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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!

15 理不尽なこと

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「さあ、視るがよい」
 蓮花はひざまずき、ひたいを床につけた。
「申し訳ございません、私に未来を視る力はございません」
 半分事実で、半分は嘘だ。
 そもそも、人の未来を視るなんてことができたら、両親の危機を事前に察知して回避できた。
 ただ、霊能力として時折、その人のこれから起きることがふっと脳裏に浮かんで視えることがある。
 それを未来を読む力だというなら、自分の意思でどうこうできるものではない。
「私の頼みがきけないというのか? それとも、私の未来に望みはないと。どちらだ?」
「いいえ、本当に私に未来を視ることなどできないからです」
華雪ホアシユエ
 景貴妃は側にいる侍女に目配せをする。華雪と呼ばれた侍女は、つかつかと蓮花の元に近寄り手を振り上げた。次の瞬間、頬に鋭い痛みが走る。
 打たれたのだ。
 強い衝撃に、蓮花の身体が横に倒れる。
 その衝動で袂に忍ばせていた凜妃の簪が床に落ちた。
 みなの視線がそれに向けられる。
「それはなんだ?」
「こ、これは」
 蓮花は慌てて簪を拾った。
 ま、ま、まずい。
 かなりピンチだ。
「それは凜妃が陛下より賜った紅玉の簪。遠い国、凜妃の故郷せい国から陛下がわざわざ手に入れた希少な石。それを凜妃のために誂えたと聞いた。何故おまえが持っている?」
「そ、それは……その」
「景貴妃さま、聞けばこの者は後宮へ来る前は貧しい寒村で生まれ育ったとか、手癖が悪いのはそのせいでしょう」
 蔑む目で蓮花を見下し、華雪は口元に嘲笑を刻む。
 うわ、みんなあたしが霊能者だってことも、辺境の田舎で育ったってことも知っているんだ。てか、どうしよう。
 あたしが簪を盗んだと疑われている。
 凜妃に事情を説明してもらい、誤解を解いてもらうべきか。
 否、と蓮花は心の中で首を振る。
 それはできない。そんなことをしたら、陛下から下賜された簪を落としたと、凜妃が罰せられてしまう。
 それは避けなければいけない。
 だが、自分の命も大切だ。
「あたしは盗んでいません!」
 まっすぐに景貴妃を見上げ、蓮花はきっぱりと言う。
 盗んでいないものは盗んでいない。だが、そう訴えても通用しないのが後宮の恐ろしい所だとまだこの時の蓮花は知らない。
 景貴妃は赤い唇を歪めた。
員子いんし
「はい、ここに」
 景貴妃に呼ばれてすぐに、お付きの太監が部屋に現れた。
「盗んでいないと言い張っても、凜妃の簪がその手にあるのは事実。これ以上の言い逃れはできない。その者に丈刑の罰を与えなさい」
「かしこまりました。何回打ちましょう?」
 景貴妃はニタリと笑う。
「決まっているだろう。死ぬまでだ」
 蓮花は青ざめた。
「ちょっと待って。あたしの言い分も聞かずに罰だなんて、そんなこと許されると思うの!」
「許される? 分かっていないようだね。おまえの言い訳など必要ないのだよ。員子、丈刑の前に、嘘つきなこの盗人の舌を引っこ抜いておしまい。簪とともに、切り取った舌を凜妃に届けておやり」
 ここでは私が法だと言わんばかりの横暴さだ。
「かしこまりました」
 つかつかと歩み寄ってきた員子は、蓮花を取り押さえた。
 ちょっ! まじで冗談ではない!
 蓮花は目の前に座る景貴妃を鋭い目で睨みつけた。
 彼女の周りに漂う黒い影からたくさんの目が現れ光り、こちらを嘲笑いながら見下ろしている。
『かわいそうに。あんたもこの毒婦に目を付けられ殺されるんだ』
『私もこの女のせいで殺された』
『ねえ見て、あたしの耳。両方ともないの。景貴妃に呼ばれたことに気づかないでいたら、その耳は必要ないって言われて切り取られた』
 うるさい亡霊ども! 黙れ、消えろ!
「ほう? 私のことを睨みつけるとは不敬にもほどがある。員子、二度とその目で私を見られないよう、両目もくり抜いてしまえ」
「かしこまりました」
 員子はニヤリと笑い、蓮花を部屋から連れ出そうとする。
「こんな理不尽なことってある! あたしは盗んでいないっ!」
 数名の太監たちに両腕を押さえつけられた。
 員子の手に握られた小刀が目の前に迫る。
「この手を離せっ!」
「まずは、これ以上騒げないよう、舌を切り取ってやろう」
 太監たちの手によって口をこじあけられ、舌を引っ張りだされた。
 本当に舌を切り取るつもりだ。
 なにもかも全部、一颯のせいだ。
 あの男があたしをこんなところに連れて来たから。
 舌を切り取られたら、一生一颯を恨んでやる。恨んで呪って毎晩あいつの枕元に現れて恨み言を言ってやる!
 きらりと光る小刀の刃が迫る。
 切り取られるくらいなら、いっそうのこと自分で舌を噛みちぎってやろうと思ったその時、太監の背後に一人の女が立っているのが見えた。
 凜妃の落とした簪のありかを教えてくれた幽霊だ。
 蓮花が舌をかみ切るのを止めるかのように、その女は首を横に振る。そして、ゆっくりと腕を持ち上げ、門の方を指差した。
 その直後。
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