上 下
35 / 59
第2章 念願の魔道士になりました!

お師匠様に告白 2

しおりを挟む
 突然思いを告げられ言葉を失う。
 まさかこの流れでの不意打ちだった。
 お兄さんのように慕って好きとかそんな気持ちでないことは、ツェツイの真摯な目を見れば瞭然だった。
 いや、薄々ツェツイの気持ちに気づいていないわけでもなかった。
 短いようで長い沈黙。
 その静寂を破ったのはツェツイだった。
「あたし、本気です。本気でお師匠様のことが好きです……あの時、町の路地裏でお師匠様が女の人とキスしていたのを見た時、すごくいやな気持ちになりました。胸が苦しくて痛くて泣きたくなって」
「ツェツイ、おまえの好きは……」
「違います。お師匠様に優しくされたから勘違いしているわけじゃないです。初めて会った時からお師匠様にひかれてました。だから、お師匠様の側を離れたくありません。それが、ディナガウスに行きたくない理由です!」
 さらに気持ちをたたみかけてくるツェツイにイェンは戸惑いを覚える。
 駆け引きのない、幼さ故の正直な思いがイェンの胸に突き刺さる。
 イェンは胸にしがみつくツェツイの肩に手をかけた。
「気持ちは嬉しいけど」
 情けないことに、それだけを言うのがやっとだった。
 ツェツイのことは可愛いと思う。
 大切にしたい、この先の成長を見守っていきたい、ツェツイの望みをすべてかなえてあげたい。
 そのためなら、自分にできることなら何でも、どんなことでもしたいと思っている。弟子なのだから。
 それだけだ。
 ツェツイに対してそれ以上の特別な感情を抱くことは考えられない。
 いや、あり得ない
 さりげなくツェツイを引き離そうとするが、いやいやをして、なおきつくしがみついてくる。
「あたしがまだ子どもだから? でも、あたしだって後数年もすれば!」
 ようやく心に冷静さを取り戻す。
 そう、年が違いすぎるのだ。
 十二歳という年の差は大きすぎる。
 どんなに好きだという感情をぶつけてきても無理なのだ。
「お願いです。もう少しだけ待ってください。あたし、すぐに大人になるから。お師匠様とつりあう、ふさわしい女性になるように努力しますから!」
「ツェツイ」
「お師匠様、好きです」
「おまえには、もっと相応しい男が現れるよ。俺なんかよりもずっといい男がな」
 またしても、ありきたりな言葉しか口にできなかった。
 ツェツイを納得させるには不十分だったであろう。
 胸にしがみつくツェツイの手が自然と解かれる。
「お師匠様……」
 イェンは静かに視線を斜めにそらした。
 ツェツイの思いを受け入れることはできないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

(完結)王太子妃の苦悩ーーなぜ私は王太子が嫌いになれないのでしょう?

青空一夏
恋愛
私はリオナ。ダックワース公爵家の長女でクラーク王太子殿下の婚約者だ。幼い頃から王太子を支えるようにと厳しい教育を受けてきたわ。 けれどクラーク王太子殿下は怠け者でなんの努力もなさらない。浮気もすれば愛人も作るという辛い仕打ちを私は受けるのだけれど、なぜか私はクラーク王太子殿下を嫌いになれないの。 なぜなのかしら? それはもちろん幼い頃から自分を犠牲にしてクラーク王太子殿下を支えるように言い含められているからだと思うけれど。 なにを言われても恋しい気持ちが消えてくれない。なぜなら・・・・・・ ※作者独自の異世界で史実には一切基づいておりません。 ※ゆるふわ・ご都合主義でお話が展開していきます。 ※途中タグの追加・削除などあり得ます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...