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第3章 生きている人間も、怖い?

1 パパ大好き!

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 今までの体調が悪かったのは、佳珠子の生霊が取り憑いていたと翔流に言われた。
 その生霊を祓ってもらった瞬間、嘘のように身体が楽になった。

 金縛りにあうのが怖くて、ろくに眠れなかったのに、昨夜は久しぶりにぐっすり眠れた。
 それもあって、今朝は寝坊した。

「ごめんパパ、お弁当……」
 慌てて菜月は、リビングへ駆け込む。
 扉を開けた瞬間、ジュっ、とウインナーを焼く音と、いれたてのコーヒーの香りが広がった。
 キッチンには、エプロン姿の征樹がフライパンを手に立っていた。
「おはよう菜月。ちょうど今、起こしに行こうと思ったところだ。朝食できてるぞ」

 テーブルを見ると、スクランブルエッグにベーコン、トースト、サラダとオレンジジュースが並んでいた。
「パパが作ってくれたの?」
「こうみえて、俺だって料理はするぞ。舞子さんが仕事で忙しいときは作っていた。よし、お弁当もできた」
「お弁当?」
 見ると、少し焦げた卵焼きにウインナー、豚肉のピカタがお弁当箱にきれいにつめられていた。

「ここのところ具合が悪そうだったからな。今日は俺が作ってみた。味はあまり期待しないでくれ。コンビニのパンの方がうまいと言われたら、さすがにショックだが」
 菜月は勢いよく首を振る。

「ううん! パパがお弁当を作ってくれるなんて嬉しい! ありがとう!」
 菜月は征樹に抱きついた。
「お、おい……!」
「パパ大好き!」
 菜月の言葉に征樹は目を見張らせた。

「ほ、本当に、味はアレだ。保証できないぞ」
「そんなこといいの。パパが私のために作ってくれたってことが嬉しいの」
 征樹は照れくさそうに頭をかく。

「ほら、はやく食べないと遅刻するぞ」
「うん!」
 菜月は席につく。
「いただきます!」
 手を合わせ、パパ手作りのスクランブルエッグを口に運ぶ。

「ふわふわでおいしい!」
 菜月の向かい側の席に征樹も座り、コーヒーを飲む。
「朝の支度をやったが、大変だったよ。なのに、菜月は毎日頑張ってくれていたんだと思うと、あらためて感謝しなければいけないな。ありがとう菜月」
「あらたまって言われると恥ずかしいよ」
「これからは俺も手伝うように……」
 菜月はううんと首を振る。

「パパは私のためにお仕事を頑張っているんだから」
「いや、そういうわけにはいかない。菜月だって勉強があるし、友達とだって遊びたいだろう」
「いいの。だって私、家事もお料理も楽しいの。だから、パパは気にしないで」
「菜月……」
「このベーコンの焼き加減も絶妙! カリカリですっごくおいしいよ」
 征樹は口元に微笑みを浮かべた。
「ごちそうさま」
 朝食を食べ終えた菜月はお皿をキッチンに運ぶ。

「片付けは俺がやっておくぞ」
「洗い物ぐらい私がやるよ」
「時計を見ろ。もう家を出る時間じゃないのか」
「ひゃー、本当だ。じゃあ、後はお願い!」
「任せておけ」
「いってきまーす!」

「そうだ菜月。またこの辺りで通り魔事件が起きたと聞いた。犯人はまだ捕まっていないから、気をつけるんだぞ」
「だいじょうぶ、行きも帰りも暎子と一緒だから」
 最近は、翔流くんも一緒になることもあるし。

「それに、この間みたいに、遅くなってから出かけるようなことは絶対にしないから」
「何かあったら、電話してこい」
「わかってる」
 リビングの扉が閉まった、と思ったら再び開いた。

「パパ、大好き」
 にこりと笑う菜月の笑顔に、征樹は照れくさそうに頭をかく。
 菜月が家を出て行ったのを確認し、征樹は仏壇の前に座り手を合わせた。
「舞子、菜月は本当にいい子だな。舞子が愛情深く育てたからだ。俺じゃあ、頼りなくて心配かもしれないが、菜月は大切にすると約束する。命にかえても守るから。お嫁にいくその時まで。だから、安心しろ」

 おっと、俺もそろそろ出かけないと。
 急いで洗い物を片付け、征樹も飛び出すように家を出た。
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