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第1章 学校一のイケメン 鴻巣翔流の正体は!
10 誰も知らない翔流くんの一面
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「三ヶ月前、ここで車にはねられた藤白さんが立っている。本来自分がいるべき場所へ送ってあげようと思って何度も話しかけたけれど、応じてくれない。いや、僕の声が届かない。このままだと彼女は……」
翔流は緩く首を振る。
「藤白さんがあそこにいるの?」
菜月はわずかに首を前にし、近眼の人がそうするように目を細めた。
「目を細めても視えないだろ」
「そうだけど。藤白さん苦しそうにしてるの?」
「いや、悲しそうな顔をしている。でも、こちらの呼びかけに気づいてくれないから、僕にはどうにもできない」
まだまだ僕は力不足だ、と翔流はぽつりと呟く。
「翔流くんって、すごいんだね。それに、思っていたよりも優しかった」
「思っていたより、ってどういう意味だよ」
翔流は眉をひそめ菜月を睨みつける。
「だって、見ず知らずの子を成仏させるために頑張ったんだもの」
なのに、何故、告白してきた佳珠子って子に対して、気持ち悪いなんて酷いことを言ったんだろう。
「あれ?」
と、声をあげ菜月は翔流の顔を覗き込む。
「どうしたの翔流くん、顔色が悪いよ。だいじょうぶ?」
「ああ、霊たちの放つ気に少しやられただけ」
翔流は胸元を手で押さえ、側のガードレールに寄りかかる。
ものすごくつらそうな顔だ。
「胸のあたりがムカムカして気持ち悪いけど、すぐに治る」
「待って! そこでじっとしていて」
菜月は近くの自販機まで走り、ミネラルウォーターを買って戻ってくる。
「飲んで。少しは楽になるかも」
ペットボトルを受け取った翔流はフタを開けた。
一口、水を含み、ゆっくりと喉に流し込む。
さらに、もう一口。
「ありがとう。だいぶ楽になった」
「無理しないほうが……」
そこで、菜月ははっとなる
「あの、もしかしてだけど、今の体調の悪さって、学校で翔流くんに告白してきた子に気持ち悪いと言ったことと関係ある? えーと、言っている意味が分かるかな」
翔流は軽く前髪をかきあげた。
ひたいが汗でじっとりと濡れている。
思わず、菜月は胸をどきりとさせた。
「ああ……あれか。小山佳珠子って子もそうだけれど、それ以上に、山城まどかに憑いていたものがひどかったから」
「山城さんって、憑かれてたの! 小山さんも?」
「山城まどかの、嫉妬や妬み、ごうまんさ、そういう負の感情に引き寄せられて、かたまりになった悪霊が彼女に取り憑いていた。小山も、まどかの側にいるために影響を受けているのかもしれない。二人から魚が腐ったような臭いがただよってきて、そうしたら気分が悪くなって、うっかり口にだした。慌てて教室を出たのも、吐きそうになったから」
あの時の翔流くんの言葉と行動の意味は、そういうことだったのだ。
そうとは知らず、イヤな奴だと思い込んで悪かったと反省する。
「そういう理由とは知らなくて、ごめんなさい」
「いいよ。よくあることだから」
「小山さん、誤解したかも」
「かまわない。何とも思っていないし、どう思われようと関係ない」
「そっか」
まあ、あんな態度をとっても、翔流くんに対する印象がマイナスになるわけではないのが、イケメンの特権だ。
「神埜さんも、彼女たちとはかかわらない方がいい」
「うん、私と山城さんとは違う部類だし接点がないから、かかわることはないよ。あ!」
そこで、思い出したように菜月は時計を見る。
「いけない! そろそろ家に帰らないと」
近くのコンビニで卵を買って帰るだけだったのが、すでに一時間以上もたっている。
急いで帰らなければ、パパが帰って来る。
「送っていく」
「いいよ。翔流くんこそ具合が悪いんだから家に帰って。私の方が翔流くんを家まで送ってあげたいところだけど」
「いや、通り魔犯人もまだ捕まっていない。こんな時間に女の子を一人で歩かせるのは心配だ」
心配と言われて、菜月の胸がとくんと鳴る。
なに、ときめいているのよ、私。
結局、家まで翔流くんに送ってもらうことになった。
二人は並んで歩いていた。
聞きたいこととか、いろいろあったが、普通では考えられないことが実際に自分の身に起きたためか、頭の整理が追いつかない。
「送ってくれてありがとう。私の家、そこなの」
「じゃあ、もうだいじょうぶだな」
「うん、また明日」
と、家に向かおうとした菜月の目に、征樹が走ってくる姿が飛び込んできた。
「菜月! こんな時間にどこに行ってたんだ!」
走り寄ってきたパパに抱きしめられる。
「パパ、あの……」
父親の腕の中で、菜月はうろたえる。
「一度家に帰ってきた形跡はあるのに、いなくて、心配したんだぞ」
征樹の視線が、離れた場所に立つ翔流へと向けられた。
菜月は征樹を両手で押し返し離れる。
「君は昨日娘を助けてくれた。鴻巣翔流くんだったね」
どうも、というように、翔流はぺこりとお辞儀をする。
「コンビニに行った時に会って、それで送ってもらったの」
翔流くんと会ってからの経緯をだいぶ省略した。
「そうだったのか。娘を送ってくれてありがとう。君の家はどこ? 車で送ってあげよう」
翔流は苦笑する。
「僕は男ですから、一人で帰れます」
翔流はもう一度頭を下げ、きびすを返し去っていく。
その姿が街灯の向こう、暗がりの中へと消えていった。
「ごめんパパ、心配かけて」
「本当だぞ。どんだけ心配したと思ってる。菜月にもしものことがあったら、舞子さんに叱られる」
そう言って、征樹は菜月を引き寄せ頭を抱え込んだ。
「ふふ、ママは絶対、パパは過保護すぎるって言うと思うよ」
「いや、可愛い娘を守るのが俺の役目だからな」
「パパったら、おおげさ」
「俺は本気だぞ。菜月を傷つける奴は誰であろうと許さない」
頭を抱えられたまま、菜月は頬を赤くする。
パパってば、しれっと照れるようなこと言うんだもん。
「どうした菜月?」
「ううん! 何でもない。今日はハンバーグだよ」
「それは楽しみだ。はやく家に帰って食べよう。腹が減った」
「私もお腹が空いちゃった」
菜月は翔流が去っていった方向を見る。
霊能者かあ。
翔流くん、本当にすごい人なんだなあ。
それに、とっつきにくい人かと思ったけれど、意外とそうじゃなかったし、誰も知らない翔流くんの一面を見た感じがしてなんか不思議。
翔流は緩く首を振る。
「藤白さんがあそこにいるの?」
菜月はわずかに首を前にし、近眼の人がそうするように目を細めた。
「目を細めても視えないだろ」
「そうだけど。藤白さん苦しそうにしてるの?」
「いや、悲しそうな顔をしている。でも、こちらの呼びかけに気づいてくれないから、僕にはどうにもできない」
まだまだ僕は力不足だ、と翔流はぽつりと呟く。
「翔流くんって、すごいんだね。それに、思っていたよりも優しかった」
「思っていたより、ってどういう意味だよ」
翔流は眉をひそめ菜月を睨みつける。
「だって、見ず知らずの子を成仏させるために頑張ったんだもの」
なのに、何故、告白してきた佳珠子って子に対して、気持ち悪いなんて酷いことを言ったんだろう。
「あれ?」
と、声をあげ菜月は翔流の顔を覗き込む。
「どうしたの翔流くん、顔色が悪いよ。だいじょうぶ?」
「ああ、霊たちの放つ気に少しやられただけ」
翔流は胸元を手で押さえ、側のガードレールに寄りかかる。
ものすごくつらそうな顔だ。
「胸のあたりがムカムカして気持ち悪いけど、すぐに治る」
「待って! そこでじっとしていて」
菜月は近くの自販機まで走り、ミネラルウォーターを買って戻ってくる。
「飲んで。少しは楽になるかも」
ペットボトルを受け取った翔流はフタを開けた。
一口、水を含み、ゆっくりと喉に流し込む。
さらに、もう一口。
「ありがとう。だいぶ楽になった」
「無理しないほうが……」
そこで、菜月ははっとなる
「あの、もしかしてだけど、今の体調の悪さって、学校で翔流くんに告白してきた子に気持ち悪いと言ったことと関係ある? えーと、言っている意味が分かるかな」
翔流は軽く前髪をかきあげた。
ひたいが汗でじっとりと濡れている。
思わず、菜月は胸をどきりとさせた。
「ああ……あれか。小山佳珠子って子もそうだけれど、それ以上に、山城まどかに憑いていたものがひどかったから」
「山城さんって、憑かれてたの! 小山さんも?」
「山城まどかの、嫉妬や妬み、ごうまんさ、そういう負の感情に引き寄せられて、かたまりになった悪霊が彼女に取り憑いていた。小山も、まどかの側にいるために影響を受けているのかもしれない。二人から魚が腐ったような臭いがただよってきて、そうしたら気分が悪くなって、うっかり口にだした。慌てて教室を出たのも、吐きそうになったから」
あの時の翔流くんの言葉と行動の意味は、そういうことだったのだ。
そうとは知らず、イヤな奴だと思い込んで悪かったと反省する。
「そういう理由とは知らなくて、ごめんなさい」
「いいよ。よくあることだから」
「小山さん、誤解したかも」
「かまわない。何とも思っていないし、どう思われようと関係ない」
「そっか」
まあ、あんな態度をとっても、翔流くんに対する印象がマイナスになるわけではないのが、イケメンの特権だ。
「神埜さんも、彼女たちとはかかわらない方がいい」
「うん、私と山城さんとは違う部類だし接点がないから、かかわることはないよ。あ!」
そこで、思い出したように菜月は時計を見る。
「いけない! そろそろ家に帰らないと」
近くのコンビニで卵を買って帰るだけだったのが、すでに一時間以上もたっている。
急いで帰らなければ、パパが帰って来る。
「送っていく」
「いいよ。翔流くんこそ具合が悪いんだから家に帰って。私の方が翔流くんを家まで送ってあげたいところだけど」
「いや、通り魔犯人もまだ捕まっていない。こんな時間に女の子を一人で歩かせるのは心配だ」
心配と言われて、菜月の胸がとくんと鳴る。
なに、ときめいているのよ、私。
結局、家まで翔流くんに送ってもらうことになった。
二人は並んで歩いていた。
聞きたいこととか、いろいろあったが、普通では考えられないことが実際に自分の身に起きたためか、頭の整理が追いつかない。
「送ってくれてありがとう。私の家、そこなの」
「じゃあ、もうだいじょうぶだな」
「うん、また明日」
と、家に向かおうとした菜月の目に、征樹が走ってくる姿が飛び込んできた。
「菜月! こんな時間にどこに行ってたんだ!」
走り寄ってきたパパに抱きしめられる。
「パパ、あの……」
父親の腕の中で、菜月はうろたえる。
「一度家に帰ってきた形跡はあるのに、いなくて、心配したんだぞ」
征樹の視線が、離れた場所に立つ翔流へと向けられた。
菜月は征樹を両手で押し返し離れる。
「君は昨日娘を助けてくれた。鴻巣翔流くんだったね」
どうも、というように、翔流はぺこりとお辞儀をする。
「コンビニに行った時に会って、それで送ってもらったの」
翔流くんと会ってからの経緯をだいぶ省略した。
「そうだったのか。娘を送ってくれてありがとう。君の家はどこ? 車で送ってあげよう」
翔流は苦笑する。
「僕は男ですから、一人で帰れます」
翔流はもう一度頭を下げ、きびすを返し去っていく。
その姿が街灯の向こう、暗がりの中へと消えていった。
「ごめんパパ、心配かけて」
「本当だぞ。どんだけ心配したと思ってる。菜月にもしものことがあったら、舞子さんに叱られる」
そう言って、征樹は菜月を引き寄せ頭を抱え込んだ。
「ふふ、ママは絶対、パパは過保護すぎるって言うと思うよ」
「いや、可愛い娘を守るのが俺の役目だからな」
「パパったら、おおげさ」
「俺は本気だぞ。菜月を傷つける奴は誰であろうと許さない」
頭を抱えられたまま、菜月は頬を赤くする。
パパってば、しれっと照れるようなこと言うんだもん。
「どうした菜月?」
「ううん! 何でもない。今日はハンバーグだよ」
「それは楽しみだ。はやく家に帰って食べよう。腹が減った」
「私もお腹が空いちゃった」
菜月は翔流が去っていった方向を見る。
霊能者かあ。
翔流くん、本当にすごい人なんだなあ。
それに、とっつきにくい人かと思ったけれど、意外とそうじゃなかったし、誰も知らない翔流くんの一面を見た感じがしてなんか不思議。
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