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第6章 黒幕を追い詰めるも蓮花絶体絶命
5 裏切り
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やりきれないような感情が胸に湧きあがった。
蓮花は手にしていた牡丹をあしらった紅玉の簪に視線を落とす。
真実はなんて残酷なのだろう。
「そうだった。この簪、お返ししますね。本当は言うべきかどうか迷ったんですけど」
「今度はなに?」
「お子ができないと凜妃さま、嘆いていましたよね。それもそのはずなんです」
蓮花は手にしていた簪を、思いっきり地面に叩きつけた。
驚いた凜妃は、側にいた一颯の腕にしがみつく。
紅玉が割れ、そこから赤い粉と小さな花びらのようなものが地面に散らばった。
「この紅玉には紅花の粉が仕込まれていたから。言ったでしょう、紅花を使ったものは装飾品もだめだって。陽の光にかざした時に気づいてしまったの。つまり、凜妃さまに子ができないよう細工されていた」
「だって、これは陛下から下賜されたもの。陛下がわざわざ希少な石を取り寄せて……」
ようやく、凜妃は陛下の意図に気づき、目を見開いた。
「陛下は私に子ができないように……」
初めて知った真実に、凜妃は愕然とする。
赦鶯陛下は最初から凜妃を敬遠していた。
氷妃の姪である凜妃に子ができないよう細工していた。つまり、舒一族の勢力を大きくさせないよう、あらかじめ手を打っていたのだ。
「さあ、もう言い逃れはできないわよ。墨も化粧品も何もかも、すべて恵医師に調べてもらっている。それらが凜妃さまから贈られたものだってこともみなが知っている」
諦めたように凜妃は肩をすくめた。
「ええそうよ。何もかも私がやった。私は一族のためにも皇后にならなければいけなかった。没落した一族を再び繁栄に導くために。一族の命運がこの肩にかかっているのよ。なのに私は何も果たせていない。せっかく陛下の妃となっても、寵愛すらしてもらえない。おまえのような貧民に、私の苦しみなど分からないでしょうね。さあ一颯、この娘を殺して! そして、皇帝の座を奪い返すの!」
「そういうことだったか、凜妃」
凜妃の金切り声と重なるように、岩陰から赦鶯陛下が姿を現した。
背後に数十名の兵士を従えて。
凜妃を除く者全員が陛下の前に膝をつく。
「ごくろうだったな、一颯」
「どういうこと、一颯! 裏切るの!」
赦鶯の言葉に凜妃はきつく眉根を寄せ、仲間だと思っていた一颯に説明を求める。
「裏切るもなにも、僕はおまえと氷妃の悪事を暴くため、おまえの奸計に従う振りをしていた。赦鶯陛下の命令によって。今すぐ凜妃付きの太監を捕らえ、詳しい話を聞き出せ」
凜妃の太監を捕らえようと、兵士がいっせいに詰め寄る。
「一颯! あなたは氷妃さまの実の息子。なのに何故氷妃さまを裏切るような真似を!」
一颯はふっと笑った。
「たとえ、氷妃が生母であっても、凌家に預けられた時から僕は凌家の人間で、僕の母はただ一人。僕を実の子のように慈しみ育ててくれた香麗さま」
「なにを言っているの颯。本来ならあなたが皇位につく筈だったかもしれないのよ。惜しくはないの、皇帝という地位が!」
「今言ったはずだ。僕は凌家の人間で、赦鶯陛下の忠実な臣下だと」
赦鶯は感情のない眼差しで凜妃を見下ろした。
「凜妃を捕らえ慎刑司へと送れ。この件に関するすべてのことを吐かせろ!」
陛下の容赦ない言葉に、凜妃は青ざめながら後退する。
「待って! 私は叔母の氷妃さまに命じられただけなの。すべて叔母が仕組んだこと。本当よ。氷妃さまに会わせて! 捕らえるなら叔母も一緒よ!」
泣き叫ぶ凜妃の言葉を遮るようにその声が届いた。
「何を騒いでいるの。花を愛でに来たのだけれど、場が悪かったかしら」
蝋梅の木の陰から、一人の女が現れた。
風が吹けば倒れてしまうのではと思われる華奢な身体に、柳のようなしなやかな仕草。今にも消え入りそうなか細い声。まるで菩薩のような微笑みを浮かべる美しい女性であった。
蓮花は手にしていた牡丹をあしらった紅玉の簪に視線を落とす。
真実はなんて残酷なのだろう。
「そうだった。この簪、お返ししますね。本当は言うべきかどうか迷ったんですけど」
「今度はなに?」
「お子ができないと凜妃さま、嘆いていましたよね。それもそのはずなんです」
蓮花は手にしていた簪を、思いっきり地面に叩きつけた。
驚いた凜妃は、側にいた一颯の腕にしがみつく。
紅玉が割れ、そこから赤い粉と小さな花びらのようなものが地面に散らばった。
「この紅玉には紅花の粉が仕込まれていたから。言ったでしょう、紅花を使ったものは装飾品もだめだって。陽の光にかざした時に気づいてしまったの。つまり、凜妃さまに子ができないよう細工されていた」
「だって、これは陛下から下賜されたもの。陛下がわざわざ希少な石を取り寄せて……」
ようやく、凜妃は陛下の意図に気づき、目を見開いた。
「陛下は私に子ができないように……」
初めて知った真実に、凜妃は愕然とする。
赦鶯陛下は最初から凜妃を敬遠していた。
氷妃の姪である凜妃に子ができないよう細工していた。つまり、舒一族の勢力を大きくさせないよう、あらかじめ手を打っていたのだ。
「さあ、もう言い逃れはできないわよ。墨も化粧品も何もかも、すべて恵医師に調べてもらっている。それらが凜妃さまから贈られたものだってこともみなが知っている」
諦めたように凜妃は肩をすくめた。
「ええそうよ。何もかも私がやった。私は一族のためにも皇后にならなければいけなかった。没落した一族を再び繁栄に導くために。一族の命運がこの肩にかかっているのよ。なのに私は何も果たせていない。せっかく陛下の妃となっても、寵愛すらしてもらえない。おまえのような貧民に、私の苦しみなど分からないでしょうね。さあ一颯、この娘を殺して! そして、皇帝の座を奪い返すの!」
「そういうことだったか、凜妃」
凜妃の金切り声と重なるように、岩陰から赦鶯陛下が姿を現した。
背後に数十名の兵士を従えて。
凜妃を除く者全員が陛下の前に膝をつく。
「ごくろうだったな、一颯」
「どういうこと、一颯! 裏切るの!」
赦鶯の言葉に凜妃はきつく眉根を寄せ、仲間だと思っていた一颯に説明を求める。
「裏切るもなにも、僕はおまえと氷妃の悪事を暴くため、おまえの奸計に従う振りをしていた。赦鶯陛下の命令によって。今すぐ凜妃付きの太監を捕らえ、詳しい話を聞き出せ」
凜妃の太監を捕らえようと、兵士がいっせいに詰め寄る。
「一颯! あなたは氷妃さまの実の息子。なのに何故氷妃さまを裏切るような真似を!」
一颯はふっと笑った。
「たとえ、氷妃が生母であっても、凌家に預けられた時から僕は凌家の人間で、僕の母はただ一人。僕を実の子のように慈しみ育ててくれた香麗さま」
「なにを言っているの颯。本来ならあなたが皇位につく筈だったかもしれないのよ。惜しくはないの、皇帝という地位が!」
「今言ったはずだ。僕は凌家の人間で、赦鶯陛下の忠実な臣下だと」
赦鶯は感情のない眼差しで凜妃を見下ろした。
「凜妃を捕らえ慎刑司へと送れ。この件に関するすべてのことを吐かせろ!」
陛下の容赦ない言葉に、凜妃は青ざめながら後退する。
「待って! 私は叔母の氷妃さまに命じられただけなの。すべて叔母が仕組んだこと。本当よ。氷妃さまに会わせて! 捕らえるなら叔母も一緒よ!」
泣き叫ぶ凜妃の言葉を遮るようにその声が届いた。
「何を騒いでいるの。花を愛でに来たのだけれど、場が悪かったかしら」
蝋梅の木の陰から、一人の女が現れた。
風が吹けば倒れてしまうのではと思われる華奢な身体に、柳のようなしなやかな仕草。今にも消え入りそうなか細い声。まるで菩薩のような微笑みを浮かべる美しい女性であった。
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