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人ナラ猿モノ
第三話 世界一気まずいお茶会
しおりを挟む「・・・どこだここは?」
どこかの主人公が言いそうな台詞を吐くことになるとは・・・
気づいたら見知らぬ和室の中に立っていた。
僕はたしか・・・猿の化け物に襲われて・・・周囲を確認するがあの怪物の姿はない。
綺麗な茶室だった。汚れのない真っ白な襖。風車のように並べられた畳。壁に掛けられた高級そうな水墨画・・・
開け放たれた襖の向こうに綺麗な庭が見える。太陽光が反射してキラキラ輝く池、その池に掛る丸っこい橋、きちんと剪定された松の木・・・
普通の家庭に産まれた僕には一切縁が無い華やいだ景観・・・むしろ居心地が悪い。キラキラしすぎて目が痛い。
「・・・・・・うん。」
これは間違いない。政治家のマニフェストぐらい確実だ。
「ここはてんご・・・」
「夢の中だよ。」
Oh・・・・・・
確かにこんな僕が天国に行けるだなんて虫のいい話だけれど・・・
見覚えのある男性が庭に立っていた。白髪に赤い目、神秘的に美しい顔立ち。そしてなにより・・・死装束。
電車の中で会ったあの幽霊だ。
「僕を呪い殺す・・・いや、魂を刈り取りにでも来たんですか?」
「え?」
僕の言葉にその幽霊は目を丸くした。
「・・・どうしてそう感じたの?」
「どうしてもなにも、その格好・・・幽霊か死に神にしか見えませんよ。」
「・・・・・・」
男は神妙な様子で顎に手を当てて考えこむ。
「もしかして、夢で会った人がほとんど全員、私を見た瞬間驚いたり叫び声をあげたりするのってそのせい?」
「おそらく。」
気づいていなかったのか。むしろ、誰もそのことに気づいていながら言及しなかったのか。
「次からは違う服を着るよ・・・」
「・・・・・・」
気まずい空気が流れる。なんだこの人、天然か?
「とりあえず、お茶を煎れようか。」
人生初、そして人生一気まずい茶道体験が始まった
「まだ名乗っていなかったね。私は白神孝士郎。」
「へ?」
抹茶の苦みを味わっていると突然自己紹介が始まった。
「君は変わっているね・・・普通なら今どういう状況なのか、気になって真っ先に聞いてくるものじゃあないかい?」
彼があきれた様子で微笑む。白神さんと言ったか・・・本当に絵になる人だ。この庭と同じでキラキラしている。THE 大和男児って感じ。
・・・いや、THE 大和幽霊だな。墓とか柳の下にいそう。ていうか白髪赤目の日本男子なんてこの人以外、ほとんどいるわけ無いだろ。
けれどまあ、格好はともかく、いい人のようだ。悪意は感じられない。
「えーと・・・はい。変わっている、人間らしくないとよく言われます。」
自分でも、他人と認識がずれていることをよく感じる。たとえば今、あの猿のことより目の前の抹茶に集中していることとか。
「人間らしくないって、どんなことしたら言われるのさ・・・」
僕が茶を飲み終えたのを見計らって、白神さんは子細を語り始めた。
「まず、きちんと謝っておきたい。こんなことに巻き込んでしまった。本当に申し訳ない・・・」
深々と、畳に頭をつけて慇懃に謝罪された。
ここまで礼儀正しい土下座は見たことがない。いや、土下座に礼儀作法があるのかなんて知らないけれど・・・礼儀正しすぎてこちらが悪いことをしている気分になる。
「やめてください。僕に迷惑をかけたのはあの猿でしょう?それに、電車のなかでも、夢で逃げるよう忠告してくれたじゃないですか。」
この人が今回の元凶だとは思えない。詳しいことを聞かなくてもそれはなんとなく分かる。
「やっぱりあの夢を覚えているんだね?」
白神さんが悲しそうな表情をしながら顔を上げた。
・・・・・・・・・あれ?
確かにおかしい。あの電車の中の記憶がしっかりと思い出せる。白神さんが、大声で僕に「逃げろ」と言っていた記憶がある。後方を指さして「帰れ!今あの駅で降りたら死ぬぞ!」と・・・
僕はその記憶が無かったから、普通に家に帰ろうとしたのだ。その忠告を覚えていれば・・・呑気に徒歩で帰ることはさすがに・・・
どういうことだ?
あまりにも自然に思い出せたものだから違和感を感じなかった。
「結論を言おう。君は生きている・・・死んで、魂だけになってここに来たのであればその記憶は無いはずだから。」
「・・・・・・」
生きている・・・らしい。喜ぶことは出来ない。なぜならラジコンにされたあの人と同じように猿により改造されているかもしれない。
むしろ、死んでいない方が地獄だ。
「機械とは合体されていないよ。それは保証する。」
・・・・・・よかった。彼には悪いけれど、あんなおぞましいものにはなりたくない。
「機械とは、とおっしゃりましたが、実際僕の体はどうなっているのですか?」
「それは・・・」
白神さんが顔をしかめる。え?そんなに酷い状態なの?・・・手足が逆になっているとか?
「人の形はしているよ。ただ・・・」
白神さんが口をつぐむ。なにかしら、言い出せない理由があるようだ。
「そんなに言いにくいのであればこの夢が覚めてから自分で確認します・・・」
口に出せないほどなのか・・・現実に戻るの怖え・・・
まあ、正直見てくれなどどうでもいい。僕は他人からの視線をあまり気にしたことがない。
「すまない。そうしてくれ。」
「フゥ・・・」と息をついてから、白神さんは遂に、奴について語り始めた。
「人猿」
「・・・・・・」
「君が遭遇した魔物の名前だよ。」
人猿・・・なるほど。ぴったりな名前だ。
あの化け物の行いは、確かに狂っている。人間離れしている。
けれど・・・人間らしい行動原理を持っている。
そして、人間らしい無駄なことをする。
獣は自分の縄張りに入ったものを本能に従って攻撃、またはそれから逃走する。相手の力量が自分より上かどうか判断はしても、そこに理性は無い。
ライオンが他の動物を襲う時、そこには「食料を食べなければ死ぬ」という潜在本能に基づいた動機があるだろう。
蜂が近づいてきた動物に、もとい人間に毒針を指すのは自分と女王、そして巣を守るために行動する。すなわち防衛本能だ。決して他の動物を襲って、楽しむためではない。
あの猿は違う。やつは人間と機械で遊ぶために人を襲った。二つを組み合わせるとどうなるのかを試そうとして、人間を襲っていた。
『人間と車を合体させたら、面白いだろうか?』
本能とは関係ない人間的な好奇心、探究心・・・
そのうえ、子供のラジコンの操作と同じ、あの意味の無い行動・・・
「なんとなく、面白いから」という人間にしかないであろう、しょうもない理由に基づく児戯(じぎ)。
あの怪物は、「人間らしくない人間」である僕とは違って「人間らしい獣」なのだ。
ただ一点、歴史の積み重ねで作り上げられた、道徳規範がないことを除いて。
奴は知らない。「なぜ他の生物をむやみに殺してはいけないのか」を。
「なにが善く、なにが悪いのか」、その判断を持っていない・・・・・・まだ。
「魔物、ですか・・・」
物語の中でしか聞かない単語。ここが日常であればその言葉を口にする人間はただの痛い人だ。
しかし、この非日常の中では冗談に聞こえない。
「そう、魔物・・・魔法をつかえる動物・・・動物以外の物もあるのだけれどね。」
「魔法?・・・あるんですか、そんなものが。」
一般人である僕からしたらメルヘンチックで聞き慣れない言葉。この明らかに異質な状況に置かれなければ存在自体が信じられない。
「あるよ。一般には秘匿されているけれど・・・別に呼び方は何でもいいんだよ。現代では一般的にそう呼ばれているだけでね。魔術、妖術、道術、奇跡、異能力、スキル・・・いくらでも名前はある。ここでは、現代に合わせて魔法、と呼ばせてもらおう。」
「なるほど。」
信じられないけれど、認めるしかなさそうだ。
「そして、魔物に関わった君は、魔法使いの素質に目覚めた。」
「・・・・・・は?」
今この人なんて言った?ものすごく、オリーブオイル並みにさらっと、とんでもないこと言わなかった?
僕が・・・魔法使いに?
「魔物と魔法使いは、深く関わったものに影響を与える。魔法の才能が全くない者は体調や精神に支障をきたす・・・いわゆる祟り。そして、魔法の才能がある場合、その祟りをはね除けて、魔法使いになる。」
・・・混乱してきた。大量の知らない知識でなぶられる。
大学の講義で教授が、「いや知らねえよ」と思わず口に出しそうなほど専門的なことをさも「これぐらいあなたたちでも知ってますよね?」と言わんばかりに話すのを聞くときと同じ感覚。
「えー・・・・・・っと、今の話だと魔法使いになるものと、ならないものがいるんですよね?なぜ僕が魔法使いになったことがわかるんですか?」
言ってて恥ずかしくなってきた。「魔法使い」なんて言葉をこんな真面目な雰囲気のなか使うのはなかなか抵抗がある。
「君が電車の夢を覚えているからだよ。ただ生きているだけであればその記憶は無いはずなんだ。魔法の才能が備わったからこそ脳がその記憶を認識出来る。」
「・・・・・・」
つまり、「魔法の才能」というフィルターを通して見ることで初めて、あの夢が正しく認識出来ると言うことか。
僕は夢の内容を覚えているから、逆に言うと魔法の才能を持っていることになる。
「生きたままこの夢の中で会話をするにはその人がかなり深く・・・昏睡レベルで眠っているか魔法の才能を持っているかに分かれるんだけど、前者の場合、電車の夢は覚えていないはずだから・・・」
生きたまま?つまり・・・生きていない場合も存在するのか?
「死者もこの夢を見られるんですか?」
「え・・・うん。人猿に殺されてしまった人々には、ここで謝罪させてもらったよ・・・」
辛そうに、悔しそうにして言う。心の底からそう感じているのだろう。優しい人だ・・・僕とは違う。
「・・・魔法の話はもういいです。結局、何があったんですか?」
「あぁ・・・人猿は、私が四十年ほど前・・・まだ私が生きていた頃に封印した魔物なんだ。」
・・・おいおい。この人本当に幽霊じゃん。そんで四十年前って・・・昭和生まれなのこの人?この見た目で?
十代後半か二十代前半にしか見えない。幽霊は年をとらないのか?
「それで、山奥の祠に厳重に保管してもらっていたんだけれど・・・」
「あの猿がそれを破ったんですか?」
「え?・・・あー・・・えーとね・・・」
またもや言うのを出し渋る・・・
僕以外の被害者にもここで謝ったと言っていた・・・この事態に大きな責任感を感じているのだろう。僕は白神さんが元凶だとは思えないと感じたが・・・この様子、彼も事件の発生に深く関わっているのかもしれない。
「いや・・・『菩薩』・・・なんとかって言う、宗教団体が祠を開けてしまったみたいなんだ・・・人猿の情報がどこかから漏れたんだと思う。まさか、魔法使いでもない人間に封印を解かれるなんてね・・・」
「そうですか・・・え?あれ?・・・本当に、一ミリもあなたの所為じゃないように聞こえますけど・・・」
「・・・・・・」
白神さんが自嘲的な薄笑いを浮かべて目を反らす。
「鉄条網で囲って、監視カメラとかつけて、ちゃんとコンクリートで埋めてあったんだけどね・・・ちょっと警戒が足りなかったかなあ・・・うん。警戒を怠った私のせいだよ!」
白神さんがよく分からない開き直り方をする。
「いやいやいやいや!これっぽっちも、一ミクロンもあなたが謝る必要ないでしょ・・・」
手のひらと首を同時にぶんぶん振って否定する。いつも自分が突っ込まれる側だったから、新鮮な感じがする。
ていうか・・・そのカルト宗教団体、何してくれてんだ本当に。
「・・・あのね、社会に出るとね・・・たとえ自分の責任じゃなくてもね・・・責任をとらなきゃいけないことがね、たくさんあるんだよ・・・・・・」
白神さんが目線を僕から百八十度そらして言う。
「・・・・・・」
なんてやりきれない責任の取り方だ・・・社会って辛い・・・
「・・・その宗教団体の方々はどうなったんですか?」
「全員殺されたよ・・・」
「ということは・・・この夢の中にも来たんですか?」
「うん。それはもう元気に!」
グルリと高速でこちらに振り返る。表情は笑っているけど目は笑っていない・・・怖い。
「あいつらさー・・・やっと神に会えたとか修行不足だったとか言ってさー・・・どれだけの人の命が失われたのか理解していないしさー・・・・・・ごめん。」
「・・・いえ。」
「「ハァ・・・・・・」」
お互いに大きなため息をつく。なんの話をしてたっけ?
社会の過酷さを愚痴ってたんだっけ?
そんな、会社員がお互いの勤め先での苦労を慰め合う暗い飲み会みたいな雰囲気だったっけ?
お茶じゃなくてお酒飲んでたっけ?
「・・・・・・すいません。」
女性の声だった。振り返ると襖が少し開いて、二人の男女が顔をのぞかせていた。僕たちの話が途切れるのを待っていたのだろう。
「あぁ・・・すまない・・・少しは落ち着いたかい?」
白神さんがくたびれたサラリーマンのテンションからもとの和やかな雰囲気に戻って答える。
「はい・・・お世話になりました。」
ショートカットで綺麗な茶髪の女性がお礼を言う。目の下が赤い・・・泣いた跡だ。スレンダーで、落ち着いた印象の美人だった。服も青いセーターにゆったりした白いスカートで可愛らしい。モデルだと言われても遜色ない。
・・・なんだ?誰かに似ている?
「白神さん・・・この少年が?」
今度は男性が話を切り出す。重低音で凄みのある声色だ。
「そう。彼だよ。」
「・・・・・・・・・・・・?」
「この少年」とは僕のことらしい。
男性は女性とは打って変わって、ドラマで見る警察の特殊部隊のような格好をした、強面の人だった。この茶室とは格好が死ぬほど合っていない。違和感がすごい。
身長が高く、筋骨隆々といった感じだ。威圧感がすごい。何故かじっと、眉間にシワを寄せたまま僕を見つめている・・・・・・僕がどうかしたのだろうか?
「本庄かなえさんと、権藤章君・・・・・・君と同じ、人猿に命を奪われた被害者の二人だ。」
「え?」
ギョッとした。死者もこの夢の中に来られるとは聞いていたが、白神さんの口ぶりから、てっきりもうこの場にはいないのだと思い込んでしまっていた。
「彼らは命を落とした時間が他の犠牲者より遅くてね。まだ成仏していないんだ。」
「・・・・・・」
すごく気まずい。僕だけ生きている・・・どんな表情をこの人たちに返せばいいのかわからない。さっきから二人が複雑な表情で僕を見ている・・・・・・どうしよう・・・
「少年」
おもむろに襖を超えて室内に立ち入り、権堂さんが僕の目の前に立つ。僕が正座したままとは言っても、こうしてみるとかなり身長差がある。子供も泣きそうな仏頂面が僕を見下ろす。
彼は目をしっかりと合わせてくる・・・いや、こちらが合わさせられたかのように思える。彼の目には曇りがなかった。僕が生きていることへの妬みや困惑は全く感じられない。
なにか複雑な・・・憐れみのような感情が読み取れる・・・憐れみ?なにを憐れむと言うんだ?
権堂さんが目を細め、厳かに告げた。
「俺たちの人生まで背負う義務は無い。気にするな。」
「・・・・・・」
胸が痛い。言葉が出てこない。
「たとえそうだとしても、彼らの姿をしっかりと覚えておきなさい・・・義務はなくとも、これから一生向き合わなければならないからね。」
白神さんの声はゾッとするぐらい冷たかった。
たった一人、生き残ったものとして、他の被害者の分まで生きる責務。
権堂さんはそれを「義務は無い」と断じて・・・気負いすぎることは無いと励ましてくれた。
しかし、だからといって、彼らの死を忘れることは許されない。
だから白神さんは、「彼らに向き合え」・・・逃げるなと僕を戒(いまし)めた。
彼らのために生き急ぐ必要は無い。けれど、彼らから目を背けてはいけない。
「・・・勘弁して下さい。僕はそれが出来るほど強い人間じゃあない・・・正義にも、悪にも、なにものにも染まれない、中途半端な人間なんです。まともで善良な、本物の人間の死を背負うことなんて・・・」
三人が、僕をじっと見つめる。弱気な僕を責めるでもなく、慰めるでもなく・・・
「そろそろ夢が覚めるようだな。協会の部隊が君を救出するだろう。じっとしておきなさい。」
権堂さんが言う。
・・・・・・体が白いもやに包まれていく。電車の夢から覚めた時と同じだ。
意識が遠のくなか、本庄さんの消え入りそうなか細い声が聞こえた。
「・・・・・・さようなら」
「・・・・・・」
目が覚めた。ここは・・・体にかけられたシーツ(?)をとりはらう・・・視界がはっきりしない・・・
今回は夢の内容をしっかり覚えていた・・・これが全部、僕の妄想だったらいいんだけれど・・・さすがにそうはいかない。自分が起きた場所は家のベッドの上ではなかった。
・・・さすがに、夢落ちじゃあないか。
「・・・手術室?」
室内を見回してみると、白い壁に開きっ放しの分厚い金属製の扉。さらに、物騒な手術道具がごちゃごちゃに並べられた机が置かれていた。薬品の匂いが鼻にくすぐったい。
・・・人猿は・・・いない。
少し安堵してから自分が寝ていた手術台を降りる。
「・・・・・・なんだ?」
自分がどう改造されたのかを確認しようとした時、部屋の外からドカドカと足音が聞こえてきた・・・だんだん足音が大きくなったかと思いきや、黒い服を着た四人が部屋の中に突入して来る。
「うわっ!」
とっさに両手を上に挙げる。その集団が銃器を手にしていたからだ。いきなり登場したと思ったら、銃口を僕に向けて警戒を解かない彼らは特殊部隊のような格好をしていた。
・・・ん?権堂さんと同じ服?
彼らは僕への警戒心を解いた後、手術室内を隅々まで念入りに確認した・・・・・・一人が、無線機に話しかける。
「こちらC班。被害者の一人を発見。性別女性。リストの写真と容姿合致。救出します。」
・・・・・・・・・・・・・・・え?
「大丈夫ですか?怪我はありませんか?」
女性らしき人が質問してくる。マスクをかぶっていて顔が見えないけれど。
「出口まで背負います。しっかり肩に捕まっていてください。」
え?ちょっと待って。本当待って。
必死に心の中で待ってくれと叫ぶがもちろん彼らには聞こえない。女性隊員が僕を背負って早歩きで移動し始める。他の三人は僕と女性隊員を囲んで、護衛態勢を整える。
女性に改造されたのか?僕は・・・
隊員達は周囲を警戒しながらも、迅速に出口へと向かう。
・・・・・・そして、僕は自分の考えが甘すぎたことを思い知った。
手術室の隣、消毒室。
その壁に備え付けられた鏡の中に、自分の姿が写る。
「・・・・・・は?」
綺麗な茶髪のショートカット。スレンダーな体型・・・・・・着ている服は、青いセーターと患者衣で全く違うけれど・・・・・・間違えようもなかった。
「・・・本庄さん?何かありましたか?」
隊員が僕の動揺に気づいたのか声をかけてくる。
「ザザッ・・・こちらB班。権堂小隊長の遺体を発見・・・・・・・・・・・・・・・・心臓が抜き取られているようです。」
無線機から不穏な情報が聞こえる。
・・・・・・嫌な予感がする。
ドクドクと、「鼓動」が速まる・・・否定しようのない、最悪な未来予測が僕の思考を埋め尽くす。
「・・・・・・ま・・・さか・・・」
僕は勘違いしていた。
あの三人の視線の意味。権堂さんの、「俺たちの人生まで背負う義務は無い。」の意味。
そして、白神さんの・・・
「これから一生向き合わなければならないからね。」
あの・・・言葉の意味は・・・
「生き残ったものとしての」なんて、普通の意味だけでは断じてなかった。
悪夢のような現実が僕を待っていた。
第三話終
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