視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子

文字の大きさ
69 / 76
第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ

14 意外な繋がり

しおりを挟む
 それからしばらくして、景貴妃が倒れたという知らせが宮廷中に知れ渡った。それも、倒れた原因が毒だという。
 蓮花は恵医師とともに、花園にある池にやってきた。
 永明宮で話しこんでは、誰かに聞かれてしまう恐れがあるからだ。なので。最近ではこうして、人気のない場所にやってきて、恵医師と相談をするようになった。
「まさか、景貴妃が倒れるなんて」
「亡くなる直前、凜妃が景貴妃に食事の差し入れを持っていったのですが、毒が入っていたのは食事ではなく、侍女が出したお茶だったそうで」
「毒の種類は?」
鶴頂紅かくちょうこうです」
「ヒ素か……気づかずに飲んでしまったのね」
「素人ではヒ素を見抜くのは難しいでしょう。無味無臭で温水に溶け、致死量を飲んだ場合、胃痛、下痢、喉の渇き、けいれん、失神を経て数時間のうちに死に至ります。幸い毒の量が少量だったため、命を落とすに至りませんでしたが」
 お茶を入れた侍女は景貴妃のお気に入りの美月だ。
 彼女は拷問のすえに命を落とした。
 最初は知らないと言っていた侍女であったが、最期には罪を認めた。
 美月はこう言ったのだ。
 皇后の命令でヒ素を盛ったと。
 蓮花は大きくため息をつく。現在陛下の勅命で詳しく調査中だが、ここに来て、何者かが皇后を陥れようと画策している。
 さらに身ごもった皇后が、自分のお気に入りの侍女である蓮花を陛下に仕えさせたことも、今さらになってよくない噂が立ち始めた。
 皇后が景貴妃に激しく嫉妬し、さらに自分の子を太子にするため、他の妃嬪を陛下から遠ざけたと反感の声が上がるようになったのだ。
 何をしても後付けで文句を言われ、時には罪に問われる。
 後宮では慎重になれと厳しく注意をした香麗夫人の言葉をようやく理解した。だが、皇后が景貴妃にヒ素を盛るはずがない。
 いったい、誰の仕業か。
 蓮花は手を握りしめ震わせた。
「蓮花さん、これ以上はもう首を突っ込まない方がよろしいかと思います。蓮花さんはよくやったと思います。皇子の出産にも大きく貢献した。いずれ後宮を出る身であるのなら、もう何を聞いても知らないふりをするべきかと。敵は思っていた以上に狡猾で陰湿です」
 恵医師の言葉に、蓮花は首を横に振る。
 やりきれないという表情だ。
 二人の会話からして、すでに黒幕の正体は分かったという様子であった。
「蓮花さんがここで命を落としては、天国のご両親も悲しむだけです」
 しかし、蓮花はそうだね……と生返事を返すだけであった。
 恵医師はため息をつく。
「両親といえば蓮花さん、以前もお父上のお名前を窺おうとして聞きそびれてしまったのですが、お名前をよろしいですか?」
「父の名前? 陽士ヤンシーよ」
 恵医師は驚いた顔で蓮花を見つめ返した。そして、その目に涙が浮かぶ。
「え、どうしたの? いきなり泣くなんて」
「まさか、蓮花さまのお父上があの陽士さまだったとは!」
「父を知ってるの?」
「もちろんです! かくいう私めも陽士さまに弟子入りをし、師事しておりました。もっとも短い期間ですが。まさか、陽士さまの娘が蓮花さまだったとは」
「ってことは、父も宮廷にいたってこと?」
「いいえ、陽士さまは宮廷侍医ではございません。町医者ですが、その腕のよさは広く世間に知れ渡り、翆蘭さまも陽士さまを信頼し、時折宮廷に呼んで診てもらっていたようです」
「そうなんだ。父がそんな立派な医者だったなんて」
 初めて父のそんな話を聞いた。
 できることなら、まだまだ父の話を聞きたいところであったが、そろそろ皇后の元へ戻らなければならない。
 そう思い、永明宮に戻ろうとしたところへ、遠くから話し声が聞こえてきた。
 咄嗟に、蓮花は恵医師の腕を掴み、慌てて木の陰に身を隠す。なぜ身を隠したのか自分でも分からない。だが、何か嫌な予感を抱いたのだ。
 これは霊能者の勘。そして、霊能者の勘はたいてい当たる。
 あれは? と口を開いた蓮花の口に、恵医師は黙ってと手で押さえる。
「ここのところ体調がすぐれないと言っていたが平気か? この前も倒れたと聞いたぞ」
「ええ、正直あまりよくないわ。でも、大丈夫よ。今ここで倒れるわけにはいかないもの」
「しかし、景貴妃に毒を盛ったのはやりすぎではないのか?」
「盛ったのは私ではないわ」
「だが、指示したのはあなただろう?」
「邪魔な者には消えてもらう。それだけのことよ。それに、李一族の勢力を削げば、あなただって玉座につきやすいでしょう? ねえ、一颯」
 蓮花と恵医師は息をつめ、秘密話をする二人の会話を聞いていた。
「景貴妃は倒れた。陛下の寵臣である景貴妃の兄も投獄された。これで、あなたが皇帝になり、私が正妃となって皇后の地位に就けば、一族に栄華をもたらせる。ようやく叔母、氷妃さまの願いを叶えられる。そうでしょう?」
 そう言った女は、これまで見たこともないなまめかしい笑みと蕩けるような眼差しで一颯を見上げた。
「あなたもずっと辛い思いをしてきたわね。本来なら一颯が皇帝になるはずだった。あなたは先帝と氷妃の間に生まれた子。なのに、皇太后のせいであなたは玉座から遠のかされた。後はあの邪魔な娘を早々に片付ければ終わり。あの動物並みに勘が鋭い小娘、意外にしぶとくて困ったものよ」
 蓮花は肩を震わせた。
 あの女の叔母が氷太妃だった。さらに、一颯が氷太妃の息子。
 一颯は実は皇帝の座を狙い、そしてあの女は皇后の座につこうとしている。そして、あたしも殺されようと。
 赦鶯が暗殺されそうになって申し訳ないと悔やみ、自害しようとしていた一颯の行動も、あれは他人の目を欺くための演技だった。
 まんまと騙されたのだ。
 恵医師も緊張した面持ちで、二人の会話に耳を傾けていた。
 ふと、蓮花は池の中を指差した。
「見て! これ……」
「これはひどい」
「ねえ恵医師。あたし、逃げるのやめた。このままじゃ、皇后さまや皇子さまの命も危ない。知らないふりなんてできない。あたし、戦うよ」
 恵医師はため息をつく。
 だが、そう言うであろう蓮花の行動もお見通しだったようだ。
「分かりました。ならば、私も最後までお付き合いいたします」
「ありがとう。そのためにも、最後の大仕事があるんだけど、頼んでいい?」
「乗りかかった船です。何をすればいいのですか?」
「一つ、あるものを掘り起こして欲しいの。死体を」
 恵医師はなんともいえない表情を浮かべ黙り込む。
「これまで、薬草の根っこを掘り起こす作業は散々やってきましたが」
「似たようなものよ。その死体を掘って調べて欲しいことがあるの。医師である恵医師にしかできない」
「……正直、気が進みませんが、やりましょう」
「巻き込んで、ごめん」
「いいですよ。こうして恩師の娘さんと出会ったのも、何かの縁でしょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

郷守の巫女、夜明けの嫁入り

春ノ抹茶
キャラ文芸
「私の妻となり、暁の里に来ていただけませんか?」 「​はい。───はい?」 東の果ての“占い娘”の噂を聞きつけ、彗月と名乗る美しい男が、村娘・紬の元にやってきた。 「古来より現世に住まう、人ならざるものの存在を、“あやかし”と言います。」 「暁の里は、あやかしと人間とが共存している、唯一の里なのです。」 近年、暁の里の結界が弱まっている。 結界を修復し、里を守ることが出来るのは、“郷守の巫女”ただ一人だけ。 郷守の巫女たる魂を持って生まれた紬は、その運命を受け入れて、彗月の手を取ることを決めた。 暁の里に降り立てば、そこには異様な日常がある。 あやかしと人間が当たり前のように言葉を交わし、共に笑い合っている。 里の案内人は扇子を広げ、紬を歓迎するのであった。 「さあ、足を踏み入れたが始まり!」 「此処は、人と人ならざるものが共に暮らす、現世に類を見ぬ唯一の地でございます」 「人の子あやかし。異なる種が手を取り合うは、夜明けの訪れと言えましょう」 「夢か現か、神楽に隠れたまほろばか」 「​──ようこそ、暁の里へ!」

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる

gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く ☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...