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第2章 翔流、悪霊に挑む

6 翔流くんが訊ねてきた理由

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 もしかしたら、これだけでは終わらないかもしれない。

 翔流の言った言葉は本当となった。
 小山佳珠子の事件があった翌日から、菜月は体調を崩し学校を休むようになった。

 リビングのソファに座り、ぼんやりとテレビを観ながら自習をする。
 右肩のあたりが重く痛み、何度も手でもむ。
 学校を休んでから今日で二日目。
 ありがたいことに、授業のノートは毎日、親友の瑛子が届けてくれた。

 学年一秀才のノートだ。
 要領よくまとめられ、分かりやすくて見やすい。
 おまけに字がきれいだ。
 もしかしたら、次のテストは良い点をとれるかも。
 などと冗談めいたことを考え、菜月は右肩をぐるぐると回した。

 これって肩こり? やだなあ、中学生なのに肩こりなんて。
 おまけに頭痛までする。

 菜月はローテーブルの上に突っ伏した。
 体調が悪いといっても、寝込むほどではない。
 だから学校には行くつもりでいたのだが、征樹に無理をするなと言われ自宅療養しているのだが。
「やっぱり家にいるのはたいくつ」

 はあ、と息をつき、紅茶のおかわりをしようと立ち上がったその時、玄関のチャイムが鳴った。
「瑛子かな」
 時計を見ると、いつも瑛子がノートを届けに来てくれる時間だ。

「はーい、今開けるねー」
 玄関に走り扉を開ける。
「いつもありがと、う……?」
 驚きに声をつまらせた。
 玄関の前に立っていたのは暎子ではなく、翔流だった。

「心配だから様子を見にきた」
「ありがとう……」
「それと、これ」
 翔流はコピー用紙を差し出してきた。

「今日の授業のコピー。深水さんからあずかった」
 翔流から暎子のノートのコピーを受けとる。
 玄関先で互いに顔を見合わせ、しばしの沈黙。

 どうやら、翔流は何か言いたそうな顔をしている。
 わりとはっきり言いたいことを言う翔流が、こんな風にためらうのは珍しい。
 もっとも、親しくなってまだ日が浅い。
 翔流のことをそれほどよく知っているわけではないが。

「ええと、翔流くんって、甘いもの好き?」
「好き」
「クッキー焼いたの。食べてく?」
「食べる」
 遠慮しないところをみると、やはり話があるようだ。
 それに、一瞬だが翔流の目がきらっと輝いた気がした。

 甘いものが好きなんだ。
 意外かも。

「私、お菓子作りが得意なの。あがって」
 じゃあ、と言って翔流は家にあがった。
 そのままリビングに通し、ソファに座るようすすめる。
「オレンジジュースでいい?」
「ありがとう」

 菜月は高い場所にある棚からグラスを取ろうと手を伸ばし、背伸びをする。
 その瞬間、めまいがした。
 目の前が真っ白になり、意識が飛ぶ。
 倒れそうになった菜月を咄嗟に背後から翔流が支えた。

「おい、だいじょうぶか!」
「うん……」
 と、声をもらす菜月を見た翔流は、眉をひそめる。

「だいぶ調子がよくなったかなって思ったけど、時々こうしてめまいがするの。それに、気分が悪くなったり」
 翔流に支えられ、菜月はソファに座った。

 さっきまでは何でもなかったのに、今は起き上がるのもつらい。
「そのまま、横になれ」
「でも、眠るのがちょっと怖い。眠ると金縛りにかかったみたいに身体が動かなくなる時があるの」
 翔流は真剣な顔で菜月を見下ろす。

「菜月、今から話すことを真面目に聞いてくれるか」
 菜月はごくりと唾を飲み込んだ。
 そんな意味深な言い方で前置きをされたら、身がまえてしまう。
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