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第1章 運命は満月の夜に導かれて残酷に

4 訳ありの客?

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「ふう、今日もたくさん稼いだな」
 にんまりと笑みを浮かべ、蓮花は手にした小袋の重さを確かめる。袋の中身はもちろん今日の稼ぎだ。
 母が縫った刺繍入りの手巾と、医師である父が育てた薬草を白蓮の町に売りに来たのだ。
 少し前までは母と一緒に町に降りて商売をしていたが、一年ほど前から母が病で伏せるようになり、今は蓮花が一人で来るようになった。
 母の刺繍は繊細で奥深いと好評で、いつも飛ぶように売れた。
 母の刺繍を見る者は、まるで宮廷の繍房に務める女官の腕前だと褒め称えられた。しかし、病で倒れてからは母も刺繍を縫うのは困難となり、今は父の薬草を売るかたわら、蓮花自身も特技を活かして商売を始めるようになった。それは占いだ。
 思いつきで始めたわりには蓮花の占いはよく当たると評判で、口づてに広がり、今ではそれなりに客もつくようになってきた。
「もっとたくさん稼いで、母さんと父さんに少しでも楽をさせなきゃ」
 父の煎じる薬湯のおかげで、母の具合もなんとか持ちこたえてはいるものの、完全に回復するまでには至らないのがもどかしい。
 もっと栄養のつくものを食べさせ、滋養の高い薬を手に入れなければ。
 路地の端にむしろを広げ、薬草を売る蓮花の手元に影が落ちた。
 見上げると、目の前に一人の女が立っている。
 この町では見かけない顔だ。質素な身なりだが着ている生地はたぶん悪くはない。
 お忍びでやって来たどこかのご婦人か。
 蓮花は営業向けの笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませ。いろんな薬草があるから見てって。これは鎮痛効果のある忍冬、肌荒れには薏苡仁(ハトムギ)。女性特有の悩み解消には益母草がおすすめだよ。それからこっちは忍冬で作った化粧水。寝る前に肌にすりこむと、もっちりつやつやの肌に」
 客の反応が悪いと感じた蓮花は、ますます声に勢いをつける。
「さらに、今日はとっておきのものがあるんだ。神仙玉女粉といって、かの女帝も愛用していたという特別なお粉で、洗面や入浴の時に石鹸・入浴剤として使うと、なめらかで綺麗な肌を保てるよ」
 って、あれ?
 女性ならではの興味を引きそうな薬草を次々と紹介していくが、相手はまったく食いついてこない。
「よく当たる占師というのはおまえか?」
 蓮花は眉をひそめた。
 なーんだ、薬草ではなく、そっちだったか。
 第一印象の通り、どこぞの名家のご婦人のようだ。
 偉そうな口調も、こちらを見下す目つきも、人の上に立つ者特有の雰囲気を醸し出している。
「そう、あたしがその占い師。どんなことでも視ますよ」
 自信たっぷりで答える蓮花に、女は一瞬鼻白む。
 あ、バカにされた感じ? 少しは謙遜した方がよかったかな。でも、よく当たるのは事実だし、なんでも視て大抵のことは解決できるから、嘘は言っていない。
「みて欲しい方がいる」
 女はちらりと横を見やる。
 つられて蓮花も女の視線を追った。
 目の前に立つ女以上に、お忍びでやって来ました感を匂わせる高貴そうな女が茶屋の一角の席に座っていた。
 あちらが主人で、こちらがお付きの人といったところか。
「こちらに」
 そのお付きの者に連れられ、茶屋にいる夫人の元に案内された。
「座って」
 夫人にすすめられ、蓮花は向かいの席に腰かけ、失礼にならない程度に婦人の顔を確かめ観察する。
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