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プロローグ
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「この度、生徒会会長二階堂雪乃をリコールすることをここに報告する」
ざわめく体育館
困惑する声もあれば、「やっとかよ」という声も聞こえる
楽しかった彼らとの仕事がもう終わってしまうんのか。
生徒会は最近うまく機能していなかった。仕事が遅かったりそのせいで行事に間に合わなかったりが続いた。そしてそれは全て生徒会長のせいになった。会長は生徒会の仕事をサボっていたらしい。他のメンバーに仕事を丸投げし続けた挙句、自分は部屋にセフレを連れ込み遊び呆け、全く仕事に手をつけなかった。しまいには転校生をいじめていたという会長は、いま他の生徒会メンバーと学園の3分の2以上の署名によってリコールを言い渡されているのだ。
俺と生徒会メンバーとは皆初等部からの付き合いだった。皆、日本を担う高い身分。同じような境遇にあった俺達はときに喧嘩しつつも仲良くやっていた。はずだった。
狂い始めたのは転校生が来てからだろうか。
季節外れの転校生、那須川凛。
ボサボサの髪に丸い眼鏡。少し小柄な身長の彼は学園の美形、更には生徒会メンバーまでもを次々に落としていった。
俺以外の生徒会役員は皆、転校生に構いっきりになった。仕事もせず生徒会室に来ても転校生と遊んでいるだけ。むしろ仕事をしているのは俺一人だけだった。自分以外にも他の役員の仕事を徹夜でこなし、風紀から回ってきた仕事も一人で抱え込んでいた。俺はリコール理由の行動は一切やっていないと言える。
それでも生徒会役員からは俺が仕事をしてないと言われ、やたらと構ってくる転校生にうるさいと注意すれば転校生は泣き、他の役員から今まで見たことのない顔で罵られる。しまいには生徒会室はうるさいから自室にこもって仕事を終わらせていたらセフレを連れ込んでいると噂されるようになった。
「新しい会長には那須川凛を推薦する」
投票などしなくても彼が次の生徒会長になるのは明らかだろう。生徒会からの指名、そして彼を支持するものも多いのだから。
それに俺では包みきれなかった彼らの傷を彼ならきっと包み込んでくれるだろう。
俺ではダメだった、彼らの心の闇を…。
先程は彼のことをボサボサの丸眼鏡と言ったが今壇上に立つ彼の姿はそれとは程遠い。
銀色の髪に碧い瞳。透き通るような肌にほんのり色づいたピンク色の頬。今の彼は誰がなんと言おうと美少年だ。変装してみんなを騙すのはやっぱり嫌だからと転校生は言った。そしてその姿、言葉にますます生徒会メンバーは落ちていった。
そしてリコール前にはますます信者を増やしていったのだった。
「会長、異論はありませんか?」
俺は静かに頷く。
雅に会長って呼ばれたのはいつぶりだろうか。随分と懐かしく感じるな…。
俺は言われていることを否定しない。
もし否定すれば学園に混乱を招くかもしれない。まぁ信じてくれないって言うのが一番だけどね。とにかく俺が今まで守ってきた大好きな生徒会にこれ以上迷惑はかけたくないから。
それに俺の親衛隊ももう解散している。俺の行動にこれ以上ついてきたくなくなったのだろう。
俺の味方はいないんだ。
「では最後にお言葉を」
「ふふ。ありがとう雅…いや、副会長さん」
俺が副会長と呼んだことによって顔をしかめる雅。
そんな彼から俺はマイクを受け取る。
『みんな、今までこんな俺についてきてくれてありがとう。これからは那須川会長やその他の役員のみんなが学園をより良くしていってくれるだろう』
そう言って俺は微笑む。
体育館にはすすり泣く声も聞こえてくる。元親衛隊の子だろうか。
今度は生徒会役員に体を向ける。
そしてマイクを通さずに告げる。
「みんな…みんなの不満にこれまで気づかなくってほんとにごめんね。みんなが俺のことをあんな風に思っていた事を知らなくてごめんね。力不足でごめんね。そしてこんなダメな会長に今日までついてきてくれてありがとう。君たちのことはこれからは那須川くんが支えてくれるだろう」
転校生の「そんなの当たり前だろう!」と叫ぶ声。
そして何故か泣きそうな役員の面々。
『新生徒会による更なる学園の発展を心より願います。以上で生徒会長としての二階堂雪乃の最後の言葉とします』
もう悔いはない。これでよかったんだ。これでみんなが幸せになれるのならば。
「なのにどうしてそんな辛そうな顔をするの?」
俺からマイクを受け取ろうとしない副会長。その顔は今にも泣きそうだ。
「副会長さん、マイクを受け取って。でないと集会が進まない」
俺は副会長にマイクを持たせようとする。その手を副会長が包み込んだ。
「会長…やっぱり俺……!」
そんな顔をされたら勘違いしてしまいそうになる。
「何してるんだよ雪乃!早くマイクを返せ!!」
俺と副会長の手にあったマイクを転校生が奪いとる。
『俺が新しく生徒会長になるんだからな!雪乃はさっさと壇上から降りろよ!雅も何してるんだよ!』
マイク越しに大きな声で叫ぶから耳が痛い。
「会長、俺…」
「……大好きだったよ」
何か言いかけた雅の頭を撫で、俺は微笑んだ。
そのまま言われた通りに壇を降りる。
途端頭をおさえ泣き崩れる副会長。
「雅に何をした?!」と叫ぶ転校生。きっとまたあらぬ噂がたつのだろう。
壇上から降りたところで肩を切らした風紀委員長と出くわした。
「お前…!」
俺の肩を掴む委員長。爪が肩に食い込む。この様子だと全てに気づいたのだろう。そして転校生が親衛隊を暴行してたことを庇い、黙認していたことを悔やんでいるだろう。
でも
「ダメだよ」
俺の大好きな生徒会には手を出させない。彼らの居場所を壊させない。
「俺はいいんだ。委員長。それより親衛隊の子達にこれまでの事を謝ってあげて」
委員長は苦虫を噛み潰したような顔をした。元々正義感の強い性格なのだから当然といえば当然なのだろう。…恋が人柄を変えてしまっただけで。
「二階堂…何かあったらなんでも頼れ」
「ふふふ。優しいんだね、有川委員長は」
「…今までの償いだ」
ほんと、犬猿の仲だと言われていたのが嘘みたいだ。
でも実際気をつけないとだよね。ただでさえ評判の悪い元生徒会長。これからは普通の生徒と同じように生活をする。今までの不満を一気にぶつけられることになるだろう。
これから何が起こるのだろう。不安がないといえば嘘になるがこれまで全く関わってこなかった一般生との生活が楽しみになっているのもまた事実であるのだ。
ざわめく体育館
困惑する声もあれば、「やっとかよ」という声も聞こえる
楽しかった彼らとの仕事がもう終わってしまうんのか。
生徒会は最近うまく機能していなかった。仕事が遅かったりそのせいで行事に間に合わなかったりが続いた。そしてそれは全て生徒会長のせいになった。会長は生徒会の仕事をサボっていたらしい。他のメンバーに仕事を丸投げし続けた挙句、自分は部屋にセフレを連れ込み遊び呆け、全く仕事に手をつけなかった。しまいには転校生をいじめていたという会長は、いま他の生徒会メンバーと学園の3分の2以上の署名によってリコールを言い渡されているのだ。
俺と生徒会メンバーとは皆初等部からの付き合いだった。皆、日本を担う高い身分。同じような境遇にあった俺達はときに喧嘩しつつも仲良くやっていた。はずだった。
狂い始めたのは転校生が来てからだろうか。
季節外れの転校生、那須川凛。
ボサボサの髪に丸い眼鏡。少し小柄な身長の彼は学園の美形、更には生徒会メンバーまでもを次々に落としていった。
俺以外の生徒会役員は皆、転校生に構いっきりになった。仕事もせず生徒会室に来ても転校生と遊んでいるだけ。むしろ仕事をしているのは俺一人だけだった。自分以外にも他の役員の仕事を徹夜でこなし、風紀から回ってきた仕事も一人で抱え込んでいた。俺はリコール理由の行動は一切やっていないと言える。
それでも生徒会役員からは俺が仕事をしてないと言われ、やたらと構ってくる転校生にうるさいと注意すれば転校生は泣き、他の役員から今まで見たことのない顔で罵られる。しまいには生徒会室はうるさいから自室にこもって仕事を終わらせていたらセフレを連れ込んでいると噂されるようになった。
「新しい会長には那須川凛を推薦する」
投票などしなくても彼が次の生徒会長になるのは明らかだろう。生徒会からの指名、そして彼を支持するものも多いのだから。
それに俺では包みきれなかった彼らの傷を彼ならきっと包み込んでくれるだろう。
俺ではダメだった、彼らの心の闇を…。
先程は彼のことをボサボサの丸眼鏡と言ったが今壇上に立つ彼の姿はそれとは程遠い。
銀色の髪に碧い瞳。透き通るような肌にほんのり色づいたピンク色の頬。今の彼は誰がなんと言おうと美少年だ。変装してみんなを騙すのはやっぱり嫌だからと転校生は言った。そしてその姿、言葉にますます生徒会メンバーは落ちていった。
そしてリコール前にはますます信者を増やしていったのだった。
「会長、異論はありませんか?」
俺は静かに頷く。
雅に会長って呼ばれたのはいつぶりだろうか。随分と懐かしく感じるな…。
俺は言われていることを否定しない。
もし否定すれば学園に混乱を招くかもしれない。まぁ信じてくれないって言うのが一番だけどね。とにかく俺が今まで守ってきた大好きな生徒会にこれ以上迷惑はかけたくないから。
それに俺の親衛隊ももう解散している。俺の行動にこれ以上ついてきたくなくなったのだろう。
俺の味方はいないんだ。
「では最後にお言葉を」
「ふふ。ありがとう雅…いや、副会長さん」
俺が副会長と呼んだことによって顔をしかめる雅。
そんな彼から俺はマイクを受け取る。
『みんな、今までこんな俺についてきてくれてありがとう。これからは那須川会長やその他の役員のみんなが学園をより良くしていってくれるだろう』
そう言って俺は微笑む。
体育館にはすすり泣く声も聞こえてくる。元親衛隊の子だろうか。
今度は生徒会役員に体を向ける。
そしてマイクを通さずに告げる。
「みんな…みんなの不満にこれまで気づかなくってほんとにごめんね。みんなが俺のことをあんな風に思っていた事を知らなくてごめんね。力不足でごめんね。そしてこんなダメな会長に今日までついてきてくれてありがとう。君たちのことはこれからは那須川くんが支えてくれるだろう」
転校生の「そんなの当たり前だろう!」と叫ぶ声。
そして何故か泣きそうな役員の面々。
『新生徒会による更なる学園の発展を心より願います。以上で生徒会長としての二階堂雪乃の最後の言葉とします』
もう悔いはない。これでよかったんだ。これでみんなが幸せになれるのならば。
「なのにどうしてそんな辛そうな顔をするの?」
俺からマイクを受け取ろうとしない副会長。その顔は今にも泣きそうだ。
「副会長さん、マイクを受け取って。でないと集会が進まない」
俺は副会長にマイクを持たせようとする。その手を副会長が包み込んだ。
「会長…やっぱり俺……!」
そんな顔をされたら勘違いしてしまいそうになる。
「何してるんだよ雪乃!早くマイクを返せ!!」
俺と副会長の手にあったマイクを転校生が奪いとる。
『俺が新しく生徒会長になるんだからな!雪乃はさっさと壇上から降りろよ!雅も何してるんだよ!』
マイク越しに大きな声で叫ぶから耳が痛い。
「会長、俺…」
「……大好きだったよ」
何か言いかけた雅の頭を撫で、俺は微笑んだ。
そのまま言われた通りに壇を降りる。
途端頭をおさえ泣き崩れる副会長。
「雅に何をした?!」と叫ぶ転校生。きっとまたあらぬ噂がたつのだろう。
壇上から降りたところで肩を切らした風紀委員長と出くわした。
「お前…!」
俺の肩を掴む委員長。爪が肩に食い込む。この様子だと全てに気づいたのだろう。そして転校生が親衛隊を暴行してたことを庇い、黙認していたことを悔やんでいるだろう。
でも
「ダメだよ」
俺の大好きな生徒会には手を出させない。彼らの居場所を壊させない。
「俺はいいんだ。委員長。それより親衛隊の子達にこれまでの事を謝ってあげて」
委員長は苦虫を噛み潰したような顔をした。元々正義感の強い性格なのだから当然といえば当然なのだろう。…恋が人柄を変えてしまっただけで。
「二階堂…何かあったらなんでも頼れ」
「ふふふ。優しいんだね、有川委員長は」
「…今までの償いだ」
ほんと、犬猿の仲だと言われていたのが嘘みたいだ。
でも実際気をつけないとだよね。ただでさえ評判の悪い元生徒会長。これからは普通の生徒と同じように生活をする。今までの不満を一気にぶつけられることになるだろう。
これから何が起こるのだろう。不安がないといえば嘘になるがこれまで全く関わってこなかった一般生との生活が楽しみになっているのもまた事実であるのだ。
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