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第2章 大人の男になれたらよかったのに

3 再び変身!

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 空手の稽古は月、水、金曜日の週三日だ。
 今日も稽古が終わり、ツカサはいつもの公園を横切る。
 そこで三人の、ガラの悪い高校生が、バカ笑いをしながらたむろしているのを目にした。

 彼らを横目に通り過ぎようとしたツカサは、あっと声を上げ、立ち止まる。
 高校生たちに囲まれる、荻久保先生が立ちすくんでいるのを見つけたからだ。
 先生は困惑した顔で高校生の脇を通り抜けようとする。
 別の高校生が先生の行く手をふさいだ。

「どいてください」
「おい、聞いたか? どいてくださいだってよ。お上品だよな」
 高校生たちは腹を抱え、げらげらと笑う。
 そのうちのひとりが、荻久保先生の手首をつかむ。

「遊ぼうぜ、お姉さん」
「は、離しなさい」
 公園を通りかかった通行人は、みな見て見ぬ振りで、そそくさと通り過ぎていく。

 かかわることを恐れ、誰も先生を助けようとしない。
 周りも周りだが、先生も先生だ。

 夜にこの公園は通るなって言ったのに!
 やっぱり小学生の言うことなんか聞く耳持たないんだ。

 それより、何でいい大人が高校生なんかにからまれるんだよ。
 くそ! とツカサはこぶしを握った。

 腕に自信があるとはいえ、自分よりも身体の大きい高校生三人を相手にするのは無謀だ。
 力も身長差もある。

 それでも男として先生を助けなければ。
 ツカサはシャツの下に忍ばせ、首にかけていたペンダントを握りしめた。

 またこれを使うことになるとは。
 どこか人目につかない場所はないかと、辺りを見渡す。

 やっぱ、あそこしかないか。

 ツカサはトイレに駆け込み個室に飛び込んだ。
 さいわい他に人はいない。

「大人になれ! 今度こそ、大人の男だぞ!」
 ツカサの声とともに、ペンダントから淡い光が放たれた。
 最初に変身したときと同じ感覚が身体中を駆け巡る。
 ツカサは飛びつくように鏡を覗き込む。

「またかよ!」
 必死な願いも空しく、変身した姿はあの時と同じ、超美少女女子高生。
 それでも、子どもの姿よりはまだましだと思い直し、急いで先生の元に駆けつけた。

「おまえら何してんだ!」
 ツカサはざっと男子高校生の前に飛び出し、先生を背後にかばう。

「あなたはこの間の……」
 高校生のひとりが愉快そうに口笛を吹き、別のやつが、ん? という表情する。
「おい、よく見て見ろよ。この女、すっげえ美人じゃねえか?」
「え? まじ! うわーめっちゃ美人! 芸能人? モデルかなにかやってる?」
「うるせえよ、黙れ!」

 美少女の口から口汚い言葉が吐き出され、男子高校生は一瞬呆気にとられている。
「おいおい、口が悪いなあ」
「だめよ、あなたは逃げなさい。はやく!」
 ツカサは肩越しに先生を振り返る。

「心配すんな。先生はオレが守る!」
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