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第4章 え? あたしが夜伽! それだけは勘弁してください
1 皇后の憂鬱
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それから月日は経ち、皇后のお腹の子も順調に育ち、安定期に入った。
蓮花も皇后の身に何も起きないよう注意深く目を配っていたが、あれ以来特に大きな事件が起こることはなく、平穏に過ごせた。
景貴妃も皇后の子を害そうという悪巧みは諦めたのか、今のところ何も仕掛けてくることはない。このまま、おとなしくしていてくれることを願うばかりだ。
しかし、何事もなくお腹の子が育ち、陛下も気にかけてくれているというのに、皇后の気鬱は晴れることなく、いっそう暗い顔でため息をつくことが増えた。
「皇后さま、そんなお顔をされていてはお腹の子にもよくないですよ」
言って、侍女頭の暁蕾は窓の外を見やる。
その横で蓮花はうちわで皇后をあおいでいた。
「皇后さま、お天気もよいですしお庭を散策しませんか。そうそう! この間凜妃さまからいただいた口紅と頬紅を試してみませんか? お化粧をすればお顔色も明るくなるし、少しは気持ちが晴れると思いますよ」
明玉はあれやこれやと皇后の気を引き、凜妃から贈られたという口紅と頬紅の入った容器を持ってきて容器の蓋を開け、皇后に見せる。
「ほら、素敵なお色です! 以前にも贈られた化粧品を皇后さまがとても気に入ったと仰ったら、気を利かせて凜妃さまがまた贈ってくださったの」
「まあ、派手すぎないのに華やかさを感じるお色ね。皇后さまにぴったりだわ。さすが凜妃さま、皇后さまのことをよく分かっていらっしゃる」
化粧品を見た暁蕾も、目を輝かせていた。
「凜妃さまの贈り物?」
蓮花もどれどれと覗き込む。
「そうよ。とても貴重なものらしくて、以前皇后さまが懐妊した時もお祝いにといって贈ってくださったの」
「へえ、ほんとだ。きれいな色の口紅だね」
けれど、皇后は元気のない表情でいいえ、と首を振る。
「本当にあまり気分がすぐれないの」
頭を押さえ深いため息をつき、皇后はさらに声を落として言う。
「侍医を呼びましょうか?」
「いいのよ。たいしたことではないから。ただ、心配なだけ。生まれた子が皇子でなかったらどうすればいいのかと思うと」
明玉と暁蕾、そして蓮花は互いに顔を見合わせた。
「皇后さま、間違いなく皇子ですよ。侍医も言っていたではないですか。左の脈が勢いがいいって。だから間違いなく皇子さまだって!」
明玉は励ますように言う。
もちろん、このことは皇后を慕う凜妃意外には口外していない。もし、皇子だということが周りに知られたら、またどんな企みを仕掛けてくるか分からないから。
「そうですよ。いいえ、たとえ、公主だとしても、陛下はお喜びになります。陛下の皇后に対する愛情は深いのですから」
暁蕾も皇后に言い聞かせるよう慰めの言葉をかける。
しかし、どんなに侍女たちの励ましも慰めも、皇后の心を晴らすことはできない。
「皇子でなければ意味がないわ。陛下も皇子を産んでくれるのを期待していると言った」
「皇后さま……」
「それに、陛下はここのところ、景貴妃のところに通ってばかり」
確かに、懐妊してから陛下は頻繁に皇后の身体を気遣い永明宮に顔を出してくれるが、夜はもっぱら景貴妃のところに泊まっている。だがそれは、景貴妃が何かと理由をつけて我が儘を言い、陛下を呼び出し引き止めているからと聞いたが。
暁蕾は明玉と蓮花を含め、周りにいる侍女たちに目で合図する。
すぐに、一礼してみな部屋から出て行った。この場に残ったのは皇后と古参の侍女の暁蕾だけ。
暁蕾は皇后の側に寄り、声を落として言う。
「皇后さま、陛下が永明宮に通ってくださるためにも、誰かを陛下にお仕えさせるべきだと思います。幸い、陛下は蓮花をお気に召しているようです」
うつむいていた皇后はゆっくりと顔をあげた。
蓮花も皇后の身に何も起きないよう注意深く目を配っていたが、あれ以来特に大きな事件が起こることはなく、平穏に過ごせた。
景貴妃も皇后の子を害そうという悪巧みは諦めたのか、今のところ何も仕掛けてくることはない。このまま、おとなしくしていてくれることを願うばかりだ。
しかし、何事もなくお腹の子が育ち、陛下も気にかけてくれているというのに、皇后の気鬱は晴れることなく、いっそう暗い顔でため息をつくことが増えた。
「皇后さま、そんなお顔をされていてはお腹の子にもよくないですよ」
言って、侍女頭の暁蕾は窓の外を見やる。
その横で蓮花はうちわで皇后をあおいでいた。
「皇后さま、お天気もよいですしお庭を散策しませんか。そうそう! この間凜妃さまからいただいた口紅と頬紅を試してみませんか? お化粧をすればお顔色も明るくなるし、少しは気持ちが晴れると思いますよ」
明玉はあれやこれやと皇后の気を引き、凜妃から贈られたという口紅と頬紅の入った容器を持ってきて容器の蓋を開け、皇后に見せる。
「ほら、素敵なお色です! 以前にも贈られた化粧品を皇后さまがとても気に入ったと仰ったら、気を利かせて凜妃さまがまた贈ってくださったの」
「まあ、派手すぎないのに華やかさを感じるお色ね。皇后さまにぴったりだわ。さすが凜妃さま、皇后さまのことをよく分かっていらっしゃる」
化粧品を見た暁蕾も、目を輝かせていた。
「凜妃さまの贈り物?」
蓮花もどれどれと覗き込む。
「そうよ。とても貴重なものらしくて、以前皇后さまが懐妊した時もお祝いにといって贈ってくださったの」
「へえ、ほんとだ。きれいな色の口紅だね」
けれど、皇后は元気のない表情でいいえ、と首を振る。
「本当にあまり気分がすぐれないの」
頭を押さえ深いため息をつき、皇后はさらに声を落として言う。
「侍医を呼びましょうか?」
「いいのよ。たいしたことではないから。ただ、心配なだけ。生まれた子が皇子でなかったらどうすればいいのかと思うと」
明玉と暁蕾、そして蓮花は互いに顔を見合わせた。
「皇后さま、間違いなく皇子ですよ。侍医も言っていたではないですか。左の脈が勢いがいいって。だから間違いなく皇子さまだって!」
明玉は励ますように言う。
もちろん、このことは皇后を慕う凜妃意外には口外していない。もし、皇子だということが周りに知られたら、またどんな企みを仕掛けてくるか分からないから。
「そうですよ。いいえ、たとえ、公主だとしても、陛下はお喜びになります。陛下の皇后に対する愛情は深いのですから」
暁蕾も皇后に言い聞かせるよう慰めの言葉をかける。
しかし、どんなに侍女たちの励ましも慰めも、皇后の心を晴らすことはできない。
「皇子でなければ意味がないわ。陛下も皇子を産んでくれるのを期待していると言った」
「皇后さま……」
「それに、陛下はここのところ、景貴妃のところに通ってばかり」
確かに、懐妊してから陛下は頻繁に皇后の身体を気遣い永明宮に顔を出してくれるが、夜はもっぱら景貴妃のところに泊まっている。だがそれは、景貴妃が何かと理由をつけて我が儘を言い、陛下を呼び出し引き止めているからと聞いたが。
暁蕾は明玉と蓮花を含め、周りにいる侍女たちに目で合図する。
すぐに、一礼してみな部屋から出て行った。この場に残ったのは皇后と古参の侍女の暁蕾だけ。
暁蕾は皇后の側に寄り、声を落として言う。
「皇后さま、陛下が永明宮に通ってくださるためにも、誰かを陛下にお仕えさせるべきだと思います。幸い、陛下は蓮花をお気に召しているようです」
うつむいていた皇后はゆっくりと顔をあげた。
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