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第7章 誰も私たちの知らない場所へ
3 夜明け前の
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月明かりの向こう、夜の闇にぼんやりとした光を放ち、国境の町フォルドゥイークが見えてきた。
ロイの用意してくれた切符を手に、二人は夜明け前、暗闇の中、その町を目指し早歩きで進んでいく。
見る限り軍の待ち伏せはなさそうだ。
これもロイの素早い判断のおかげであった。
「ファンローゼ」
差し出してきたコンツェットの手を握りしめる。
三年前の記憶がよみがえる。
あの時もこうして手を取り合い、暗闇の中、道なき道を走り逃げた。
いつ追っ手に見つかるかもという不安に怯えながら。
たった三年。けれど、とてつもなく長い三年。
自分の手を強く握りしめ返してくるコンツェットの手は、三年前よりも骨張って頼もしかった。
東の空がうっすらと明るくなり始めてきた。
もうじき夜が明ける。
今日という日が希望に満ちた日でありますように、とファンローゼは心の中で祈る。
もう二度と、このエティカリアに戻ることはないだろう。
振り返ることはしなかった。
ファンローゼはもう一度強くコンツェットの手を握りしめた。絶対にこの手を離さないとばかりに。
フォルドゥイークの駅が見えてきた。
もう少しで辿り着く。
あと、もう少し。
しかし──。
神はどこまで、愛し合う二人に残酷な運命を突きつけてくるのだろうか。
コンツェットの足が止まった。
視線をあげたファンローゼの表情が凍りつく。
「逃げられると思っていた?」
夜明け前の空に取り残された月影をまとい、行く手を阻むように立っていたその人物は、エスツェリアの軍服を着たクレイだった。
さらに、その手には拳銃が握られている。
淡い月の光に照らされた、クレイの端整な顔に、緩やかな笑みが浮かぶ。
「信じたくなかった。正真正銘、エスツェリアの軍人だったのね」
「君は本当に疑うことを知らないね。そういう素直で純粋な君が僕は好きだよ。ずっと昔から、そして、もちろん今も、これから先も」
「よくもそんなことが言えるわね。ずっと騙していたのに、私のこともみんなのことも、何もかも」
ファンローゼの口調に怒りの感情がにじむ。
「仕方がなかったんだよ。いろいろ事情があると言っただろ。確かに僕は裏切り者のどうしようもない男だけれど、君の前では真摯でいたつもりだよ。何度も言うようだけれど、君を思う気持ちはまぎれもなく真剣だった。これだけは信じて欲しいな」
ファンローゼを背に庇い、コンツェットが前に出た。
「やはり、おまえがそうだったんだな」
コンツェットは片方の頬を歪めた。そして、さらに続けて言葉を継ぐ。
「エスツェリア国軍諜報部所属クレイ(Cray)さらに、密告者キャリー(Cary)そして──」
コンツェットは厳しい顔つきで、目の前に立つクレイに鋭い視線を放った。
「レイシー(Racy)」
ロイの用意してくれた切符を手に、二人は夜明け前、暗闇の中、その町を目指し早歩きで進んでいく。
見る限り軍の待ち伏せはなさそうだ。
これもロイの素早い判断のおかげであった。
「ファンローゼ」
差し出してきたコンツェットの手を握りしめる。
三年前の記憶がよみがえる。
あの時もこうして手を取り合い、暗闇の中、道なき道を走り逃げた。
いつ追っ手に見つかるかもという不安に怯えながら。
たった三年。けれど、とてつもなく長い三年。
自分の手を強く握りしめ返してくるコンツェットの手は、三年前よりも骨張って頼もしかった。
東の空がうっすらと明るくなり始めてきた。
もうじき夜が明ける。
今日という日が希望に満ちた日でありますように、とファンローゼは心の中で祈る。
もう二度と、このエティカリアに戻ることはないだろう。
振り返ることはしなかった。
ファンローゼはもう一度強くコンツェットの手を握りしめた。絶対にこの手を離さないとばかりに。
フォルドゥイークの駅が見えてきた。
もう少しで辿り着く。
あと、もう少し。
しかし──。
神はどこまで、愛し合う二人に残酷な運命を突きつけてくるのだろうか。
コンツェットの足が止まった。
視線をあげたファンローゼの表情が凍りつく。
「逃げられると思っていた?」
夜明け前の空に取り残された月影をまとい、行く手を阻むように立っていたその人物は、エスツェリアの軍服を着たクレイだった。
さらに、その手には拳銃が握られている。
淡い月の光に照らされた、クレイの端整な顔に、緩やかな笑みが浮かぶ。
「信じたくなかった。正真正銘、エスツェリアの軍人だったのね」
「君は本当に疑うことを知らないね。そういう素直で純粋な君が僕は好きだよ。ずっと昔から、そして、もちろん今も、これから先も」
「よくもそんなことが言えるわね。ずっと騙していたのに、私のこともみんなのことも、何もかも」
ファンローゼの口調に怒りの感情がにじむ。
「仕方がなかったんだよ。いろいろ事情があると言っただろ。確かに僕は裏切り者のどうしようもない男だけれど、君の前では真摯でいたつもりだよ。何度も言うようだけれど、君を思う気持ちはまぎれもなく真剣だった。これだけは信じて欲しいな」
ファンローゼを背に庇い、コンツェットが前に出た。
「やはり、おまえがそうだったんだな」
コンツェットは片方の頬を歪めた。そして、さらに続けて言葉を継ぐ。
「エスツェリア国軍諜報部所属クレイ(Cray)さらに、密告者キャリー(Cary)そして──」
コンツェットは厳しい顔つきで、目の前に立つクレイに鋭い視線を放った。
「レイシー(Racy)」
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