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第1章 わたしの師匠になってください!
お師匠様とデート? 1
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最初は、魔術の修行ができないことに不満気味だったツェツイだったが、しばらく町を歩いているうちにそんな思いもどこへいったのやら、すっかりと上機嫌となった。
やはり女の子、可愛い小物や洋服を見つけては立ち止まり目を輝かせ、さらに、店のガラスに映った自分の姿を見ては嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
子どもの頃から、もっとも今も子どもだが……家のことや学校の勉強に追われ友達と遊ぶこともほとんどなかったという。
もちろん、こうして町中を歩き回るのも初めてだと。
「アリーセさんにいただいた可愛い服を着て町を歩くのがとっても嬉しくて」
今日のツェツイの格好は、すみれ色のふんわりとしたワンピースだ。
歩くたびに腰のリボンがゆらゆらと揺れる。
この場に双子たちがいたら、声を揃えてツェツイ可愛いぞ、似合ってるぞ、の連呼だろう。
ころころと笑い、はしゃいでいたツェツイだが、不意に立ち止まり、小さな手を伸ばしイェンの指先に触れてきた。
「どうした? 歩き疲れたか?」
ツェツイは違うと首を振り、触れた指先をきゅっと握りしめる。
「眠くなったか。しかたねえな、おぶってやるぞ」
イェンのツェツイに対する態度は、どこまでも子ども扱いだ。
「眠くなんてありません。こうしてお師匠様に触れているととっても安心して。不思議な感じ。どうしてかな?」
イェンは笑ってツェツイの頭をなでた。
「おまえがそう思うなら、それは……」
「まあ、可愛らしい女の子ね。兄妹かしら」
側を通りかかった二人組の女性が、微笑ましい目でこちらに視線を向けてきた。
さらにすれ違いざま。
「案外、父娘かもよ」
と言うのを、そんなわけあるか! と、心の中で言い捨て、イェンはため息をつく。
「ひと休みするか」
「大丈夫です! あたし、疲れてなんかいません!」
握っていた指から手をぱっと離すツェツイの手首をつかんで引き寄せる。
「まったく、おまえは遠慮ばかりするんだな。もう少し子どもらしくわがままのひとつでも言って俺を困らせてみろ。こう見えても俺は懐が深いから多少のことじゃ動じねえぞ」
と、ツェツイの手を引き歩き出す。ほどなくして、イェンは洒落た雰囲気の店へとためらうことなく入っていった。
その店は若い女性に人気のある店らしく、店内は女性客であふれていた。
イェンとツェツイが店に入った途端、店内が一瞬しんとなる。
「お、女の人がいっぱい! お師匠様! なんだか場違いです」
「俺がか?」
「あたしもお師匠様もです!」
「気にすんな。ほら、ついて来い」
案の定、客、店員問わず女性たちの目がいっせいにイェンに向けられ息を飲んだのがわかった。
そして、次に何やら低くささやかれるひそひそ声。
席についたものの、周りから向けられる痛いほどの視線に、ツェツイは落ち着かない様子でそわそわとする。
「あの……お師匠様は平気なのですか?」
「何が?」
「だって女の人、みんなこっちを見ています。いえ、見ているのはお師匠様のことで……それも、ものすごく熱い視線で……もしかして気づいていないのですか?」
「気づいてるけど」
「じ、じゃあ……」
「実際俺、この通りいい男だし。こうやって他人から見られるのは慣れてるから」
謙遜する素振りなど欠片ほども見せず、あはは、と笑うイェンにツェツイははあ……と息を吐いて肩をすぼめ萎縮する。そして、ちらりと上目遣いでイェンを見る。
だけど本当にイェンがいい男なのも、存在するだけで華があるのも、人目をひくのも事実であった。
「こうしてると、あたしたち周りからどういう関係に見えると思いますか?」
「どうって、兄妹だろ? さっきもそう言われたし、もしくは親戚の子のお守りとか。間違っても父娘じゃねえ」
「恋人同士とかは?」
そう言った瞬間、ツェツイの顔がほんのり赤くなる。
「見えると思うか?」
「そうですよね。見えないですよね……」
「そんなことより、好きなもん食っていいぞ」
そう言われたものの、ツェツイはメニューを広げ何を頼んだらいいのかさっぱりわからないという様子でおろおろする。
「いちごは好きか?」
「はい! 大好きです。お母さんがあたしのお誕生日になると買ってきてくれて、甘くておいしかったなあ。いちご……」
イェンは片手を上げ通りかかった給士の女性を呼び止めた。
頬杖をついたまま、淡々と注文をする。
給士の女性がイェンにみとれ頬を赤くしたのは言うまでもない。
注文を繰り返す声が上ずっていた。
やはり女の子、可愛い小物や洋服を見つけては立ち止まり目を輝かせ、さらに、店のガラスに映った自分の姿を見ては嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
子どもの頃から、もっとも今も子どもだが……家のことや学校の勉強に追われ友達と遊ぶこともほとんどなかったという。
もちろん、こうして町中を歩き回るのも初めてだと。
「アリーセさんにいただいた可愛い服を着て町を歩くのがとっても嬉しくて」
今日のツェツイの格好は、すみれ色のふんわりとしたワンピースだ。
歩くたびに腰のリボンがゆらゆらと揺れる。
この場に双子たちがいたら、声を揃えてツェツイ可愛いぞ、似合ってるぞ、の連呼だろう。
ころころと笑い、はしゃいでいたツェツイだが、不意に立ち止まり、小さな手を伸ばしイェンの指先に触れてきた。
「どうした? 歩き疲れたか?」
ツェツイは違うと首を振り、触れた指先をきゅっと握りしめる。
「眠くなったか。しかたねえな、おぶってやるぞ」
イェンのツェツイに対する態度は、どこまでも子ども扱いだ。
「眠くなんてありません。こうしてお師匠様に触れているととっても安心して。不思議な感じ。どうしてかな?」
イェンは笑ってツェツイの頭をなでた。
「おまえがそう思うなら、それは……」
「まあ、可愛らしい女の子ね。兄妹かしら」
側を通りかかった二人組の女性が、微笑ましい目でこちらに視線を向けてきた。
さらにすれ違いざま。
「案外、父娘かもよ」
と言うのを、そんなわけあるか! と、心の中で言い捨て、イェンはため息をつく。
「ひと休みするか」
「大丈夫です! あたし、疲れてなんかいません!」
握っていた指から手をぱっと離すツェツイの手首をつかんで引き寄せる。
「まったく、おまえは遠慮ばかりするんだな。もう少し子どもらしくわがままのひとつでも言って俺を困らせてみろ。こう見えても俺は懐が深いから多少のことじゃ動じねえぞ」
と、ツェツイの手を引き歩き出す。ほどなくして、イェンは洒落た雰囲気の店へとためらうことなく入っていった。
その店は若い女性に人気のある店らしく、店内は女性客であふれていた。
イェンとツェツイが店に入った途端、店内が一瞬しんとなる。
「お、女の人がいっぱい! お師匠様! なんだか場違いです」
「俺がか?」
「あたしもお師匠様もです!」
「気にすんな。ほら、ついて来い」
案の定、客、店員問わず女性たちの目がいっせいにイェンに向けられ息を飲んだのがわかった。
そして、次に何やら低くささやかれるひそひそ声。
席についたものの、周りから向けられる痛いほどの視線に、ツェツイは落ち着かない様子でそわそわとする。
「あの……お師匠様は平気なのですか?」
「何が?」
「だって女の人、みんなこっちを見ています。いえ、見ているのはお師匠様のことで……それも、ものすごく熱い視線で……もしかして気づいていないのですか?」
「気づいてるけど」
「じ、じゃあ……」
「実際俺、この通りいい男だし。こうやって他人から見られるのは慣れてるから」
謙遜する素振りなど欠片ほども見せず、あはは、と笑うイェンにツェツイははあ……と息を吐いて肩をすぼめ萎縮する。そして、ちらりと上目遣いでイェンを見る。
だけど本当にイェンがいい男なのも、存在するだけで華があるのも、人目をひくのも事実であった。
「こうしてると、あたしたち周りからどういう関係に見えると思いますか?」
「どうって、兄妹だろ? さっきもそう言われたし、もしくは親戚の子のお守りとか。間違っても父娘じゃねえ」
「恋人同士とかは?」
そう言った瞬間、ツェツイの顔がほんのり赤くなる。
「見えると思うか?」
「そうですよね。見えないですよね……」
「そんなことより、好きなもん食っていいぞ」
そう言われたものの、ツェツイはメニューを広げ何を頼んだらいいのかさっぱりわからないという様子でおろおろする。
「いちごは好きか?」
「はい! 大好きです。お母さんがあたしのお誕生日になると買ってきてくれて、甘くておいしかったなあ。いちご……」
イェンは片手を上げ通りかかった給士の女性を呼び止めた。
頬杖をついたまま、淡々と注文をする。
給士の女性がイェンにみとれ頬を赤くしたのは言うまでもない。
注文を繰り返す声が上ずっていた。
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