68 / 78
第7章 戦闘編
9 魔獣召喚 とんでもないもの喚ぶなよ!
しおりを挟む
『我が願いに答えよ
我が思いを叶えよ』
完成した魔法陣から、黒い霧が吹き出した。
「逃げろ! この霧はヤバい!」
瞬時に杖をかまえ、防壁の結界を張る。
イェンの叫びを聞いた人々は、悲鳴を上げ走り逃げまどう。
広場は狂乱と混乱に入り乱れた。
不用意にかき乱しちまったか、とイェンは舌打ちをする。
喉に違和感を覚え、軽く咳き込む。
この黒い霧は瘴気。
吸い込み続けたら、どうなるか分からない。
魔法陣が歪み、吹き出す黒い霧とともに手が現れた。人間の手に似ているが、大きさは人ひとり握り潰すなどわけもない巨大な手。
陣から伸びたその手は地面を掻き、地上に這い上がろうともがいている。
「元の世界へ還れ!」
魔法陣から這い出ようとするそれを、魔力で押さえつけるが、見えない強い力に押し返される。
イェンは後方へと片足を引き、力を入れて踏み支える。
身体に負担がかかり、傷口から流れ落ちる血が地面に赤いシミを作っていることにさえ気づいていない。
防壁の結界に歪みが生じる。
さらに魔法陣からもう片方の手が現れ、イェンの魔力を押し返しそれは完全に姿を現した。
異形のものだった。
例えるなら躰は黒い体毛に覆われた人の形のよう。頭は狼に似て、背には黒い翼を有し剥き出し牙は鋭い。
「くそっ! とんでもないものを喚びだしやがって……」
現れたのは魔界の王でも、悪魔でも何でもない。
ただの低級魔獣だ。
イェンは目の端でレギナルトの姿を捕らえる。
魔獣を呼びだした本人は地面に座り込み、両手を天にかかげたまま高笑いを上げていた。
魔獣を制御することに失敗したのはあきらかだ。
もはや、レギナルトとしての自我が残っているのかも怪しい。
それが悪魔召喚というもの。
魔獣は首を振り、空に向かって吠え猛る。
大地を震わせるその咆吼に、誰もが肩をすぼめ耳をふさぐ。
何かを探して首を巡らす魔獣の双眸が、ぴたりとレギナルトへと止まる。
まずは喚びだした術者の肉体を喰らわんと、長いかぎ爪を伸ばし、レギナルトを捕らえようとする。
舌打ち一つ、イェンは杖を振り上げ、振り下ろした。
「人でなければ、遠慮はいらねえな!」
虚空を切ったその場から、ヒュンと、風の刃が音をたて、一直線に魔獣の腕に放たれる。
刃は魔獣の腕を断ち切り、さらに勢いを止めることなく、その先の空にかかる雲をも散らした。
「イェンさんの攻撃、何て破壊力……」
うわずったリプリーの声に、側にいたイヴンはうん、と頷く。
「……僕も初めて見たよ」
「あのバカが攻撃を仕掛けなかったのも、分かる気がする……」
エーファは渋い顔だ。
「確かに人様に向かって放つ技ではない」
頭は腕を組みうむ、と頷く。
「でもですよ。今の攻撃を立て続けにあの化け物に放てばどうです?」
「ちりぢりっスね!」
「勝てる……」
と、一筋の希望を胸に抱くが、それもあっけなく打ち砕かれる。
切断された魔獣の腕は黒い霧となり、再び本体へと集まり再生する。
魔獣は天を振り仰ぎ息を吸い込み、ため込んだ気を一気に地上に向かって炎を吐き出した。
地面を這う炎がアイザカーンの町を直撃する。
イェンは呪縛の術を魔獣に放つ。
見えない鎖が魔獣を捕らえ絡め取る。
その呪縛を振り切らんと魔獣は暴れ、さらに炎を吐いて両翼を広げ黒い霧をまき散らす。
町を焼き尽くし、飲み込まんばかりに炎はその手を伸ばし、黒い霧が空をおおいつくす。
「ち、魔獣だけでも手一杯だってのによ!」
イェンは高笑いを続けるレギナルトを一瞥して舌打ちをする。
さらに、勢いよく燃えあがるアイザカーンの町を見渡し、眉を寄せた。
このままでは、たちどころに小さな町は焼きつくされる。
レギナルトの身も危ない。
どうすればいい。
我が思いを叶えよ』
完成した魔法陣から、黒い霧が吹き出した。
「逃げろ! この霧はヤバい!」
瞬時に杖をかまえ、防壁の結界を張る。
イェンの叫びを聞いた人々は、悲鳴を上げ走り逃げまどう。
広場は狂乱と混乱に入り乱れた。
不用意にかき乱しちまったか、とイェンは舌打ちをする。
喉に違和感を覚え、軽く咳き込む。
この黒い霧は瘴気。
吸い込み続けたら、どうなるか分からない。
魔法陣が歪み、吹き出す黒い霧とともに手が現れた。人間の手に似ているが、大きさは人ひとり握り潰すなどわけもない巨大な手。
陣から伸びたその手は地面を掻き、地上に這い上がろうともがいている。
「元の世界へ還れ!」
魔法陣から這い出ようとするそれを、魔力で押さえつけるが、見えない強い力に押し返される。
イェンは後方へと片足を引き、力を入れて踏み支える。
身体に負担がかかり、傷口から流れ落ちる血が地面に赤いシミを作っていることにさえ気づいていない。
防壁の結界に歪みが生じる。
さらに魔法陣からもう片方の手が現れ、イェンの魔力を押し返しそれは完全に姿を現した。
異形のものだった。
例えるなら躰は黒い体毛に覆われた人の形のよう。頭は狼に似て、背には黒い翼を有し剥き出し牙は鋭い。
「くそっ! とんでもないものを喚びだしやがって……」
現れたのは魔界の王でも、悪魔でも何でもない。
ただの低級魔獣だ。
イェンは目の端でレギナルトの姿を捕らえる。
魔獣を呼びだした本人は地面に座り込み、両手を天にかかげたまま高笑いを上げていた。
魔獣を制御することに失敗したのはあきらかだ。
もはや、レギナルトとしての自我が残っているのかも怪しい。
それが悪魔召喚というもの。
魔獣は首を振り、空に向かって吠え猛る。
大地を震わせるその咆吼に、誰もが肩をすぼめ耳をふさぐ。
何かを探して首を巡らす魔獣の双眸が、ぴたりとレギナルトへと止まる。
まずは喚びだした術者の肉体を喰らわんと、長いかぎ爪を伸ばし、レギナルトを捕らえようとする。
舌打ち一つ、イェンは杖を振り上げ、振り下ろした。
「人でなければ、遠慮はいらねえな!」
虚空を切ったその場から、ヒュンと、風の刃が音をたて、一直線に魔獣の腕に放たれる。
刃は魔獣の腕を断ち切り、さらに勢いを止めることなく、その先の空にかかる雲をも散らした。
「イェンさんの攻撃、何て破壊力……」
うわずったリプリーの声に、側にいたイヴンはうん、と頷く。
「……僕も初めて見たよ」
「あのバカが攻撃を仕掛けなかったのも、分かる気がする……」
エーファは渋い顔だ。
「確かに人様に向かって放つ技ではない」
頭は腕を組みうむ、と頷く。
「でもですよ。今の攻撃を立て続けにあの化け物に放てばどうです?」
「ちりぢりっスね!」
「勝てる……」
と、一筋の希望を胸に抱くが、それもあっけなく打ち砕かれる。
切断された魔獣の腕は黒い霧となり、再び本体へと集まり再生する。
魔獣は天を振り仰ぎ息を吸い込み、ため込んだ気を一気に地上に向かって炎を吐き出した。
地面を這う炎がアイザカーンの町を直撃する。
イェンは呪縛の術を魔獣に放つ。
見えない鎖が魔獣を捕らえ絡め取る。
その呪縛を振り切らんと魔獣は暴れ、さらに炎を吐いて両翼を広げ黒い霧をまき散らす。
町を焼き尽くし、飲み込まんばかりに炎はその手を伸ばし、黒い霧が空をおおいつくす。
「ち、魔獣だけでも手一杯だってのによ!」
イェンは高笑いを続けるレギナルトを一瞥して舌打ちをする。
さらに、勢いよく燃えあがるアイザカーンの町を見渡し、眉を寄せた。
このままでは、たちどころに小さな町は焼きつくされる。
レギナルトの身も危ない。
どうすればいい。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
亡国の系譜と神の婚約者
仁藤欣太郎
ファンタジー
二十年前に起こった世界戦争の傷跡も癒え、世界はかつてない平和を享受していた。
最果ての島イールに暮らす漁師の息子ジャンは、外の世界への好奇心から幼馴染のニコラ、シェリーを巻き込んで自分探しの旅に出る。
ジャンは旅の中で多くの出会いを経て大人へと成長していく。そして渦巻く陰謀、社会の暗部、知られざる両親の過去……。彼は自らの意思と無関係に大きな運命に巻き込まれていく。
☆本作は小説家になろう、マグネットでも公開しています。
☆挿絵はみずきさん(ツイッター: @Mizuki_hana93)にお願いしています。
☆ノベルアッププラスで最新の改稿版の投稿をはじめました。間違いの修正なども多かったので、気になる方はノベプラ版をご覧ください。こちらもプロの挿絵付き。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる