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第1章 さながら烈火の如く

先生の意外な過去

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「ずいぶんと昔のことですよ。そうですね、まだ私があなたぐらいの年頃、アルガリタの学問所に通いながら、医師としての仕事を始めた頃のことです。

 あの頃の私は野心と出世欲に取り憑かれ、自分がのし上がるためなら、他人をも蹴落としかねない、そんな勢いでした。それに、あの頃の私は、自分は人の上に立つ資格も価値もあると自負していた。そんな時です。私と私の友人に王家の専属医師という大任が転がり込んできたのは……。

 もちろん、選抜されるのはどちらか一名。筆記試験と口述試験で成績の良かった方がその大任を仰せつかることになりました。
 私たちはそれこそ手を取り合い、大喜びをしたものです。ですが、笑いながらも、私は心の中で友人の存在をひどく疎ましく思うようになっていたのです。

 彼がいなければ、間違いなくその役目は私だけのものになっていたと。そして、私たちには共通の女性の友人がいました。友人とはいっても、彼も私もその女性に恋心を抱いていました。さらに、王家専属の医師という地位を得た方が、彼女に求婚をするという暗黙の約束事ができたのです。

 絶対に負けるはずがない。そう思いながらも、私は不安な日々を過ごしました。私はどうしてもこの大任を彼には譲りたくはなかった。彼女を私のものにしたかった。そこで、私は試験の前日、友人を飲みに誘いました。どちらが選ばれても恨みっこなしだと笑って彼に言いながら、私のとった行動は……卑怯にも、彼の酒杯に睡眠薬を混ぜたことなのです」

 テオは息をするのも忘れたかのように、ただ黙って師の告白に耳を傾けていた。

「翌日、彼は試験場には現れなかった。そうして、私は望んでいた王家専属医師という役目を手中にしたのです。対して、友人は試験に現れなかったことを咎められ、医師の資格を剥奪され、この国を追われる羽目となりました。

 最後に見た彼の目は今でも忘れることはできません。彼は私を恨むわけでもなく、ましてや責めるでもなく、ただじっと悲しそうな、私を哀れむような目を向けて……」
「その……友人と彼女は?」
「どこか遠い地で、二人仲良く暮らしていると、噂で聞きました」

 そうですか……と、テオは呟いた。

「見損ないましたか私を……偉そうなことを言いながらも、私はこういう人間だったのですよ。本当はあなたに尊敬されるに値しない人間なのです」

 テオは言葉もなく、ただ首を振るばかりであった。そして、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

「先生。少し考えたいことがありますので今夜は……」
「そうですか。テオ、あなたの自立の件もこの機会に考えてみて下さい」

 はい……と、小声で呟きテオは扉へと向かって歩き出した。
 一度だけ振り返り師の後ろ姿を見る。
 テオの碧い瞳が揺れ動いた。
 師の背中はこんなにも小さかったのかと……。

 そして、その日の深夜。
 もう一人、ベゼレートの部屋を訪れる者がいた。
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