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第4話:一時の別れ

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 今日も今日とて訓練だらけ泥塗れ。どうもシアンです。アイラは今日はいない。婆さんが心配してないので大丈夫だろう。
 最近はあまり一日婆さんと二人きりということが少なかったためか、今日は実戦訓練のために森に来ている。

「今日の相手はレッドウルフだよ。半端に弱らせると『底力』で今までの倍は強くなるから気をつけな」

「は~い」

 レッドウルフは毛並みが赤いのが特徴の魔物である。
 魔物というのは、簡単に説明すると体内に魔石と呼ばれる魔力を纏った石ころがある生物である。
 レッドウルフは何度も戦っている。毎日のランニング森一周でよく遭遇するため魔法の練習がてら葬っている。
 婆さんもそれについては想定済みらしく、眼前には三十を超える数の群れで荒い息をハアハアしている。

「めちゃくちゃ興奮してない?」

「あんたが毎日のように仲間を殺すから、恨みを晴らす機会に昂ぶってるんだろうね」

「いつのまにか有名人になっちゃったよ」

 俺は幾つかの魔法を構築する。

「よし。始めッ!」
  
 婆さんの合図と同時、五体のレッドウルフが肉薄してきた。

「穿ていかずち

 天から落雷が五柱。それぞれレッドウルフに命中し、彼らは見当違いな方向に転がり痙攣する。
 残るレッドウルフは怒気を増し、俺を視線だけで殺せそうな程に睨みつけている。

「切り裂け風」

 手を横に薙ぐとそこからブーメラン状の不可視の刃が生み出され、前に立っていた十体の命を刈りとる。

「グルルルガァァァア!!」

 怒り狂い突撃してきた一体を皮切りに、残り十五匹が一斉に襲いかかる。

「焼き尽くせ業火」

 俺の少し前に炎の壁が燃えーー上がらない。発現した炎は激しく揺らめき霧散する。一瞬婆さんを見ると、ニタニタと笑っていた。
 あの婆さん、ジャミングしやがった! 
 何もしなければ大怪我は必至。舌打ちと共に目の前に爆発を起こし、目の前にまで迫っていた数体を巻き込み離脱する。

「痛ぇ……「ガラァァ!」くっ!」

 両手をクロスして爆風から顔を守ったため、腕が焼けた。その一瞬の隙を突き、雷の痙攣から復帰した一体が背後から襲いかかってきた。それを土属性の魔術と呼ばれる、簡単に言うと媒体を使う魔法で防ぐ。魔術の方が安定し易いためである。

「……いい連携じゃん、お前ら」

 逆境。
 数的不利。取り柄の魔法も満足に使えず、こちらは手負いなのに対して相手はスキルを発動している。
 この上なく不利な状況である。
 燃えるねえ。
 不意に口許が歪む。
 レッドウルフが再度突撃、少しずつタイミングをずらして一掃されることを防ぎつつ、確実に距離を詰めてくる。

「爆炎ッ」

 俺の周りから突如燃え盛った炎がレッドウルフを焼く。外向けに放出された炎は広範囲を焦がし、レッドウルフの何体かは生き絶える。

「貫け」

 炎が音を立てて消え、俺を覆っていた水が全方位に超高圧で飛び出す。
 正確に狙えないのなら、範囲攻撃で潰せばいい。

「囲え」

 レッドウルフの背後から土が隆起し、俺を中心に壁ができあがる。
 戸惑うレッドウルフを傍目に俺は空へ跳躍し、そこにみじん切りするように風の刃を叩き込んだ。
 砂塵と共に血飛沫が飛び散りレッドウルフ達は絶命した。

「婆さん、邪魔するならせめて先に言ってよ」

「バカ言うな、先に言ったら訓練にならないじゃないか」

 それもそうだ。

「ま、これくらいできりゃ十分だね。シアン、アイラが今日なんでいないか知ってるかい?」

「知らない」

「明日からマジク魔法学校の入試の日なんだよ。そこに行ってる」

「マジクっていうと、あの魔法国って言われてるとこ?」

 昔、随一と言われる魔法使いが建てたと言われる教育機関。そこが発展して国となったらしい。

「そうだね。魔法国はどの国にとっても利益があるから滅ぼされることはない。色んな種族や価値観があるから、ハーフのあんたへの嫌がらせも少しはマシだろう」

「なんか俺が行く流れになってない? ……え? ていうか俺ハーフだったの? 初耳なんだけど」

 衝撃の事実。俺はハーフだった。

「あら、言ってなかったかい? あんたは人間とエルフのハーフだよ。黒い髪のくせに耳が長いのがなによりの証拠じゃないか」

 確かに。
 だが、ハーフならアイラみたいに金髪に生まれてみたかったりする。

「ハーフのことはびっくりだけど、それじゃあ俺は魔法学校に行かないといけないの?」

 魔法学校へ行くより婆さんに魔法を教えてもらっている方が強くなれる気がする。

「これだけ自由に魔法が使えれば私が教えれることはないよ。見聞を広めて自分で知るしか魔法の幅は広まらない。色んな人と交流してきな。それが上達への一番の近道だよ」

「婆さん……」

 なんだか寂しくなってきた。

「そんな辛気臭い顔しない。またすぐに会えるさ」

「うん……」

「アマンダ魔法講座、五年間お疲れ様。記念に称号【魔帝の子】を授ける」

 二度目の人生、体が精神を引っ張っているのかもしれない、大学のために家を出る時の寂寥感と似ていて、涙が溢れる。

「婆さぁん……」

「まったく……そういうところは年相応なんだねえ」

 婆さんは困った顔をしつつも頭を撫でてくれる。
 少しの間、俺は泣き続けた。

「じゃあ、今からあっちに走って行ってきな。休める時間はないよ。ほら、行った行った!」

「分かった、行ってくる! ……って鬼畜か!」

「入学できなきゃ破門だから」

「くっそぉぉぉぉぉぉ!」

 魔法で足を強化し、俺は遥か遠くのマジク魔法国へ全力疾走した。

「……さて、私も準備をするかね」

 婆さんの呟きは森のせせらぎに消えた。
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