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第2章 閃火に狂い舞う
あなたに会うために
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その夜、サラが原因不明の熱をだし、屋敷は騒然たるものとなった。
ベッドの上で荒い息を吐き、高熱と吐き気、胃痛を訴え苦しむサラの回りを、トランティア家専属の医師たちが取り囲み、それぞれ顔を青くした。
「原因がわかりません!」
「食べた物はすべて、吐き出してしまいました!」
口々に騒ぎ立てる医師たちの声を、混濁とした意識の中でサラは聞く。
現実とも夢ともつかない曖昧な感覚であった。
覚悟を決め、テオが用意してくれた薬を飲んだはずなのに、それでも耐えきれず、何度も助けて、と声をもらした。
けれど、それがかえって医師たちの焦りを生じさせたようだ。
サラが涙を流して苦しみを訴えるたび、医師たちはどうしたものかと、ベッドの側でおろおろとするのだ。
身体中の関節が軋むように痛み、視界がぐるぐると回った。
おまけに、胸のあたりが気持ち悪く、胃が押し潰されるように痛む。
「ああ、サラ……」
ベッドの側では、母フェリアが悲痛の声を上げて涙を流し、自分の手を握りしめている。
そんな母の肩に、父、ミストスの手がかけられる。
ミストスは妻を落ち着かせようと、何度も大丈夫を繰り返していた。
この一大事の場に祖母の姿はない。
おそらくこのことは当然、耳には入っているのだろうが、わざわざ様子を見に来る必要などないと思っているのか。
けれど、それはいつものこと。
むしろ、猜疑心の強い祖母がいないほうが都合がいい。
お父様、お母様ごめんなさい。
どうしても会いたい男性がいるの。
その人のことが、好きなの。
だから、もう一度会って、きちんと私の気持ちを伝えたい。
突然、サラは身体を痙攣させ、口元に手をあてた。
これで何度目の嘔吐であろうか。
吐くものなんて、もうないのに。
喉がひりついて痛い。
サラの目に涙が浮かぶ。
声も出せずに、唇が助けてと言葉を刻む。
「ベゼレート医師なら……」
ひとりの医師がぽつりと呟いた。すると、側にいた他の医師たちもはっとする。
「そ、そうだ! 彼ならばサラ様を救えましょう」
もはや、自分たちでは手の施しようがないと判断した医師たちは、声をそろえてベゼレートの名を口にする。
ミストスの精悍な顔に厳しいものが過ぎる。振り返り、控えている従者たちに視線を据え言い放つ。
「すぐに馬車の用意を!」
「か、かしこまりました!」
ああ、先生の所へ行けるのね。
安心に身を委ねた瞬間、ようやくサラは意識を手放した。
ハル。
夢の中で何度もその名を呼ぶ。
ただひとりの少年の名を……。
ベッドの上で荒い息を吐き、高熱と吐き気、胃痛を訴え苦しむサラの回りを、トランティア家専属の医師たちが取り囲み、それぞれ顔を青くした。
「原因がわかりません!」
「食べた物はすべて、吐き出してしまいました!」
口々に騒ぎ立てる医師たちの声を、混濁とした意識の中でサラは聞く。
現実とも夢ともつかない曖昧な感覚であった。
覚悟を決め、テオが用意してくれた薬を飲んだはずなのに、それでも耐えきれず、何度も助けて、と声をもらした。
けれど、それがかえって医師たちの焦りを生じさせたようだ。
サラが涙を流して苦しみを訴えるたび、医師たちはどうしたものかと、ベッドの側でおろおろとするのだ。
身体中の関節が軋むように痛み、視界がぐるぐると回った。
おまけに、胸のあたりが気持ち悪く、胃が押し潰されるように痛む。
「ああ、サラ……」
ベッドの側では、母フェリアが悲痛の声を上げて涙を流し、自分の手を握りしめている。
そんな母の肩に、父、ミストスの手がかけられる。
ミストスは妻を落ち着かせようと、何度も大丈夫を繰り返していた。
この一大事の場に祖母の姿はない。
おそらくこのことは当然、耳には入っているのだろうが、わざわざ様子を見に来る必要などないと思っているのか。
けれど、それはいつものこと。
むしろ、猜疑心の強い祖母がいないほうが都合がいい。
お父様、お母様ごめんなさい。
どうしても会いたい男性がいるの。
その人のことが、好きなの。
だから、もう一度会って、きちんと私の気持ちを伝えたい。
突然、サラは身体を痙攣させ、口元に手をあてた。
これで何度目の嘔吐であろうか。
吐くものなんて、もうないのに。
喉がひりついて痛い。
サラの目に涙が浮かぶ。
声も出せずに、唇が助けてと言葉を刻む。
「ベゼレート医師なら……」
ひとりの医師がぽつりと呟いた。すると、側にいた他の医師たちもはっとする。
「そ、そうだ! 彼ならばサラ様を救えましょう」
もはや、自分たちでは手の施しようがないと判断した医師たちは、声をそろえてベゼレートの名を口にする。
ミストスの精悍な顔に厳しいものが過ぎる。振り返り、控えている従者たちに視線を据え言い放つ。
「すぐに馬車の用意を!」
「か、かしこまりました!」
ああ、先生の所へ行けるのね。
安心に身を委ねた瞬間、ようやくサラは意識を手放した。
ハル。
夢の中で何度もその名を呼ぶ。
ただひとりの少年の名を……。
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