36 / 78
第4章 雪山編
5 星空と密かな恋心
しおりを挟む
「きれいな星空ね」
「うん、きれいだね」
ベッドにうつぶせになり、イヴンとリプリーは枕に頬杖をつき、窓の向こうの夜空を眺めていた。
時折、空を走る流れ星に、リプリーははしゃいだ声を上げる。
「ねえ、イヴンはヴルカーンベルクに行ったらどんな国にしたいと思う?」
無邪気に問いかけてくるリプリーに、イヴンは表情を暗くする。
「考えたこともないよ。そもそも僕が結婚相手に選ばれた理由が分からないのだから。もしかしたら、からかわれているだけなんじゃないかって、今になって思い始めてるんだ」
リプリーは首を傾げた。
「だって僕は何の勢力もない弱小国の王子だよ。僕と婚姻を結んだって得にもならないよ。でも、それならそれでいいんだ」
「小さな国の王子様だからって、そんなの関係ないと思うわ。それに私、前に占ったでしょ? イヴンは大出世するって。私の占いは当たるのよ」
イヴンはううん、と首を振る。
「それに、その……僕は……」
横にいるリプリーと視線が合い、慌ててイヴンは目をそらす。
途中まで言いかけたものの、それっきりイヴンは目を伏せ口を閉ざした。
胸の奥深くに揺れる感情に、どうにもならない戸惑いを覚える。
ヴルカーンベルク国になど、一生たどり着かなければいいのに。
そう、呟いたイヴンの声は、リプリーの耳には届くことはなかった。
このままリプリーと旅を続けられたらどんなに楽しいだろうか。
リプリーと一緒にいられたら。
ふと、イヴンは隣に並ぶリプリーと肩が触れあっていることに気づく。
気づいた途端、意識が強まり心が落ち着かなくなった。
触れている肩の部分だけ、熱を持ったみたいに熱く感じられた。
離れるべきなのだろうか。
いきなり離れて変な風に思われないだろうか。
「ねえ、どうしたの? ねえ」
何度か声をかけられ、イブンは我に返り慌てて身体を起こしてリプリーと距離をとる。
そのはずみで、ベッド脇のテーブルに置いてあったリプリーの読みかけの本を落とした。
本に挟まれていた一枚のしおりが、ぱらりと床に落ちる。
拾い上げようとするイヴンの手よりも早く、リプリーはしおりを取り戻す。
怪訝な顔でイヴンはリプリーを見る。
しおりを胸にあて、リプリーは目を伏せ口元に微かな笑みを浮かべた。
「とても大切なものなの。好きな人からの贈り物」
「好きな人? リプリーは好きな人が……いるんだ……」
イヴンの問いかけにリプリーはうん、と頬を赤らめ頷く。
「多分、一方的に私が思いを寄せているだけ。でも私、絶対に彼のことを振り向かせてみせるわ」
と穏やかな顔で言うリプリーに、イヴンは複雑な表情を浮かべた。
ちくりと胸の奥が痛んだ。
リプリーに思いを寄せている人がいるなど初めて聞いた。
リプリーはエーファとともに旅をしていると言っていた。
その思い人は、故郷にいる人なのだろうか。
き、聞いてみるだけならいいよね。
「あ、あのね!」
ふと、隣を見ると、リプリーがうつぶせになった状態で眠っていた。
「リプリー?」
呼びかけてみるが、目覚める気配はない。
イヴンはそろりと手を伸ばし、リプリーの頭をなでなでする。
柔らかい髪が気持ちいい。
「おやすみ、リプリー……」
「うん、きれいだね」
ベッドにうつぶせになり、イヴンとリプリーは枕に頬杖をつき、窓の向こうの夜空を眺めていた。
時折、空を走る流れ星に、リプリーははしゃいだ声を上げる。
「ねえ、イヴンはヴルカーンベルクに行ったらどんな国にしたいと思う?」
無邪気に問いかけてくるリプリーに、イヴンは表情を暗くする。
「考えたこともないよ。そもそも僕が結婚相手に選ばれた理由が分からないのだから。もしかしたら、からかわれているだけなんじゃないかって、今になって思い始めてるんだ」
リプリーは首を傾げた。
「だって僕は何の勢力もない弱小国の王子だよ。僕と婚姻を結んだって得にもならないよ。でも、それならそれでいいんだ」
「小さな国の王子様だからって、そんなの関係ないと思うわ。それに私、前に占ったでしょ? イヴンは大出世するって。私の占いは当たるのよ」
イヴンはううん、と首を振る。
「それに、その……僕は……」
横にいるリプリーと視線が合い、慌ててイヴンは目をそらす。
途中まで言いかけたものの、それっきりイヴンは目を伏せ口を閉ざした。
胸の奥深くに揺れる感情に、どうにもならない戸惑いを覚える。
ヴルカーンベルク国になど、一生たどり着かなければいいのに。
そう、呟いたイヴンの声は、リプリーの耳には届くことはなかった。
このままリプリーと旅を続けられたらどんなに楽しいだろうか。
リプリーと一緒にいられたら。
ふと、イヴンは隣に並ぶリプリーと肩が触れあっていることに気づく。
気づいた途端、意識が強まり心が落ち着かなくなった。
触れている肩の部分だけ、熱を持ったみたいに熱く感じられた。
離れるべきなのだろうか。
いきなり離れて変な風に思われないだろうか。
「ねえ、どうしたの? ねえ」
何度か声をかけられ、イブンは我に返り慌てて身体を起こしてリプリーと距離をとる。
そのはずみで、ベッド脇のテーブルに置いてあったリプリーの読みかけの本を落とした。
本に挟まれていた一枚のしおりが、ぱらりと床に落ちる。
拾い上げようとするイヴンの手よりも早く、リプリーはしおりを取り戻す。
怪訝な顔でイヴンはリプリーを見る。
しおりを胸にあて、リプリーは目を伏せ口元に微かな笑みを浮かべた。
「とても大切なものなの。好きな人からの贈り物」
「好きな人? リプリーは好きな人が……いるんだ……」
イヴンの問いかけにリプリーはうん、と頬を赤らめ頷く。
「多分、一方的に私が思いを寄せているだけ。でも私、絶対に彼のことを振り向かせてみせるわ」
と穏やかな顔で言うリプリーに、イヴンは複雑な表情を浮かべた。
ちくりと胸の奥が痛んだ。
リプリーに思いを寄せている人がいるなど初めて聞いた。
リプリーはエーファとともに旅をしていると言っていた。
その思い人は、故郷にいる人なのだろうか。
き、聞いてみるだけならいいよね。
「あ、あのね!」
ふと、隣を見ると、リプリーがうつぶせになった状態で眠っていた。
「リプリー?」
呼びかけてみるが、目覚める気配はない。
イヴンはそろりと手を伸ばし、リプリーの頭をなでなでする。
柔らかい髪が気持ちいい。
「おやすみ、リプリー……」
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣
ゆうた
ファンタジー
起きると、そこは森の中。パニックになって、
周りを見渡すと暗くてなんも見えない。
特殊能力も付与されず、原生林でどうするの。
誰か助けて。
遠くから、獣の遠吠えが聞こえてくる。
これって、やばいんじゃない。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
【完結】ガラクタゴミしか召喚出来ないへっぽこ聖女、ゴミを糧にする大精霊達とのんびりスローライフを送る〜追放した王族なんて知らんぷりです!〜
櫛田こころ
ファンタジー
お前なんか、ガラクタ当然だ。
はじめの頃は……依頼者の望み通りのものを召喚出来た、召喚魔法を得意とする聖女・ミラジェーンは……ついに王族から追放を命じられた。
役立たずの聖女の代わりなど、いくらでもいると。
ミラジェーンの召喚魔法では、いつからか依頼の品どころか本当にガラクタもだが『ゴミ』しか召喚出来なくなってしまった。
なので、大人しく城から立ち去る時に……一匹の精霊と出会った。餌を与えようにも、相変わらずゴミしか召喚出来ずに泣いてしまうと……その精霊は、なんとゴミを『食べて』しまった。
美味しい美味しいと絶賛してくれた精霊は……ただの精霊ではなく、精霊王に次ぐ強力な大精霊だとわかり。ミラジェーンを精霊の里に来て欲しいと頼んできたのだ。
追放された聖女の召喚魔法は、実は精霊達には美味しい美味しいご飯だとわかり、のんびり楽しく過ごしていくスローライフストーリーを目指します!!
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる