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第2章 念願の魔道士になりました!
新しい生活 1
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ツェツイの生活は大きく一転した。
新しい環境。
新しい社会。
ひとたび〝灯〟に所属すれば、年齢など関係なく、実力がものをいう厳しい階級社会だ。
その力は国のために。
そして、実力に見合った給金を貰う。
みな、魔術向上のため研究に勤しみ、腕に自信のあるものは昇格試験を受け、さらなる高みを目指す。
もともとの素質と本人の努力もあって、ツェツイは確実に腕を上げ〝灯〟に入ってまだ三ヶ月でありながら、誰もが驚くほどの早さで階級も上がっていった。
だが、そうなると周りから妬まれ、嫌がらせを受けることもあった。
〝灯〟の廊下を歩いていたツェツイは、前方にマルセルとルッツの姿を見つけた。
二人は腕を組み、じっとこちらを見すえている。
〝灯〟に入ってから、この二人は何かと絡んできては嫌がらせをしてくるのだ。
ツェツイはうつむきかけて思い直し、しっかりと前を向く。
下なんかむくな、顔を上げろ、それがお師匠様の教えだから。
〝灯〟に入ったばかりのツェツイだが、今ではこの二人と同じ階級。
立場は対等。
彼らに対して引け目を感じることはないのだ。
恐れることなんか何もない。
堂々としていればいい。
何事もないことを祈りながら二人の脇を通りかかったとき。
「おまえ」
通り過ぎざまマルセルに呼び止められる。
歩みを止めその場に立ち止まるが、彼らを振り返ることなくツェツイは再び歩き出す。
それがよほど相手の癇に障ったらしい。
足早で近寄ってきたマルセルに右肩をつかまれ、無理矢理振り向かされる。
「おまえ、最近調子にのってないか? 生意気だぞ」
つかまれた右肩を強く押され、ツェツイは足をよろめかせた。
「無能魔道士の父親が〝灯〟の長だってことを知ってて、それであいつに近づいたんだろ? そして、まんまと〝灯〟にもぐり込んだ」
マルセルの横でルッツがそうそう、とうなずいている。
ツェツイは唇を噛んだ。
マルセルはまんまと〝灯〟にもぐり込んだと言うが、〝灯〟に入るにはきちんとした試験に合格しなければ入れない。
そのことをマルセルだって知っているはずなのに。
けれど、こんな嫌味を言われるのはマルセルに限ったことではなかった。
多くの〝灯〟にいる魔道士たちが、マルセルと同じことを言う。
それは影でこそこそだったり、あるいはツェツイの目の前であからさまであったり。
〝灯〟の長がお師匠様のお父さんだということは後から知ったこと。だが、それを言ったところで彼らは納得はしてくれないだろう。
「それにあいつ、遊び人なんだって? あいつと遊びたがってる女は何人もいて、それこそ順番待ちだとかって噂じゃないか」
「そうそう。予約待ちでいっぱいらしいですよ」
マルセルとルッツは肩を揺らし、品のない笑いを浮かべた。
「まあ、あいつの取り柄といえば、あのきれいな顔くらいだからな。もっとも、あいつのどこがいいんだか僕にはまったく理解できないけどね」
やはりルッツがそうそう、とうなずいている。
マルセルの嫌味に、ツェツイは眉を寄せ振り返る。
何を言われても気にはしない、聞き流してしまおうと思っていたが……。
「お師匠様のことを悪く言うのは許さない!」
「へん! 何がお師匠様だ。そもそも、魔術が使えないのに何であいつは〝灯〟にいる? それは、自分の父親が〝灯〟の長だから特別扱いを受けてんだろ? あいつに魔道士の資格なんて本当はないんだよ。そのことは〝灯〟にいる誰もが思ってる。あいつは親の威光でのうのうと魔道士のふりをしてんだ!」
「神経の図太いやつです」
「だけど、あいつの親が〝灯〟の長だから、誰も何も言わない。いや、言いたくても言えないんだ!」
「違う!」
「違うもんか!」
「違う! あなたに何がわかるのよ!」
「じゃあ、おまえはわかるっていうのかよ」
「わかるわ! だってお師匠様は……!」
「お師匠様は……? 何だよ。言ってみろよ」
ツェツイは口をつぐみ、マルセルを上目遣いで睨み上げる。
「ほら、やっぱり何も言えないんじゃないか」
マルセルの手がツェツイの胸をとんと押す。
それがきっかけであった。
負けじと、ツェツイもマルセルにつかみかかる。
その勢いで二人はもつれ合い廊下に転がる。
マルセルの上に馬乗りになり、ツェツイはマルセルの頭を叩き、マルセルはツェツイの顔を押しのけ、さらに髪をわしづかみにして引っ張った。
「ち、ちょっと……ここで、喧嘩はまずいです」
突然喧嘩を始めた二人に、ルッツはおろおろとうろたえる。
やがて騒ぎを聞きつけた者たちが何が起こっているのだと集まり、あっという間に二人の周りに人集りができた。
けれど、誰ひとり、マルセルとツェツイを止めようとする者はなく、つかみ合いをする二人を傍観し、中には冷笑さえ浮かべている者さえいた。
そして、集まってきた女性陣の一部は見下すような目でツェツイを見る。
「ねえあの子、ついこの間入ったばかりの新人よね?」
「異例の早さで昇格した子よ」
ふーん、と女たちはツェツイに冷たい視線を向ける。
自分たちよりも年下の、それも〝灯〟に入ったばかりの子どもが、瞬く間に上の階級へ上がっていくのだからおもしろくないのだ。
だが、理由はそれだけではなかった。
「イェンさんにつきまとっているとか」
「イェンさんは優しいから同情しているだけよ」
「あの子、親がいないっていうじゃない。それにつけこんでいるのよ」
「子どものくせに計算高い子ね」
ツェツイがイェンと親しくしていることが女たちにとってはおもしろくないらしい。
彼女たちは自分たちよりも遥かに年下のツェツイに嫉妬しているのだ。
それがツェツイを疎ましく思う原因のひとつであった。
「だけど、いいざま」
聞こえよがしの悪口と嘲笑が耳に飛び込み、ツェツイは固まった。
その隙に、マルセルに胸を押され突き飛ばされる。
「とにかく、生意気なんだよ!」
突き飛ばされた勢いでツェツイは近くの壁に背中を打ち、その反動で跳ね返り前のめりになって崩れ込む。
力任せに押された胸と、打った背中が痛んで苦しげに息を吐く。が、それでもツェツイを助けようとする者はいなかった。
新しい環境。
新しい社会。
ひとたび〝灯〟に所属すれば、年齢など関係なく、実力がものをいう厳しい階級社会だ。
その力は国のために。
そして、実力に見合った給金を貰う。
みな、魔術向上のため研究に勤しみ、腕に自信のあるものは昇格試験を受け、さらなる高みを目指す。
もともとの素質と本人の努力もあって、ツェツイは確実に腕を上げ〝灯〟に入ってまだ三ヶ月でありながら、誰もが驚くほどの早さで階級も上がっていった。
だが、そうなると周りから妬まれ、嫌がらせを受けることもあった。
〝灯〟の廊下を歩いていたツェツイは、前方にマルセルとルッツの姿を見つけた。
二人は腕を組み、じっとこちらを見すえている。
〝灯〟に入ってから、この二人は何かと絡んできては嫌がらせをしてくるのだ。
ツェツイはうつむきかけて思い直し、しっかりと前を向く。
下なんかむくな、顔を上げろ、それがお師匠様の教えだから。
〝灯〟に入ったばかりのツェツイだが、今ではこの二人と同じ階級。
立場は対等。
彼らに対して引け目を感じることはないのだ。
恐れることなんか何もない。
堂々としていればいい。
何事もないことを祈りながら二人の脇を通りかかったとき。
「おまえ」
通り過ぎざまマルセルに呼び止められる。
歩みを止めその場に立ち止まるが、彼らを振り返ることなくツェツイは再び歩き出す。
それがよほど相手の癇に障ったらしい。
足早で近寄ってきたマルセルに右肩をつかまれ、無理矢理振り向かされる。
「おまえ、最近調子にのってないか? 生意気だぞ」
つかまれた右肩を強く押され、ツェツイは足をよろめかせた。
「無能魔道士の父親が〝灯〟の長だってことを知ってて、それであいつに近づいたんだろ? そして、まんまと〝灯〟にもぐり込んだ」
マルセルの横でルッツがそうそう、とうなずいている。
ツェツイは唇を噛んだ。
マルセルはまんまと〝灯〟にもぐり込んだと言うが、〝灯〟に入るにはきちんとした試験に合格しなければ入れない。
そのことをマルセルだって知っているはずなのに。
けれど、こんな嫌味を言われるのはマルセルに限ったことではなかった。
多くの〝灯〟にいる魔道士たちが、マルセルと同じことを言う。
それは影でこそこそだったり、あるいはツェツイの目の前であからさまであったり。
〝灯〟の長がお師匠様のお父さんだということは後から知ったこと。だが、それを言ったところで彼らは納得はしてくれないだろう。
「それにあいつ、遊び人なんだって? あいつと遊びたがってる女は何人もいて、それこそ順番待ちだとかって噂じゃないか」
「そうそう。予約待ちでいっぱいらしいですよ」
マルセルとルッツは肩を揺らし、品のない笑いを浮かべた。
「まあ、あいつの取り柄といえば、あのきれいな顔くらいだからな。もっとも、あいつのどこがいいんだか僕にはまったく理解できないけどね」
やはりルッツがそうそう、とうなずいている。
マルセルの嫌味に、ツェツイは眉を寄せ振り返る。
何を言われても気にはしない、聞き流してしまおうと思っていたが……。
「お師匠様のことを悪く言うのは許さない!」
「へん! 何がお師匠様だ。そもそも、魔術が使えないのに何であいつは〝灯〟にいる? それは、自分の父親が〝灯〟の長だから特別扱いを受けてんだろ? あいつに魔道士の資格なんて本当はないんだよ。そのことは〝灯〟にいる誰もが思ってる。あいつは親の威光でのうのうと魔道士のふりをしてんだ!」
「神経の図太いやつです」
「だけど、あいつの親が〝灯〟の長だから、誰も何も言わない。いや、言いたくても言えないんだ!」
「違う!」
「違うもんか!」
「違う! あなたに何がわかるのよ!」
「じゃあ、おまえはわかるっていうのかよ」
「わかるわ! だってお師匠様は……!」
「お師匠様は……? 何だよ。言ってみろよ」
ツェツイは口をつぐみ、マルセルを上目遣いで睨み上げる。
「ほら、やっぱり何も言えないんじゃないか」
マルセルの手がツェツイの胸をとんと押す。
それがきっかけであった。
負けじと、ツェツイもマルセルにつかみかかる。
その勢いで二人はもつれ合い廊下に転がる。
マルセルの上に馬乗りになり、ツェツイはマルセルの頭を叩き、マルセルはツェツイの顔を押しのけ、さらに髪をわしづかみにして引っ張った。
「ち、ちょっと……ここで、喧嘩はまずいです」
突然喧嘩を始めた二人に、ルッツはおろおろとうろたえる。
やがて騒ぎを聞きつけた者たちが何が起こっているのだと集まり、あっという間に二人の周りに人集りができた。
けれど、誰ひとり、マルセルとツェツイを止めようとする者はなく、つかみ合いをする二人を傍観し、中には冷笑さえ浮かべている者さえいた。
そして、集まってきた女性陣の一部は見下すような目でツェツイを見る。
「ねえあの子、ついこの間入ったばかりの新人よね?」
「異例の早さで昇格した子よ」
ふーん、と女たちはツェツイに冷たい視線を向ける。
自分たちよりも年下の、それも〝灯〟に入ったばかりの子どもが、瞬く間に上の階級へ上がっていくのだからおもしろくないのだ。
だが、理由はそれだけではなかった。
「イェンさんにつきまとっているとか」
「イェンさんは優しいから同情しているだけよ」
「あの子、親がいないっていうじゃない。それにつけこんでいるのよ」
「子どものくせに計算高い子ね」
ツェツイがイェンと親しくしていることが女たちにとってはおもしろくないらしい。
彼女たちは自分たちよりも遥かに年下のツェツイに嫉妬しているのだ。
それがツェツイを疎ましく思う原因のひとつであった。
「だけど、いいざま」
聞こえよがしの悪口と嘲笑が耳に飛び込み、ツェツイは固まった。
その隙に、マルセルに胸を押され突き飛ばされる。
「とにかく、生意気なんだよ!」
突き飛ばされた勢いでツェツイは近くの壁に背中を打ち、その反動で跳ね返り前のめりになって崩れ込む。
力任せに押された胸と、打った背中が痛んで苦しげに息を吐く。が、それでもツェツイを助けようとする者はいなかった。
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