王子様と落ちこぼれ魔道士 へっぽこ無能だと思っていた魔道士が実は最強すぎた

島崎 紗都子

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第6章 救出編

2 消えたイヴン

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「え? イヴンさん、おいらの実家の店知ってるっスか?」
「知ってるも何も! 妹さん、秘伝のタレが底をつきそうで店を閉めるって嘆いていたよ。あんなに繁盛してるのにもったいないよ!」
「何? おまえが自分探しの現実逃避に走ったバカ兄き? っていうかおまえ、自分の家に盗みに忍び込んだのか? アホだな」

 そもそも、何で俺の旅の行く先々でおまえらの家族と関わり合うんだ、とイェンはうんざりと肩をすくめる。
 店を閉めると聞かされたでぶは、肉を焼く手をとめ呆然とする。
 ぱちっと火の粉が爆ぜた。

「妹に店を押しつけてのんきに遊び歩き。いいご身分だな。そもそも国も違うおまえらがどうやって知り合って、こそ泥なんかしてたんだ?」

 その言葉を聞いた頭は、にやりと笑いイェンににじり寄る。

「俺たち四人の、感動の出会いが聞きたいですか?」
「……いや、いい」

 ちびがでぶの側にやって来て、酒の入ったグラスを手渡した。

「実はおれっち、この件が片づいたらポンポコ村に帰ろうと思ってるんです。ずいぶんとおふくろに心配をかけたですからね。家族は大事にしないとです」

 でぶは込み上げてきた涙を袖口で拭いふと、じろりとイェンに視線を向ける。

「それはそうと大兄き、まさかと思うっスが、おいらの妹に手、出してないっスよね」
「バカ言え。出すかよ!」

 しかし、なぜかでぶはムッとした表情で頬を膨らませる。

「じゃあ、何っスか? おいらの妹は可愛くなかったとでも言うんっスか?」
「そうは言ってねえだろ」

 めんどくせえ奴だな、とでぶから逃げ出しかけたところを、頭の腕が肩に回される。

「飲んでくださいよー、兄貴」

 半分できあがった頭がイェンの空のグラスに酒を注いだ。
 あまり酒を飲ますなと説教をするエーファも、今は肉に夢中でイェンのことなど眼中にないようだった。

 リプリーも大はしゃぎで肉の奪い合いに参加している。
 イェンは注がれた酒を飲み、さらに、もう片方の手にしていた酒瓶をあおる。
 そこへ、今度はのっぽがふらふらとした足取りでやって来た。

「オレもこの件が片づいたら、心を入れかえてきちんとした職について真面目に働こうと思ってるんです。オレ、不景気のあおりを食らって仕事がクビになって」
「そうか……それは辛かったな。で、仕事は何をやっていたんだ?」

 頭がのっぽの肩を叩きながら問う。

「ケーキ職人でした」

 その場にいた者が飲んでいた酒を吹き出した。

「意外っスね」
「ですよねー」
「クビになってやけをおこしてギャンブルにのめり込んだら、呆れて妻が子どもを連れて実家に帰ってしまい、だから、仕事を見つけて生活が安定したら、妻と子に謝罪して、一からやり直そうかと。もっとも、許してもらえればの話ですが」

 ちびちびと酒を嘗め、普段口数の少ないのっぽがしみじみと言う。

「何? あんた酒が入ると人格変わるって奴かよ。っていうか、妻子持ち?」

 仲間たちもそれは初耳だと驚いて目を丸くする。そして、四人は酒を片手に身を寄せ合い、互いに慰め、励ましあった。

「ったく……何がこの件が片付いたらだ。こんなことしてる暇があったら、今すぐ妻子の元にいって土下座して謝って仕事探せよ」

 イェンは呆れたように声を落としてため息をつく。

「ねえイェン、飲み過ぎてない?」
「うるせえな。明日は命をかけた戦いなんだ。今日くらいは好き勝手させてもらうぜ」
「命をかけた戦いって、大袈裟な」

 それに好き勝手なのはいつものことじゃないか、とイヴンは唇を曲げた。
 明日は敵地に乗り込むというにもかかわらず、宴は深夜まで続き盛り上がった。




 そして翌朝、イヴンの姿が消えた。
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