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第十二話 追いかけっこ②
しおりを挟む――その時だった。
「レノン!」
私を呼ぶゼルバの声が聞こえて、後ろを振り返った。すると、ゼルバが追いかけてくるのが見えた。
慌てて前を向き、全速力で走る。
だが、ほんのちょっとの間に私のあとを追いかける足音がすぐそこまで近付いてきた。
その足音は、一瞬で横に並ぶ。
「待ってよレノン。話をしよう」
「!?」
は、速いわ!! もう追いつかれてしまった。私はハァハァ息を切らしながら加速した。
だが動じる様子もなく、ゼルバは楽々と並走する。
「レノン。止まってくれ」
わ、私がこんなに必死に走ってるのに、息一つ乱さずに着いてくる! 流石はSランク冒険者ね。体力がバケモノだわ! などと思いながら一生懸命走るのだが、限界がきた。
私は走るのをやめた。今にも倒れ込みそうになりながら、ひざに手をついて息を整える。
ゼルバはそんな私の背中を優しくさすってくれた。
「大丈夫かい?」
「つ、着いてこないで!」
「嫌だよ。今離れたら、もう二度と君は俺と口を聞いてくれない気がするからね」
「……」
この場から逃げたいのに、疲れ過ぎて動けない。私に出来ることと言ったら、ゼィハァ言いながら息を整えることだけだった。
そんな私を、突然ゼルバはひょいと抱き上げた。
「!?」
驚く私をよそに、ゼルバはどこかに向かってスタスタと歩いてゆく。
「ここで話すのもなんだから、俺の家に行こう。この近くなんだ」
「い、嫌!」
私はゼルバの腕の中でジタバタと暴れた。
すると、ムッとした表情のゼルバがグイッと私に顔を近づけた。
「暴れるのはやめてくれ。やめないと、このままキスしちゃうよ?」
「!?」
な、なんでいきなりキス!?
ゼルバが分からない……! 分からないけど、公衆の面前でキスは嫌!
私は仕方なしに暴れるのをやめた。
すると、ゼルバがニコッと笑った。
「そう。いい子いい子」
そう言ってチュッとオデコにキスをした。
な、なにするのよ!
一瞬で真っ赤になった私は、キッとゼルバを睨む。
「キ、キスしないって言ったじゃない!」
「オデコならいいだろう?」
よくない!
私は怒ってプイッとゼルバから顔を背けた。すると、周りの人々が微笑ましいものを見るような視線で私たちを見ているのに気付いた。
そのうちの一人がゼルバに話しかける。
「ゼルバさん。お熱いですねぇ。お姫様だっこなんてしちゃって。その子は恋人ですか?」
「そうだよ。可愛いだろ?」
「はは。本当、可愛らしい。羨ましいですねぇ」
「今、痴話喧嘩中なんだ」
「あらら。そうなんですか? 仲直りできるといいですねぇ」
もう別れたから痴話喧嘩じゃないもん。
そう言おうと思ったのだが、今の状況が恥ずかし過ぎて、私は隠れるようにゼルバの胸に顔を埋めたのだった。
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