上 下
31 / 34
第4章 菜月、幽体離脱を試みる

6 菜月絶体絶命

しおりを挟む
「おまえが娘をいじめた山城まどかだな!」
「え? ち、違います! 私は山城まどかじゃないです!」
 どうして私のことを山城まどかだと勘違いしているのだろう。
 何がなんだかわからず、菜月の頭は混乱した。

「嘘を言うな! さっき、スマホにかかってきた電話に出た時に名乗ったではないか! 山城まどかだと」
 菜月は息を飲む。
 そう、確かに言った。
 交差点で立ち止まり、まどかのスマホに電話がかかってきて。

『はい、山城まどか』

 のスマホです、と――。

 すぐ側に、いつも座り込んでいる不審者の姿もいた。
 電話の相手は、暎子の言った通り本人からだった。
 スマホは暎子に頼んで返した。
 だが、藤白は勘違いをしている。

「妻を亡くし、幼い桜花を、僕は大切に育ててきた。僕にとって桜花はすべてだった。宝ものだった。桜花があんな目にあってから、僕は何もかもやる気を失い、今ではこんな有様だ。僕は桜花をいじめた奴が誰なのか知りたいと思った。だが、学校に問い詰めても教えてくれない。それどころか、そんないじめはないと言い張った。だが、ようやく、娘をいじめた人物が山城まどかという名前だと知った。そのことを学校に言っても、まったく取り合ってくれない。だったら、自分で探すしかない。そう思い、僕は桜花が事故にあったあの交差点で、ずっと座り込みながら探し続けた。そして、ようやく見つけた」
 菜月は慌てて首を振った。

「待って、私の話を聞いてください。私は神埜菜月! 山城まどかじゃ」
「逃れようと思って嘘をついても、無駄だ!」
 菜月の顔が青ざめる。
 藤白の手には、いつの間にかナイフが握られていたからだ。

「娘をあんな目にあわせたおまえを許さない」
「本当に違うの!」
 いくら違うと否定しても、藤白は菜月の言葉を聞こうとはしない。
 このままでは殺される。

 どうすれば……。

 部屋の構造を見るからに、アパートの一室。
 窓から差し込んでくる街灯の、光の加減からおそらくここは二階。
 大声で叫べば、きっと誰かが気づいて駆けつけてきてくれるかも。
 だが、叫んで相手を刺激すれば、かえって危険な気がした。

 ふと、菜月は翔流の言葉を思い出す。
 小山佳珠子が生霊になって現れた時のことだ。
 生霊はその人の強い思いによって、身体から魂が抜け、思いの対象となる相手の元へ飛ばせると言っていた。

 翔流くんの元へ私の生霊を飛ばし、助けを求めたら?
 できるかわからない。
 けれど、やってみるしかない。
 翔流くんなら、きっと、気づいてくれる。

 そう信じて菜月は目を閉じた。

『翔流くん、助けて!』

 どのくらい経ったのだろうか。
 とてつもなく長く感じたが、おそらく数十秒もかかっていないのかもしれない。
 菜月は息を荒くさせ、その場に横になる。
 身体に力が入らない。

 身体のダルさに、起き上がれなかった。
 生霊をうまく飛ばせたのか、わからない。

 ナイフを持った藤白が、菜月の元へと近づいてくる。
 絶望の中、藤白の背後に、もう一人何者かの存在を感じた。
 向こう側が透けてしまいそうなくらい、薄い影のような存在。
 目を凝らすと、女の子が立っていた。
 藤白を見つめるその少女の目は、悲しそうであった。

 あの子、桜花さん!

 その少女の顔を確認した菜月は目を見開いた。
「待って、後ろに桜花さんがいる!」
 しかし、桜花の名前を出したことで、かえって藤白を刺激したようだ。
「黙れ!」
 怒りに顔を真っ赤にしながら、藤白はナイフを持つ手を振り上げた。

 もうだめ……。
 パパ、翔流くん!

 その時であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

二十歳の同人女子と十七歳の女装男子

クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。 ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。 後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。 しかも彼は、三織のマンガのファンだという。 思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。 自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...