視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子

文字の大きさ
上 下
31 / 76
第3章 恐ろしき陰謀渦巻く宮廷にご用心

3 捕らえられた蓮花

しおりを挟む
「わざわざ気遣って申し訳ないけれど、今は食欲がないの。後でいただくわ」
「皇后さまは、もしかして私を疑っているの? 毒が入っていると思っていらっしゃるのね。だとしたら、ひどいわ。私たちは姉妹よ。姉のお身体を心配するのは当然ではなくて?」
 どの口がそれを言う!
 わざとらしく景貴妃は手巾を目元にあて、嘘泣きをする。
「それに、山参は懐妊された皇后さまに是非と私の実家から届けられたもの。皇后さまは私の実家すらもお疑いになるというのですね」
 あんたを含め、あんたを皇后の座につけようとするあんたの一族だって敵よ!
 皇后は小さく息をつくと、器を手に取った。
 匙を手に器の中の汁物をゆっくりとかき混ぜるのを見て、景貴妃はにこりと微笑む。
 皇后は匙を口元に持っていこうとする。
『飲んではだめ』
 突如、蓮花の脳裏にその声が響いた。
 視線を巡らせると、景貴妃の横に一人の女性の霊が立ち首を横に振っている。
 例の霊!
 凜妃の簪を見つけてくれた時、景貴妃から処罰を受け自ら舌をかみ切るのを止めた時と、二度も蓮花を救ってくれた女性だ。
「だめ! 飲んじゃだめです!」
 蓮花は叫んで皇后の手から器を取り上げた。
「失礼な。せっかくの景貴妃さまの好意を! 毒を盛ったと疑うのか!」
 景貴妃の侍女美月が怒りの声で、蓮花に指を突きつける。
 蓮花はちらりと、みなには見えないその女性に視線をやる。その女は頷いた。
『間違いなく、それを飲めば取り返しのつかないことになる』
「景貴妃さまの気遣いを無駄にするとは、なんて無礼な侍女でしょう!」
「何が入っているか分からないものなんて、飲ませられないでしょ! 皇后さまに万一のことがあったら責任をとれるの!」
「そう。では、私が飲んでみればいいのね。それで納得するかしら」
 そう言って、景貴妃は蓮花の手から器をとり、羹を匙ですくい一口飲む。
 口元を手巾で拭い、景貴妃はにっと口角をつり上げ笑った。
「これで、私の疑いは晴れたかしら」
 そんな……何でもないなんて。待って、即効性のない毒かもしれない。ううん、と蓮花は心の中で首を振る。即効性がないにしても、毒の入った汁物を、景貴妃自ら飲むなんて考えられない。
 蓮花のこめかみに汗が流れ落ちる。
 もしかしてあたし、しくじった?
 毒なんて入っていなかった。あたしの勘違い。あるいは、はめられたのはあたし?
 蓮花は再びあの女性が立っていた場所を見るが、すでに女の姿は消えていた。
「せっかくの私の好意を疑われるなんて不敬にもほどがあるわ」
「ま、待って。その汁物、もっとよく調べっ!」
 景貴妃が蓮花の頬を叩いた。
「この娘を慎刑司送りにしなさい」
「待ちなさい。蓮花は私の身体を気づかっただけですよ」
 皇后が蓮花を庇おうとするが、景貴妃は取り合わなかった。
「皇后がこの娘を甘やかすからいけないのだわ。これでは後宮の、他の宮女たちにも示しがつかないでしょう?」
「私がかまわないと言っているのです」
「たとえ皇后の身体を気づかったとしても、たかが侍女ごときがこの私に不敬を働くのは許せるものではない」
 それでも皇后が蓮花を庇おうとするが、側にいた暁蕾がいけません、と引き止める。
「今は大切な時です。ここで興奮されてはお腹の子にも影響が」
 員子、と呼んで景貴妃は側に控える太監に目配せをする。
「つれていき、罰を与えなさい」
 太監に腕をとられ、蓮花は半ば強引に引きずられて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん
キャラ文芸
桃玉は10歳の時に両親を失い、おじ夫妻の元で育った。桃玉にはあやかしを癒やし、浄化する能力があったが、あやかしが視えないので能力に気がついていなかった。 しかし桃玉が20歳になった時、村で人間があやかしに殺される事件が起き、桃玉は事件を治める為の生贄に選ばれてしまった。そんな生贄に捧げられる桃玉を救ったのは若き皇帝・龍環。 桃玉にはあやかしを祓う力があり、更に龍環は自身にはあやかしが視える能力があると伝える。 「俺と組んで後宮に蔓延る悪しきあやかしを浄化してほしいんだ」 こうして2人はある契約を結び、九嬪の1つである昭容の位で後宮入りした桃玉は龍環と共にあやかし祓いに取り組む日が始まったのだった。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari@七柚カリン
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。  そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。  心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。  峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。  仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。  ※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。    一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。

処理中です...