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第5章 危機一髪皇帝暗殺を阻止せよ

9 呪詛

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 皇弟は謀反の罪で処刑。そして、皇弟の正室であった翆蘭と息子も、処刑されるはずであったが、翆蘭に密かに恋心を抱いていた皇帝陛下は翆蘭に貴妃の位を与え自分の側室として迎え、彼女の息子も己の子として育てることにした。
 一方、皇弟に玉座簒奪をそそのかした張本人である氷妃は、突然気が触れ、何を問うてもまともに答えられず、以来、自分の宮殿に引きこもり、滅多に外に出ることがなくなった。
 皇帝暗殺の罪から逃れるため、氷妃は気が触れた振りを演じたのだ。
 事件はいったん収まったかのように思えたが、そうではなかった。
 当時、皇帝陛下には四人の皇子がいたが、そのうち二人が急死した。
 自分の息子を太子にたてようと翆蘭が企んだのだ。
 かくもそのように欲深く邪悪な女だったとは、と陛下は激怒し、翆蘭から貴妃の位を剥奪。庶人に落とし、彼女を冷宮に送った。そして、翆蘭の息子も皇族としての身分を廃し、宮廷から追い出した。
 息子は臣下にあずけられた。
 おそらく、翆蘭は氷妃の仕掛けた罠にはめられたのだ。
「私は何度も氷妃を処刑するよう陛下に進言したが、結局、今もあの女はこの後宮で生きている」
 氷妃……なんて恐ろしい女なのだろう。
「このままでは私自身もあの毒婦によって陥れられ、皇后の座を奪われるかもしれないと恐れた。何故なら、私には陛下との間に子が出来なかったから。いつか、氷妃によってこの座を引きずり落とされるかもしれないと思った私は、翆蘭の子を引き取り、我が息子として育てた」
 ん? と蓮花は首を傾げる。
 皇帝の母は皇太后だ。
「え? じゃあ、翆蘭の息子というのが赦鶯陛下?」
 そうだった、確か一颯は陛下と皇太后は血が繋がっていないと言っていた。
「そう。私があの子を引きとり、太子にたて皇帝にした」
 そこで、皇太后はこめかみの辺りを手で押さえた。
「皇太后さま、いつもの頭痛ですか? もうお休みになったほうが」
 側にいた侍女が皇太后の体調を気遣う。
 皇太后は苦しそうに胸を押さえ込んだ。これ以上、今日はお話を聞くのは無理だろう。
 皇太后の身体が心配だ。
「蓮花、真実を知りたいと思うなら、冷宮にいる翆蘭に会いなさい」
 蓮花は無言で頷いた。
 母が仕えていた妃を訪ねれば、もっと詳しいことを聞き出せるかも。
「ありがとうございます。皇太后さま、母のことを教えてくださり感謝いたします」
 礼を言い、皇太后が住む宮を出た蓮花は、侍女に呼び止められた。
「芙答応さま」
 呼ばれて蓮花は振り返った。
 ちょうどこちらも話があったので侍女の方からやって来てくれて助かった。
 皇太后さまがいる前で、こんな話はしたくなかったから。
「芙答応さまには、あれが何に視えましたか?」
「もしかして? あなたも視える人?」
「いえ、私には芙答応さまのような力はございません。ですが、何かよくない気配を皇太后さまの周りから感じるのです。何か視えたのなら、どうか教えてください」
「何者かが皇太后さまを狙っていた」
「狙う? それは命ですか……誰が……まさか氷妃?」
 蓮花は口元に指を立て、黙ってというように侍女の言葉を遮る。
「呪詛はあたしが祓ったけど、誰が皇太后さまに呪いをかけたかまでは突き止めることはできなかった。また呪いを仕掛けてくるかも。それを回避するためにも、皇太后さまの部屋に花をかかさずに置いて。皇太后さまの代わりに、生きた花を身代わりにたてるの。呪詛を向けられた花はすぐに枯れるから、そのたびに新鮮な花を活けて」
「かしこまりました」
「あたしのほうでも、呪詛を向けた者を調べてみる。でもすぐ分かるわ。はね返った呪いは必ず術者に戻るから。それも、倍になってね」
 侍女が言った通り、皇太后と寵愛を競っていた氷妃の仕業なのだろうか。
 彼女が今でも皇太后に恨みを抱き呪っているのか。
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