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第3章 思いがけない再会

3 喜びの再会

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 クルト氏がいると思われるアパートは、隣町にあり、ここから車で約一時間。
 早速、そこに向かった方がいいというクレイの一言で、車を飛ばし辿り着いた所は、町から少し外れた場所。
 狭い路地裏にひっそりと建つ、二階建ての古びたアパートだった。
「203号室。ここだ」
 ファンローゼは緊張に身を震わせた。
 出版社の男から聞いた情報が確かならば、この扉の向こうに父がいる。
 スヴェリアを出て、このエティカリアへとやってきてから、たった一日で父の居場所をつきとめられるとは予想もしていなかった。
 何もかもクレイのおかげである。もし、自分一人だったら、とうてい無理であった。
 クレイを見上げると、彼はどこか緊張した面持ちであった。
 クレイは一つ頷くと、静かに扉をノックする。
 反応はない。
「留守……?」
「いや、人がいる気配がする」
「気配だなんて」
 ファンローゼには何も感じなかった。
「クルトさん、僕たち、怪しい者ではありません。どうか開けてください」
 小声でクルトの名を呼び、クレイはもう一度扉を叩く。
 確かに扉の向こうで、かすかに人の動く気配を感じた。
「僕たちはエティカリア人です。あなたの敵ではありません」
 ややあって、そろりとドアが小さく開かれた。
 中の男は警戒心を剥き出しにしてこちらを見ていたが、その目がファンローゼにとまると大きく見開かれた。
「僕たち、どうしてもあなたにお会いしたくて」
 男は慌てて周囲を見渡し。
「とにかくはやく中に」
 と、自分たちを部屋にいれてくれた。
「信じられない。そんなまさか、こうして会えるなんて……無事でいてくれたのだね。ああ……ファンローゼ、私の可愛い娘。必ず生きていると信じていたよ」
 クルトは目の前のファンローゼの頬に両手をのばした。
 娘?
 この人が自分の父。
「もう二度と会えないと思っていた」
「あの……」
「どうしたんだ? ファンローゼ」
 ファンローゼの様子がおかしいことに気づき、クルトは怪訝な顔をする。
「ごめんなさい。私……」
 実の父に、それも三年ぶりに会えたというのに、何一つ実感がわかなかった。
 失った記憶の一欠片さえ、思い出すことはできない。
 それが心苦しい。
「クルトさん、どうか落ち着いて聞いてください。彼女、ファンローゼは三年前から記憶を失っているのです」
「なんと……」
 クレイの言葉に、クルトは目を見開いた。
「いったい、何があったんだい?」
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