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第2章 閃火に狂い舞う
裏街のシン
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これまでとは打って変わって、少年は低い声音で男たちに吐き捨てた。辺りの空気さえも切り裂く、寒々しい気配が少年の身体からゆるりと放たれる。
少年の鋭い目に男たちはたじろいだ。
目つきだけで敵を萎縮させてしまう凄まじさは普通ではない。
戦って適う相手ではない。もしも、剣を交えることとなれば、もはやただの喧嘩では済まなくなる。
それ以上に、相手の瞳が訴えかけてくるのだ。
刃向かってきたら殺すぞと。
「こ、こいつ、何かやばくねえか?」
「っていうか俺、こいつの顔に見覚えがあるぞ。もしかしてこいつ裏街の……」
裏街の、と聞いて他の男たちは顔を引きつらせた。
「まさか、こんな優男が?」
「いや、間違いねえ。おまえら行くぞ」
「待てよ。女はどうする? 売るんじゃなかったのか?」
「ばかやろう! 女なんかどうでもいいんだよ! 死にたくなきゃ、その男には絶対にかかわるな。行くぞ!」
舌を鳴らして去っていく男たちの後ろ姿に、少年は肩をすくめた。
「は、離して」
少年の腕の中でサラは身動ぐ。
ごめん、と笑って少年は腕を解いた。
サラは少年を見上げる。
ずいぶんと背の高い人だ。見上げるこちらの首が痛くなってくる。
悪い人には決して見えないけど……。
サラは眉間にしわをよせた。
「助けてくれたことにはお礼を言うわ。でも、いきなり抱きしめる……」
言葉の途中で、少年は驚いた表情で目を見開いた。
暁天色の瞳がことさら明るさを増す。
「あんた!」
「え! 何?」
「あの診療所の! どっかで見たことがあると思ったんだよ」
サラは眉根を寄せ、怪訝な顔をする。
何やらこの少年は自分のことを知っている口振りだ。
だが、少年の次の言葉がサラに衝撃を与えた。
「ほら、あんた何とかっていう医者の家でハルの名前を呼んでただろう?」
今度はサラが目を見開いた。
よもや、目の前の少年からハルの名を聞くことになろうとは。
嘘でしょう? とサラは少年の両腕をつかむ。
「あなた、ハルのこと知っているの! もしかして、あなた……」
サラはテオから聞かされた、ハルの友達という人物の人相と名前を思い出す。
確かに、顔立ちも姿も一致するではないか。
「シン……」
「どうして俺の名前を」
「テオから聞いたのよ」
「テオ……」
ああ、とシンは納得した顔をする。
「そういえばあの時、ハルと一緒にもうひとり、いかにも真面目そうというか、堅物そうな青年が側にいたな」
「テオの言ったとおりだわ。ほんと、あなた軽薄そう……」
「おい……」
シンはサラの遠慮のない言葉をたしなめた。そんなシンにはかまわず、サラは相手の腕を強く揺さぶった。
「私って本当に運がいいわ! ねえ、あなたハルのお友達なのよね?」
「いや、お友達って言うか、何て言うか……」
「私、彼を探しているの。あなたならハルの居場所を知っているのでしょう? ハルに会わせて、どうしても会いたいの!」
「会いたいって、言われても……」
まいったなあ……とシンは頭をかいて明るい空を見上げ、途方に暮れた顔を浮かべるのであった。
少年の鋭い目に男たちはたじろいだ。
目つきだけで敵を萎縮させてしまう凄まじさは普通ではない。
戦って適う相手ではない。もしも、剣を交えることとなれば、もはやただの喧嘩では済まなくなる。
それ以上に、相手の瞳が訴えかけてくるのだ。
刃向かってきたら殺すぞと。
「こ、こいつ、何かやばくねえか?」
「っていうか俺、こいつの顔に見覚えがあるぞ。もしかしてこいつ裏街の……」
裏街の、と聞いて他の男たちは顔を引きつらせた。
「まさか、こんな優男が?」
「いや、間違いねえ。おまえら行くぞ」
「待てよ。女はどうする? 売るんじゃなかったのか?」
「ばかやろう! 女なんかどうでもいいんだよ! 死にたくなきゃ、その男には絶対にかかわるな。行くぞ!」
舌を鳴らして去っていく男たちの後ろ姿に、少年は肩をすくめた。
「は、離して」
少年の腕の中でサラは身動ぐ。
ごめん、と笑って少年は腕を解いた。
サラは少年を見上げる。
ずいぶんと背の高い人だ。見上げるこちらの首が痛くなってくる。
悪い人には決して見えないけど……。
サラは眉間にしわをよせた。
「助けてくれたことにはお礼を言うわ。でも、いきなり抱きしめる……」
言葉の途中で、少年は驚いた表情で目を見開いた。
暁天色の瞳がことさら明るさを増す。
「あんた!」
「え! 何?」
「あの診療所の! どっかで見たことがあると思ったんだよ」
サラは眉根を寄せ、怪訝な顔をする。
何やらこの少年は自分のことを知っている口振りだ。
だが、少年の次の言葉がサラに衝撃を与えた。
「ほら、あんた何とかっていう医者の家でハルの名前を呼んでただろう?」
今度はサラが目を見開いた。
よもや、目の前の少年からハルの名を聞くことになろうとは。
嘘でしょう? とサラは少年の両腕をつかむ。
「あなた、ハルのこと知っているの! もしかして、あなた……」
サラはテオから聞かされた、ハルの友達という人物の人相と名前を思い出す。
確かに、顔立ちも姿も一致するではないか。
「シン……」
「どうして俺の名前を」
「テオから聞いたのよ」
「テオ……」
ああ、とシンは納得した顔をする。
「そういえばあの時、ハルと一緒にもうひとり、いかにも真面目そうというか、堅物そうな青年が側にいたな」
「テオの言ったとおりだわ。ほんと、あなた軽薄そう……」
「おい……」
シンはサラの遠慮のない言葉をたしなめた。そんなシンにはかまわず、サラは相手の腕を強く揺さぶった。
「私って本当に運がいいわ! ねえ、あなたハルのお友達なのよね?」
「いや、お友達って言うか、何て言うか……」
「私、彼を探しているの。あなたならハルの居場所を知っているのでしょう? ハルに会わせて、どうしても会いたいの!」
「会いたいって、言われても……」
まいったなあ……とシンは頭をかいて明るい空を見上げ、途方に暮れた顔を浮かべるのであった。
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