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第2章 あたしが宮廷女官? それも皇后付きの侍女!
7 凜妃の心遣い
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「これに目を通したら休むわ」
そう言って、皇后は再び読み物に視線を落とす。
「皇后さま、凜妃さまがいらっしゃいました」
侍女の声に、皇后は手にした読み物を閉じる。
客人の訪れに、書を読むのをあきらめたようだ。
凜妃さまちょうど良いところに! と、心の中で蓮花は親指を立てる。
現れた凜妃に、皇后は慈愛に満ちた笑みを浮かべて迎えた。
「ごきげん麗しゅう皇后娘娘。汁物を作ったので、ぜひ皇后さまに召し上がっていただこうと思いお持ちしましたの」
凜妃は窓際に設置された長椅子に腰をかけた。
ちなみに娘娘とは目上の女性への敬称だ。
皇后が暮らす永明宮には、毎日たくさんの妃嬪が挨拶にやって来る。
その中でも凜妃は誰よりも皇后を慕い、話し相手として私的に訪れた。
凜は封号で、名は舒紅花といい、十六歳の時に後宮に入り現在は二十歳となるが、まだ陛下との間に子はなく、家柄もあまり高くないため、後宮内での彼女の立場は低い。
しかし、凜妃は自分を卑下することなく、持ち前のおっとりとした口調で周りの者を和ませた。
人懐こくて愛らしい雰囲気を持つ彼女を、皇后はまるで本当の妹のように可愛がっている。
蓮花も穏やかな性格の凜妃に好感を抱いている。
凜妃の侍女は手にしていた提盒の蓋を開け、汁物の入った腕を取り出し皇后に差し出す。
腕の蓋を開けると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
「まあ、銀耳蓮子湯ね」
腕の中身は白きくらげ、棗、枸杞の実、蓮の実を甘く煮込んだ薬膳デザートだ。これに、梨など季節の果物を入れると、なおうまい。
「最近、お肌が乾燥すると仰っていたので作ってみたの。白きくらげは美肌にいいのよ」
トロトロになった白きくらげに棗の甘酸っぱさ。ほくほくとした蓮の実の食感を味わいながら、心と体を元気にするスープだ。
蓮の実は胃腸を整え、心を落ち着かせる効果があり、棗は貧血の改善。枸杞の実は先ほど説明した通り。まさに今の皇后にぴったりの食べ物だ。食べやすいから食欲がなくてもするっと口に入っていくだろう。
さすが皇后を慕うだけあって、気遣いのできる凜妃だ。
皇后は匙でスープをすくい、一口飲む。
「さすが料理上手の凜妃ね。とてもおいしいわ」
「最近、顔色があまりよくないから心配しておりました。皇后さまのためでしたら、いくらでもお作りいたします」
蓮花が後宮へ来たときからすでに、皇后の体調はあまりよくなく、それが心配だった。
ふと、凜妃の目が机の上に伏せられた書に向けられた。
帳簿のようなものだ。
凜妃の視線に気づいた皇后は苦笑いを浮かべる。
「皇后さま、何か悩み事でも?」
「ええ、景貴妃の無駄使いには本当に困っていて。何度忠告しても改める気がないの」
どうやら後宮のやりくりに頭を悩ませていたようだ。
景貴妃は皇后の次に権力のある人物。
正室の皇后につぎ、側室の最高位である皇貴妃、そして貴妃という順番になるが、皇后が存命の時は皇貴妃という位はたてないので、貴妃は実質上、皇后の次に偉い立場となる。
後宮では皇后と景貴妃の二派に別れて勢力を争っている。
景貴妃の実家はたいそうな名家で勢いがあり、陛下も一目おくほど。従って、皇后もあまり厳しく言えないらしい。
「先日も、盛大な宴と料理で陛下をもてなしたと聞きました。皇后さま、私も何かお手伝いいたします。なんでも仰ってください」
「凜妃の心遣いには感謝するわ。妃嬪みながあなたのように物分かりがよければよいのに。そうだわ明玉(ミンユー)、先日陛下から頂いた薄紅色の反物を持ってきて」
「かしこまりました」
明玉と呼ばれた侍女は、いったんこの場から下がると、指示された反物を手に戻ってきた。
「汁物のお礼に、この薄紅色の生地をあなたに贈るわ」
凜妃は目を丸くする。驚いた顔も愛らしいことこの上ない凜妃さまだ。
「恐れ多いです。それに、褒美をいただくために料理を作ったわけでは」
「もちろん分かってるわ。ただ、この色は私には若すぎる気がして。あなたにならぴったり似合いそうよ。もらってちょうだい」
「感謝いたします皇后さま」
凜妃は立ち上がり、皇后に頭を下げ反物を受け取った。そして、さらに驚きに目を見開く。
反物をめくったその下に銀子が並べられていたからだ。
「聞いたわ。実家に不幸があったそうね。その銀子は私からのお見舞いよ」
そう言って、皇后は再び読み物に視線を落とす。
「皇后さま、凜妃さまがいらっしゃいました」
侍女の声に、皇后は手にした読み物を閉じる。
客人の訪れに、書を読むのをあきらめたようだ。
凜妃さまちょうど良いところに! と、心の中で蓮花は親指を立てる。
現れた凜妃に、皇后は慈愛に満ちた笑みを浮かべて迎えた。
「ごきげん麗しゅう皇后娘娘。汁物を作ったので、ぜひ皇后さまに召し上がっていただこうと思いお持ちしましたの」
凜妃は窓際に設置された長椅子に腰をかけた。
ちなみに娘娘とは目上の女性への敬称だ。
皇后が暮らす永明宮には、毎日たくさんの妃嬪が挨拶にやって来る。
その中でも凜妃は誰よりも皇后を慕い、話し相手として私的に訪れた。
凜は封号で、名は舒紅花といい、十六歳の時に後宮に入り現在は二十歳となるが、まだ陛下との間に子はなく、家柄もあまり高くないため、後宮内での彼女の立場は低い。
しかし、凜妃は自分を卑下することなく、持ち前のおっとりとした口調で周りの者を和ませた。
人懐こくて愛らしい雰囲気を持つ彼女を、皇后はまるで本当の妹のように可愛がっている。
蓮花も穏やかな性格の凜妃に好感を抱いている。
凜妃の侍女は手にしていた提盒の蓋を開け、汁物の入った腕を取り出し皇后に差し出す。
腕の蓋を開けると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。
「まあ、銀耳蓮子湯ね」
腕の中身は白きくらげ、棗、枸杞の実、蓮の実を甘く煮込んだ薬膳デザートだ。これに、梨など季節の果物を入れると、なおうまい。
「最近、お肌が乾燥すると仰っていたので作ってみたの。白きくらげは美肌にいいのよ」
トロトロになった白きくらげに棗の甘酸っぱさ。ほくほくとした蓮の実の食感を味わいながら、心と体を元気にするスープだ。
蓮の実は胃腸を整え、心を落ち着かせる効果があり、棗は貧血の改善。枸杞の実は先ほど説明した通り。まさに今の皇后にぴったりの食べ物だ。食べやすいから食欲がなくてもするっと口に入っていくだろう。
さすが皇后を慕うだけあって、気遣いのできる凜妃だ。
皇后は匙でスープをすくい、一口飲む。
「さすが料理上手の凜妃ね。とてもおいしいわ」
「最近、顔色があまりよくないから心配しておりました。皇后さまのためでしたら、いくらでもお作りいたします」
蓮花が後宮へ来たときからすでに、皇后の体調はあまりよくなく、それが心配だった。
ふと、凜妃の目が机の上に伏せられた書に向けられた。
帳簿のようなものだ。
凜妃の視線に気づいた皇后は苦笑いを浮かべる。
「皇后さま、何か悩み事でも?」
「ええ、景貴妃の無駄使いには本当に困っていて。何度忠告しても改める気がないの」
どうやら後宮のやりくりに頭を悩ませていたようだ。
景貴妃は皇后の次に権力のある人物。
正室の皇后につぎ、側室の最高位である皇貴妃、そして貴妃という順番になるが、皇后が存命の時は皇貴妃という位はたてないので、貴妃は実質上、皇后の次に偉い立場となる。
後宮では皇后と景貴妃の二派に別れて勢力を争っている。
景貴妃の実家はたいそうな名家で勢いがあり、陛下も一目おくほど。従って、皇后もあまり厳しく言えないらしい。
「先日も、盛大な宴と料理で陛下をもてなしたと聞きました。皇后さま、私も何かお手伝いいたします。なんでも仰ってください」
「凜妃の心遣いには感謝するわ。妃嬪みながあなたのように物分かりがよければよいのに。そうだわ明玉(ミンユー)、先日陛下から頂いた薄紅色の反物を持ってきて」
「かしこまりました」
明玉と呼ばれた侍女は、いったんこの場から下がると、指示された反物を手に戻ってきた。
「汁物のお礼に、この薄紅色の生地をあなたに贈るわ」
凜妃は目を丸くする。驚いた顔も愛らしいことこの上ない凜妃さまだ。
「恐れ多いです。それに、褒美をいただくために料理を作ったわけでは」
「もちろん分かってるわ。ただ、この色は私には若すぎる気がして。あなたにならぴったり似合いそうよ。もらってちょうだい」
「感謝いたします皇后さま」
凜妃は立ち上がり、皇后に頭を下げ反物を受け取った。そして、さらに驚きに目を見開く。
反物をめくったその下に銀子が並べられていたからだ。
「聞いたわ。実家に不幸があったそうね。その銀子は私からのお見舞いよ」
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