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第3章 思いがけない再会
10 アニタの嫌がらせ
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ファンローゼがキッチンに入ってからしばらくして、食欲を誘う匂いが漂いはじめた。
「みなさん! お食事ができました」
ファンローゼの呼び声に作業を止め、多くの者が食事の部屋に集まり歓声をあげた。
食卓の上には数々の料理が並んでいた。
手作りのパンに鶏肉を煮込んでクリームソースをかけたものや、じゃがいものソテー、スープ。
どの料理も、おいしそうであった。
「ええ! これ全部君が作ったの? それも一人で?」
「はい」
「へえ、どれどれ」
テーブルにつくなり、ファンローゼの作った料理をみんな凄まじい勢いで食べ始めた。
「うまい! うまいよ!」
「ほんとだ! アニタの料理よりもだんぜんうまい!」
「ああ、やっと人間らしい飯が食えた!」
「君って、料理上手なんだね」
皆の褒め言葉に、ファンローゼはにこりと笑う。
よかったわ。
お料理を教えてくれたアレナおばさんには感謝だわ。
「お口にあってよかった」
「お口にあうだって? こんなうまい飯、久しぶりだよ!」
「いつも豚の餌みたいなもん食ってたからな。まあ、腹に入ればなんでもいいって思ってたけど」
「何か、おふくろの味を思い出すな」
「おかわりはあるのか?」
「もちろん」
ふと、強い眼差しを感じてファンローゼは視線を巡らせる。テーブルの端に腰をかけているアニタの凄まじい視線とあった。
フォークを握っているアニタの手が震えていた。その表情は悔しそうであった。
ファンローゼを困らせ意地悪をするつもりが、結果、ファンローゼの料理の腕前にみな大喜びとなり、それどころか、男たちの心をわしづかみにした。
「彼女を食事当番にして心配だったけど、その必要もなかったな。明日からの飯が楽しみだよ」
「仕事も頑張れるな」
「な、アニタもそう思うだろ?」
しかし、アニタはふんと鼻を鳴らし、手にしていたフォークを勢いよくテーブルに叩きつけた。
「確かに、あたしは食事当番をあんたに頼んだわ。でも、いったいどれだけの食材を使ったわけ? 材料費だってばかにならないのよ。組織の運営だって大変なの。そのくらい考えてもらわなければ困るのよ! 明日からの食材はどうすればいいわけ?」
「おい……アニタ……」
すかさず、周りの男たちがアニタをなだめ始めた。
「食事がきちんと作れればいいってもんじゃないのよ!」
アニタの言葉に、ファンローゼははっとなる。
置いてあった食材を何も考えず、好きなように使ったからだ。キッチンにあった食材が何日分のものか、考えるべきだった。
アニタの怒りにこの場の雰囲気が一瞬にして凍りつく。楽しい食事の時間もだいなしとなった。
「アニタ、この子の料理、美味しかったんだから、まあいいじゃないか」
「よくないわよ!」
男たちがファンローゼを庇うことがアニタにとってはおもしろくない。一方、この場にいる女性たちは、いっさい口を挟むことなく、さらに、アニタの怒りの矛先が自分に向けられないよう、うつむいて黙々と食事を口に運んでいる。
巻き込まれるのはごめん。さっさと食べてこの場から離れてしまおう、そう思っているのだ。
「食材のことで怒っているなら、また買い出しに行けばいいじゃないか」
「誰が行くのよ!」
「俺が行ってくるよ」
「お金は! 余裕ないことみんな知ってるでしょう!」
「なんとかなるよ」
「なんとかって!」
「アニタ、そんなに目くじらたてて怒るほどのことじゃないだろ。これから気をつければいいんだし、それに、彼女の料理でみんなが笑顔になったんだ」
「アニタだって、最初にファンローゼに食材のことを言わなかったのは悪いと思うよ」
「な!」
悪いのはファンローゼではなく自分の方だと指摘され、アニタは凄まじい形相を作る。さらに、何か言い返そうとしたその時。
「おいしそうな匂いがするね。扉の向こうから漂ってきたよ。もしかして、ファンローゼが作ったのかな。うん、あたりだね?」
「クレイ!」
「みなさん! お食事ができました」
ファンローゼの呼び声に作業を止め、多くの者が食事の部屋に集まり歓声をあげた。
食卓の上には数々の料理が並んでいた。
手作りのパンに鶏肉を煮込んでクリームソースをかけたものや、じゃがいものソテー、スープ。
どの料理も、おいしそうであった。
「ええ! これ全部君が作ったの? それも一人で?」
「はい」
「へえ、どれどれ」
テーブルにつくなり、ファンローゼの作った料理をみんな凄まじい勢いで食べ始めた。
「うまい! うまいよ!」
「ほんとだ! アニタの料理よりもだんぜんうまい!」
「ああ、やっと人間らしい飯が食えた!」
「君って、料理上手なんだね」
皆の褒め言葉に、ファンローゼはにこりと笑う。
よかったわ。
お料理を教えてくれたアレナおばさんには感謝だわ。
「お口にあってよかった」
「お口にあうだって? こんなうまい飯、久しぶりだよ!」
「いつも豚の餌みたいなもん食ってたからな。まあ、腹に入ればなんでもいいって思ってたけど」
「何か、おふくろの味を思い出すな」
「おかわりはあるのか?」
「もちろん」
ふと、強い眼差しを感じてファンローゼは視線を巡らせる。テーブルの端に腰をかけているアニタの凄まじい視線とあった。
フォークを握っているアニタの手が震えていた。その表情は悔しそうであった。
ファンローゼを困らせ意地悪をするつもりが、結果、ファンローゼの料理の腕前にみな大喜びとなり、それどころか、男たちの心をわしづかみにした。
「彼女を食事当番にして心配だったけど、その必要もなかったな。明日からの飯が楽しみだよ」
「仕事も頑張れるな」
「な、アニタもそう思うだろ?」
しかし、アニタはふんと鼻を鳴らし、手にしていたフォークを勢いよくテーブルに叩きつけた。
「確かに、あたしは食事当番をあんたに頼んだわ。でも、いったいどれだけの食材を使ったわけ? 材料費だってばかにならないのよ。組織の運営だって大変なの。そのくらい考えてもらわなければ困るのよ! 明日からの食材はどうすればいいわけ?」
「おい……アニタ……」
すかさず、周りの男たちがアニタをなだめ始めた。
「食事がきちんと作れればいいってもんじゃないのよ!」
アニタの言葉に、ファンローゼははっとなる。
置いてあった食材を何も考えず、好きなように使ったからだ。キッチンにあった食材が何日分のものか、考えるべきだった。
アニタの怒りにこの場の雰囲気が一瞬にして凍りつく。楽しい食事の時間もだいなしとなった。
「アニタ、この子の料理、美味しかったんだから、まあいいじゃないか」
「よくないわよ!」
男たちがファンローゼを庇うことがアニタにとってはおもしろくない。一方、この場にいる女性たちは、いっさい口を挟むことなく、さらに、アニタの怒りの矛先が自分に向けられないよう、うつむいて黙々と食事を口に運んでいる。
巻き込まれるのはごめん。さっさと食べてこの場から離れてしまおう、そう思っているのだ。
「食材のことで怒っているなら、また買い出しに行けばいいじゃないか」
「誰が行くのよ!」
「俺が行ってくるよ」
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「アニタ、そんなに目くじらたてて怒るほどのことじゃないだろ。これから気をつければいいんだし、それに、彼女の料理でみんなが笑顔になったんだ」
「アニタだって、最初にファンローゼに食材のことを言わなかったのは悪いと思うよ」
「な!」
悪いのはファンローゼではなく自分の方だと指摘され、アニタは凄まじい形相を作る。さらに、何か言い返そうとしたその時。
「おいしそうな匂いがするね。扉の向こうから漂ってきたよ。もしかして、ファンローゼが作ったのかな。うん、あたりだね?」
「クレイ!」
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