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第36話:開戦

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「絶対勝つぞッ!」

「「「おぉっ!」」」

 控え室で、心を一つにするための円陣が組み終わり、各々が試合で力を発揮できるように努める。
 そのなかには、復帰したサニャクルシアもおり、俺たちは全員で試合に臨むことができる。
 作戦は、大きな変更はなし。
 それがバレたことは、サニャクルシアに了承を得て話すことにした。

「本当に変えなくても大丈夫なのか?」

 ラークが少し不安げに尋ねる。

「うん。まとまってるよりかはマシでしょ」

 バレた上で作戦を変えないのは、バレてしまっても、拡散した方が勝ち目があるからだ。
 まとまっていたら範囲攻撃で即死であり、俺自身の強さを露呈させないためにも分かれた方が都合が良かったりする。
 よって、基本は一班五人で七班作り、奇襲を狙う。
 とはいえ複数での戦闘が苦手なタイプの者もいるので、六人班もいくつかある。

「……ん? なんだよ。私になんか用?」

 獣人の少女ーールージュは緊張さえ感じさせない様子で首をかしげる。

「いや、なんでもないよ」

 今回、クラスとして勝つための一つのキーマンは単体で行動するルージュだ。
 彼女がどれだけ単体の敵をやれるかという点にかかっている。
 もう一つは、土もしくは風魔法を得手とする生徒だ。
 今回、全ての班にどちらかに当てはまる生徒がいる。
 この二つの魔法は隠密に優れた魔法が存在するため、彼らの力量で奇襲が成功するか否かが決定するのだ。
 ちなみにアイラは一番後ろで回復役ヒーラーを担当する。
 手負いの生徒を回復して、再び前線に送るのだ。

「アイラ、いつも負担の大きい仕事でごめんね」

 この戦いは、確実に負傷者が多い。
 たとえ会敵した相手の総力が上でも、幾人かは生還する可能性が高いからだ。
 アイラの魔力総量が多いとはいえ、楽な仕事ではない。

「大丈夫だよ! 私、あんな人たちに負けないもん!」

 アイラは自信満々に意気込んだ。
 彼女がそう言うならば、俺からはなにも言うことはないだろう。

「そっか! じゃあ任せたよ」

「うん!」

 クラスにとって苦しい戦いになるだろうことはみんなわかっているだろう。
 故に、誰もが笑みを見せずに残りの時間を過ごしたーー。

『さて、本日は起こるのか下克上!? はたまた反乱は無駄に終わるのか! 挑戦者、第7クラスっ! 防衛者、第20クラス!……』

 風魔法によって拡声された煽り文句を聞き流して、眼前の戦地を見遣る。
 鬱蒼と生い茂った木々から、自他の発見を遅らせることを想像し、思わずほくそ笑んだ。

「ーー以上だ。みんな、健闘を祈る」

 試合開始前に、開戦前のみ絶対安地といえる俺たちの陣地のなかでラークがざっくりと最終確認を行ったが、みんなの表情に笑みは見られない。
 やはり格上相手には緊張するのだろうか。
 もしくは、初陣でここまでの観衆に見られているのだ。活躍した先にある歓声に身を震わせているのかもしれない。
 本心は知らないが、なんにせよもう開戦のようだ。

『それでは、試合を始めますっ!』

 その言葉に雰囲気がピリリと引き締まった。心持ちは心配ないらしい。

『ーー開始ッ!』

 目の前にあった魔力の壁が消失し、行動が自由になった。その瞬間に俺たちは駆け出し、森のなかへと姿を消した。
 俺の仕事は、誰にも悟られることなく敵を殲滅すること。ヒットアンドリターンならぬキルアンドリターンとでもいうのか。
 クラスメートにはルージュのサポートと伝えているので、注目は浴びただろうが、実力を疑われることはないはずだ。
 この結界のなかでは俺の探知は効果が薄い。魔力で作られたフィールドと、魔力で作った仮の命が類似しており、判別が難しいのだ。
 そういうわけで、相手の出方を伺おうと、適当な班に密着することにしたーー。

 数分後、俺が密着していた班が敵と遭遇した。
 敵は二人。ウチの五人がまともに戦っても本来なら余裕で負ける程度には強い。
 息を潜めているクラスメートの顔にも緊張の色が見える。
 と、どうやら仕掛けるようだ。

「いくよ……三、二、一、っ!」

 事前に詠唱していた魔法を発動し、がら空きの背中に撃ち込んだ。実力差はあれ、五人の全力の魔法を受けた敵はひとたまりもなく、絶命しリタイアとなった。

「やった! 二人も倒しちゃった!」

「おおぉ! 俺たちすげえな! これだったら勝てる!」

 歓喜に身を任せているが、さっきの魔法は大きな音を出した。近くにいた敵がやってくるのは道理である。

「『火球ファイアーボール』」

 騒ぎを聞きつけた第7クラスの生徒が、茂みから魔法を放つ。
 急に現れた攻撃魔法に、気を抜いていたクラスメートたちは体が固まった。

「凍れ」

 やむを得ず、その火の玉を凍らせて危機を救うが、流石にバレるだろう。

「チッ、誰だ!」

 魔法が放たれた方向はわかるのか、俺がいる方角を見て相手の生徒がのたまう。
 別に素直に出て行く義理はないのだが、人数有利を見せることで、敵に臆しているクラスメートに勇気を与えるために俺は姿を現した。

「みんな、さっきと同じ数的有利だよ。誰もやられたわけじゃないんだから、強気に行かないと! それとも、五歳の俺が防げて、みんなが防げないの?」

「そんなわけないだろ! やってやる!」

 一人、すぐに乗せられる単純な人がいたようで、彼を筆頭に表情に自信が見えるようになった。

「そ、そうだよ! 負けるもんか!」

「俺だって!」

 これだけ士気が上がれば、もう負けることはないだろう。
 本来ならばボロ負けするが、今は俺が強化魔法をかけているのだから。
 実は、円陣のときに全員にかけておいたのだ。
 もっとも、無言だったため気づいたのは数人だったが。
 単純な子を皮切りに、第20クラスが戦いの口火を切ると、対抗して第7クラスも魔法で応戦する。
 魔法の撃ち合いは拮抗するが、やはり五人対二人、強化の甲斐あって、押し切ることに成功した。
 そうして、四人もの敵を脱落させることができた。
 さて、他の戦場はどうだろうか。
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