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第3章 罪火、戸惑いに揺れる心

夜会へ

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 夜会用の衣装に身を整えたシンの姿を見て、サラは満足げにうなずいた。
 深い緑の生地に黒と金の刺繍で縁取った膝まである丈の長いコート。
 深く折り返した袖は黒貂。
 コートの下は黒いズボンにブーツ。
 髪はやはり首の後ろ一つで束ねられ、黒いリボンでまとめた。

 サラも、今日この日ばかりは見違えるように可愛らしかった。
 白く滑らかな肩と胸元が人目を惹きつける白のドレス。胸元、腰、裾に水色の小花とリボンを飾った衣装。袖ぐりにも水色のレースを惜しげもなくあしらわれている。
 緩やかに波打つ鳶色の髪にも水色のリボンを器用に編み込んで、ところどころに小花を飾っている。

「ずいぶんと衣装でかわるのね。どこから見ても立派な貴公子よ」
「まあ実際、俺は何を着ても似合っちゃうのさ」

 鏡の前で姿勢を作り、シンもまんざらではない様子である。
 最初はこんな重そうな服など着たくない、嫌だとごねていたシンであったが、実際に来てみると思いのほか気に入ったのか、この調子だ。それどころか、楽しそうに見えるのは気のせいか。

 呆れながらサラは肩をすくめた。
 とはいえ、違和感がないのは事実であった。元々の見栄えがいいというせいもあるのだろう。
 確かに顔立ち、背の高さ、均整のとれた身体つき、どれをとってもシンの容貌は魅力的だった。
 おそらく、夜会に集まった女性たちが放ってはおかないであろう。

「ほんと、よく似合っているわ。素敵よ」
「惚れた?」

 と、言ってシンはサラの頬に片手を添えた。

「そういうサラも可愛いよ」

 ささやくシンの声にサラはかっと頬を赤く染める。

「照れてるの?」
「そういうふうに言ってくれる人なんて、今までいなかったもの……」

 シンは形のいい眉をあげた。

「俺ならいくらでも言ってあげるのに」

 サラの頬に手を添えたまま、シンは唇を寄せた。

「好きだよサラ……このままどこかに連れ去ってしまいたいくらいだ」
「だ、だからふざけないでって言ってるでしょう!」

 サラはおもいっきりシンの顔に手をあて、遠ざける。
 シンは肩をすくめた。
 本気なんだけどな、と呟くシンの声はどうやらサラの耳には入っていない。

「ほんとに俺を夜会とやらに連れて行くわけ?」
「そうよ」
「で、俺は何したらいいんだ?」
「てきとうに笑顔を振りまいていたらいいのよ」
「そんなことをしたら他の女が寄ってくるかもよ」

 サラはじろりとシンを睨みつける。

「うそうそ。俺、サラ以外の女興味ないしっていうか、もしかして妬いちゃったた?」
 だとしたら嬉しいんだけど、とシンはつけ加える。
「冗談はそのくらいにして、さあ、行くわよ」
「お、おう!」

 意気込むように握りこぶしを作り、二人は夜会へと向かうのであった。
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