王子様と落ちこぼれ魔道士 へっぽこ無能だと思っていた魔道士が実は最強すぎた

島崎 紗都子

文字の大きさ
上 下
62 / 78
第7章 戦闘編

3 バカ四人組の作戦

しおりを挟む
「いいこと、だと?」

 それは何だ、とみなの目がいっせいにちびにそそがれる。
 特にエーファの鋭利な眼差しは猛獣のようだ。

「あにきの魔術で姐さんを援護するですよ」
「何? おまえ、魔術が使えるのか!」

 エーファの鋭い眼光が頭に向けられた。

「ん? んむ? まあ少々」
「前にあの陰湿魔道士に襲われた時に、あにきの身体から光が放たれて、おれっちたちを守ってくれたです」

 それは、イェンが彼らに危機が及ぶであろうことを予想して、あらかじめ防御の術を仕込んでいたものだということに四人組は結局気づいていない。

「よし、やれ!」

 本当におまえに魔術が使えるのかと疑問すら持たず、エーファは真剣な目で頭につめ寄る。
 頭は腕を組み、うむと頷いた。

「やってみよう」
「あにきの活躍を見た魔道士様たちが、ぜひ〝灯〟に入ってくださいって勧誘にくるかもですねー」
「〝灯〟に入ったら、たくさんお給料もらえるっスね。今度肉おごってくださいっスよ」
「シャトーブリアン……食べてみたい……」

 〝灯〟に入ったばかりの新参者のお給料で、そんな高級肉など食べられるわけがない。いや、そもそも灯は勧誘ではなく、試験を受けて入るのだが……まあ、今はそんなことはどうでもいい。
 そして、頭は両足を軽く開いて腰を落とし、尻を突き出すと両手で握りこぶしを作った。

「何だ! その見苦しい格好は? もっとスマートにできないのか?」

 頭のおかしな姿に、エーファは渋面を作って目を細める。

「これは魔術発動のための……そう、いわばルーティンだ」
「ルーティンって……兄き今まで魔術なんて使ったことないじゃないっスか」
「いくぜ!」

 と威勢のいいかけ声を発し、頭はうーん、とうなり始めた。
 顔面を真っ赤にして唸る頭を、子分たちは見守る。しかし、いくら待てども魔術の欠片も表れる気配はない。

「うーむむむ……む! んふぅっ~」

 気張りすぎた頭の鼻から、息の抜けた鼻息がもれる。

「何をしている。まだか! 早くしろ!」

 頭の側でエーファが急かす。さらに、お尻を突き出し気張る頭を見たでぶが、眉をひそめた。

「いや、待て。もう少しだ。もう少しで何かが……何かがでそうなんだ! んーむっ! むふ~!」
「もういいっス。踏ん張りすぎて何か違うものがでてきそうでいやっス」
「もう少し……っ!」
「もうよい! ここは、やはり、私が行くしかないようだな」
「ちょっと、待ってください。今ふっと思ったんですけど、よくよく考えてみれば、あにきに頼らずともここに立派な〝灯〟の魔道士様が二人いらっしゃるじゃないですか。それも美少年ですよ! 双子の美少年!」

 そう言って、ちびは側にいたノイとアルトをみやる。

「俺たちか?」

 そうそう、とちびは首を縦に振る。

「お二方の魔術で、姐さんを援護してくださいです」
「ことわるぜ」
「ええー! どうしてですか?」
「魔術の心得のない一般人を巻き込むことはできないからな」
「あの敵の魔道士強いぞ。俺たちだってかなうかどうかだな」

 横でアホなやりとりをやっている四人組を尻目に、イヴンは剣の柄を握りしめるエーファの手にそっと手を重ね、首を左右に振った。
 くっ、とエーファは喉を鳴らし、悔しげに顔を歪めた。

 エーファとて、魔道士の戦いに、魔道の心得がない者が踏み込むことがどれだけ危険なことかを分かっているはずだ。
 エーファは一度だけ目を閉じ、息を吐く。
 手にかけた剣を離し、代わりにその手を強く握りしめる。

「だが、これではいつまでたっても、らちがあかないぞ」

 駆られる激情を胸のうちにとどめるような、静かな声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...