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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
10 陛下のことなんて興味ない
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「来世は幸せになれるよ。きっと」
この様子を遠目で見ていた宮女たちが、顔を引きつらせていた。
「あの子、何もないところに向かって喋ってる」
「前にもそんなことがあったわ。その時は怒鳴ってた。やっぱり頭がおかしいのよ」
「どうしてあんな子を皇后さまは気にかけるのかしら」
蓮花に霊能力があることを知らない者からすれば、彼女が独り言を呟きおかしな行動をとっているとしか思えないのだ。
「ほんとに、後宮って大変なところなんだなあ」
「慣れるまで大変かもしれないけど、頑張って!」
背後から励ましの言葉をかけられ、蓮花はびくりと肩を跳ねた。
いつの間にか皇后付きの侍女、明玉が後ろに立っていた。
明玉は蓮花の指導係もかねている。
同じ年頃ということもあり、気さくに蓮花に接してくる。
明玉という名を現すように、明るい性格で、玉のようによくころころ笑う少女であった。
「あ、そういう意味で言ったんじゃなくて……」
どうやら思ったことを口に出してしまう癖は気をつけなければならない。
ここは後宮、余計な一言が後々の災いを招くことになるかもしれないのだ。
「意地悪する人もいるけれど、気にしない方がいいよ。ここはそういう所だから」
「え? あたし意地悪されてるの?」
明玉はぷっと吹き出した。
「気づいてないんだ。それならいいけど。蓮花ってほんと、面白いね。てか、皇后さまから聞いたよ。蓮花って幽霊がみえるんだって? もしかして今も霊と喋ってた?」
「あー」
蓮花は言葉を濁す。
「私も亡くなった祖母が枕元に会いに来たことがあるから霊の存在は信じるよ。でも、理解できない人も多いから」
「ありがとう。気をつける」
「後宮は優雅で食べるのも寝るところにも困らないけれど、同時に、恐ろしいところだから、まじ気をつけて。ところで蓮花はどうして後宮に?」
「それは……」
言いよどむ蓮花に、何か深い事情があるのだと察した明玉はあ、と言って手をかざす。
「言いたくない事情があるなら言わなくていいよ。無理には聞かない。おとなしく波風立てず目立たなく生きていけば大丈夫。年季が明ければここを出られるし。皇后さまのお気に入りなら、良い嫁ぎ先も世話してもらえる。まあ、陛下の目にとまって寵妃にでもなれば別だけど」
陛下の目にとまると聞き、蓮花は口を曲げた。
「まさか、興味ないよ」
陛下の寵妃なんて冗談ではない。それに、用がすんだら後宮を出るつもりだし、自分はあくまで両親を殺した奴を見つけてもらうために一颯に協力しただけ。
興味がないと言った蓮花に、明玉はふふふ、と意味ありげに肩を震わせ笑った。
「故郷に思う人がいるんだね。今度、恋バナ聞かせてよ!」
「え? 違っ」
なんか勘違いしているし!
「陛下に目をかけられたくないなんて、誰か好きな人がいるからでしょう? 大丈夫、大丈夫。目にとまるなんて、そんな機会まずないから!」
明玉はけたけたと笑い、蓮花の肩をぽんと叩いた。
「とめて」
蓮花と明玉がそんな会話をしているところ、永明宮の門の前を通り過ぎようとする輿があった。
輿に乗っていた女の命令で、太監や侍女たちがぴたりと足を止める。
退屈そうな顔で輿に乗っていた女は、何かに興味を引いたらしく、永明宮の中をじっと見つめていた。
「あの娘、見たことのない顔だけれど、誰?」
輿に乗った女が側に控える侍女に尋ねる。
「はい、先日皇后の侍女として後宮に来た者で、名を蓮花といいます。凌家の若様が連れて来られたとか」
「ふうん」
輿に乗る女は目を細めた。
艶やかな色気を漂わせる女性であった。
着ている衣の生地も刺繍も、身を飾る装飾品も上等なもので、高貴な身分であることが窺える。
彼女こそ、皇后と勢力を争う景貴妃であった。さらに、侍女は景貴妃の側に一歩詰め寄り声を落として言う。
「凜妃の侍女たちが話していたのを小耳に挟んだのですが、あの蓮花という娘には特別な力があるそうです」
景貴妃は整った眉をあげた。
永明宮の庭で侍女と話し込んでいる蓮花に興味を示す。
「なんでも、亡霊が視えて祓えるとか。さらに、未来も予測でき、人を呪い殺すことも……つまり、霊能者だそうです」
「ほう? 未来が見えると」
景貴妃は朱く塗られた唇の端をつり上げ、興味深そうに蓮花を見つめていた。
この様子を遠目で見ていた宮女たちが、顔を引きつらせていた。
「あの子、何もないところに向かって喋ってる」
「前にもそんなことがあったわ。その時は怒鳴ってた。やっぱり頭がおかしいのよ」
「どうしてあんな子を皇后さまは気にかけるのかしら」
蓮花に霊能力があることを知らない者からすれば、彼女が独り言を呟きおかしな行動をとっているとしか思えないのだ。
「ほんとに、後宮って大変なところなんだなあ」
「慣れるまで大変かもしれないけど、頑張って!」
背後から励ましの言葉をかけられ、蓮花はびくりと肩を跳ねた。
いつの間にか皇后付きの侍女、明玉が後ろに立っていた。
明玉は蓮花の指導係もかねている。
同じ年頃ということもあり、気さくに蓮花に接してくる。
明玉という名を現すように、明るい性格で、玉のようによくころころ笑う少女であった。
「あ、そういう意味で言ったんじゃなくて……」
どうやら思ったことを口に出してしまう癖は気をつけなければならない。
ここは後宮、余計な一言が後々の災いを招くことになるかもしれないのだ。
「意地悪する人もいるけれど、気にしない方がいいよ。ここはそういう所だから」
「え? あたし意地悪されてるの?」
明玉はぷっと吹き出した。
「気づいてないんだ。それならいいけど。蓮花ってほんと、面白いね。てか、皇后さまから聞いたよ。蓮花って幽霊がみえるんだって? もしかして今も霊と喋ってた?」
「あー」
蓮花は言葉を濁す。
「私も亡くなった祖母が枕元に会いに来たことがあるから霊の存在は信じるよ。でも、理解できない人も多いから」
「ありがとう。気をつける」
「後宮は優雅で食べるのも寝るところにも困らないけれど、同時に、恐ろしいところだから、まじ気をつけて。ところで蓮花はどうして後宮に?」
「それは……」
言いよどむ蓮花に、何か深い事情があるのだと察した明玉はあ、と言って手をかざす。
「言いたくない事情があるなら言わなくていいよ。無理には聞かない。おとなしく波風立てず目立たなく生きていけば大丈夫。年季が明ければここを出られるし。皇后さまのお気に入りなら、良い嫁ぎ先も世話してもらえる。まあ、陛下の目にとまって寵妃にでもなれば別だけど」
陛下の目にとまると聞き、蓮花は口を曲げた。
「まさか、興味ないよ」
陛下の寵妃なんて冗談ではない。それに、用がすんだら後宮を出るつもりだし、自分はあくまで両親を殺した奴を見つけてもらうために一颯に協力しただけ。
興味がないと言った蓮花に、明玉はふふふ、と意味ありげに肩を震わせ笑った。
「故郷に思う人がいるんだね。今度、恋バナ聞かせてよ!」
「え? 違っ」
なんか勘違いしているし!
「陛下に目をかけられたくないなんて、誰か好きな人がいるからでしょう? 大丈夫、大丈夫。目にとまるなんて、そんな機会まずないから!」
明玉はけたけたと笑い、蓮花の肩をぽんと叩いた。
「とめて」
蓮花と明玉がそんな会話をしているところ、永明宮の門の前を通り過ぎようとする輿があった。
輿に乗っていた女の命令で、太監や侍女たちがぴたりと足を止める。
退屈そうな顔で輿に乗っていた女は、何かに興味を引いたらしく、永明宮の中をじっと見つめていた。
「あの娘、見たことのない顔だけれど、誰?」
輿に乗った女が側に控える侍女に尋ねる。
「はい、先日皇后の侍女として後宮に来た者で、名を蓮花といいます。凌家の若様が連れて来られたとか」
「ふうん」
輿に乗る女は目を細めた。
艶やかな色気を漂わせる女性であった。
着ている衣の生地も刺繍も、身を飾る装飾品も上等なもので、高貴な身分であることが窺える。
彼女こそ、皇后と勢力を争う景貴妃であった。さらに、侍女は景貴妃の側に一歩詰め寄り声を落として言う。
「凜妃の侍女たちが話していたのを小耳に挟んだのですが、あの蓮花という娘には特別な力があるそうです」
景貴妃は整った眉をあげた。
永明宮の庭で侍女と話し込んでいる蓮花に興味を示す。
「なんでも、亡霊が視えて祓えるとか。さらに、未来も予測でき、人を呪い殺すことも……つまり、霊能者だそうです」
「ほう? 未来が見えると」
景貴妃は朱く塗られた唇の端をつり上げ、興味深そうに蓮花を見つめていた。
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