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第4章 雪山編

5 星空と密かな恋心

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「きれいな星空ね」
「うん、きれいだね」

 ベッドにうつぶせになり、イヴンとリプリーは枕に頬杖をつき、窓の向こうの夜空を眺めていた。
 時折、空を走る流れ星に、リプリーははしゃいだ声を上げる。

「ねえ、イヴンはヴルカーンベルクに行ったらどんな国にしたいと思う?」

 無邪気に問いかけてくるリプリーに、イヴンは表情を暗くする。

「考えたこともないよ。そもそも僕が結婚相手に選ばれた理由が分からないのだから。もしかしたら、からかわれているだけなんじゃないかって、今になって思い始めてるんだ」

 リプリーは首を傾げた。

「だって僕は何の勢力もない弱小国の王子だよ。僕と婚姻を結んだって得にもならないよ。でも、それならそれでいいんだ」
「小さな国の王子様だからって、そんなの関係ないと思うわ。それに私、前に占ったでしょ? イヴンは大出世するって。私の占いは当たるのよ」

 イヴンはううん、と首を振る。

「それに、その……僕は……」

 横にいるリプリーと視線が合い、慌ててイヴンは目をそらす。
 途中まで言いかけたものの、それっきりイヴンは目を伏せ口を閉ざした。
 胸の奥深くに揺れる感情に、どうにもならない戸惑いを覚える。

 ヴルカーンベルク国になど、一生たどり着かなければいいのに。

 そう、呟いたイヴンの声は、リプリーの耳には届くことはなかった。

 このままリプリーと旅を続けられたらどんなに楽しいだろうか。
 リプリーと一緒にいられたら。
 ふと、イヴンは隣に並ぶリプリーと肩が触れあっていることに気づく。
 気づいた途端、意識が強まり心が落ち着かなくなった。
 触れている肩の部分だけ、熱を持ったみたいに熱く感じられた。
 離れるべきなのだろうか。
 いきなり離れて変な風に思われないだろうか。

「ねえ、どうしたの? ねえ」

 何度か声をかけられ、イブンは我に返り慌てて身体を起こしてリプリーと距離をとる。
 そのはずみで、ベッド脇のテーブルに置いてあったリプリーの読みかけの本を落とした。
 本に挟まれていた一枚のしおりが、ぱらりと床に落ちる。
 拾い上げようとするイヴンの手よりも早く、リプリーはしおりを取り戻す。
 怪訝な顔でイヴンはリプリーを見る。
 しおりを胸にあて、リプリーは目を伏せ口元に微かな笑みを浮かべた。

「とても大切なものなの。好きな人からの贈り物」

「好きな人? リプリーは好きな人が……いるんだ……」

 イヴンの問いかけにリプリーはうん、と頬を赤らめ頷く。

「多分、一方的に私が思いを寄せているだけ。でも私、絶対に彼のことを振り向かせてみせるわ」

 と穏やかな顔で言うリプリーに、イヴンは複雑な表情を浮かべた。
 ちくりと胸の奥が痛んだ。
 リプリーに思いを寄せている人がいるなど初めて聞いた。
 リプリーはエーファとともに旅をしていると言っていた。
 その思い人は、故郷にいる人なのだろうか。

 き、聞いてみるだけならいいよね。

「あ、あのね!」

 ふと、隣を見ると、リプリーがうつぶせになった状態で眠っていた。

「リプリー?」

 呼びかけてみるが、目覚める気配はない。
 イヴンはそろりと手を伸ばし、リプリーの頭をなでなでする。
 柔らかい髪が気持ちいい。

「おやすみ、リプリー……」
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