王子様と落ちこぼれ魔道士 へっぽこ無能だと思っていた魔道士が実は最強すぎた

第１章 旅立ち編

３ 間抜けすぎる盗賊四人組

　適度のお酒と美味しい食事に緊張もほぐれたのか、ベッドに入ったと同時にイヴンはぐっすりと眠り込む。
　規則正しい寝息がすやすやと聞こえる。
　そのかたわらで──。

「あにきぃー金目の物なんてないですよ」

　ちびの男がイヴンの荷の中をあさる。

「兄き、財布の中身も小銭数枚っス」

　小太りの男が財布の中の小銭を数え始めた。

「安っぽい服……」

　のっぽの男がイヴンの服をぱたぱたと払い、何故か匂いを嗅ぎ出した。
　宿屋の暗く狭い部屋。四人のこそどろがうろうろと歩き回っては、イヴンの持ち物を物色していた。

「てめえら、そんなもんはいいんだよ。言われたブツだけを盗み出せば大金が手にはいんだ。さっさと探せ。ったく」

　ひげ面の頭かしらとおぼしき男が、子分たちを叱咤する。

「でも兄き、なんとかの剣なんてないっスよ。あるのは、ふつーの剣っス」
「そんなはずはねえ。よく探せ！」
「よく探してるです。ないものはないです。いてっ！」

　ちびが仲間の誰かの足に引っかかり、もつれて倒れ、チェストの上に置かれていたアルミの洗面桶をひっくり返してしまった。

　ガラン！　カランカランカラン！

　桶は回転し、派手な音を部屋中に響き渡らせる。
　急いで桶を拾い上げればよいものを、こそ泥たちは揃って耳をふさいで硬直したまま動かない。
　桶がようやく静まるのを待って、頭の男はかっと目を開いた。

「ばか野郎っ！　でっけえ音出すんじゃねえよ！　起きちまうだろ！」

　男たちは慌ててベッドの上のイヴンを見る。
　どうやら起きる気配はない。
　先ほどと変わらず、気持ちよさそうな寝息をたてている。

「でも、あにきぃー、例のなんとかの剣がないとなると、もう一人のあの優男が持ってるんじゃないですか？」
「あの男の部屋は……？」
「ちょうど向かいの部屋っスよ。一人部屋はここと、そこの二つしかないっス」
「やけにくわしいですね。で、あにきぃ、どうします？」

　ちびの問いかけに頭は腕を組み、右手であごひげをなでうーん、と唸った。

「だめだ、あの男は何かヤバい」
「強そうには見えないっスけど」
「いや、いいか、あいつは見るからに口が達者そうだ。ヘタに話をそらされて、言いくるめられて、あれこれ探られたらかなわん」

　へー、と半分口を開けて子分たちは一様に頷いた。
　それにしても、そろいも揃って、賢そうとはいえない面構えだ。

「とにかくだ！　ガキを起こして隠し場所を吐かせる」
「結局起こすんっスか？」

　さっきは起こすなと怒鳴ったくせに、と小太りが唇を尖らせるが頭の命令は絶対だ。
　皆でぞろぞろとイヴンのベッドに近寄って行ったその時。

「そこまでだ！」
「覚悟しなさい」

　壊れたのではないかという派手な音をたて、部屋の扉が開け放たれた。

「ひいっ！」

　男たちは肩を跳ね振り返る。
　廊下から差し込む灯りを背に、二人の女性が戸口に立っていた。





「ち、よけいなことを……ま、いっか」

　独り言を呟き、イェンはついと席を立つ。
　客の去ったテーブルの後かたづけをしていた女とすれ違いざま、意味ありげな視線を送り食堂から立ち去った。