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やって無駄な事は何も無い

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 いきつけのパチンコ屋で、財布の中の最後のお札を、サンドへゴミの様に入れ終えて、私は独り言ちる。

 「何だこれ……」

 ランプが光ればGOGOなスロット……。

 今日は、全然光らん……店がゴミなら台もゴミクソだ……。

 とりあえず軽くワンパンして、店の喫煙所に向かって煙草休憩。

 仕事クビになった日くらい出せよ。いくら貯金してると思ってんだよ……ダル……私は煙草に火をつけ一気に吹かした。

 外のベンチは蒸し暑い。さっさと近くのコンビニのATMで金を降ろして中に戻ろ……。

 「さくらさん、こんにちわ」

 「こ、こんにちわ」

 「今日も暑いですね……」

 「そうですね……」

 だからさっさと店に戻りたいんだが……。

 話しかけてきたのは、5,60位のおじさんだ。名前は忘れた。ささきだったか、さたべだったか?

 スロットの目押しをしてやったら、懐かれて時々話すのだが、特に仲がいい訳でも無い。いつも独りでいるので独り者なのだろう。

 時々、私が働いていたコンビニで弁当を買っていく。たまにコーヒーを奢ってくれるから、話くらいは付き合ってやらんとなと思うが、暑いので短めにして欲しい。

 今日、貯金した1万を取り戻さにゃならんのだ。

 「そういえば、今日、コンビニに行ったんですが、お仕事お辞めになったそうで……」

 「お辞めにって言うか、クビになっちゃいました……」

 「おや?それはまた何で?」

 じいさんが買ったばかりのコーヒーを渡してきたので、気が利くじゃないか。サンキューと一応、感謝しながらコーヒーを受け取る。

 「あ、ありがとう……ございます。……戴きます……」

 ニコリとすんなよな。私は今から、さっきあった最悪で最低の傷心物語を話そうってんだから……。まぁ、ダル……って思ったってだけで、傷ついてもないんだけどね。

 「クレームが……多かったみたいで、こ、声が小さいので私は……なので……クビになりました」

 「えぇ~!それだけでかい?」

 驚きすぎだ馬鹿者。マスオさんかっての。

 接客業で声が小さいのは、致命的な欠陥なんだよ。あ~あ、パチプロにでもなろうかな。

 「はい……まぁ、馴れてるんですけどね……へへへ……」

 あぁ~、コーヒー美味ぇな。キンキンに冷えてやがる……って程でも無いが。
 夜勤明けの身にはじゅうぶん染みる。

 「レジ裁きは、凄かったのにね……あ!そうだ!」

 なんだ?じいさん。財布なんか出して……同情して金くれんのか?くれるんなら、パチ仲間としてちゅ~位はしてやるぞ?万札求む。

 「何か、困ったら事があったら、ここに電話しておいで」

 金じゃねぇのか~い。どれどれ……。

『聖徳学園:理事長

 森山 たもつ

 住所:鹿児島県~ TEL 080~ 
          Mail tamotamo~』


 ささきでも、さたべでも無かったな。
 てか、学校の理事長って……教育者が朝からパチンコなんかしてんなよな。

 「あ、ありがとう……ございます」

 「実はね、うちの購買部の店員さんが辞めちゃってね。いい人いないかな~ってさがしてたんですよ」

 宗教団体の勧誘だったらビンタしてやろうか。と思ったが、しなくて良かった。

 学校の購買部か……あの、何か小さい小窓から文房具出して渡すやつだろ?簡単で美味しい仕事じゃねぇの?喋らなくていいし。休み時間以外は自由だろうし。即決だろこんなん。

 「あ、あの、私……こんな感じですし……大丈夫ですかね……」

 「大丈夫、大丈夫!あ、ちょっと待ってね……」

 電話か……私も持ってるぞ~弟以外からはかかってこないけどな……。
 はぁ、捨てるクソデブいれば、拾うじじいアリだな……。

 「ごめんごめん、急用ができちゃいました。ちょっと僕は今から、行かなきゃ行けないので、今度、電話してください。待ってますから」

 「あ……はい」

 「あ!それと……これ、さくらさんに……当たり中の台を休憩にして出て来ちゃったんですけど、戻れそうにないので、代わりにどうぞ」

 「え!?まじですか!!」

 「おや!?フフフ……大きなお声でビックリしました。マジです」

 「す、すいません……ありがとうございます」

 「いえいえ、では、今日はこれにて、ドロン……」

 やべぇ、親切なお爺様をビックリさせてしまった。しかし、ドロンって一応愛想笑いはしてやったけど、キツいぞ?まだ手をふってるし……。ふりかえしておこう。サービスサービスだ。

 良い人間って本当にいるんだな……。

 さて、感傷に浸るのはこれくらいにして……フィーバータイムと行こうか!

 「やば……今日死ぬかも!」

 18万勝ったんだが……あのお爺様は神様だったんじゃなかろうか?とりあえず今度あったら、飯でも奢ろう。

 「やば……今日死ぬかも……」

 あれから1週間。18万を軍資金に増やそうと思ったのに……一昨日全部無くなった……。
 
 煙草の買い溜めよりも先に、支払いと食料の買い溜め、しとけば良かった……。

 昨日ガスも止まった……風呂入りたい。明日電気も止まる……。クーラー無いと死ぬ……。キャベツももう無いし……無職だから金も借りれん……家賃もどうにかせんといかん……腹減った。

 あぁ、そうだった。神様に電話……。

 「もしもし……森山です」

 「あ、あの……さ、佐倉公子……です」

 「あぁ!さくらさん、お待ちしてましたよ」

 「あの……お仕事の件なのですが……」

 「おぉ!やってくれますか?」

 「あの……はい……よろしくお願いします……」

 あれ?ヤバいな……これ、貧血だ……流石に3日、塩水のみは駄目だったか……。

 「じゃ、今から面接に来られますか?使いの者を送りますので住所を教えて下さい」

 「じゅ、住所はーーーーです……」

 「わかりました……では、すぐに伺いますので」

 「は……はい……ありがと……う、ございます……」

 あぁ……飛ぶ……。

 「さくらさん?気分が悪そうですが、大丈夫ですか?」

 駄目っぽいぞ~。スマンじいさん……。

 「さくらさん!?さくらさん!?」

 はぁ……本当にいい人だな。私なんかを心配して……。仕事……死んでなかったら……よろ……し……く……。
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