたからなあ・・・その前も人猿の所為で寝てないっつうのに・・・」

「・・・・・・」

 思いっきり不正をしたことを暴露したぞこの人・・・まあ協会の職員になる僕の希望は通ったみたいだから良しとしよう。
 しかし・・・僕を仲間に引き入れられるかどうかを、不正までして強引に解決するなんて・・・・・・この人にとって、壁は壊して通り抜けるものなのだろう。迂回するものじゃない。直進しかしない。弾丸みたいな人だ。

「あ、これ見舞い品な。ちゃんと全部喰えよ?喰い切れなかったら罰ゲームな?」

「ああ・・・不穏な言葉が聞こえましたけど、取り敢えず、ありがとうございます。」

 僕一人の見舞い品にしては大きい袋だ。何が入っているんだろう?


 えーと・・・カラメルプリンに牛乳プリンにコーヒー風味プリンにメロンプリンにアボカドプリンにインゲンプリンに・・・


「え?プリン多っ。」

「残念。プリンしかねえぞ。十個、いや、一個警備員にやったから九個か。安心しろ、ちゃんと一つ一つ違うやつにしてある。」

「本当にプリンで警備員を買収出来たんですか?ていうか何その無駄な気配り・・・よく十種類も集められましたね。」

 

「ああ。俺に集められねえプリンはねえ・・・」

 寝不足な癖にどこを頑張っているんだこの人・・・九個もどうやって消費しよう?

 ・・・・・・インゲンプリンなんてどこに売っていたんだ?

「・・・ありがとうございます。早速、昼食の時に食べさせていただきます。」

「昼食?いつだ?」

「十二時です。」

「げ!?もうすぐじゃねえか!また来るぜ!」

 そう言って窓に駆け寄って勢いよく開き、よじ登って飛び降りた・・・

「ここ確か六階だったよな?」

 一応窓から身を乗り出して下を覗き込んでみるが、地上に女の子の落下死体は無かった。


 コンコンコン・・・ガラガラ・・・


「失礼するよ・・・担当医の平原冷子という者だが・・・早速で悪いが、一つ聞いていいかい?」

 鬼打さんが出て行った直後に、黒縁眼鏡を掛けた、大人っぽいクールな女医が昼食の乗ったワゴンを押して入ってきた。

「病室の外でプリンまみれになって気絶している警備員はなに?」

「・・・・・・」

 あの人・・・本当にプリンで道を譲ってもらったのね・・・

「赤い弾丸のせいですね。」

「赤い弾丸?・・・鬼打さんか。元気だね、あの人は。」

 おそらく平原さんは「赤い」というワードだけで鬼打さんを連想したのだろう。あの人、周りからの認識が「手のかかる問題児」じゃないか?一応かなり偉い役職のはずだが・・・あんな小さな見た目でも。

「その大量のプリンは?」

「赤い弾丸の置き土産ですね。」

「なるほど。」

「「・・・・・・」」

 なんか気まずいな・・・そうだ!

「プリン、一つ食べます?」

「・・・・・・あんたも変わってるね。鬼打さんが執着するわけだ。」







 
 ・・・二十一時二十分、長い検査も終わり夕食を食べ終え、頼まれていた人猿の外見や特徴の記述も終わってしまった。やることも無くてキャリーバッグの中に入れてあった本を読んでいると、鈴城さんが病室を訪ねて来た。

「平原さん以外は許可されていないんじゃなかったでしたっけ?」

「ちゃんと許可は取りました。揚げ足を取ろうとしないでください。」

 こちらへの配慮など一切無い、冷たい口調でそう返された。この人いつもイライラしてない?冗談が通じないんだけれど・・・彼女によると、僕の協会への加入が決定、明日には鬼打さんの災害級危険事物処理班に配属されるらしい。

「えっと・・・・・・早くないですか?僕、一応脳と心臓を移植されたばかりですよ?」

 一週間ぐらいは監禁・・・検査入院かと思っていた。

「佐竹課長も冷子も『異常がなさ過ぎて異常だ』っていう診断結果を出したから、健康面で支障が出ることは無いと思うよ。だとしても早すぎるのはね・・・」

 鈴城さんが鍵の壊れたドアに視線を投げかける。

「君がここにいると備品の修理代が凄いことになりそうだったからね・・・私が提案したんだ。明日退院でもいいですよ・・・って。」

 鈴城さんが暗い目をして嘆く。さすが赤い弾丸。意図せずに人の心を折るとは・・・

 後から聞いた話だが、プリンを届けに来る前、鬼打さんは自分の犯行を隠蔽するために病院の監視カメラを数台壊していたそうだ。マジックミラーの件から学習したらしい。犯行を認めず弁償してくれないから、修繕費は関東支部持ちになったらしい・・・酷い話だ。

「まあ、そんな感じかな。朝の八時には迎えが来ると思う。夜更かししないでね。」

「了解です・・・ちょっと頼み事があるんですけどいいですか?」

「なに?」

 キャリーバッグから二つの荷物を取り出して鈴城さんに見せる。

「本と・・・時計?」

「ええ。本は大学の友人・・・田代和哉(たしろ かずや)っていうんですけど、そいつから借りています。時計はクリスマスプレゼントに妹に送る予定だったモノです・・・もう過ぎちゃいましたけど。」

 検査の時、平原さんからこれからの生活について説明を受けた。
 分かっていたことだがもう家族や友達には会えないらしい。僕の消失は事故か何かとして一般には伝えられる。魔法が公には隠されている以上しょうがないことだ・・・この体で彼らに会うことは魔法を暴露することにつながる。

 僕の見た目は、本庄かなえにしか見えないのだから。

 ただ、借りたモノを返さないのもせっかく買ったプレゼントが無駄になるのも、なんとなく嫌だった。

「分かった・・・君が生きていることは悟られないように届けておく。」

 承諾してくれたため、安心してそれらを渡そうとしたが・・・・・・なぜか鈴城さんが顔を顰めてこちらを睨んでいた。

「・・・どうしたんですか?」

 彼女が相変わらずの、つっけんどんな口調で告げた。


「君・・・悲しんでないよね?この状況を。もうその友達にも、家族にも会えないっていうのに・・・何も感じていない。」


「・・・・・・」

 なんだ?態度に出ていたか?いや、と思うのだが。

「人猿の被害を最小限で食い止められなかったのは私達のせいよ。私達の対応が悪かったせい。私達の力不足で、五十人もの被害者を出してしまった・・・・・・不甲斐ないと思っているわ。何をしても償えきれない迷惑を、あなたを含め被害者とその家族にかけてしまった・・・だからここに来るとき、土下座してでも君にそのことを謝ろうと思っていたんだけど・・・なんで・・・」

 心底嫌そうに、気持ち悪そうに言う。

「なんで、怒りも悲しみも感じていないの?あなた本当に人間?」

「・・・・・・」

 その目・・・まるで化け物でも見ているかのような目。
 僕が今まで数え切れないほど見てきた・・・飽きるほど、腐るほど見てきた目。


 気味が悪い、気持ち悪い、怖い、嫌い、一緒にいたくない、近寄るな・・・・・・


 


 僕がコンプレックスを持つぐらいには十分なほど、幼い頃からずっと言われてきた罵詈雑言。
 子供のときはどうだったか知らないが、今やもう、自分に降りかかる悪意になにも感じなくなってしまった・・・これも人間らしくないのだろうか。
 
 人の悪意で心が折れるなんてこと、僕には経験が無い。

 何故、権藤さんや本庄さんではなく、僕が生き残ってしまったんだ・・・・・・絶対に、こんな非人間が生き残るべきでは無かった・・・僕もそう思う。

 家族や友達にもう会えない・・・今までの生活に戻れない・・・それを「しょうがない」で片付けられてしまう僕は人間として壊れている。おかしい。狂っている。


 彼女の言葉は否定出来ない・・・紛れもない事実だから。


「そうですね。僕は人間ではないかもしれません。」

「・・・・・・」

 僕の言葉に、無言で一歩遠ざかる鈴城さん。どうやら、完全に嫌われてしまったようだ。

「その二つは、あなたの友達と妹さんのために届けるわ・・・あなたのためじゃなく。」

 荷物を僕からひったくると、早歩きで出口へと向かう。


「なぜ僕の感情が読めたんです?」


 ドアの取っ手にかけた手がピタリと止まる。


「・・・・・・私の魔法は、『相手の感じている感情が色で認識出来る』もの。あなた・・・」



 こちらに一瞥もくれず吐き捨てる。


「最後まで透明だったわ。」


 ドアを勢いよく閉めて彼女は去った。










 十時十二分、消灯して寝ることにする。明日は早いようだし・・・
 今日は白神さんに会ったら何話そうかな・・・僕はどんな魔法を使うことになるんだろう・・・プリンどうしよう・・・残り四個・・・
 自分の昼食と夕食に一個ずつ、平原さんに一個、検査を手伝ってくれた看護師さん二人に一個ずつ食べて貰った。残り四個・・・明日退院なら、鬼打さんに会う前に食べ切ることは出来なさそうだ。

 くだらないことを考えているとうとうとしてきた・・・

 明日も大変そうだなあ・・・


 カラカラカラカラ・・・


「・・・・・・え?」

 窓が開いた音がする。鍵閉めてなかったっけ?ていうか、何回も言うけどここ、地上六階だよな?・・・・・・なのに忍び込んでこれるってことは、鬼打さんか?冬の乾燥した冷たい空気が室内に流れ込んでくる・・・寒い。目をこすりながら起き上がる。窓の方を見ると・・・


 全身黒ずくめの人間が大きな白いモノを肩に担いで窓から入って来るところだった。


「・・・うん?黒いサンタクロース?クリスマスは三日前ですよ。間違えてますよ。」

「俺はサンタクロースじゃない・・・・・・とりあえず、初めまして。」

 よく見ると白い袋だと思っていたモノは、白衣を着た人間だった。黒ずくめの男はサンタクロースではなく、かなり丈の長い黒のコートを着た人であった・・・・・・紛らわしいなもう。

「いてッ!ちょっ・・・優しく下ろしてよ・・・」

 白衣の人が乱雑に地面に落とされる。

「口答えするな。ちゃんと連れてきてやったろ。」

 突然の訪問者達がこちらに歩み寄って来る。暗闇で顔が見えにくいが・・・聞いたことが無い声だった。どうやら初対面のようだ。

「やあ!君がDDOSの新入り?」

 担がれていた人だ。声が中性的だ・・・男性か?・・・DDOS?

「えーと・・・なんのことですか?」

「ディザスターレベルデンジャラスオブジェクトスクアッドの略・・・何度聞いてもダサいな。日本語だと災害級危険事物処理班・・・こっちもダサいが。大抵は処理班って呼ばれてる。」

 コートの男が説明してくれた。なるほど、ディザスター・・・なんだって?長過ぎるだろ正式名称・・・・・・日本語名の方は聞き覚えがあったから理解した。
 確かに・・・英語だと厨二病っぽくて言えたもんじゃない。かといって日本語の正式名称も長くて言いにくい。早口言葉みたいだ。

「僕ちゃんはバイ◯好きだから、DDOSの方が好きかなあ・・・まあ処理班の方が言いやすいことは認めるけど。」

 白衣の男がそう言った・・・バイ◯?ゲームのか?

「DDOSと処理班ですか。他よりは言いやすいですね。ということは、あなたたちは僕の先輩ですか?」

「そうだよー。明日が待ちきれなくて会いに来ちゃった。鬼打ちゃんが『凄い新人が来るぜ!なんと人間らしくないんだ!』っていうからどんな怪物かと思ってね。うーん・・・でも普通に人間の形しているねー。猿に体を入れ替えられて性別も変わったって聞いたけどどんなかグヘッ!!」

 コートの男が白衣の人に腹パンを入れて黙らせる・・・容赦ない。

「すまんな。デリカシーがないやつなんだ・・・こんな夜遅くに突然押しかけて本当に申し訳ない。」

 そう言ってぺこりとお辞儀する。どうやらコートの男はまとものようだ。

「いえいえ・・・お茶も出せませんが・・・あ、プリンなら出せますよ。」

「・・・・・・なんでプリンはあるんだ?」

「お!食べていい?」

 ベッドから降りて備え付けの冷蔵庫から出したプリンを二人に差し出す。病室の端に重ねてあったパイプ椅子を二つ運んできて座ってもらった。

「俺は戸黒睡蓮とくろ すいれん処理班に所属する戦闘員。このプリンに夢中になってる馬鹿は七谷冬次ななたに とうじうちの研究員だ。」

 コートの男がプリン片手に自己紹介を始める・・・なんていうか、この人は表情が希薄だ。無表情にプリンを口に運んでいる。カーテンの隙間から差し込む月明かりで見えたのだが、一見なよなよとした雰囲気を漂わせる黒髪のイケメンだった。


 白神さんよりもTHE日本男児にふさわしい外見をしている。


「んーー・・・七谷冬次だよ。特技はハッキング。趣味もハッキングだよー。あ、あとオタク。アニメが好きだよ。よく秋葉行く。魔法は下手だけどね-・・・プリンおかわりしていい?」

 白衣の・・・男だそうだが、七谷さんは性格と同様に見た目も派手な人だった。オレンジの髪に黄色い瞳・・・そして、白衣の隙間から見えるTシャツにはどこかのアニメキャラがプリントされていた。
 鬼打さんとは違う方向だけれど、自分のことしか考えていない性格をお持ちのようだ。

 ていうか、ハッキング?それって犯罪だろ?そもそも、魔法が使えない人があんな物騒な名前の職場になんでいるんだ?
 
「てっきり、所属先の名前が物騒なんで、全員規格外に強い人達なのかと・・・」

 話しながら、アボカドプリンとインゲンプリン、人気が一番無かった二つを七谷さんに差し出す。七谷さんは苦笑いしながら数秒迷った後に、アボカドプリンの方を選んだ。

「詳しいことは明日聞くだろうが・・・うちは目の前で怒っている危機だけじゃなく、これから起こる災害を未然に防ぐことも目的の一つに掲げている。だからこいつみたいな研究員に情報収集とかそこら辺のサポートをしてもらって・・・」

 戸黒さんが話を中断して窓の外に振り返る。

「マズイな。隠れるぞ。」

「へっ?なに?ぐえっ」

 いきなり戸黒さんがプリンをかきこんでいる七谷さんを引き摺ってベッドの下に潜る。

「え?え?どうしたんですか?」

 突然の奇行に戸惑う。しばらく行動の意図が分からなかったが・・・・・・どうやらこの部屋への新たな来訪者を感知したからのようだった。


「夜分遅くに失礼する・・・戸締まりはちゃんとしなさい。危ないぞ。」


 かなりの大男が窓枠の上にいつのまにか立っていた。ただでさえ圧力のある大きな姿が月明かりに照らされてさらに厳正な雰囲気を醸し出している。

「守塚さん・・・」

 今度は面識のある人だった。ここの一番偉い人。そして・・・

「ナウシ◯が一番好きな人・・・」

「やめろ・・・・・・俺をそんな、映画好きのオジサンみたいにいうのはやめろ。あれはふざけて言ってみただけだ。忘れてくれ。」

「僕もナウシ◯は面白いと思いますよ。オー◯の見た目のエグさがなんとも・・・」

「ん?オー◯は可愛いだろ。」

「・・・・・・」

 おっといけないいけない・・・人によって価値観は違うからね。

「えっと・・・そんなことより、何をしにここに?

「少し話を聞きたくてね・・・白神から俺のことは聞いているかね?」

 守塚剣正・・・・・・白神さんの親友であり、戦友。

「はい。昔、人猿と戦ったときの話を聞いたときにあなたのことも。」

 本庄さんと白神さんが似ているという推理を僕が語った後、四十五年前の過去を白神さんに聞かせてもらった。彼のことを話す時は、白神さんの口調が少しだけ弾んでいた気がする。

「俺のことをなんと?」

「たしか・・・あいつは強いから大丈夫・・・みたいなことを。」

「ハハハ。あいつらしい。」

 懐かしそうに笑う守塚さん・・・近づきがたい雰囲気を纏っていたが、温和でいい人のようだ。窓枠から部屋の中に降りると、さっきまで戸黒さんが座っていた椅子に座る。椅子がその巨体でギシリと軋んだ。

「白神が夢の中に出てくることがある・・・・・・奴が死んだ少し後からそういう噂があった。ただの噂だろうと思っていたが、君の話を聞いて真実だったのだと考え直したよ。」

「え?親友なのに夢では会ったことないんですか?」

 こんなにお互いのことを信頼しているのに。

「あぁ・・・その理由は君がさっき言った通りだ。」

「えっと・・・どういうことです?」

「俺は強いから大丈夫・・・あいつは、俺を助ける必要は無いと判断している。あいつは弱者を助けることだけを念頭に動いているからな・・・憎たらしく感じるくらい。」

 憎たらしい?どういうことだ?

「・・・・・・ん?なぜプリンがここに置きっぱなしなんだ?」

 守塚さんが机の上に一つだけ残っていたインゲンプリンを手に取る。やっぱり、こいつだけ不人気で誰にも食べてもらえなかった。

「え?ああ。食べます?鬼打さんから見舞いでいただいたものです。」


「「  ?  」」


 何故かベッドの下に隠れていた二人が驚きの声を上げる。

「・・・・・・ん?誰かベッドの下にいるのか?」

 守塚さんがベッドの下を覗くために席から立ち上がり、しゃがもうとする・・・そのとき、


 ガララッ・・・バンッ!!!


 扉が勢いよく開き、おそらく見回り中だった平原さんが入って来た。

「なんで話し声が聞こえるんです?また鬼打さんですか?」

 ため息をついて、中に足を踏み入れる平原さん。

「・・・・・・あれ?鬼打さんじゃない?誰?」

 鬼打さん信用無さ過ぎだろ。

 部屋が暗いからか目の前にいる人間がここの一番偉い人であることに気づいていないようだ。
 守塚さんが完全に固まっている・・・昨夜、鬼打さんに「上官がルールを破ったら部下に示しがつかない」とかなんとか言っていたのに自分がルールを破っているのがバレそうになっている・・・・・・自業自得だと思うけれど。

 平原さんが照明のスイッチに手を伸ばす・・・絶体絶命だ。


 ・・・・・・別に僕がピンチなわけじゃないから緊張も何もあったもんじゃねえな。

 何だこの状況?



「おーい、まだ起きてるかー・・・ってウオッ!!!」


 今度は鬼打さんが平原さんの後ろ・・・扉から入って来た・・・が、平原さんの姿を見て踵を返し、脱兎のごとく走って行った。

 あの人は信用無くて当たり前だったか。

「え?鬼打さん?あ、もう!お前ら逃げるな!」

 先輩達と守塚さんが平原さんの注意がそれたことに敏感に反応し、即座に動き出す。椅子も跳ね飛ばして素早く窓から飛び出していった。

「クッソ・・・誰か分からなかった・・・」

 平原さんが頭をポリポリ掻きながら窓の外を覗く。ため息混じりにこちらに振り返ると

「誰だったか言う気ある?」

 と聞いてくるが・・・あの三人に恩を売った方が今後の生活にはよさそうだ。

「ないですね。」

「だろうね。」

「修学旅行の夜ってこんな感じですよね。」

「・・・・・・早よ寝ろ。」

「あうっ」

 デコピンを一発、僕の額に食らわせると平原さんは廊下の向こうに消えていった。


「・・・寝るか。」


 さすがに、その後はもう誰も来なかった。








 次の日、七時過ぎに鬼打さんと先輩達が病室まで迎えに来た。八時と知らされていたのだが・・・

「ずいぶん早いですね?どうしたんです?」

「昨日あんなことがあったからな。平原に会いたくねえ・・・あいつ怒ると怖えんだよ。」

 あのクールそうな人が?ちょっと見てみたいかも。

「ん?プリンはどこにあるんだ?」

 鬼打さんが部屋の中にプリンが残っていないことに気付いて聞いてくる。
 そういえば・・・逃げるとき、守塚さんはプリンを持ったまま飛び出していったようで、机の上にあったプリンが無くなっていた。

「全部食べましたよ・・・皆で(小声)」

「は?マジで?お前プリン好きすぎだろ・・・糖尿病になるぞ?」

「・・・・・・」

 全部食えって言ったのあんたじゃなかった?

「おっかしいなー・・・別に体調悪くなったりしてねえよなぁ?入れ忘れたか?それとも警備員に投げつけたやつが当たりだったか?」

 どうしたらプリンを投げるだけで人を気絶させられるんだ?・・・・・・ん?

「当たり?」

「あぁ。ただ渡すだけじゃ面白くねえから下剤入りの当たりを一個入れたんだ。」

 ・・・・・・なんてことをしやがる。平原さんと看護師さんは無事だろうか?あとで謝っておかなければ。
 扉の外側に待機している戸黒さんと七谷さんの顔色を伺うが、体調を崩した様子はない・・・なんだ?二人が「ちょっとこっち来て」と手招きしている。

 二人の傍に近寄ると、

「鬼打ちゃんの差し入れは注意するように!下手すると死ぬから!」

 七谷さんが小声で注意してきた・・・戸黒さんもその横でコクコクと首を素早く縦に振っている。死ぬって・・・過去にどんな物を入れられたんだ・・・

「あのプリン、平原さんと看護師の人にも渡しちゃったんですけど・・・」

「それは大丈夫。今日の病院の出欠記録を覗いたけど、体調不良で休んでいる人はいなかった・・・」

 その時、偶然通りかかった二人の看護師の会話が僕達三人の耳に入ってきた。


「さっきさ、あの守塚課長が緊急搬送されて来たんだよ!」

「えー!あの守塚課長が?なになに?チョー強い魔物と戦って怪我したとか?」

「いや・・・食あたりとか聞いたよ。すごい苦しそうだった。」

「えー!意外・・・あの人が体調崩すとかあるんだねー・・・」

「私も長いことこの病院に勤めてるけど、怪我以外であの人がここに来るなんて初めてだよ!」

「うーん・・・・・・あの人のことだし、駆除した魔獣の死体を焼いて食べたりしたんじゃない?」

「やだもう!魔獣の食材としての使用は禁止されているじゃない!冗談キツいわよ!」

「あはは・・・ごめんごめん。でも、あの人ならあり得そうって思わない?」

「確かに!・・・ワイルドだもんねー」

「ワイルドだねー・・・あはははは・・・」



「「「・・・・・・・・・・・・」」」



 僕たちが固まっていると、諸悪の根源が僕の肩を叩いてこんなことを言う。

「何してんだ?早く行くぞ。今日はお前の魔法がどんな能力か調べてもらう!」

 調子よく、ルンルンとスキップして廊下をかけていく・・・彼女が跳ねるたびにポニーテールが左右にピョンピョンと揺れる・・・



「・・・守塚課長には、あとでちゃんと菓子折を持って謝罪に行こう。」

「・・・そうだね。三人で一緒に行こう。」

「ですね。」

 心の中で、こう唱えた。

 守塚さんは強いから大丈夫・・・・・・・多分。

第五話終
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