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第2章 仲間編
11 暮れゆく空を見上げ途方に暮れる
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エレレザレレ外門の壁に背をあずけ、腕を組むイェンと、地面に座り込んで膝を抱えているイヴンの姿があった。
空は徐々に暗くなり、門の側では街の中へ入ろうと駆け込む人々の姿。
そんな人たちを横目に見ながら、会話もなく黙り込む二人。
二人の間にはどこか重々しい雰囲気が流れる。
イヴンは抱えていた両膝をぎゅっと抱きしめた。
とにかく、いろいろあてが外れたという落胆は隠せない様子だった。
実は、通行券がなくても一時的にだが、エレレザレレに入国する方法があった。
それは、エレレザレレ国、国王五十歳誕生記念祭の警備員募集に申し込み、採用が通れば無条件に入国できたのだ。
そこで警備の仕事をしつつ、通行券が発行されるのを待つつもりであった。
リプリーとエーファが去った後、すぐに申し込みに行ったイヴンだが、しかし、すでに募集はいっぱいで打ち切られたとのこと。
ならば、せめて通行券だけでも申請しようと役所に向かったが、そこで、どこの誰ですかと係の人に訊ねられ、根が正直で嘘がつけないイヴンはしどろもどろになり、また出直します! と言い役所を飛び出してしまったのだ。
イヴンの行動は素早かった。
素早かったが、残念なことに、すべて空回りに終わったというわけである。
イヴンはしょんぼりと、抱えた膝の頭に顔をうずめる。
「まさか、あんなこと聞かれるとは思わなくて」
「まさかも何も、ふつう聞かれるに決まってんだろ。ほんと、世間知らずだな」
「そうだね。僕、何にも知らないんだね。だけど、どうしよう……僕がアイザカーン国の王子だなんて言えないよ」
言えば大変なことになることは目に見えている。
いや、それよりも信じてもらえるかどうか。
それどころか、アイザカーンの王子の名を騙った不届き者として捕らえられる可能性もある。いや、エレレザレレの〝灯〟に出向けばイェンの身元はきちんと保証されるからその問題はないとは思うが……。
何にせよ、いろいろ面倒くさいことになるであろうことは確かだ。
「だから俺はやめておけって言ったんだ」
イェンが頑なに、リプリーたちに通行券を渡すのを拒んだ理由はこれであった。
「イェンがあんなに渋っていた理由を僕はちゃんと考えるべきだった。なのに僕は……ごめんなさい」
どんよりと落ち込むイヴンの姿をイェンはちらりと見やる。
「それでもおまえは通行券をあいつらに渡した」
一拍おいて、イヴンはこくりとうなずく。
「ほんと、お人好しだよな。ま、そこがおまえのいいところでもあるけどな」
とはいえ、入国するにはやはり、日数をかけてでも新しい通行券を入手するしかない。
ただし、その分の滞在費も考えなければというのが現実問題だ。
この先の旅費だってまだまだかかるのに、ここで足止めをくらうのはかなりの痛手である。
「このことがヨアン義兄様に知られたらきっと、呆れられちゃうね。ううん……おまえは何をやっているのだと怒られるかも」
イヴンははあ、と重たいため息を落とす。
もう見ていられないくらいの落ち込みようだ。
「俺が何とかしてやってもいいぜ」
暮れゆく空を見上げ、イェンはぽつりとこぼす。
イヴンは首を横に振った。
「うん、ありがとう。だけど、通行券は手に入れる。僕、ちゃんと役所の人に説明するよ。なければこの先不便でしょう? だから、どんなことでもいいから仕事を見つけようと思う。うん働くよ!」
口に出したと同時に、前向きな気持ちに切りかわったのだろう。
いつまでも、落ち込んでなんかいられない、と立ち上がったイヴンに、イェンは露骨に顔をしかめた。
「働くだ? どんな仕事でもいい? おまえに何ができんだよ」
「やろうと思えば何だってできるよ!」
「働いたこともねえくせに、偉そうなこと言うな。おうちのお手伝いとはわけが違うんだぞ。どうせ仕事がキツいだの、人間関係が辛いだのって、泣き出すに決まっている」
「どうしてそう決めつけるわけ? ほんとは自分が働きたくないからそう言うんでしょう」
言ってイヴンはあっという顔をする。
今のは言い過ぎたかなと思ったようだ。
ごめんなさい、と口を開きかけたところに。
「とうぜんだ!」
と、返され、イヴンは呆気にとられてそのままあんぐりと口を開ける。
「イェンのばか!」
「ばかとは何だよ、ばかとは。だいたい、そう簡単に仕事がみつかりゃ、苦労しねえよ」
「探せばあるよ」
「そこが甘いんだよ!」
イェンはぎゅっとイヴンの頬をつねった。
「何するの!」
お返しとばかりに、イェンの首の後ろで一つに束ねられた髪を思いっきり引っ張る。
「やりやがったな! この俺にたてつきやがって。だいたい、何だよさっきの態度は。俺と口利いてやらないだと? どの口がそんなことを言いやがった。おまえ最近、生意気だぞ」
イェンの手がイヴンの両方の頬に伸び、つまんでびろんと引っ張っる。
「やめてよ!」
イヴンがぺちりとイェンの顔面を叩く。
「このやろう!」
そして、とうとう二人は低次元なつかみ合いの喧嘩を始めた。
空は徐々に暗くなり、門の側では街の中へ入ろうと駆け込む人々の姿。
そんな人たちを横目に見ながら、会話もなく黙り込む二人。
二人の間にはどこか重々しい雰囲気が流れる。
イヴンは抱えていた両膝をぎゅっと抱きしめた。
とにかく、いろいろあてが外れたという落胆は隠せない様子だった。
実は、通行券がなくても一時的にだが、エレレザレレに入国する方法があった。
それは、エレレザレレ国、国王五十歳誕生記念祭の警備員募集に申し込み、採用が通れば無条件に入国できたのだ。
そこで警備の仕事をしつつ、通行券が発行されるのを待つつもりであった。
リプリーとエーファが去った後、すぐに申し込みに行ったイヴンだが、しかし、すでに募集はいっぱいで打ち切られたとのこと。
ならば、せめて通行券だけでも申請しようと役所に向かったが、そこで、どこの誰ですかと係の人に訊ねられ、根が正直で嘘がつけないイヴンはしどろもどろになり、また出直します! と言い役所を飛び出してしまったのだ。
イヴンの行動は素早かった。
素早かったが、残念なことに、すべて空回りに終わったというわけである。
イヴンはしょんぼりと、抱えた膝の頭に顔をうずめる。
「まさか、あんなこと聞かれるとは思わなくて」
「まさかも何も、ふつう聞かれるに決まってんだろ。ほんと、世間知らずだな」
「そうだね。僕、何にも知らないんだね。だけど、どうしよう……僕がアイザカーン国の王子だなんて言えないよ」
言えば大変なことになることは目に見えている。
いや、それよりも信じてもらえるかどうか。
それどころか、アイザカーンの王子の名を騙った不届き者として捕らえられる可能性もある。いや、エレレザレレの〝灯〟に出向けばイェンの身元はきちんと保証されるからその問題はないとは思うが……。
何にせよ、いろいろ面倒くさいことになるであろうことは確かだ。
「だから俺はやめておけって言ったんだ」
イェンが頑なに、リプリーたちに通行券を渡すのを拒んだ理由はこれであった。
「イェンがあんなに渋っていた理由を僕はちゃんと考えるべきだった。なのに僕は……ごめんなさい」
どんよりと落ち込むイヴンの姿をイェンはちらりと見やる。
「それでもおまえは通行券をあいつらに渡した」
一拍おいて、イヴンはこくりとうなずく。
「ほんと、お人好しだよな。ま、そこがおまえのいいところでもあるけどな」
とはいえ、入国するにはやはり、日数をかけてでも新しい通行券を入手するしかない。
ただし、その分の滞在費も考えなければというのが現実問題だ。
この先の旅費だってまだまだかかるのに、ここで足止めをくらうのはかなりの痛手である。
「このことがヨアン義兄様に知られたらきっと、呆れられちゃうね。ううん……おまえは何をやっているのだと怒られるかも」
イヴンははあ、と重たいため息を落とす。
もう見ていられないくらいの落ち込みようだ。
「俺が何とかしてやってもいいぜ」
暮れゆく空を見上げ、イェンはぽつりとこぼす。
イヴンは首を横に振った。
「うん、ありがとう。だけど、通行券は手に入れる。僕、ちゃんと役所の人に説明するよ。なければこの先不便でしょう? だから、どんなことでもいいから仕事を見つけようと思う。うん働くよ!」
口に出したと同時に、前向きな気持ちに切りかわったのだろう。
いつまでも、落ち込んでなんかいられない、と立ち上がったイヴンに、イェンは露骨に顔をしかめた。
「働くだ? どんな仕事でもいい? おまえに何ができんだよ」
「やろうと思えば何だってできるよ!」
「働いたこともねえくせに、偉そうなこと言うな。おうちのお手伝いとはわけが違うんだぞ。どうせ仕事がキツいだの、人間関係が辛いだのって、泣き出すに決まっている」
「どうしてそう決めつけるわけ? ほんとは自分が働きたくないからそう言うんでしょう」
言ってイヴンはあっという顔をする。
今のは言い過ぎたかなと思ったようだ。
ごめんなさい、と口を開きかけたところに。
「とうぜんだ!」
と、返され、イヴンは呆気にとられてそのままあんぐりと口を開ける。
「イェンのばか!」
「ばかとは何だよ、ばかとは。だいたい、そう簡単に仕事がみつかりゃ、苦労しねえよ」
「探せばあるよ」
「そこが甘いんだよ!」
イェンはぎゅっとイヴンの頬をつねった。
「何するの!」
お返しとばかりに、イェンの首の後ろで一つに束ねられた髪を思いっきり引っ張る。
「やりやがったな! この俺にたてつきやがって。だいたい、何だよさっきの態度は。俺と口利いてやらないだと? どの口がそんなことを言いやがった。おまえ最近、生意気だぞ」
イェンの手がイヴンの両方の頬に伸び、つまんでびろんと引っ張っる。
「やめてよ!」
イヴンがぺちりとイェンの顔面を叩く。
「このやろう!」
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