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公子十三面相

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 いやいや……生徒の諸君。そんな、遠くから珍獣を見る目で見られても困るんだが……。
 さっさと買うなら買って消えてくれ。
そにしても……男子比率……多いな。

「おい、お前ら何してんだ……。あ、佐倉さん。こんにちは。先ほどはどうも!
 いやぁ……恥ずかしながら僕ね、独身!独身なんですよ~。だからお弁当作ってくれる人がいなくてさぁ~。毎日ここで、パンを買ってるんです。いやぁ~佐倉さんの様な、可愛らしい!人が来てくれて良かったです。明日からの楽しみが出来ちゃいましたよ~。そう言えばーー」

 いや……話し長ぇわ!あと声……うっせえわ!私みたいな模範人間を見習え!小さな頃からちっちゃい優等生を見習え!

 えっと……筋肉ダルマ男だっけ?肌くっろ……。腕の血管気……持ち悪……黒い肌から見える歯も白すぎてきもいし……。

 ニカッと歯を出して、オチで笑うなって!お前の家の犬が転んで笑った話しなんか。毛ほどの興味もねぇんだって……。

 そして……はよぅ、いね(帰れ)!子供達がパン買えねぇだろが!まぁ、ガキ共も動かないんだが……。これ、どうすりゃいいんだ?

「筋美先生、パン買いたいんですけど~」

 「お?ふゆきか!お前、今日はちゃんと来たんだな!」

 「イタイ、イタイ!先生叩きすぎ。力強いんだから加減してよ」

 「あぁ。すまん!コイツね、たまにしか学校来ないんですよ!出席日数もギリギリ!佐倉さんも何か言ってやってくださいよ」

 「そ、そうなんですね……」
 おい、筋肉!何かって、何をだよ!

 孤独を愛し、孤独に愛された、蠱毒女、公子!に言える事は、孤独はジャスティス!位しかねぇんだよ!

 「も~良いから。俺らパン買わないと昼休み終わっちゃうじゃん」

 「それもそうだな、公子さん牛乳とアンパンを……はや!凄いですね!カールルイスもビックリの早さ……」

 「先生!早く!」

 「ん、あぁ。おい!お前ら!公子さんに迷惑かけるんじゃないぞ!……じゃ、何かあったら、この、筋美成男に言ってくださいね!」

 「あ、ありがとうございます」
 だから、歯を見せるな……。まぁ、きんびなるお?私に迷惑をかけないように言った事に対しては1ポイントやろう。
 だから何でみんな、手を振っていくんだ。マイナス10ポイント!

 「さくら……きみこさんって言うんだね。俺、木下冬樹きのしたふゆき!ふゆきって呼んでね!まさきじゃないよ!じゃ、俺はクリームパンと、コロッケパンをくださ……はや!」

 「よろしく……」
 チッ……。覚えてやがったか……。まぁ、さっき会ってから、10分やそこらだしな……。
 まぁいい、騒然とした感じかと思ったが……ちゃんと列になってて、偉いじゃないか子供達よ……。並びは……100人位か?パチ屋の新装開店の並びみたいだな?おりゃおりゃ!じゃんじゃんバリバリだしまっせ~!

 約20分……。思ったよりも楽勝だったな……しかし、ふゆきの野郎。変な流れを作りやがって……並んだ生徒全員に挨拶されたじゃねぇか!

 そして、何だこれ!お菓子置いてくやつ!座敷わらしかなんかと間違えてんじゃねぇのか?うまい棒48本!
 学校の売店にうまい棒なんか置くな!しかも、こんなにいらねぇわ!

 でも以外だな。ちゃんとみんな教室に帰るんだな~。フリースペースには、1、2……2人か……。可愛らしいちびちゃんと、眼鏡勉ちゃん……あれはラノベ……。お、『こんすば』か!

 ガリ勉に見せかけたムッツリだなアヤツ……。
 
ふむふむ……なる程……ここはボッチスペースと見た。

 さっきは、滅びろ!とか思ったんだけど……ごめんな……お前達よ……。ここはボッチの聖域だったんだな……。トイレ飯しなくていい場所……それはとても良い場所だ……。
 ボッチ先輩としてここの有り難みがわかりすぎる……。

 そうだ!ボッチ仲間の印としてうまい棒をわけてやろうではないか!私は、ボッチには優しいんだ!48本もいらんし……。

 「え?……あの……僕、何も……」

 「いいんだ……何もいうな……」
 ああ、何も言わなくて良い……ちびっ子よ。その内お友達が出来るさ……でのが……な!
 にしても……しょたなんて何が良いのか?と思ってたが……。まぁ、中々……保護欲そそられる物があるな……。ついつい頭を撫でてしまった。

 さてさて次は……勉ちゃん……。ほれ、君にも両手いっぱいのうまい棒を進呈しよう!

 「……ありがとうございます……」

 素直な子供には、ニコリと笑顔を返しといてやろう……。しかし勉ちゃん!あんたイケボだなオイ!でもその眼鏡はちょっと……。いやぁ、結構ダサいな~。

 ……デジャブ……。これ同じ事、私も妹に言われたわ。こういうことか。

 ごめん勉ちゃん……私……酷い事、言っちゃったね……。好きでかけてるのよね?お気に入りなんだから、良いじゃない!このフォルムが好きなんだから、仕方ないじゃない!眼鏡は人のためにかけてるんじゃ無いの!だから……ダサいなんて関係ないの……あなただから良いのよ……グスン……。

 ……はぁ~。思い出したらなんか、腹が立ってきたわ……今度妹にあったら蹴飛ばそ……。

 「きみこさん終わった~?モンスタやろ!」

 「あ、うん」
 ふゆきめ、覚えてやがったか……。
 
 まぁ、変な流れを作ったが、きん……?にくダルマを追い払った礼だ。破邪の塔、手伝ってやろう。

 「募集した~!え!シルファー2体いんの?スゲぇじゃん!」

 「まぁ……昔からやってるから……」
 今はログイン勢だが、7~8年前からやってるからな、大体のはあるぞ。ったく無邪気に笑いおってからに……金髪ピアスしててもやっぱり子供だな……。

 「スゲ、すぐ終わった。じゃ~次!……ってか。きみこさん、なんかさっきと雰囲気ちがうくない?」

 「え?そ、そうかな?」
 忘れろ!あれは、荒れ果てた私だ……。人様の前では封印されし者なのだ。出て来たら無条件で私が死んでしまう。

 「なんか、さっきの方が好きだな俺」

 「そ、そう……」
 はぁ……子供に好きと言われてもなぁ……。弟にしかみえん。
 10後なら……まぁ、悪くないな。イケメンの部類だし……。あの筋肉ダルマは何年後でも前でも無理だけど……。

 「彼氏とかいんの?」

 「いない……」

 「え、もったいな、可愛いのに……ねぇ、俺が彼氏になろうか?」

 「はぁ?……子供に興味はねぇ」

 「はは、キッツ。結構俺、もてんだけど?」

 「あのねぇ、子供が求めてるもんと大人が求めてるもんは違うの……よ」
 またやった……コイツとは弟とのノリで喋ってしまう……。
 会話のテンポが弟と同じなのだ……まさきなら既にはりたおしてるが……。

 「大人ね、大人って何を求めるのさ?」

 「さぁ、わかんない……私、子供だし」

 「何それ?おもろ」

 「ほら、チャイムなるから行け。散れ」
 しっし。まったく、あしらわれて嬉しそうにするなっての。そして!手をふるな!恥ずかしい!

 まぁ。アイツ、ひとりにバレたところでどうって事はないさね。

 「へぇ~、さくらちゃん、本当はそういう感じなんだね~。可愛い感じなのに~」

 「……い、いらっしゃいませ~」
 き、気づかんかった~!いつからいたんだ!?えっと……かわいいぶりこ?だっけ?

 「あ、クリームパンくだ……はや」

 「ありがとうございました~」
 香水くせぇし、化粧もばっちりでミニスカートとか、男受けとあざとさの塊……。
 そしてお前……その目の下のホクロ……完全に書いてんだろ、あざとが過ぎるわ!
 無味無臭無添加むみむしゅうむてんかの私を見習え!

 「フフフ……さくらちゃんとは仲良くできそ。またね~」

 「あ、ありがとやんした~……」
 だから!手を振るなって!そして仲良くはむりだと思うよ?

 私の苦手を凝縮した、女の中の女で、女を武器にした女は、絶対に無理。
 いやぁ~ん。とか言った時点で、真顔でビンタする自信がある。

 「あの……うまい棒ありがとう……ございました」

 「え!……あぁ、君か……。いいんだ、そんなことは気にするな、何か困ったことがあったら、お姉さんに言いなさい」

 「は、はい!僕、春山勇気はるやまゆうきと言います!じゃ、失礼します!」

 まったく、へにゃりと笑いおってからに、八重歯が可愛いではないか、ペットにしちゃいたいな……。

 フフフ……手の振り方も控えめで可愛らしい……ピヨピヨとヒヨコかよ!まったく……私もふりかえしてあげよ。

 「あの……ありがとうございました」

 「おぉ……ラノベの君か……」
 気配を消すな!気配を!無理なんだって、直接的なのは!

 「俺、谷川悠人たにかわゆうとです」

 「そ、そう……よろしくね」
 いや、無理にふらなくて良いんだよ?手……。

 恥ずかしくて小さくふってる手が、早すぎてもげちゃいそうじゃないの……。
 一応ふり返しておくか……シカトは可哀想過ぎる……。

 はぁ、やっとチャイムだ……。疲れた……。久々にこんなに人と喋ったわ~。3年分くらい喋ったんじゃないか?
 まぁ、でも何とかやってけそうだな……。

 昼休み後は、掃除しなきゃな。

 この音楽……エデールスワイスだっけ?なんかそれっぽいの……流れてるし、向かいの校舎も掃除してる……。
 あ~もう、あれはふゆきか?窓から身を乗り出して手を振るんじゃない!危ないだろ!今度あったら説教だな。

 「……あ、あの……先生……そ、掃除に来ました……私……山口直人です……よろしくお願いします」

 「あ、え?あ、よろしく……」
 女の子?いや、直人だから男か……。

 「へ、変ですよね……私……」

 「あ!いや……可愛いなぁ~って思って。髪の毛も長いのに綺麗にしてて凄いって、私も見習わなくちゃ!」
 いやいや、本当に何処からどう見ても女の子なんだが、私なんか告白されたら一発でオッケーしちゃうんじゃないか?

 美少女大好きだし。百合も男の娘も全然おkだ。会ったのは初めてだけど。

 「先生も、綺麗にしてるじゃないですか、その可愛いと思います」

 「そ、そうかい?ありがとうよ。さ、掃除にするかい!」
 い、いかん。褒められると、どうすればわからなくなって、おっさんみたいになってしまう……。私の数々と数ある悪い癖の1つだ。
 
 まぁ、髪の毛は美容院に行ってやって貰ったので、私の手柄は何一つ無いけどもね。

 それにしても、あの子……。ちゃんと付いてんだよね?チ㊙コ?女の子にしか見えんのだが。声も……声変わり、終わってるんだよね?動きもナヨナヨじゃなくて、女の子の動きだし……。

 ハッ!いかんいかん、見過ぎだ……。ジェンダー問題は繊細なのだ。サボテンを枯らしてしまう私が触れて良い問題ではない。

 「それでは、失礼します」

 「はい。ありがとうね」
 ふむふむ、手はああいう風にふれば可愛いのか……笑顔の横で指に力を入れずにふりふりふり……。ふむ、尊い。

 さて掃除も終わったし、ゲームタイムだな、さすがにもう誰も来ないだろう……。

 その後は、ちらほら生徒や職員が、文房具やお菓子を買いに来たくらいで、何事も無く定時を迎え。私は理事長室に向かった。

 「やぁ、さくらさん、お疲れさまでした。どうでしたか?初日は?」

 「えっと、何とか大丈夫でした」
 封印されし者が出てくる。というイレギュラーはあったが、あれくらいであれば、全然大丈夫だ。

 「それは良かった。では、帰りましょう」

 「お仕事はもう、いいんですか?」
 まだ、4時だ。流石に早いんじゃないのか?社長退社か?そうなのか?ズルは許されんぞ?ズボラな私でも出勤時間は守るんだからな!

 「フフフ……早めに、終わらせました。今日はお祝いに、ちょっとこれをしていきませんか?」

 「よろこんで!」
 まったく、それならそう言えよ~。その右手をクイクイって……憎いね~アレだろ?じゃんじゃんバリバリ~。これは、怒れねぇ!うん、怒れん!奇跡よ起これ~!

 3万全部負けた……。

 「これ、ほら、僕、勝ったから」

 「う、受け取れません」
 くそ、海が1000円でヒットして5連した時は行ける!と思ったんだ!その後……800までハマりやがった……。

 しかも、単発って!うぜぇ~!途中から玉までじいさんにもらって……金まで貰ったらギャンブラー失格だ。

 「気にしなくて良いですよ。今日は就職のお祝いなんですから!」

 「じゃあ、前借りって形でお願いします……」
 これ……ヤバイヤツじゃ無いのか、抜け出せなくなって……最後には……沈められる……。

 まぁ、でも3万前借りしても、27万あれば余裕だわな。うん、問題は無い。

 「気にしないで良いのに。さて、たつえさんもまってますし、帰りましょう」

 「はい」
 しかし疲れた……久々に何か……ちゃんと人の顔見て仕事した気がする……。

 ん?レインだ……。誰だ?まさきか?……はぁ?ふゆき?はぁ……?なんで?




 ふゆふゆ
『明日何時に来るの?
 朝からいる?』

             さくら   
          『何で、私のレイン
           知ってる?  』

 ふゆふゆ
『モンスタのボックス
 見せて貰った時に
 登録しちゃったw』  

             さくら
         『wじゃねぇ馬鹿者
          すぐ消せ!   』 

 ふゆふゆ
『無理w彼氏いない
 なら、いいじゃん』

             さくら   
          『  死なす  』

 ふゆふゆ
『死なすってwきみち
 ゃんになら殺されて
 もいいよw』



 小僧め……ダル……。明日携帯たたき割ってやろう。とりあえずブロック。

 「どうかされましたか?」

 「いえ!何でもないです。弟からレインが来てまして……」
 クソ……何で私が嘘をつかにゃならんのだ!正直者である、この私が!

 アイツまじで、明日ビンタだ!


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